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元帥と

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 ドラゴンを見つめていると町の人々が集まり歓声が上がる。町の人の被害はほとんどなく家や近くの田畑が多少消滅したくらいのようだ。街の人々からは「流石あの二人の子共だ」とお褒めの言葉を貰った。

 俺はドラゴンに勝ったことよりも町の人々が無事な事、そして「流石両親の子」と言われたことが誇らしく頬がゆるんだ。

「いやぁ、見事な戦いだった!我は感動した!」

 町の人たちの背後から数人の騎士とローブを着たスキンヘッドのガタイのいい男が拍手をしながらこちらにやってきた。

「誰?」
「分からん。見ない顔じゃ」

 村長に聞いてもわからない謎の男はそんな俺たちの怪しんだ表情など気にもしないで拍手を続けていた。

「して少女よ。名はなんという?」
「少女じゃないぞ!この子はあのAランク冒険者、リリーとアントニーの息子チャールズだ!」

 怪しい男から俺を守るように町の人たちは俺の名を叫んだ。男はそんな皆の行動を微笑ましそうに見て何度も頷いている。

「うむ。そうかチャールズよ。よくぞ町の人たちを守ってくれた。我からもお礼を言おう」

 やけに威厳のある態度に皆はたじろぐが決して俺のそばから離れようとしなかった。男は敵意がなく特に武器も持っていないようだ。

 そんな時ドラゴンの来た「龍の山脈」の方から軍が息を切らしボロボロになりながら走ってきた。

「そのドラゴンは我々の獲物だ!横取りは許さん!さっさと差し出せ!」

 以前この街に来たブクブク伯爵が先頭に立ちドラゴンの所有権を訴えてきた。俺はそんな事もうどうでもよかったが町の皆が声を張り上げ抗議してくれる。

「ふん!どうせ我々が追い詰めてボロボロになったドラゴンを仕留めただけだろう!これ以上儂に逆らうものは貴族の名において死刑に処す!!」

 伯爵の言葉に町の人たちはどうすることもできず悔しい顔をして下がるしかなかった。平民と貴族の間にはそれほどまでの権力の差がある。

「皆の者!ドラゴンを運び出せ!」

 伯爵の声のに軍の騎士たちは手早くドラゴンに縄をかけ大きな大きな荷台に乗せる。

「まぁ待ちなさい伯爵よ。本当にそんなことして許されると思うのか?」
「ああ?なんじゃ儂にたてつくものは死刑……元帥!?な、な、な何故こんなところに!?」

 先ほどのローブを被った男が伯爵に高圧的な態度で話しかけると、伯爵は顔を青くして言葉を失う。貴族の位に元帥という役職はないはずだ。一体何者なんだ?

「そのドラゴンはこの町に来たときは傷一つついていなかった。そしてそのドラゴンをこの少年がたった一人で討伐したのだ。例え下級で油断してたドラゴンと言えどもたった一人でだ」

 元帥と呼ばれる男は軍全体に聞こえるほどの大きな声で語る。

「それに今「我々が追い詰めた」と言ったか?つまりドラゴンを取り逃がしこの町を破壊したドラゴンをこちらに追いやったのは伯爵、あなたという事になりますな?その責任はどうとるおつもりで?」
「あ、いや……それはですね……」
「まぁいい。この話は城でゆっくり聞くことにしましょう。チャールズよ。さ、行くぞ?」
「は?」
「は?ではない。そなたがドラゴンをたった一人で討伐したのだ。その報告に城に行くぞと言っている。軍の者達よ!ドラゴンを城まで運ぶのだ!」
「「「「は、ハッ!!」」」」

 元帥は俺のひょいと持ち上げると肩に乗せ笑いながら近くの馬の所まで行くとそれに乗せ、おれの後ろに元帥が乗り込み馬の縄を引く。

 俺は油断もしていなければいつでも戦えるように魔力を練っていた。なのにこの男はそれを気にしていないかのように一瞬で俺を掴み馬に乗せた。それだけでこの男は俺よりもはるかに強いことがわかる。

 町の人々も訳の分からないといった表情をしたまま固まっている。だがそんなことをお構いなしに元帥は馬を走らせて王都へと出発した。

「ちょ、ちょっと待って!なんで俺が城に行かなきゃいけないんだ!?」

 少し冷静になった俺が元帥に声をかける。

「ガッハッハッハ!そなたは町を守った英雄だ!ならばそれなりの褒美を頂くのは当たり前であろう!」
「いらないよそんなの!それよりもアンタは何者なんだ?元帥なんて聞いたことないぞ!?」
「そうか。まぁしょうがないな。我はストロング元帥という。元帥とは儂の為に作られた爵位でこの国で王様の次に偉い称号だ」
「……は?」

 王様の次に偉いという事は侯爵よりも上という事になる。そんな人間が何故ここにいる?いや、それよりもそんな男が何で俺よりも強いんだ?

