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トラブルだらけの学園祭
47.悲報、速報、絶望
しおりを挟む色々ありつつも猫ココアを楽しんだあと紫苑先輩と2人で裏庭に向かえば、意外なことに藤宮くんの姿はまだなかった。どうやら彼は本当に忙しいらしい。そんななかでも紫苑先輩と会うために時間を作るなんて健気な人だろう。
「明人さん、まだいらっしゃいませんね」
「ほんと魔性ですね」
「え?」
「いえいえ、ほんとそうですねーって」
ほうっと寂しげに溜め息を吐く紫苑先輩の憂い顔は恋する人が見ればさぞかし胸がときめくことだろう。今日は猫がいないしどうやって乗り切ろうか……。まだやってるらしいライブの音を聞きながらぼおっと空を見上げていたら砂利を踏む慌ただしい音が聞こえてくる。
「紫苑さん!お待たせ、しましたっ」
「明人さん!」
ぱあっと花が咲くように笑う紫苑先輩に藤宮くんは今まで見てきた男子生徒のように顔を真っ赤にしてどもりながら返事する。待たせてしまってすみません的な話を聞いているとカップルに思えてくる。
「にしても、まさか藤宮くんのボディガードが刀くんとは思わなかった」
「ええー佐奈ちゃん酷いよ。もうちょっと僕のことに興味持ってって」
「わーもう復活してるー抱き着こうとしないでねー」
「えー」
褒めて撃退する方法はどうやら一時的にしか効果がないらしい。残念。しょうがないから距離感が近い刀くんの肩を思いっきり手で押し離しながら携帯を開けば新着発見。そこには何故か真奈と書かれたアイコンがあって、連絡先を交換していないのになんでだと思っていたら波多くんから連絡先を聞いたとのこと。波多くんありがとう。いやーしかし波多くんと真奈かあ。案外いいかもしれない。
お見合いを進めるおばさんのような気持になりながら送られた写真を見れば《売上急上昇》という言葉の下になぜかお店で猫ココアを飲む颯太くんがたくさんの子たちと一緒に映っていた。どうやらファンサービスが終わったあと猫ココアを飲みに来たらしい。私たちを探しているわけじゃないことを祈ろう。
「あ、剣もいるー」
「ほんとだすっごく嫌そうな顔してる、って!猫ココア飲んでる!」
「剣って甘いもの好きだからねー」
「えー?それならもっと美味しそうに飲んでくれたらいいのにねー」
「僕は美味しく食べるよ?ところでなにか持ってない?」
トリックオアトリート的な感じで言われて手が差し出される。新たに追加して持ってきた猫クッキーはあんまりあげたくないなあ。え?まだご飯食べてないからお腹減ってる?それならしょうがないか……。お腹が空いた絶望感はよく分かるからクッキーを多めにあげれば刀くんは言ったとおり凄く美味しそうに食べてくれた。ううん、作った甲斐がある。
「ボディガードで忙しかったの?」
「ん~ボディーガードというか、ちょっとねー」
「そっかーそれならしょうがないね」
「もうちょっと興味持って!」
笑う刀くんには悪いけど面倒臭いやりとりは嫌いだし、そんなやりとりで楽しめるのは今のところ美加だけだ。ああ、美加なにしてるんだろう……ミスミスターの集計終わった頃かなあ。
「あ!」
「え!?なになに!?」
「ミスミスターだよ!紫苑先輩!え!?そういえばいつからだったっけ?!」
剣くんが言うには速報で紫苑先輩はミスコンに出るとのことだった。美女が現れて記憶が飛んでたけど、学園祭を楽しみすぎて紫苑先輩を出場させるの忘れてましたってことになったら、東先輩以上にファンの皆様の反応が怖すぎる!
「というか紫苑先輩……あ、私が思い出さないように願ってましたね」
背中を向けてビクリと肩を震わせた美女は恐る恐る様子をうかがってきて可愛い限りだ。
「佐奈ちゃん大丈夫だよ!ミスミスターは午後1時からだしまだまだ準備できるって。一緒に頑張ろうね」
「あーそれならよかったー頑張ろうねー」
きっと昨日の運動会と同じようにファンの皆様がえらいことになるんだろう。げんなりしながらニコニコ笑う刀くんと拳をぶつけあう。なにせ藤宮くんもかなりモテる。知らないけどきっと大変だろう。あ、もう猫クッキーはあげませんよ。自分で買い食いしてください。
さて、と。
「し、紫苑さんはミスコン……ミスコン?」
「そうなんです……」
紫苑先輩の性別をいまだに信じられない藤宮くんはどうしたらいいだろう。ミスコンのほうにでるせいで勘違い組が勢いを増しそうだ。ミスコンが終わったあとすぐに逃げられるようにロングウィッグでも用意しとこっかなあ。帽子を深くかぶって顔も隠せば、信者なら分かってしまうだろうけど、ショートからロングに変わる視覚効果でファンの目を欺けるんじゃないだろうか。
「刀、今すぐ会場に向かいましょう」
「「「え?」」」
突然の提案に藤宮くん以外の声がはもる。
急にマネージャーみたいに場を仕切り始めた藤宮くんは真面目な表情だ。
「紫苑さんがミス……ミスコンで出場されるとのことでしたら、きっと早めに行ったほうがいいはずです」
流石、実感こもってるなあ。
頷きながらも刀くんに便乗して買い食いしようとしていた私は気が進まなくて口を尖らせてしまう。そんな私にチャンスとばかりに身を乗り出してきたのは紫苑先輩だ。
「お、俺はまだ行かなくてもいいですよ?」
「でもこればっかりは参加必須ですからねー」
「佐奈ちゃんはりきってるねー」
紫苑先輩にしっかり釘を刺しておけば刀くんが「僕も凄い楽しみ」なんて余裕な発言をするけど、とてもじゃないけどそんなこと言えはしない。なにせ紫苑先輩の晴れ舞台を邪魔した犯人として信者に殺されたくないし、紫苑先輩とリベンジマッチしたいビーナス先輩を敵に回したくない。保身って大事。
「うう」
「大丈夫ですよ、すぐ終わりますって!私も陰ながら応援してます」
紫苑先輩に笑顔でエールを送れば、ずっと眉を寄せていた藤宮くんが「ちょっとあなた」と私を呼んでくる。
「どうしたんですか?」
「あなたも出場するんですよ」
「え?」
「え!知らなかったの!?」
「わあっ!じゃあ一緒に出場できるんですね!俺、すっごく心強いですっ!」
「……え?」
聞き間違いかと思ったのに五月蠅い他の2人はそれぞれ違う反応をしながらも藤宮くんの妄言が嘘じゃないと言ってくる。いやいやいや、待って、待って。
まさかと思いながらミスミスター出場決定者が張り出された掲示板を見に行く。そこまで人をさらしものにしたいのか、でかでかと顔写真まで貼りつけてあって、並ぶ沢山の顔のなかに悩みがなさそうに笑ってる私の顔を見つけてしまった。
「苛めだ……っ!」
頭を抱えて絶望する私を「い、一緒に頑張りましょう!」なんて言ってぞいポーズ決めながら紫苑先輩が慰めてくれたけど、こんな美女とミスコンに出る現実に打ちのめされるだけだ。え?なに?すぐ終わるって?はは、藤宮くんちょっと黙っててくれませんかね。
応援ありがとうございます!
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