狂った勇者が望んだこと

夕露

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第二章 旅

139.「つれないわーリーシェさん」




「ああ?なんだよまたあそこに行くのか?」


図書室に移動中、私の部屋に来ようとしていたらしい梅たちに会った。どうやら私が廊下を歩いているイコール図書室に行くという認識らしいオーズは私を見るなり眉を寄せている。それは他の二人も同じだったらしく梅は口を尖ら肩を落とした。

「そ。今面白いところなんだ」
「あー駄目だ。リーシェがこういうとき私が何言っても聞いてくれないもん。ラス、稼ぎにいこ。そうだアンタも暇でしょーから手伝いなさいよね」

諦めたとあげた手で梅はラスさんの服を引っ張った。楽しそうに笑う梅にラスさんは困りつつも微笑んでいて、オーズは呆れた顔だ。

「暇だからいーけどよー、ラス、お前もうちょっと強く言っとかねえとコイツ調子のるぜ?いやこれ以上ってことな?」
「はあ?」
「アイフェ、私はもう何も言いませんがせめて武器だけはちゃんとしたものを用意しましょう」
「「言ってるじゃん」」
「そ、そういうことではなくて」

仲のいい三人組に和んでいたらオーズと眼が合う。寄せていた眉を更に寄せながら隣に並んだオーズは視線も合わせず独り言のように呟いた。

「いま何読んでんの」
「いまは英雄伝。一日で読み終えられなかったんだ。オルヴェンってこういう物語がよく広まってんの?」
「……まあ結構好きなんじゃないか?シルヴァリアでも謡われてただろ」
「ああ、あれも昨日読んだな。カナルの英雄伝だと”レヴィカル”と”誰も知らない人”があるんだよな」
「さーな」

ぶっきらぼうな言い方に顔を見上げるけれどやはり視線は合わない。その目はラスさんと梅を見ていた。ラスさんはそこらへんに落ちている棒を武器にしないで下さいって怒ってて、梅は身近にあるものが一番強いんだって主張してどちらも譲らない。どこも似たような感じらしい。
どうしようかなと考えて、諦める。オーズの肩をつついて聞いてみた。

「なあ、頑張ってるんですからたまにはヒントをくれてもいんじゃないですかね?」
「な」

ようやく視線が合ったオーズは目が合うなり強く口を結んでさっきよりも厳めしい表情をしてしまう。どうやら今日も十分でしゃばってるとのことで役に立たないらしい。使えない。

「……お前いま大分失礼なこと考えたろ」
「別に?ただ残念って思っただけ」
「カナルに伝わる英雄伝は他にもある。”ドライオス”もそのひとつだ。あと”守り人”のことが書かれれた本もなかなか面白いぜ」

──へえ、意外。答えてくれた。
ヒントをくれるときもあるのなら時々聞いてみようか。しかし本当に読まなきゃいけない本が多い。


「楽しそうなことで」


からかい混じる声を出すオーズも楽しそうだ。私を小突いたあとひらり手を振ってこちらを見ていた梅たちのところに移動する。どうやらあっちも解決したらしい。
私も途中まで一緒して皆で歩けば随分賑やかになってしまった。あまりにも五月蠅かったからか通り過ぎるメイドや執事たちは目をぱちくりさせる人もいたけど、すぐに微笑ましそうに顔を綻ばせる。

「それじゃまた」
「まったね!」
「ええ。あまり根を詰めないで下さいね」
「飯は食えよー」
「はいはい、そっちは気をつけて」

手を振って三人の背中を見送ればなんともいえない気持ちになった。静かな図書室は居心地が良いはずで、実際そうなのに梅たちと一緒に過ごすのが楽しいせいで昔より図書室にこもるのがつまらなく思う時間が増えた。
──全部本を読み終わったら梅の傭兵業に私も参加してみよっかな。
そしたらラスさんは余計気疲れすることになりそうだけど、そういう気苦労ならオーズだっていいじゃねえかって笑うだろう。
らしくないことを考えながら図書室の扉を開ける。そして、そこに見慣れない奴を見つけた。


