きなこという名の白い猫

みーちゃん

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きなこという名の白い猫

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我が家には、『きなこ』という名の白い猫がいる。
「白猫なのにきなこ?」と、ほぼ聞き返される。
そう、白猫なのに『きなこ』なんである。

名前の由来は、ある。
それはまたの機会に話すことにしよう。

さて、きなこである。
先代猫を見送って半年、出会いは突然やってきた。

ある寒い冬の夜、私は出先から帰る途中の電車で携帯を取り出した。
そこには姉からのメールがあった。
要約すると、こういうことだ。

「父が毎朝散歩に行く公園に、最近白い子猫がいる。
雨の日も風の日も同じ場所でうずくまっている。足が悪いのではないだろうか。
このままだと死んでしまうかもしれない。私たち姉妹がOKなら連れて帰りたい。」

メールを見た瞬間、「キターーー!!」と心の中で叫んだ。

猫ナシ生活も半年が過ぎ、
私はもうとっくに、猫とまた一緒に暮らしたくてたまらなくなっていた。
猫との暮らしがどれほど楽しくて幸せなものなのか、
先代2匹が教えてくれたからこそ、
私はまたその生活を手に入れたいと、少しずつ思い始めていたのだった。

とは言え、積極的に猫との出会いを探していた訳でもなかった。
そこへ、きなこである。

帰宅後の家族会議。
・・・と言う程、大げさなものではなく、
「とりあえず明日も同じ場所にいたら、連れて帰るってことにしよう。」と、
割と簡単に決まった。

私は何となく感じていた。
多分、きっと、おそらく明日もいるだろう、と。

翌朝、携帯を机の上に、キャリーバッグを傍らに置き、
いつも通り散歩に出かけた父からの連絡を待った。

・・・やはり予想は的中した。
着信音が鳴った瞬間の心の声は、またしても「キターーー!!!」だった。

ドキドキしながら自転車にキャリーバッグを乗せて公園へと急いだ。
入口からそう遠くない木の根元に目をやると、いた。
そこに白猫がうずくまっていたのだ。

白猫は何の抵抗もなくあっさり捕まり、そのまま自宅へと連れ帰った。
キャリーバッグから出た姿を見た母が一言、「意外と大きい・・・」と呟いた。
そう、子猫ではなかった。

白猫、いわゆる『きなこ』だが、
初日のきなこは、我が家に到着後ほどなくして、
私のお腹の上に乗り、顔を近づけて甘えてきた。
その後、家族の膝に順番に乗り、
夜は私の布団の中に入り、一晩中くっついて眠った。
後から思えば、もう外に出されないようにと必死だったのだろう。

きなこは、おそらく元飼い猫だと思われる。
必死に甘えてくる姿が、とてもいじらしかった。

思い返せば、きなことの出会いはとても不思議だった。

写真も何もなく、「白猫」「子猫」「足が悪い」というたった3つの情報だけで、
我が家に迎えるかどうか決めようとしていた。
さらに言えば、「白猫」以外正しい情報は何もなかったし、
実のところ、第一印象は『きなこ』っぽくはなかったのである。

しかし、それから1ヶ月もしないうちに、きなこは立派に「きなこ」になった。
もはや他の名前など考えられないくらい、思いっきり「きなこ」になったのだ。

我が家に連れ帰った時に、母が「意外と大きい」と呟いたのだが、
そもそも子猫ではなかった。
獣医師の見立てでは1歳位ということだったので、
子供であることに間違いはなかったが、いわゆる子猫ちゃんではなかった。
そして幸いな事に、足も全く悪くなかった。
きっと怖くて木の根元から動くことが出来なかったのだろう。

猫にも犬にもちゃんと心がある。
ともすれば人間のそれよりデリケートである。
どんな理由があるにせよ、外に出されたことは、物凄くショックだったに違いない。

だから、きなこには常々こう話して聞かせている。
『どうしてもきなこと暮らしたいから、どうか私たちにきなこを下さい』と
お願いしてウチに来てもらったんだよ、と。
一緒に暮らすことを私たちが心から望んだから、
きなこは私たちの家族になったのだと、何度も何度も話して聞かせた。

きなこはとても無邪気で素直だ。
「好き好き大好き!」という感情を、いつも全面に出してくる。
甘えたい時は、甘えたそうな顔をして近づいてくる。
オッドアイの神秘さは、かけらもない。そこがまた可愛くてたまらない。

先代2匹も含め、猫との暮らしは最高だ。
幸せにすると迎えたつもりが、気づけばこちらが幸せにしてもらっている。
この子の為に自分もずっと元気でいなければ、とも思う。
側にいるだけで、ふわふわの毛に触れているだけで、心がとても和むのを感じる。

そのふわふわでフカフカの背中をなでながら、
私は今日もきなこと密な時間を過ごしている。
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