2 / 18
やどかり
2
しおりを挟む
僕は、人間というものが殊更に下手な生き物でした。
一応断っておきたいのですが、僕が実は宇宙人とか、ロボットだとか、化け物だとか、いわゆる人間以外の生き物だった、という意味ではありません。僕は一応人間です。一応だけれど人間です。人間として生まれ、人間として育てられ、一応人間の教育を受けた、人間という生き物です。
しかし僕は、人間というものをすることが、どうしようもなく下手くそなのです。まず人間の間に入る方法がわかりません。普通の人間は……普通の人間というものがいるのかどうかはわかりませんが、特に苦も無く人間の間に入ることができますよね? 何の気負いもなく傍に行き、他愛ないことを少し喋って、特になんの障りもなくそのまま人間の間に入れる……もちろん、ずっとそのまま一緒にいるとは限らないのだろうけど、人間の間から出て行くのも、人間の間に戻るのも、まるで息をするように自然に行うことができる。普通の人間というものは、少なくとも僕にとってはそういうものだと思います。
しかし僕は、その人間の間に入ることが、どう足掻いても逆立ちしても全く上手くできないのです。僕は人間の間に入ろうとすると、目に見えない、けれど何か僕をひっそりと拒絶しているような、やんわりとした壁のような隔たりを感じます。その心地悪さを堪えて、頑張って近寄ってみたとしても、今度は人間達の態度が僕の侵入を拒むのです。人間達はめいめいに僕ではない何処かを見ていて、聞き取りづらくべちゃべちゃした言葉を、速度だけは弾丸のようにひっきりなしに交わしています。そこに僕が立ち入れる隙なんてものはありません。仮に運良く入れそうなタイミングが見つかったとしても、今度は差し込むべき適切な言葉がわからないのです。言葉を知らないわけじゃない。なのにその時、間に入るに相応しい適切な言葉が見つからない。いえ、見つかったとしても、今度はどのように言えばいいのかさっぱりわからなくなるのです。口の開き方は、舌の動かし方は、喉の震わせ方は、表情は、姿勢、顔の傾け方、立ち位置、足の置き方、身振り手振り、それら、その他の一切が、僕にはどうにもわからない。そして人間達はちっとも待ってはくれません。僕がまごまごしている間に、あっという間に他の誰かが別の弾丸を発射する。いやそもそも、人間達は僕のことなど気にも掛けてはいないのです。気付かれていないのか、気付いた上で無視しているのか僕にはわかりませんけれど、どちらにしても惨めです。どうしようもなく惨めです。僕は惨めさを感じるために生きているようなものです。
両親はそんな僕のことをとても心配していたようでした。人間の間に入れずに敗北を続けている僕に、いかにも心配そうな顔で毎日毎日こう言いました。
どうしてお友達を作らないの?
作れないんじゃなくて、お前が作ろうとしないんだろう。
自分から頑張らなきゃ、友達なんて作れないわよ?
頑張るんだ。頑張れば、友達なんてすぐできるさ。
だから、僕は頑張りました。両親の言うとおり、敗北するだけの挑戦を僕は無様に頑張りました。人間達のもとにいって、僕をひっそりと拒絶するいやぁな空気の中に這入って、僕を見ようともしない視線に心を何度も刺されながら、人間の間に入るべく精一杯に頑張りました。捕まえられた鳥のように喉をぐうっと絞められながら、干からびる寸前の魚のように口をパクパクさせながら、人間の間に入れるように精一杯に頑張りました。
でも駄目だった。人間達は相変わらず僕のことを間に入れず、それどころか僕が近付くと離れるようになりました。まるで危険を察知したドブネズミのように去っていって、僕をちらちら盗み見ながら何事かを言うのです。音量は酷く小さくて、何を言っているのやら聞き取れはしませんでしたけれど、ヒソヒソとでも形容すべき人間達のその挙動は、何故だか僕を酷く悲しくさせるものでした。
一応断っておきたいのですが、僕が実は宇宙人とか、ロボットだとか、化け物だとか、いわゆる人間以外の生き物だった、という意味ではありません。僕は一応人間です。一応だけれど人間です。人間として生まれ、人間として育てられ、一応人間の教育を受けた、人間という生き物です。
しかし僕は、人間というものをすることが、どうしようもなく下手くそなのです。まず人間の間に入る方法がわかりません。普通の人間は……普通の人間というものがいるのかどうかはわかりませんが、特に苦も無く人間の間に入ることができますよね? 何の気負いもなく傍に行き、他愛ないことを少し喋って、特になんの障りもなくそのまま人間の間に入れる……もちろん、ずっとそのまま一緒にいるとは限らないのだろうけど、人間の間から出て行くのも、人間の間に戻るのも、まるで息をするように自然に行うことができる。普通の人間というものは、少なくとも僕にとってはそういうものだと思います。
しかし僕は、その人間の間に入ることが、どう足掻いても逆立ちしても全く上手くできないのです。僕は人間の間に入ろうとすると、目に見えない、けれど何か僕をひっそりと拒絶しているような、やんわりとした壁のような隔たりを感じます。その心地悪さを堪えて、頑張って近寄ってみたとしても、今度は人間達の態度が僕の侵入を拒むのです。人間達はめいめいに僕ではない何処かを見ていて、聞き取りづらくべちゃべちゃした言葉を、速度だけは弾丸のようにひっきりなしに交わしています。そこに僕が立ち入れる隙なんてものはありません。仮に運良く入れそうなタイミングが見つかったとしても、今度は差し込むべき適切な言葉がわからないのです。言葉を知らないわけじゃない。なのにその時、間に入るに相応しい適切な言葉が見つからない。いえ、見つかったとしても、今度はどのように言えばいいのかさっぱりわからなくなるのです。口の開き方は、舌の動かし方は、喉の震わせ方は、表情は、姿勢、顔の傾け方、立ち位置、足の置き方、身振り手振り、それら、その他の一切が、僕にはどうにもわからない。そして人間達はちっとも待ってはくれません。僕がまごまごしている間に、あっという間に他の誰かが別の弾丸を発射する。いやそもそも、人間達は僕のことなど気にも掛けてはいないのです。気付かれていないのか、気付いた上で無視しているのか僕にはわかりませんけれど、どちらにしても惨めです。どうしようもなく惨めです。僕は惨めさを感じるために生きているようなものです。
両親はそんな僕のことをとても心配していたようでした。人間の間に入れずに敗北を続けている僕に、いかにも心配そうな顔で毎日毎日こう言いました。
どうしてお友達を作らないの?
作れないんじゃなくて、お前が作ろうとしないんだろう。
自分から頑張らなきゃ、友達なんて作れないわよ?
頑張るんだ。頑張れば、友達なんてすぐできるさ。
だから、僕は頑張りました。両親の言うとおり、敗北するだけの挑戦を僕は無様に頑張りました。人間達のもとにいって、僕をひっそりと拒絶するいやぁな空気の中に這入って、僕を見ようともしない視線に心を何度も刺されながら、人間の間に入るべく精一杯に頑張りました。捕まえられた鳥のように喉をぐうっと絞められながら、干からびる寸前の魚のように口をパクパクさせながら、人間の間に入れるように精一杯に頑張りました。
でも駄目だった。人間達は相変わらず僕のことを間に入れず、それどころか僕が近付くと離れるようになりました。まるで危険を察知したドブネズミのように去っていって、僕をちらちら盗み見ながら何事かを言うのです。音量は酷く小さくて、何を言っているのやら聞き取れはしませんでしたけれど、ヒソヒソとでも形容すべき人間達のその挙動は、何故だか僕を酷く悲しくさせるものでした。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる