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トラブルだらけの学園祭
35.ウワサ
しおりを挟む俺達1番チームに戻ってからがひどかった。
駿河先輩筆頭に「あらあらあらー」とニヤニヤ笑って「で?どうなのどうなの?」と聞いてくる。1日はまだ半分も終わっていないのに疲労困憊の私。うまく笑えたか自信はないけどへへへと笑いながら「あれは嫌がらせだったんですうー」と説明したんだが伝わったんだろうか。
次から次にくる質問にそろそろ私の女優魂を見せつけて倒れてみようかと思い始めた頃、城谷先輩が「しっし」と人払いをしてくれた。ああ、平常の城谷先輩ってなんて頼もしいんだ……。
「あの子って波多くんよね」
「よくご存じで」
「だってあの子風紀の対象になるかもって話してたからね……あ」
「え!?そうなの!やっぱりそうよね!」
城谷先輩が「あ」と呟く前に駿河先輩は顔を輝かせて速攻で携帯を開いた。なにか打ち込んでいる気がする。気のせいだよね……。
「城谷先輩。ソウイウことはあんまり言っちゃいけないよって東先輩が言ってた気がするんですけど」
「そうね。だから私が言ったって言っちゃ駄目よ、近藤さん」
「場合に応じてカミングアウトしますけど分かりました」
城谷先輩は目をぱちぱちっとさせたあとクスッと笑う。あ、先輩にこう思うのもあれだけど可愛い──
「紫苑の予定を把握せず放置していたのは誰だったかしら」
「申し訳ありません。秘密厳守でいきたいと思います」
──可愛くはなかった。
思わず天を仰げば空に薄っすら浮かんで見えた東先輩のお姿。目を閉じて心を無にする。
「2人3脚が始まります。出場者の皆様は──」
「あ、2人3脚が始まるって。近藤さん次は大縄跳びだし自分のチームに戻ったほうがいいわよ」
「そうですねーあーはは」
「弄られてきなさい」
「ハハ」
チームに戻ったらまたここと同じような状況になるんだろうなって思ったら城谷先輩は笑顔で私の背中を押してくれた。この学校ってろくな人いないよね。苦し紛れに溜息一つ。
でもすぐ観念して自分のチームに戻ろうとしたらゾッとするような視線を感じた。昔からなにかを目撃してしまう私はこういう視線に敏感だ。どこかの少年漫画よろしく視線を感じたほうへ振り返る。
そこには桜先輩信者様がたと桜先輩がいた。
「こっわ……」
思わず呟いてしまったのには訳がある。
桜先輩が演目をしっかり観戦できるよう応援席の一番前に席をぶんどって桜先輩を中心に半円をかいて信者が座っていたはずなのに、なぜか私のほうを見ている桜先輩にあわせて信者たちがモーゼの十戒で海が割れるように移動したあと桜先輩の視線の先、つまり私を見ていたのだ。きっと桜先輩がなにかを見ていることに気がついた信者たちがひとりひとりと移動したことで起きた現象だろうけれど全員からゼット注目されるとかなり怖い。しかも桜先輩以外ほとんど睨んできてますからね……。
とりあえず目が合った手前へへっと笑って会釈すれば桜先輩が私に片手伸ばす感じでガタっと立ち上がったあと苦しそうな表情をしながら言葉を留めるように片手を握りしめ俯いた。
なんかあるなら言えよ!
私も私でぎゅっと歯を食いしばって俯いてしまう。
しかし私は大人だ。こういうことは放っておくと厄介なことになると知っているし、桜先輩は自己完結する癖があるようだから早めに釘打っとかないと会話が成り立たなくなる。
城谷先輩にも駿河先輩にも薄情そうに見えると評価を貰っていることだし、フレンドリーに話しかけて彼女のご機嫌をとっておこう。ついでに信者のご機嫌元をとっておかねば。
「桜先輩―そろそろ大縄跳びが始まりそうなので自分のチームに戻りますねー。いやあ皆さんすっごく優しくて頼りになります。安心してお任せできますー」
「近藤さん」
「はい?」
「さ、さっきの人は、かれっ……彼氏なんですか?」
なんでそんな質問を震えながらこんな状況でしたんだい?桜先輩。
ヒヤリとした汗を感じてしまうほど鋭い視線が色んなところからくる。桜先輩は好きだけど信者ほどでもない野次馬のような人もさっきの借り物競争のことはいい話のネタらしく興味津々に見てくる。
え?なんでこんな注目集まってるの?
「いやいやいや彼氏なんかじゃありませんよ。彼氏いない歴=年齢ですへへへ」
「えっ!?そ、そうなんですか!あ、お、俺てっきり……」
なんだろう……彼氏いないことを美女に心底驚かれるのってなんでかしらないけど結構ダメージがあるんだね……。なんだろう……この人はなんでこんなに私のHPを削っていくんだろうか……。
「さっきのはクラスメイトで女友達がすっくない奴なんですよー。嫌がらせで私を引っ張り出しただけで本当に他意なんてありませんからねー」
悪いけど面白い内容なんてないですからね。外野にも伝わるように気持ち大きな声で笑っておけば、功を成したのか「なーんだ」とかいう声が聞こえてきた。いいなあ……私もそういう傍観者ポジションでこの光景を見たかった。
「こ、近藤さん可愛いから、彼氏いるかと思って……だから俺、さっきの彼が……」
最後まで言えや。
彼女の発言にまたもや歯を食いしばって俯くはめになる。ああ、駄目だ。私、桜先輩が苦手だなあって思ってたけどマジで苦手だ……。
この面倒臭さに表情筋が力を失っていく……。
「あーはいはい。だから違いますって。そして今のところ桜先輩がこの世で一番可愛いですよ。そういえば桜先輩はか──彼女いないんですかー?」
真正面から真剣に会話してたら疲れるから適当に返していたら思わず彼氏いないんですかって聞きそうになった。危ない。だけどこの質問は桜先輩だけでなく信者たちの意識を逸らすことにも成功したようだ。
「か、彼女なんて!お、俺、い、いないです……っ!」
もう彼女は俺っ娘でいいんじゃないだろうか……。顔を真っ赤にして俯く彼女に信者たちがデレっとしたり焦ったり真剣な表情で真意を窺ったりしている。よし、チームに戻ろう!信者に囲まれて見えなくなっていく桜先輩に背を向ける。
その隙間からちらっと悲しそうな目がこちらを向いていた、なんてことはあるはずがない。
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