「まぁそんな話は良い!あとでいくらでも話せる。それよりもまずは王にお会いするのだ!この小さな英雄を見たら王も喜ぶぞ!」

 王様。その言葉を聞いた瞬間俺の中で何かが燃え上がった。その人物はアニの街にスタンピードを起こさせた張本人だ。もしかしたらこれは好機なのかもしれない。あわよくば王様からその話をさせて殺すことが出来るかもしれない。

 馬の脚は早く一日も経たないうちに王都が見えてきた。その大きさはこれまで見てきた街とは比べ物にならない程大きく、そして美しかった。

 王都に入ると街は活気に満ち溢れ、そしてそこら中からいい匂いが漂っていた。綺麗な石造りの道を馬は駆け上りその頂上にある城までたどり着く。

「王に謁見をしに来た」
「ハハッ!!」

 元帥はそれだけ言うと門が開き、兵が数名走りながら先導し、あっという間に謁見のままで到着する。謁見の間の扉は大きく重厚でかなり複雑な魔法陣が描かれていた。恐らく魔法を反射させる類のものだろう。簡単に襲撃はできないようになっているようだ。

「元帥!おなーーりーー!!」

 兵士は城中に響き渡りそうな大きな声で叫ぶと、扉がゆっくりと開かれた。

 この先に、この先に全ての元凶である王様がいる。そう思うと俺の中の殺意はどんどん大きくなっていった。

 扉が開き切ると俺は元帥についていき長い赤い絨毯を歩くと王様のかなり手前で膝をつく。

「元帥よ。どうじゃった伯爵は?」
「あのものは失敗しましたぞ。それどころかドラゴンを取り逃がしフェラールの町にドラゴンを追いやり、もう少しで町の住人は皆殺しにされるところでした」
「ハッ!だろうな。そもそもあの男がドラゴン退治などできるはずがないんだ」

 王様は煌びやかな服装に身を纏いかなり太っていた。しかも話を聞いて町の人たちの事はどうでもいいかのような振る舞い、やはりこの男は殺すしかない。

「して、その少女?少年?はなんじゃ?」
「この少年がそのドラゴンを退治したのです。町を守った英雄ですぞ」
「ほう、その年でドラゴンを」

 王は目を細めじっくりと俺を見つめる。俺は剣を抜くのを我慢しながらその視線に耐え続けた。王様の周囲には騎士が立ち、俺の横には元帥がいる。皆平常心でいるが誰もが俺を警戒し、そしていつでも武器を抜ける準備をしていた。さらには恐らくだが一人一人が俺よりも強い。そんな気がした。俺が武器を抜けば一瞬のうちに俺は切り殺されるだろう。俺の背中に冷汗が流れる。

「ふむ。面白い。面白いぞ。少年。名を名乗れ」
「……チャールズ」
「そうか。チャールズ。ドラゴンを退治したその礼に金100枚を授けよう。そしてドラゴンはどうした?」
「今軍が運んでおります。が、チャールズは冒険者。その所有権は冒険者ギルドにあると思いますぞ」
「ケッ。またギルドか。まぁ仕方ない。おい、ギルドに手を回してドラゴンは我々で買い取れ。久々のドラゴンの肉を食らうぞ」
「ハッ。そのように」
「では元帥よ。この者を連れて来たという事は決闘か?」
「はい。我は強い者が好きですので」

 元帥と王はそう言うとニヤリと笑い、そして俺は元帥に連れられて中庭まで案内された。

 すると俺達の周りにはすでに何百という騎士が囲み、そして二階からは王と、その隣に恐らく王女達が並んで優雅にこちらを見学していた。俺には何が行われるのか全く想像もできなかった。

「それでは始めてくれ」

 元帥がそう言うと俺たちの周りに結界が張られる。

「さぁチャールズよ。これから我と決闘をしてもらう」

 いきなり俺は元帥と決闘をすることととなった。
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