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第四章 狂った勇者が望んだこと
239.尾ひれ
さあ、どうしたものか。
遠い目をしてしまうのは目の前で腕相撲大会なんて力比べが始まったせいだろうか。リーフと情報交換しているあいだ目の端に盛り上がっている外野は映っていたけど、お金がとびかう賭け事にまで発展するとは思わなかった。その中心にいる大地は魔法禁止というルールのなかで筋肉隆々のおっさんといい勝負をしている。血管を浮き上がらせて歯を食いしばる姿に外野も声援を飛ばして暑苦しいことこのうえない。
「ダル殺しのリーシェだってどっかで見てんぞ!大地、負けんじゃねえ!」
「だから!俺にも!タイプが!ある!」
「ラシュラルの花を買っていきませんかー?勇者大地にラシュラルの花を送りませんかー!」
リーフと一緒に夕ご飯を食べながら楽しい傍観者として目の前のイベントを楽しむ。
どうやら大地と翔太のやりとりをみて外野は大地が勇者だと察したらしい。そのうえ大地も勇者かと聞かれて素直に答えてしまい、そこから神殿との繋がり……勇者空の縁者だということも広まった。
古都シカムであった祭りの再来だ。
大地なりにまずいと感じたらしく話を濁そうとしたけれど、古都シカムの祭りに参加したものが居合わせていたうえ誇らしげに証言したのだから、もう、どうすることもできない。
噂が噂をよんで商売人もどんどん増えてくる。ラシュラルの花を売っている少年の姿を見つけた頃には笑うしかなかった。
勇者翔太は関わりあいにならないほうがいいと判断したくせに、勇者大地は構い倒して問題ないと判断したカナル国民が解せない。
そのおかげで勇者大地がダル殺しのリーシェに熱愛してラシュラルの花を贈ったなんて話がいたるところから聞こえてくる。このままだと尾ひれがついて周りが五月蠅くなりそうだ。かといってここでリーシェとして姿を現したら火に油だ。
「どーすんの、あれ」
「酒飲むネタ欲しがってるだけだって思いたい」
「あそこで桜と大地の肖像画が売られてたけど」
「……大地ぶん殴ってはっきり否定して済むんならそうするけど、ここの人たちってそれはそれで盛り上がりそうなんだよなあ」
「ダル殺しのリーシェに箔がつくだけだろうね」
「レオルド」
大地から渡されたラシュラルの花を手元でくるくるまわしていたら、レオルドが隣に座った。その手にはお酒があって、レオルドもそれなりに祭りを楽しんでいるらしいことが分かる。意外だ。
「錯覚魔法をかけてるはずなんですけど、なんでいつも私を見つけられるんですかね」
「近くにいたらどんな姿だって君のことは必ず分かるよ」
「近くにいたら……?桜に変な魔法かけてんじゃねえだろうな」
リーフがレオルドならやりかねないと疑って、私も納得してしまう。今まで何度も、転移した瞬間だってすぐに私のことにレオルドは気がついていた。
「魔法?かけてないよ」
「え?じゃあ、身代わり石とかに?」
「いいや?」
「それはそれでただ怖いって話になるんだけど」
どうやら勘で判断していると分かってリーフと顔を見合わせる。レオルドはにこにこご機嫌だ。
私がいうのもなんだけど、私と大地が恋人だと思われているこの状況をレオルドは面白く思わなさそうなのに、どうしてだろう。
周りにとびかう噂の中には禁断の愛なんてメロドラマに発展した妄想さえある。そんなゴシップにかこつけて吟遊詩人が歌えば、祭りを楽しむ恋人たちがうっとりお互いを見つめ始めだす。ああ、私もお酒飲みたい。
なにせ腕相撲大会で大地は優勝できず3位だったものの、外野は手に持っていたラシュラルの花を大地に渡してもう一度プロポーズをと盛り上がり始めたからだ。
嘘も誤魔化しもへたな大地はウシンと似てるけど、慌てふためくんじゃなくて子供のようにうるせえとキレて威嚇するだけだからいいようにおもちゃにされている。
恋物語が歌われれば、場は整ったといわんばかりに周りはニヤニヤしていて楽しそうなことこのうえない。だけど大地は押し付けられたラシュラルの花を持ちながら、隣で歌いだした吟遊詩人を見て首を傾げた。
「なんだこれ?英雄伝か?」
「ああ?ちげえ、ちげえ。英雄伝の恋物語はその、あれだろ?ちょっとこの場には縁起が悪いだろ。この詩はなあ、お互いを求めて熱い気持ちを高めあうやつなんだよ……分かるだろ?」
「知らねえよ。つーか、俺は英雄伝のほうが聞きたい。英雄伝って実際にあったことみたいでさ、いま色んな情報集めてんだよ。あ、そーいやこの国でレヴィカルってのやるんだろ?あのレヴィカルってやつも実際マジでいた奴らしくって……んだよ」
