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第四章 狂った勇者が望んだこと
238.足跡
青い空をぼおっとみあげて思い出すのは勇者サクが死んだとされたあと初めてアルドさんに会いに行ったときのことだ。
『しばらくお前の館で預かってやれ』
あのときジルドはフィラル王国との契約が解けていたとはいえ、アルドさんはまだ契約に縛られていた。
ジルドの館に行くことは私にも危険性やデメリットもあったけど、アルドさんたちのほうがよほどデメリットがあったことだろう。そのうえでのメリットはなんだったのか疑問に思ったけれど、いま思えばアルドさんは息子の恋を応援するなんて可愛らしい理由の裏でこの状況を狙っていたのかもしれない。
『君は完全な部外者ではいられないだろうからね』
なにも私の心情を察して忠告していたんじゃなかったとしたら、本当に、食えない人だ。大人ってずるい。
ジルドに想う相手ができたとフィラル王国側に勘違いさせるメリットはなんだろうか。
ジルドの弱味をさらに握ったと思い込ませて、コントロールしやすくなったと油断させる?……その結果、もし私がリーシェとしてフィラル王国側と接触するような機会ができれば──うまく事が運ぶかどうかはおいておいて、スパイとして動いただろう。それできっとそのときもアルドさんと話したときを思い出して苦笑するしかなかったに違いない。
私なら万が一のときでも対応できると思われていたんだと気持ちの整理ができないのは、嫌な予想をしてしまうせいだ。
もし私がサクだとバレて殺されるなり捕まったりしても、ジルドを焚きつける材料になるし、リーシェという一般人でさえもフィラル王国は目的のために誘拐していると煽る材料にもなる。それに、限界が近い紗季さんをそばで見続けていたアルドさんは、そんなきっかけを動くための時間稼ぎに利用しようとふんだんじゃないだろうか──やめた。考えれば考えるだけあの人のにっこり笑顔を思い出してしまうし、もう過ぎたことだ。
それに、もしその機会が巡ってきても私はフィラル王国と積極的に関わることはしない。
『あなたは里奈と似すぎているわ』
紗季さんの真剣な忠告は、きっと正しい。映像のなか見たフィラル王の顔を思い出して顔が歪む。
『こんなつもりじゃなかった』
笑える。
いまある状態は望んだからあるのに。
「──こんな感じでリヒトくんはまた何かを探しに行ったけど、イメラたちは消えることができたよ。あと願いに縛られてるのは千堂さんと里奈さんかな。ダラクさんもユキさんも願いを叶えてるし……ああ、あとはアイフェもかな」
梅の望みは私とラスさんと一緒にいること、だったはずだ。そういえばこれってどうなんだろう。例えば、私たちはいずれ必ず死ぬ。そのとき一緒じゃなかったら願いに縛られる、なんてことはないだろうか。……別に死ぬときは一緒なんて願いじゃないし関係ないか?でも人によって解釈が違うことを考えたら梅にそれとなく聞いておいたほうがいいかもしれない。
いま私たちは長いあいだ別行動をしている。この状態でなにかが起きた時を考えれば怖い話だ。万が一、願いに縛られて生き返って彷徨うなんてことが身に起こったら笑えない。
「……それで、アイツのことなんだけど」
「うん」
「夢中になっている女性とやらになってる」
「嫌な予感って当たるんだよなあ」
大地から女冒険者が有名になっていてカナル国を拠点にしているらしいって話を聞いたときから薄っすら嫌な予感はしていた。
領土によって女性の一人歩きの意味は変わるらしいけど、カナル領土ではアロアのような女傭兵だっていたし、フィラル王国よりも外を歩く女性の数は多く感じた。カナル国は女性が少ないこの世界からみれば珍しい国だ。
そんな国で有名な女冒険者となれば、そりゃ注目されるに違いない。カナル国付近にいたっていう鈴谷も興味本位で顔を見に行っただろうし、見に行ったら必ず梅自身に興味を持ったことだろう。いくら錯覚魔法で梅本来の姿が鈴谷の目に映らなかったとしても、梅の言動は鈴谷には面白かったはずだ。
強さ至上主義かつこの世界の価値観を加えれば、鈴谷がしたことは他の女傭兵なら絆される人は多いだろう。自分より強いのは間違いないし、勇者というメリットも多い。
片っ端から依頼を受注してこなす男からの求愛に応えず強い相手がタイプと無視し続けるような価値観の女に、ムキになる姿が浮かんでしまう。
いつかオモシレー女が無理やりにでも欲しい女にならないように祈りたいところだ。返り血浴びた梅の一方的な勝利が簡単に想像できるし、鈴谷が手段を選ばず進藤に協力を求めてしまったら話がややこしくなる。
「いまは賞金を稼ぎつつ鈴谷をあしらうのが日課だそうだ」
「どっかで切り上げてほしいけど……アイフェ帰る気ないんでしょ」
「……みてーだけど、なんだよ。知ってた?」
「アイフェの性格を考えれば私に会いたかったらどんな状況でも会いにくるしな。連絡球も渡してるし……ここにいないっていうのが答えだから」
それこそ世界が変わっても会いに来るような奴だ。
どうしても今なにかしなくちゃいけないことがあるか、私に会えないか、会いたくない理由があるんだろう。
落ち込むわけでもなく答えれば、リーフが拗ねたように視線をそらす。
