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初のダンジョンと2

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 イーサンとウェンディ、アンドレアとアグネスが交代で見張りをしダンジョン内で一晩を明かす、正確には時間など分からないが。

「起きたかチャールズ。まぁ座れよ。さっきはありがとな。「角界破壊魔法」だっけ?あんなのは初めて見た。本当に凄かった」
「ありがとうイーサン。父さんから習ったんだ」
「そうか。お父さんは魔導士だったのか?」
「いや、剣士だった」
「剣士?あんな凄い魔法を使えるのに?名前はなんていうんだい?」
「……アントニー」
「アントニー?もしかしてAランク冒険者だったアントニー・ウィリアムズか!?」
「父さんを知ってるの?」

 ウィリアムズはうちの性だ。あまり人に言ったことないが。

「そうか。アントニーさんは元気か?」
「ううん。死んだよ」
「なん、そうか……。あの人が死んでしまったか。いつかお礼をしたかったのに」
「お礼?」
「ああ、俺は昔アントニーさんに剣を習ったことがあるんだ。とてもよくしてもらってね。最後に「お前がAランク冒険者になったら酒でもおごってやる」って言ってくれたのに。そうか、亡くなっていたのか」
「そうだったんだ。案外世界って狭いんだね」
「ははは。そうかもな。だがそうか。あの人の子か。俺も年をとったわけだ。だがアントニーさんの子なら君の強さには納得だよ。さぞ鍛えられたんだろうな」
「うん。毎朝稽古してくれた。いい父さんだったよ」

 不意に家族の話になり俺は涙をこらえる。父さんは死んだけどこうやって誰かに何かを受け継いでいることがとても嬉しかったから。

「アントニーさんは残念だったな。だがお前がまだ生きている。人は死ぬがその意思を受け継ぐ人が居ればその人の中でちゃんと生き続けられる。その人を想いやる人が居る限りな。俺はそう思うよ。なぁチャールズ。一度は仲間になったわけだし、それにあの人への恩もある。だから何か困ったことがあったら言ってくれ。できる限り力になることをこの剣に誓うよ」
「うん。ありがとう」
「恩師であり偉人に」
「英雄であり良き父に」

 俺たちは飲んでいたコップをぶつけ合い父さんの冥福を祈った。消える炎があれば新たに生まれる炎もある。人はその炎を受け継ぎやがて炎は大きくなり未来を照らしていくのかもしれない。

 しばらくすると皆起きてきて出発の準備をする。今日中にダンジョンを攻略しようと俺たちは意気込み出発する。

 ダンジョンは階層を進むごとに罠が増え慎重にならざるおえなくなり歩みが遅くなる。だがそんな道も彼らは冷静に、そして丁寧に罠の解除の仕方を教えてくれながら進んだ。特にイーサンは俺によく話しかけてくれるようになり罠の解除を一つ一つ教えてくれる。また一つ人から人へと受け継がれるものがある。俺はそれを必死に覚え俺たちは進んでいった。

「ここが最深部だな」
「わかるの?」
「ああ、これまでとは明らかに雰囲気が違うし魔物がいない。さらにこの大きな扉だ。大抵こういう所にはいわゆるボスってのがいてその先に魔石があるんだ」
「少し休んでから進みましょう。今回はかなり大物な気がするし」
「そうだな。万全で挑まなきゃいけない気がする」
「ん。これだけ大きなダンジョンは初めて。きっと大物」

 扉の前で必要以上に休憩をとり皆念入りに武器の手入れをする。会話はないが皆の緊張感からこの先に相当強い魔物がいることがわかる。

 彼らはAランク冒険者だ。Aランク冒険者は国に数えるほどしかいない。因みにSランク冒険者はこの国に5人しかいない。そんな彼らが一言もしゃべらずに緊張した面持ちでいる。それは俺にも伝わり魔力をしっかり回復することに専念する。

「どうだ?」
「ええ。行けるわ」
「俺もいけるぜ」
「ん。いつでも」
「俺もいけるよ」

 イーサンは俺たち一人一人の顔を見ながらしっかりと皆の状態を確認していく。

「いいか?ここには恐らく俺たちが今まで出会ったことのない程強力な魔物がいる。だが俺たちはAランク冒険者の「血の誓い」だ。それに今回は強力な助っ人もいる。俺たちならやれる。今までそうだったように。行くぞ!」
「「「「おう!!」」」」

 イーサンは声を張り上げ俺たちはそれに続き扉に手をかける。扉はゆっくりと開き、そしてその先にいる魔物の正体がはっきりと見えた。

「け、ケロべロス」
「で、伝説の化け物じゃねぇか」
「ん。信じられない、なんて大きさ」
「戦闘準備!!来るぞ!!」

 部屋はサッカーコートのように広くその中央には家のように大きく顔が3つあるケロべロスが鎮座していた。その威圧感はすさまじく部屋に入った瞬間一瞬止まってしまったほどだ。

