となりは異世界【本編完結】

夕露

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散らばる不穏な種

18.学園祭と風紀委員の謎を解く

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本日は文化祭に向けて二回目のオリエンテーションだ。
前回は各学年のリーダーと班の名前を決めたんだよね。えっと……うん、決死隊って名前だったカナ?異様な盛り上がりに絶望したっけ。懐かしいなあ。
ふふふと笑いながらオリエンテーション始まってすぐに配られた紙を読んでみる。


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学園祭の過去の出し物一覧
喫茶店、お化け屋敷、展示、飲食販売、ライブ、合唱、ゲーム、コンテストetc...

種目
リレー、混合リレー、大縄跳び、騎馬戦、棒引き、玉いれ、棒倒し、借り物競争、トライアスロン、応援合戦、二人三脚

注意事項
・1人最低1種目

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何度も、見直す。
他にもなんだか細々書いてあるけど大事なのはこれぐらい。どうしよう。つっこみどころが多すぎて困る。こんな不穏なものしか抱かせない紙を見たのは久しぶりだ。不安になって辺りを伺ってみれば、


「もうすっげえ楽しみなんだけどっ!桜先輩の伝説のあの姿!」
「お前もしかしてそっち?まあ楽しみだけどなっ!」
「か、借り物競争!ふふふ藤宮くんって出ますように!」
「トライアスロンは点数が高いからなー!燃える!」
「今回どんなの出そっかな。喫茶はベターだよねー」
「キャンプファイヤーとか超楽しみなんだけど!」


不安が増した。
伝説の姿って、やっぱりミスコン関係の?借り物競争でなんで藤宮くんの名前が?人間借り物競争?リレーはともかくトライアスロンってどういうことだ。うん、喫茶はベターだよね。キャンプファイヤーは楽しみ。でもスケールでかいなあ。あと今更だけどこの学校は文化祭も運動会も混ぜた学園祭をするんだっけ。


「……なんか思ってたのと違う」


文化祭とかって私のイメージでは、まあとりあえずクラスでなに出すかてきと──一生懸命決めて、合唱なら練習して展示なら放課後作って、当日は、授業がなくて友達と学校を走り回れる日、なんだけどなあ。運動会が合わさるだけでこんなにも違うもの?いや、運動会だって嫌々種目を決めてた覚えがあるよ?なのになんでこんな皆やる気満々なの。
周りの熱気に気後れしてしまう。私も一年後こうなるんだろうか……。怖いのは私みたいな人が少ないことだ。
自然と、私と同じような反応してる波多くんに近寄ってしまう。波多くんは私に気づくと、げんなりした顔で「よう」と呟いた。私も同じように返す。

「注意事項すくね」
「1つだね」

やはり同じところに注目していた波多くんに仲間意識を持ってしまう。いやー変に気をつかわないって素敵だよね!
ちょっと落ち込んでたけど気分が上がってきた。
うん。面倒臭いとかこのテンションついていけないとか否定ばっかしちゃ駄目だよね。折角だから楽しまないと。波多くんいつまでもそんな仏頂面してちゃ駄目だよ──


「前回飲食部門で優勝だったのって、女装喫茶だったよねー!今年もそれしよーよー!」


女装喫茶……。
突如聞こえた女の子の楽しそうな声に、波多くんは鼻をぴくぴくさせた。仏頂面と合わせてだから凄く怖い。女装喫茶か……。
波多くんと目が合った。


「……波多くん、絶対可愛いよ」
「そう思ったなら眼科勧める。キモイしゴツすぎんだろ」


一応勧めてみたら即座に否定された。私もそう思う。
と、頷いたところで今度は私の隣にいた男子が楽しそうに声を上げる。

「メイド喫茶って文化祭って感じだよな!面白いからやりてえな~」

ニヤニヤ笑う彼はきっと色んな妄想を繰り広げているんだろう。私も美加のメイド服は見てみたいけども、実際メイド喫茶をするってなったらメイドさんも裏方も大変なのは間違いない。だからやりたくない。
まだ決まってもいないのに疲労困憊の私を見て、波多くんが呟く。

「メイド喫茶だとさ」
「ね。なんでもしていいみたいだね……」

フフ、と私達は微笑みながら壇上を見上げる。私たちがくっちゃべってる間にも話は進んでいたようだ。壇上には海棠先生と、前回決めたリーダー達が立っていた。

「平和ボケしてる奴らがいるかもしんねーからちゃんと言っとくぞー!学園祭の注意事項は紙に載ってるやつだけだっ!つまり犯罪沙汰にならなきゃなんでもいい!ココだけの話この学校だからな、大抵大丈夫だ」
「あれ先生?」
「さあ?」

