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トラブルだらけの学園祭
41.万歳!1日目終了!
しおりを挟むとても自分のチームを応援しているだけとは思えない熱のこもる応援は空にのぼって高らかに響く。そこに悪ノリした人たちの野次や口笛が重なれば「凄い」より「怖い」と思ってしまう。
なにが怖いってその元凶の人が私の手を握って恥じらい気味に俯いているのだ。彼女はまるで告白するかのように言葉を詰まらせながら私に何かを伝えようとしている。私でさえそんなふうに思うんだから当然信者もそう思って私を殺さんばかりに凝視していた。彼女は人の視線を浴びすぎて麻痺してしまってるんだろうか。もう少し周りを見る力を養ってほしい。目力で人を殺せるなら私は何度死んだことになるだろう。
「お、俺、頑張りますので」
「はいそうですね!皆さんのために頑張ってください!」
震える彼女の手を信者に殺されたくない一心で引き剥がす。かといって分かりやすく「えんがちょ」って感じで取ってしまえば彼女は泣いてしまう。なんで手を引き剥がすだけで技術が必要なんだろうか。
だけどそんな細心の注意を払ったにもかかわらず彼女は落ち込むように表情を暗くしてしまって、それはそれで信者が「ひっどーい」って陰口叩く。面倒くさいなっ!
「もう始まりますから早く並びに言ってください。他の人にも迷惑になります」
「ですが」
「あ、そうだ。髪邪魔じゃないですか?よければ髪ゴムどうぞ」
彼女が動くたびツヤツヤキラキラなボブが揺れて眼福だけど競技には邪魔そうだ。だから予備の髪ゴムを渡しただけだったんだけど彼女は大きな目を更に大きくしたあと、パアッと嬉しそうに笑った。可愛いわあ……。
破壊力のある笑顔をのんびり眺めた2秒、私の申し出を聞いて不愉快そうな顔をした何人かの信者を見つけた1秒、髪をまとめてくくってるだけなのに露わになった首筋がエロいなと思った1秒──そんな数秒後のことだった。
「俺、勝ちますよ」
フッと微笑んだ彼女は彼女じゃなくなっていた。
桜先輩は太陽の日差しをバックに不敵に微笑んで背を向ける。私も信者もしばらく眩しすぎる光に言葉を失った。
「これはグラッとくるのが分かる……桜先輩ってカッコよかったんですね……」
心からの想いで呟いてしまって瞬間まずいと思ったけど信者たちは怒ることなくぼおっとした表情で同意してくれた。あぶな。城谷先輩はつうっと涙を流して手を震わせている。あぶな。
──それからの出来事はあまりにも非現実で覚えてない。どれだけ距離がひらいていようがアンカーの桜先輩は面白いぐらいごぼう抜きしていって1位になった。信者は叫ぶ。混合リレーでもまったく同じ展開。相手が風紀対象だろうが陸上部だろうがなんだろうが抜いてしまって、ゴールしたあとには女性らしい満面の笑みとかじゃなくて達成感に微笑むのだ。信者は泣き叫ぶ。
拍手と歓声鳴り響く運動会。そう、これは運動会だった。そして明日から文化祭……あ、ミスコン投票しに行こう。
そんなことをぼんやり思いながらのんびり歩く。
文化祭PRも終わって今日の運動会の健闘を称える蓮先輩の挨拶と校長先生の締めの話を最後に終わってしまった怒涛の1日を振り返る。あんまりにも色んなことがあったせいかどこか夢見心地だ。残念なのはこの熱い感動を話す人が近くに居ないってところだ……ぼっち……。
美加はこれから生徒会でアンケートのことやミスコン投票の集計やらなんやらあるとのことでさっさと行っちゃったし、私は私で風紀でちょっと集まらないといけないから里香ちゃん亜美ちゃんと別れて1人。2人ともとっくに投票は終わってたって言ってたしなあ。
「投票かあ」
ミスコン投票場所にはちらほら人がいたけど少ない。皆里香ちゃんたちみたいにとっくに済ませてるんだろう。私も早く終わらせ……でも誰に……?