 皆が驚いて固まる中ケロべロスは炎を吐くが、イーサンの一声で皆ハッとしそれを回避する。流石Aランク冒険者のリーダーだ。こんな時でも冷静に対処してみせた。

「アンドレア行くぞ!3人はフォローを!」
「「「「了解」」」」

 イーサンとアンドレアは回避した直後ケロべロスに向かって走り出し、ウェンディは弓を構え、俺とアグネスは魔力を練る。左の顔は再び口に魔力を溜め炎を吐き、右の顔は突風を吐き出す。どうやら顔によって使う魔法が違うらしい。

「ウィンドブラスト!!」
「ん。アイスガロック」
「インパクトショット!」

 俺は特級魔法の「ウィンドブラスト」(大きな竜巻」を直線に発生させ突風を相殺、アグネスは大きな氷の塊を炎とイーサンたちの間に置き炎の進路を変えさせる。ウェンディは魔法の矢を作り中心の顔の額に矢を放ち、顔はあまりの衝撃に顔をのけ反り行動を阻止する。

「アンドレア!」
「おう!」

 二人が近づいた瞬間右足が二人を襲うがイーサンがそれを盾で受け止め、アンドレアは飛び上がり剣を振りかざす。

「一つ目!!」

 アンドレらが剣を振り上げたと思ったらその瞬間ケロべロスの左の顔は首から見事に斬れ落ちる。そのあまりの剣速に俺は彼が何をしたのか全く分からなかった。ただ飛んで剣を振りかざした。その瞬間アンドレアは剣をすでに振り下ろしケロべロスの顔が落ちてきた。これがAランクか、次元が違う。

「ん。アイスウォール」
「レインアロー!!」

 俺がアンドレアに見とれてた間に二人はすでに次の攻撃を放ち、イーサンが受け止めていた足に攻撃し足を弾き、イーサンは後退して次の攻撃に移る。ここまで一分もかかっていないだろう。

「次だ!」
「おう!」
 
 再びイーサンが先導して中央の首に向かって走っていた時、先ほど斬ったはずの左の顔が一瞬にして再生し、左右の首が二人を襲う。

「二人とも!!後ろ!!」

 中央の首に向かっていた二人はウェンディの声に反応しすぐさま横に飛ぶ、だがアンドレアは少し反応が遅れ左の顔に少し掠りその左腕を持っていかれる。

「グっ!?」
「アンドレア!?チャールズ!!」
「分かってる!!」

 アンドレアは痛みに耐えながらふらふらと後退し、俺はすぐさま駆け付け腕を再生させる。

 だがケロべロスはその隙に左右の顔から魔法を放ってくる。

「来い!!オーバーシールド!!」
「レインショット!!」
「ん、アイスガロック」

 俺がアンドレアを治している所に集中業火が降り注ぐが、それをイーサンは魔力で作った大きな盾で塞ぎウェンディの攻撃で魔法を散らせさらにイーサンの正面にアグネスが氷塊を置き魔法を逸らす。

 だが三人の防御だけでは攻撃は防ぎきれず俺達三人は攻撃を受けその衝撃で後ろの壁際まで吹き飛ばされる。

「ガハッ!?クソ!一度退却だ!!」

 急いで先ほど入ってきた扉を開き皆で脱出する。

「はぁはぁ、ここまでは追ってこないの?」
「はぁ、ああ、ボスは何故か最深部の部屋からは絶対に出てこない。ここにいれば安全だ。すまないが全員を回復させてくれ」
「了解」

 俺は皆に回復魔法をかけ続け何とか皆を治すことに成功する。

「ありがとう。チャールズが居なかったら俺は冒険者引退するところだった」

 腕が治ったアンドレアが真剣にお礼を言ってくる。

「ああ、まさか腕まで生やせられるなんてな。それ王級魔法だろ?全く大したものだ。大神官になれるぞチャールズは」

 傷ついた盾を手入れしながら話すイーサン。

「生やすと言ったら何よあれ。首が生えてくるなんて反則よ!あんなのどうやって倒せばいいのよ?」

 悔しそうに地団駄を踏むウェンディ。

「光魔法は他の魔法より魔力消費が大きい。魔力不足を狙えないの?」
「ん。多分無理。アイツは私達の魔力を合わせた量より魔力を多く有している。魔力切れの線は狙わない方がいい。流石伝説の魔物」

 俺の質問に冷静に答えながらも悔しそうに歯を食いしばるアグネス。

 さすがの彼らでもすぐに再生する相手にはお手上げらしい。

「兎に角今日は休もう。次のアタックは明日だ。短時間だったがかなりの魔力を消費した。特に光魔法を使うチャールズの魔力は最大にして戦わないと恐らく勝てない」

 イーサンの判断に皆賛成し、今日は何もせずその場で休むことにした。

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