「……は?なんでいるんですかね」
「つれないわーリーシェさん。そんなこと言う?」
「いやだってお前どっかに仕入れ行くって言ってただろ」
「その仕入れから帰ってきたんやんか。色々要るやろうなー思てわざわざ寄ったったってのにひどいなあ」


長机に突っ伏していたのはライガだ。眠そうな顔を起こして大きな欠伸をする。

「なんや調べものしてるんやって?ずーっと籠ってるって話聞いたで?」
「まあそうですけど皆それ言うよな。いろいろ調べたいことが……勇者とか魔物とか召喚とかそれに関すること。なんか面白い話ない?」

さっきのオーズのことを思い出してライガにも聞いてみれば、ライガは目が覚めたように目を瞬かせる。

「へえー?嬉しいなあ勇者さんが俺を頼ってくれるなんて」
「別に頼ってないしソレ止めろって言っただろ」
「ああごめんごめん、ついなあ」

ニヤニヤ笑う顔が気に食わなくて本を取りに行けば後ろから適当に謝りながらライガがついて来る。鬱陶しいことだ。無視して昨日の続きから本を取っていたら次に取ろうとした本をライガに取られてしまう。コイツもオーズと同じように邪魔するような奴か?
睨み上げれば意味深に微笑みやがる。

「面白いって言えばアルドの親父さんと色んな話ししたんやって?」
「色んなね」
「親父さん嬉しそうやったでー」
「それはよかった。それで?本返してくれると嬉しいんですが」

私の目の前でヒラヒラ揺れる本を掴むけど返してくれない。なにを考えているんだか暗い藍色の瞳はまだ弧を描いている。

「勇者が魔物なんやったらそれを知ったこの世界の奴らはどんな顔するんやろうね」
「……別にどうでも」
「ええなあ。──も──さんも同じこと言ったやろうね」

違和感。近くに見える口は動くのに音を発しない。それが思い出させるのは契約で、けれどあの契約にコイツも関係しているのかと驚いていたらライガは更にゆっくりと口を動かした。すぐには何を言っているか読み取れなかったけれど、すべての単語を組み合わせて出来た言葉は最近聞いたものでライガが何を言っているのか分かった。

「センドウさんとリナさん?」

亡くなってしまった女勇者。
ライガはにいっと笑うがこっちはそれどころじゃない。コイツもセンドウさんとリナさんのことを知ってる?いや、ジルドと幼馴染らしいしアルドさんの話から考えればここに行商で出入りしているライガだってセンドウさんとリナさんに出会うことがあっただろう。縛られるぐらいには親密だったということならコイツも色々知って……それで結局契約で縛られて話は聞けないってことだろう。実際ただの口パクでも契約で引っかかるのか何か堪えるように眉をひそめている。

「そんな痛い目あいながら契約違反犯すぐらいならもっと役に立ちそうなこと言えよ」
「ひどいなあリーシェさんは」

リーシェさんに違和感を持って笑えばようやく本を返してくれた。
ライガは話を続ける。

「なあリーシェさん。どうせアンタはほっとかへんのやろ。勇者のこと調べて親父さんの手伝いして」
「いや、なんか良いように考えてくれてるみたいだけどこれは完全に自分のためなんで。それにアルドさんにはもう断られてる」
「それでも勇者のこと調べ続けてたら親父さんのこと助けることになるやろうし」
「それならそれでいいんじゃね。あ、どうせ本取ってくれるならもっと持ってって」
「人使い荒いなあ」

なんだかんだ本を集めてくれるライガに指示を出したあと先に長机に本を置きに行く。
──勇者のことを調べ続けたらアルドさんの助けになる、か。
ライガと話してて気がついたけど、アルドさんを契約で縛った勇者はフィラル王国の奴隷と考えたらいつかは対峙することになるだろう。それならサキさんが契約違反で死んでしまうことがないように考えとかなきゃだ。