思わず波多くんに聞いてみる。
だって、この学校だからなにしても大丈夫っておかしくない?あれ?この学校ってどういう学校なの?
自分が入学した学校なのによく分からなくなる。でもとりあえず話は聞いておかないと駄目だろう。
そう思って視線を戻せば海棠先生と目が合った。本当にバッチリ目が合った。少女漫画を見て憧れていた視線と視線が絡むトキメク瞬間がなぜかこのタイミングで……ああ、なんか勿体ない。


「──ということで、各学年で集まって決めていけよー」


海藤先生の指示で皆一気に動き出す。
私も一年生グループに加わりながら様子を見る。円になって集まっていたんだけど、一人、輪の中に押されて出てきた。我らがリーダー、鈴谷くんだ。鈴谷くんは近くにいる多分友人達に促されながら、私達が持っている紙とは違う紙を取り出した。あれなんだろう?
疑問に思いつつ、波多くんに聞いてみる。

「ところで波多くんなにに出場するおつもりで」
「とりあえず一番楽そうなやつ」

だよね。
そう相槌打とうとした瞬間、鈴谷くんは取り出した紙を見ながら話し始めた。

「えーっと、じゃ、今から出場種目決定している人の名前を呼ぶなー。前した身体測定の結果を参考に決定してるから変更は聞かないからー。斉藤、林、北条、安田、瀬田さん、岩西さん、服部さんはリレーもしくは混合リレー。波多はトライアスロン」
「……えっと、よかったね。実力が認められたみたいだよ。絶対一番疲れるやつだ」
「……」

波多くんは無言になって鈴谷くんを見ている。どう贔屓目に見ても睨んでるようにしか見えない。お陰で鈴谷くんは苦笑いしっぱなしだ。
あーしかしよかった。私の名前が出ることは絶対になかっただろうけど、もし呼ばれたら──なんて思うと気が気じゃなかった。
最低一種目は出なきゃ行けないみたいだから、波多くんのぶんも楽そうなやつ一種目選ぼう。そう心に決めたら鈴谷くんが「今名前呼ばれた人、他に出たい種目あるんだったら遠慮なく言って!かけもちででれるし!」と爽やかに笑った。波多くんは小さく舌打ちしていた。どんまい。

それからなんだかんだで、全員の出る種目が決まる。しかも驚くことに文化祭の出し物も決まった。凄い……この一致団結力は何だろう。スムーズに決まっていくことに恐怖を覚え始める。とにかく皆の熱気が違う。

この学校のパンフレットでも見ればこんなに真剣になる理由が分かるだろうか。

この学校の文化祭は変なところばかりだ。
飲食部門は最高二つながらも出し物が最高四つ出せる。中学校では出し物が重ならないようにしていたけどこの学校は被っても問題ないらしい。といっても優勝を勝ち取るために水面下で調整するから結局内容は大きく変わるのだとか。喫茶店といっても本格派かメイド喫茶か執事か……みたいな感じで。凄いなあ~……あれ?文化祭って(以下略)

オリエンテーションが終わって、決死隊メンバーは散り散りに各クラスに戻ることになった。熱気に充てられぼおっとする私の横をどんどん人が通り過ぎていく。皆、楽しそうに話題に花を咲かせていた。
私は風紀のことで頭がいっぱいだった。


この異様な熱気持つ学園祭で、風紀は、私はどんな最期を迎えるんだろう……。


女装コンテストに出る桜先輩の隣にいる私。囲まれる桜先輩。押し出される私。泣いてしまう桜先輩。発狂する皆さん。絶望する私──わ、危ない危ない。変な想像しちゃったよ。早く美加に会って癒されよう!
昼休みは学校で一番好きな時間だ。なんといっても平和な時間だし、友達とご飯食べられるし、眠ることだってできて自由だ。


「近藤、ちょっと指導室に」
「へ」


海棠先生に呼ばれて声が裏返る。
私?私?
思わず凝視して首を傾げると、「お前だ」と言いながら海棠先生は少し眉をひそめた。
私、なにかしたっけ……。
昼休み終わりにある数学の授業まで数学関連のことは考えたくもなかったのに、その先生の後ろをついていって、指導室に向かう羽目になる。なんてことだ……昼休みが減っていく……。

「そこ、座って」
「はい……私なにかしましたか?」

早く終わらせたいって言うのもあったけど、本当に分からなくてすぐさま聞いてみる。海棠先生は眉を寄せっぱなしだ。

「近藤は風紀になったんだよな」
「はいそうです」
「風紀の仕事はどうだ」
「え、あーなんとなく、することが分かってきたような、気がします」

ここで「はい順調です!」とか胸を張って言えたらいいけど、できませんでした。ボディガードというのも曖昧だしまだまだフワフワした状態だ。
海棠先生は椅子に深くもたれて頭を抱える。
どうしたんだろう?無言が続いて不安になる。昼休みが終わっていくのを気がついていますか?