桜先輩はミスかミスターどっちにいれたらいいか分かんないし止めておこう。どっちにせよ出ることは確定してるだろうしなあ。それなら桜先輩以外で今日一番印象に残った人……このコンテストに出たら反応が面白そうな人……あ!魔王と美加だ!
投票用紙に二人の名前を書いて投票する。あー楽しみ。
明日が待ち遠しくなって弾む足取りで風紀室に向かえばお馴染みの面々と桜先輩がいた。この人すっかりここが家になってるな。
「あ、今日はお疲れ様でしたー」
「え?……い、いえ」
「近藤さんもお疲れ様」
「まおっ、東先輩もお疲れ様です。騎馬戦出ててビックリしました」
魔王と言いかけてしまってあははーと笑って誤魔化してたら誰かに頭をわっしゃわっしゃ撫でられる。こんなことをするのは神谷先輩しかいない。すぐさま手を掴んで止めれば案の定神谷先輩がニイっと笑った。
「借り物競争見てたぜー?佐奈ちゃんも隅におけねーなー?」
「あれはー佐奈ちゃんに対するー?嫌がらせですー」
神谷先輩はこうやってからかってこなかったら本当に素敵な先輩なのに惜しいな。それで惜しくもなんともなく普通に嫌なヤツなのが剣くんだ。
「アンタもっと運動したほうがいいんじゃないー?ぜえぜえ凄い顔してたよー?」
「剣くんはもうちょっと筋肉つけたほうがいいんじゃないー?神谷先輩に負けちゃったねー?」
「可愛くねえ」
「うざい」
いつもならここらへんで刀くんが割り込んでくるけど、見れば刀くんが顔を赤くして視線を逸らした。え……普段抱きついたりしてくるくせに誉め言葉一つでこんなことなる……?どれだけ初心なんだ……?
驚く私を見て剣くんが「可哀想」って言ってて同感してしまう。
「──それじゃあ皆打ち上げとか色々あるだろうからこれぐらいにして終わろうか。明日もよろしくね」
明日に向けて東先輩から改めて注意事項とか風紀の仕事とかを伝えられて10分ぐらい。にこやかな笑顔で終わりを告げられた。皆ではーいと頷いてぞろぞろ動き出す。私も打ち上げに行かないと。それで波多くんが女子に囲まれて「あ」とか「う」とか呟きながらたじたじになってるのを見なきゃいけないんだ。前もって波多くんの特性を説明したから波多くんがメンチきったりキツイ言葉を言っても皆生暖かく微笑んでくれてることだろう。
「こ、近藤さん」
「はいなんですか……あ、そうだった。紫苑先輩今日すっごくかっこよかったですよ!」
風紀室を出るとき何か言いたげな彼女に約束を思い出して言えば、彼女はビシッと固まった。面白いぐらい動かないうえ目の前で手を振っても反応しない。どうやら紫苑先輩も刀くんみたいにストレートな誉め言葉に弱いみたいだ。
「それじゃ桜先輩明日のミスコンも楽しみにしてます!」
「鬼がいる……」
「城谷よりヤバイんじゃねえか?」
「凄いなあ近藤さん」
「聞こえてますよー」
剣くんたちが何か色々言ってくれるから「べー」と舌を出して非難したあと打ち上げに急ぐ。約束は守ったもんね。
「──ちっ……うぜえんだよ……」
そしてチッチッチッチ言ってる波多くんを見つける。安心するわー。女子に囲まれるという慣れない環境に不安いっぱいの波多くんは顔が見えないけどきっと凄い顔をしてることだろう。それなのにめげない女子たちに乾杯。
配られてたジュースを飲みながら近くの人とお喋りする。
「明日も楽しみだよねー!ミスコン誰投票した?」
「ふふふー美加っていう友達に投票した」
「あ、園田さんだよね?確かに美人!10人に選ばれるんじゃない?」
「そうなったら絶対嫌がるんだろうなー」
あははと楽しく笑っていたら不穏な話題が耳に入ってくる。3日目にするキャンプファイヤーで告白すると結ばれる、なんてジンクスの話だ。こわ……絶対桜先輩に告白する人20人ぐらい出てくるよ……。周りの子たちは意中の人を想いながら顔を赤くしてるけど私は怪談聞いてるような心地だ。
これは3日目が終わるまで油断できないな……。
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