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目撃する女、佐奈
02.告白現場を覗いてみたよ(わざとじゃありません)
しおりを挟む真っ青な空のした、風に揺れて木の葉がざわざわ声をあげる穏やかな朝の時間。
「私、藤宮くんのこと中学からずっと好きだったの。付き合ってくれませんか……っ!」
私は木陰生い茂る垣根に隠れながら甘酸っぱい青春の一頁を覗くことになっていた。
どうしてこうなったんだっけ?あ、そっか。入学式に浮かれて早めに学校に来たんだっけなあ。今思えば一人だったことも悪かったなあ。
本当は友達の美加に一緒に行こうって誘ったんだけど『どうせアンタは今年もなんか拾うだろうから一人で巻き込まれて』って断られたんだよね。あれ?友達だよね?一緒に立ち向かってくれる系じゃないんだね。
それでまあめげずに一人で来たんだけど、朝早くとも私と同じように逸る新入生は数人いて、その中に混じりながらクラス分けを見て指定された場所に立ってたんだ。美加と同じクラスだった。嬉しくて思わず連絡したけどなかなか返ってこない。なんだこれ。寂しすぎる。
とにかく、周りは男子しかいなくてつまんなかったし、時間もまだまだ余裕があったから学校を探検することにした。
はいここが間違いでした。
綺麗に植林された中庭らしきところを眺めて歩いていたら、猫を見つけてテンション上がって追いかけたのも間違ってた。明らかに舗装された道じゃない場所に入り込んで、四つん這いになるほどの執念で猫を追い詰めてたのも間違いだった。
臭いつけなんだろうけど身体をこすりつけてきた猫に感動して、辺りを伺うことを忘れていたのも間違いだった。
うん、認める。私は中学生活であれだけ自分を律してきたのに、気を抜きすぎてた。
とりあえず今の私に出来ることはバレないようにする……ただそれだけだ。
幸いにも垣根の中にある木にもたれて猫を撫でている私は、一見そこに誰もいないように見える死角にいるらしい。まあ、だからいま告白をしている人も私に気がつかなかったんだろうけど。
本当ごめん。折角人気の無い場所を選んで中学生からの甘い想いを打ち明けたっていうのに、こんな外野がいて本当ごめん。あと成就するといいね。
余計なお世話だと思われそうなことを考えながら猫を撫でる。なるべく内容を聞かないように目を閉じて無になるんだ。柔らかい毛並み。撫でる度に毛が抜けるのはご愛敬だ。きっとおにゅーの制服にも毛がついていってるんだろうけど構わない。スリスリしてくる可愛さにはかえられない。
いや、しかし猫可愛いな。さっきまで逃げてたくせになんだこの甘え方。可愛すぎるわ――
「言いたいことってそれだけですか?僕あなたのこと知らないし、よくその面で僕に声をかけましたね」
「……そん、な」
――え、えええええっ!?
おいおい待って待って?いま凄い言葉が聞こえたんだけど。
目を閉じて無心になってたのが悪かったのか、一言一句しっかり聞こえてしまった。聞き間違えてないはず。
な、なんて恐ろしい人がこの世の中にはいるんだろう。
女の子の必死の告白をそんなことで終わらせて、しかも、なに。おいなんだよねーちゃん。俺様に声かけんならもっと自分を磨いて出直してこいよ。鏡見ろや──みたいなことを言うなんて。ここまで言ってなかったような気もするけど、なんて恐ろしいんだろう。
きっと藤宮くんという人は余程自分に自信があるんだろう。ちょっと顔が見てみたい。
……やっぱり止めとこう。今日は入学初日なんだよ。もう目撃してしまったけどこれ以上ないようにしなきゃ。
好奇心に負けないように自分を叱咤してひたすら猫を撫で続ける。そのあいだも色々ドラマのワンシーンが上映され続けていたけど、ついに女の子が走り去って行った。そして藤宮くんも後を追うようにゆっくり立ち去っていく。
はたして入学式に気配を消して人が立ち去る足音を聞き分けている高校生がどれだけいるんだろう……。
自分の現状を思うと涙が出そうだ。あ、もう大丈夫かな?
一応誰もいないことを確認してから立ち上がる。
「猫、バイバイ。お互いヤな場所に立ち会ったね」
ニャーと鳴く猫をもう一度撫でてから集合場所に戻る。もうそろそろ美加も来てるだろう。
「なんです?あの失礼な女子は……毛をつけないでください」
ちょうど死角になっていた場所から座り込んでいたらしい男子生徒が姿を現す。足元に寄ってきた猫を睨みながらもどかそうとはしない彼こと藤宮くんは、そうやって私の後姿を見ていたらしい。
なんてこった。
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