「近藤は確か推薦で入学したんだっけな」
「え?はいそうです」
「この学校を選んだ理由はなんだ?」
「……?友達が行くっていうのを聞いて、しかも一番近い高校だったので」
「はあ」

あ、ここは面接のときみたいにそれらしいことを言っておいたほうがよかったかもしれない。仮にもこの学校の先生に、近いからとか言っちゃ駄目だろう。にしても私本当にノリで決めたなあ。

「近藤。お前は風紀になっちまったんだからちゃんとこの学校のこと知っとけ。ここは進学校で競争率が高いのも知ってるとおも……なんだが、あーまどろっこしい!ここは難関なんだよ!スポーツ推薦じゃない限り、あったまいー奴しか入れねえの!しかも、それウリにしてるから学校の設備が充実してて、それに合わせてセキュリティも万全なんだよ。図書室とかすげえだろ……凄いんだよ」

なんとういうか、初耳なことばかりだ。休み時間なんか美加たちと一緒に教室で喋ってばっかりだし、移動教室ぐらいでしか学校は歩き回らない。そういえばこの学校広いなあとか思ってたんだよ。うん?関係あるのかな。
頭をかく海棠先生はまるでなにを言っても分からない子供と対面したような感じだ。失礼だなあ。なんで推薦受かったんだよとか言わないでください。それに言葉遣いが砕けすぎじゃないだろうか。そして昼休みが……。

「そういった特徴が功を成したのか、まあ、主にセキュリティだが、この学校には御曹司や芸能人やらが多く来るようになった。金にもの言わせて入学してるのも少なからずいる。そしてそういった特殊な生徒たちは良くも悪くも目立ってしょうがない。そこで出番、風紀委員」

パンと膝を叩いた海棠先生の人差し指が私に向く。適当に聞き流していたのに、できなくなった。城谷先輩、やっぱりあなたを恨みます。

「生徒の間では色々言われてるみたいだが、前提として風紀の役割は一般の学校の風紀を律することじゃない。ここに風紀もなにもねえし」

ですよね。

「御曹司や芸能人、またはそいつらと同じくもしくは異常に騒がれてる奴ら……例えるなら桜だな。そいつらが、お前には信じられないかもしれないが──普通に学校生活を送れるようにすること、そいつらがいることで起きることを防いだり対処するのが風紀の仕事だ。教師だけじゃ目が届かないし、かといって民間の警備に頼むのも物々しい。だったら生徒にも任せりゃいいってことだ。
あー、食堂に出れば囲まれて移動制限されたり、人だかりによる通行の邪魔、押し合いによる怪我、派閥のぶつかり合いによる水面下で起きる苛め、騒がれてるそいつらによる生徒達への悪質な行動──とかの対処だ。
今回の学園祭なら、そいつらと接触する機会が存分にあるからどうしたって一般の生徒達が興奮すんだよ。そいつら目当てで入学してる奴らもいるぐらいだからな。そんな生徒を抑えつつ流しながら、御曹司たちが無事に種目を終わらせるのを見届け、学校内で起きた事柄には随時対応する。風紀の仕事はこんなところだな。……おい?近藤、聞いてるか?」
「え?あ、はは。聞いてます」
「はあ」

気が遠くなってきたところで海棠先生が声をかけてきたけど、無理だ。怪我?派閥?苛め?騒がれているそいつらによる悪質な行動?随時対応?私が?
……泣きたい。


「ああ、話し込んじまったな」


海棠先生が時計を見る。昼休みが二十分終わっていた。泣きたい。
項垂れた私に罪悪感を持ったのか、海棠先生が頭を撫でてきた。はあ、やめてほしい。伝わるように勢いよく顔を上げて気持ち後ろに下がる。はあ、と溜息が出る。海棠先生だ。

「俺、近藤になにかしたっけ?」

は?
言いそうになった口を閉じる。だけど本気で、困ったように眉を下げる海棠先生の言動が分からない。

「ほらそれ。近藤って俺見るたびその、心底嫌そうっていうか、なんだ?とりあえず変な顔してるだろ」
「……先生が気にするようなことでもないと思いますが。あと、そんなことないですよ」

顔に出たか……次からは気をつけよう。私は学べる女。志望動機を聞かれたときにも学んだもんね。こういうときは適当に濁しておくが吉!だっけ。
あれ?そのはずなのに海棠先生は顔色を変えない。面倒臭いなあ。

「あの先生、昼休みが」
「あ、ああ。そうだったな。悪い」

ほんとだよ。
今度こそ口に出しそうになったけど、手で押さえたことで言わずにすんだ。よかった。あと先生。心底嫌そうとかじゃなくって、生徒とイチャついてる先生にドン引きして気持ち悪く思ってるだけです。

「失礼します」

頭を下げたあと走って教室に向かう。あー、お腹減った。





  
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