「そうかよ。ついでにいうと今までの話はラスから聞いたことで、アイツには会ってねー。言うか迷ったけどそのぶんじゃ大丈夫そうだし、そのまんま言うからな。アイツから伝言。『今は会えない』だそうだ」
「分かった。困ってるとかトラブルあるわけじゃなさそう?」
「……微妙」
「よし、アイフェがくるまでこの話は中断」
「賛成。それで、ユキと晃の話なんだけど、レヴィカルが終わったあとの足取りを追ったんだ」
「ユキさんたちがこの世界にいたのって407年前だっけ?よく残ってたな」
「レヴィカル初登場で好成績を残したってのが大きいけど、ギャップのある容姿と異国の名前のおかげでけっこな奴らがユキを追ってたらしい。晃もそれなりに腕が立つしユキと同郷だろうって噂されてたみたいだな。これ、図書館で書き写した資料」
手渡された資料を読めば、新聞記事のようなものもあればおっかけが推しにかける熱意のある文章もあって、ユキさんたちを見てきた人たちがたくさんいるのが分かる。書き方は違えど、重なる証言は真実性を帯びていて──あ。
気になった言葉に顔をあげれば、リーフが待っていましたと頷く。
「晃はラザルニアで突然姿を消して以降、一度もオルヴェンに姿を現すことはなかったみたいなんだ。姿を消す直前、ラザルニアを襲っていた闇の者に致命傷とはいかなくても深い傷を負ったみたいだからそれが原因で死んだんじゃないかって予想してる奴もいるみたいだけどさ、ここ見て」
リーフが指をさした文章は、ラザルニアで起きた事件を思いだしながら書いた日記のようだった。
『止めろと晃は言っていた。だけどユキは首をふるとその手を晃に伸ばして、そのあと、晃は瞬く間に消えてしまった。見た限り文様はなかったのに』
この時代、転移魔法は文様ありきだったのかもしれない。転移魔法に驚きを感じていることが読み取れて興味を持ってしまう。名前の名乗り方だけでなく、こういうところでも今と昔で違いがあるらしい。
「俺たちはこのとき晃は元の世界……桜の世界に帰ったんじゃないかって思ってる」
顔をあげれば、真面目な表情。
元の世界。
帰らないと決めた頃から、帰れるかもしれない可能性の話がでてきはじめたような気がする。心を試されているようで、私まで表情が固くなる。
「ユキさん個人がそんな魔法を使えたってこと?」
「たぶん。正直はっきりと分からなくてあくまで予想」
ラスさんも神木に願う以外で元の世界に行ける魔法について予想をたてていた。
『彼女があなたたちの世界へと行けた方法は禁呪。それを使ったのは恐らくリオ』
勇者召喚をなんらかの方法でリオさんが使って、ユキさんを私たちの世界に送った、と。その方法がユキさんも分かったんだろうか。
「それでユキのその後なんだけど、ラザルニアでリオと別れたあとしばらくダラクと2人旅してたらしい。内乱が起きているところもあって不安定な世界情勢だったってのに、これといったあてがあるような旅には見えなかったみたいだな。そのユキを最後に見たという場所がリガーザニアだった」
「リガーザニア」
突然、思い出すのは森のなか楽しそうに笑ったディオだ。
『この国の首都と雪国だったらどっちに行きてえ?』
ああもう、本当に、本当に腹が立つ。本当に、オーズはずっとでしゃばってたんだ。ここまでしてたならもっと分かりやすく言ってほしかった。
リガーザニアで得たのは導き人の血筋であるリガルさんから教わった歴史とスーラさんの日記、勇者召喚が禁呪と呼ばれていた情報だけど、それ以上のものがまだあったんだ。そうだ、なんとなく流していたけど、スーラさんはなんでリガーザニアを選んで逃げてきたんだろう。たまたま?
外との関りをたっている国だからか?それ以外に理由があるとしたら。
後悔に考え込む姿にリーフが分かるといわんばかりに微笑む。きっとリーフもセルジオたちと検証するなか、もどかしさに苦しんだにちがいない。
「俺さ、イメラたちのことを聞いてからずっと考えてたんだけど、そいつらが生きて歩いた場所をたどっていけばなにか手がかりがあると思うんだ。それこそ、本人から聞けるし」
「確かに、場所や状況が似たものになったら現れてたもんな……正直ユキさんとダラクさんは候補から外してるけど、話がふりだしになるようなことは避けたいから裏付けしとこっか。もしかしたら里奈さんか千堂さんも辿ったかもしれないし」
この世界で生きてきた里奈さんと千堂さんはよく2人で行動していたとのことだ。身の危険があっただろう女2人旅でどこを巡っただろう。
『遊ぼうよ!』
きっと、最悪な状況でも笑って面白がってどこまでも進んだはずだ。
『じゃあね』
最期のあの日以外──死ぬまで、ずっと一緒。
死ぬまで。
「桜?」
「……え?ああ、ごめん。うん、行ったほうがいいみたい。順番通りにいけば最初はラザルニアかな」
訝し気な声に俯いていたことに気がついて、慌てて答える。きっと赤目になってるだろう。そう思って錯覚魔法をかけたけど、そういえばさっきもうかけたんだった。
無駄に魔法を使ってしまう動揺ぶりに私がまた誰かの記憶を見たのだと分かったリーフが心配そうに眉を寄せるけど、これからの方針が間違いないと分かった私としては安心だ。安心……そのはずだ。
それなのになんで何もできないと落ち込むオーズの後姿を思い出してしまうんだろう。
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