「リーシェさん、勇者進藤に気ぃつけや」
「へ?」
「あの国は使える勇者全員にアンタの死体を探し出せって言ってるんや。そのなかで勇者進藤は一番好戦的な奴やで?」

それはもう十分よく分かってる。ついでに女だってこともバレたしな。
雪山のことを思い出しながら生返事をすれば本で頭を叩かれる。かなり分厚い本のお陰で痛い。

「油断大敵やでー?勇者進藤はいま女勇者レナが統べるルラル国におる。なんやあの二人手え組んでアンタを見つけ出すことに躍起になってるみたいやで?あれは死体探すゆーより捕まえたるって感じやったなあ」
「勇者レナ?初めて聞いた」
「勇者レナはまだ見つけやすいで?なにせ自分で勇者やって公言してフィラル王国の力もばんばんつこうてるしな。まあ、かといって勇者について聞きまわるのはオススメせーへん。確実に目えつけられるで」
「じゃあお前が知ってる勇者全員教えて」
「そんな聞き方じゃ教えられへんなあ」
「教えろ」
「ひどいわー」
「散々餌まいといてよく言う」

言うつもりがないなら言うなと文句を言おうとしたらライガが長机に本を置いた。ガタイがいいだけあって結構な量を持ってきてくれているから長机が壊れそうな鈍い音を立てる。それが身体に振動するほどだったせいで肩がビクリと震えてしまう。ライガは笑っていた。


「餌っていうなら俺としてはアンタがそんなに魔力持ってる理由が気になるなあ」
「餌って……お前には関係ないんで」
「ひどいなあーあんなに交換し合った仲やのに」
「言い方」


からかうような軽い口調なのにうまく返せないのは見下ろしてくる目を一瞬でも怖いと思ってしまったからだろう。

「リーフさんはおらんねんなあ」
「いまは別行動してる」
「ふうん、じゃあやっぱりあのえらい男前な兄ちゃんか……ジルド?」
「関係あんの?あと私はなんでも利用するって決めたんで」
「せやなあ」

わざとらしく悩むような素振りをするライガを警戒していた。なのに伸びてきた手にまったく反応できなくて引き寄せられ──口づけられる。

「っ」

私の腕を掴んだ手が髪の毛を巻き込んだらしく引っ張られる。痛みに開けてしまった口の中に違う温度を感じてライガの胸を押したけどまるで意味を成さない。

逃げられない。

フィラル王国で何度かライガとは魔力交換してきた。だけどリーシェとしての姿では初めてで覆いかぶさってくる大きな身体に動揺が隠せない。そもそもリーシェの髪と瞳に変えただけで桜の姿なわけで……っ。
折角机に置いた本が崩れる音が聞こえる。熱を持ってしまった耳を撫でた指が髪を梳いて私の肩を抱く。狭い視界のなか見てしまった瞳が弧を描いて頬をなでたライガの髪がこそばゆくて──

「っぅ!なに、噛んで!」
「んー?マーキング」
「は?あ?!だあもう離れろっ」

耳元で話しやがるからライガが話す度にゾクゾクしてしまう。混乱に任せて腹を足蹴りしたら「怖い怖い」とまるで思ってないような笑みを浮かべながら離れてくれた。いつのまにか服までたくしあげてくれてたようで見えた太ももに服を下ろす。
私をこんな状態にした奴はへらへら呑気に笑っていて。

「まあ色々探しといたるわ。これは前金やな」
「な」
「俺も利用しい」

ライガは魔法を使ったのか本を一瞬で元の位置に戻したあと餞別と言ってなにかが入った袋を置いた。また今度とかなにか他にも言ってたけど私に出来たことは首についた跡を消すぐらいだ。



「くっそ……覚えてろ」



いつまでも冷めてくれない顔の熱に苛立ちながらこういうときに役立つものがないか探す。
ああそうだ昔梅と作った防犯グッズ的なもの作ったらいい。アイツらに太刀打ちできるよう無駄に魔法使ってそれで──


結局魔法具の研究で一日が終わってしまったことを私が知るのはもう少し先のこと。





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