吟遊詩人が歌うのをやめる。
それどころか大地の周りにいた人たちがみんな時間が止まったように動きを止めた。騒ぎに話が聞こえなかった人たちも、最初こそ大地と同じようにどうしたんだと眉を寄せていたけど、すぐに野次馬根性を思い出して聞き耳を立て始める。そのなかに大地に向かって動く人──ハースとセルジオだ。トラブルを嗅ぎつけたみたいだけど、騒音が消えた中心に飛び込むにはまだ理解が追い付いていないようだった。
「英雄伝が本当のこと、というのは?」
吟遊詩人が固い表情で大地をまっすぐに見て質問する。周りも似たような表情だ。異様な雰囲気は大地が思わず後ずさってしまうほどだ。
「……だからそのままの意味だよ。歴史書とか色んな奴らの証言?っての?そういうの」
「勇者大地。あなたはその発言の重大さをお分かりか。あなたの名にかけて証言できるのですか?」
「は?え、いや、つーか、俺はその検証?ってやつについてっただけだから詳しいことは──あ!ハースお前俺の代わりに説明しろ!」
「え!?はあ!?おまっ、このタイミングでっ……いやいやいや、俺も大地と同じでただ同伴していただけなので詳しいのは……コイツ!セルリオです!」
「え!?いや、僕も資料をもとに検証はしたけど実際の確認は、ええっと」
大地がハースを、ハースがセルリオを捕まえて弁明する姿に私とリーフは頭を抱える。その面子をみてザワザワと騒ぎ出す外野は誰かを探すようにあたりを見渡した。思い上がりじゃなく、きっと、彼らが一緒にいた人物を思い出しているんだろう。
ダル殺しのリーシェ。
勇者大地とジルドとの熱愛が騒がれているだけでもお手上げなのに、また、よけいな憶測がついてしまった気がする。まさか、なんて憶測は彼らの口元を緩めさせる格好のつまみだ。
面倒が起きる予感にラシュラルの花を握り潰しかける。理性を取り戻して収納できたのは、レオルドが面白そうに私の腕を指でつついてきたおかげだ。
「英雄伝が本当にあったことだって広まるのは、サクとしてどう思う?」
「どう思うって……別に、いいんじゃない?なに?含みがありそうだけど」
「アイツは英雄伝っていう物語を残しはしたけど、本当にあったことだってわざわざ残しはしなかった」
「アイツって……オーズか。そう、やっぱりアイツが英雄伝をまとめたんだ。でも、まあ……そうだな。やっぱり、いいんじゃない?こうした形で人が覚えてくれるっていうのも、いいよ。きっと」
実際に存在した彼らの一部とはいえ、後世に残ればきっと何かを気づかせてくれるものになる。誰かが隠したいことだったとしても、彼らが大切にしていた瞬間は彼らだけしか知らないんだし、別にいいだろう。もっといえば、死んだあとの自分の姿なんて、彼らの知ったことじゃないだろう。
イメラとロイのことを思いだして、笑う。
「それにたくさん迷惑かけられたから、これぐらいの迷惑料はもらわないと」
どうせもう取り返しようのつかない事態になったんだったら、たくさんの好奇と人が集まるこの状況を活かしたほうがいい。ディオはこの国が大戦を生き残った歴史のある国だと言っていた。資料だけでなく、私が見落としている情報もまだあるかもしれない。
情報収集だ。
「ふうん?そっか……そういうのもいいかもね」
「おいお前、まだなにか隠してんじゃねえだろうな」
「しょうがないね。少しぐらい、助けてあげるよ。リーフも来てもらうけどね」
レオルドを問い詰めようとしたリーフの手をなんなくかわすとレオルドは席を立つ。
口元に笑みを浮かべるレオルドは私を見下ろしてさらに唇をつりあげた。
「今日ぐらい、君はゆっくり休みなよ……自分でこんなこと言うのも嫌だけどね。ジルドの館に行ったらいい」
「ジルドの館?」
「……この近辺で宿をとって1人で寝かせるよりあそこのほうが安全だしね。まあ、明日の昼頃にでもまた会おうよ。俺だけ働くのは嫌だからね、リーフ。君はあそこに参加。できるよね?」
「別にいいけどお前」
「それじゃあサク、また明日」
そういうなりレオルドは背を向けて問い詰められる大地たちのほうへ向かっていく。外野は大地に親し気に話しかける新たな男の登場に興味津々だ。
話をしてあげよう。
前口上に私まで野次馬したくなったら、目が合ったレオルドがそのままなにも話さなくなる。行け、ということだろう。
ずっとこのままだと外野が視線の先を追って、最終的に私を見つけ出すかもしれない。気になってしょうがないけど、転移をすることにする。
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