96 / 502
第1部
想定外過ぎた
しおりを挟む
しっかりと食べて、しっかりと眠れ。
エンゲルブレクトに言われて、しっかり食事は摂ったものの、梛央のことが心配で眠ることができないヴァレリラルドは、ケイレブとともに騎士棟のホールでサリアンたちの帰りを待っていた。
椅子に座って待っているヴァレリラルドとケイレブのもとに、マフダルがリングダールのぬいぐるみを抱えたオルドジフを伴って現れた。
「オルドジフ、どうして?」
「王都の精霊神殿に王城から連絡がありました。ナオ様が飛竜に攫われたと聞いて居ても立っても居られず。すぐに駆け付けたかったのですが、王城でこれができるのを待っていたらこの時間になりまして」
オルドジフはヴァレリラルドに、両手で抱えているリングダールを指し示す。
「助かる。これはナオの気持ちの拠り所みたいなものなんだ」
飛竜の襲来を阻止して壊れたリングダール2号の代わりが早速来てくれたことに、また梛央がリングダールに埋もれてうっとりした顔になるのを願って、ヴァレリラルドが呟く。
「簡単な状況は聞きましたが、ナオ様の行方の手がかりは? フォルシウスたちはまだ捜索しているのでしょうか」
「現時点での手がかりは、ない。冒険者ギルドに飛竜の目撃情報の収集を依頼している。明日、集まった情報をもとに冒険者ギルドにも依頼を出して大々的な捜索を行う予定にしている。サリーやフォルシウスたちも明日に備えるためにもうすぐ戻ってくるはずだ」
ケイレブが答えた時、外で多数の馬の足音が聞こえた。
「馬の世話をする者たちが厩舎に待機しています。馬を預けてすぐに戻って来ますよ」
マフダルの言う通り、ほどなくサリアンを筆頭にヴァレリラルドの護衛騎士と梛央の護衛騎士がホールに現れた。その顔は一様に疲労に満ちた顔をしている。
外では雨はやんでいたが、風魔法が使える者がいても捜索しながらでは思うように魔法も行き届かず、騎士たちの服は湿っていて、状況と同じく重たくなっていた。
「ご苦労だった。馬の世話は厩舎の者たちに任せて湯で体を温めて食事を摂ってくれ」
ケイレブが労いの言葉をかける。
「ケイレブ、飛竜を見失った。ナオ様が……」
苦しそうな顔をするサリアンの肩をケイレブが抱きしめる。その体は濡れた服のせいで冷え切っており、雨の中を長時間捜しまわった疲労で体と心が限界まで来ていることが伝わってきた。
それは他の護衛騎士も同じだった。
「サリーもみんなも、諦めずに遅くまで頑張ってくれてありがとう。明日こそ必ずナオ様を捜しだそう。だから頭を切り替えて体を温めてこい。そのあとで食事を摂りながら話を聞かせてくれ」
ケイレブに言われて、梛央を敬愛している護衛騎士たちは重い心で頷いた。
「どういうことです。私はナオ様を伴侶にしたいとは言いましたが、フェルウルフの群れやボスフェルや、ましてや飛竜を2頭も呼び、あまつさえ攫わせるとは想定外過ぎです。ナオ様はどこです?」
エンゲルブレクトはバルコニーに向かって話しかける。
その声は、想定外過ぎたせいで少し苛立っていた。
エンゲルブレクトの苛立ちに応えるようにバルコニーに粒子が集まるように影が濃くなり、やがてそこに人影が現れる。
次第に明瞭になるそれは、黒いフード付きのローブ姿の人物だった。
フードを目深にかぶった人物はエンゲルブレクトより小柄だったが、無言で場を支配するような存在感があった。
「私はあなたの存在を厭わない。あなたの存在意義を肯定する者です。ナオ様の居場所を教えてください。ナオ様を伴侶にほしいと言った私の望みをかなえてくださったのでしょう?」
エンゲルブレクトが優しい声音で乞うと、ローブ姿の人物は右手を上げる。
次の瞬間にはローブ姿の人物とエンゲルブレクトは古城ではない、貴族の館の一室と思われる場所にいたが、明かりがないせいで闇に近かった。
ローブ姿の人物がテーブルに手をかざすと、置かれた燭台にほのかに明るい程度の灯りがともる。
「ここは誰の館です?」
全体としてはまだ薄暗い部屋を見回すエンゲルブレクト。
「ソーメルスの砦」
くぐもった声が簡潔に答える。
「始祖王エンロートが建てたソーメルス山の砦ですか」
始祖王エンロートが守護のために王都を挟んで王城と対をなすように建てた砦の名前に、エンゲルブレクトは納得する。
今は使われていないこと、エンロートのはずれの山すそに建てられていること、などでエンゲルブレクトが訪れたことはなかったが、歴史の授業には必ず出てくる有名な山城だった。
昔は騎士が常駐した山城のような建物はいまだに時折管理の手が入るため、エンゲルブレクトがいる部屋は今でも十分に居室としても使えるようだった。
「ナオ様はどこに?」
急かすエンゲルブレクトに、ローブ姿の人物は続き間になっている部屋のドアを開ける。
そこは寝室になっていた。
気持ちばかりの天蓋。さほど大きくはない寝台で梛央は眠っていた。
寝台の横のサイドテーブルの弱い光の中でも美しい寝顔はエンゲルブレクトの目を惹きつけた。
エンゲルブレクトに言われて、しっかり食事は摂ったものの、梛央のことが心配で眠ることができないヴァレリラルドは、ケイレブとともに騎士棟のホールでサリアンたちの帰りを待っていた。
椅子に座って待っているヴァレリラルドとケイレブのもとに、マフダルがリングダールのぬいぐるみを抱えたオルドジフを伴って現れた。
「オルドジフ、どうして?」
「王都の精霊神殿に王城から連絡がありました。ナオ様が飛竜に攫われたと聞いて居ても立っても居られず。すぐに駆け付けたかったのですが、王城でこれができるのを待っていたらこの時間になりまして」
オルドジフはヴァレリラルドに、両手で抱えているリングダールを指し示す。
「助かる。これはナオの気持ちの拠り所みたいなものなんだ」
飛竜の襲来を阻止して壊れたリングダール2号の代わりが早速来てくれたことに、また梛央がリングダールに埋もれてうっとりした顔になるのを願って、ヴァレリラルドが呟く。
「簡単な状況は聞きましたが、ナオ様の行方の手がかりは? フォルシウスたちはまだ捜索しているのでしょうか」
「現時点での手がかりは、ない。冒険者ギルドに飛竜の目撃情報の収集を依頼している。明日、集まった情報をもとに冒険者ギルドにも依頼を出して大々的な捜索を行う予定にしている。サリーやフォルシウスたちも明日に備えるためにもうすぐ戻ってくるはずだ」
ケイレブが答えた時、外で多数の馬の足音が聞こえた。
「馬の世話をする者たちが厩舎に待機しています。馬を預けてすぐに戻って来ますよ」
マフダルの言う通り、ほどなくサリアンを筆頭にヴァレリラルドの護衛騎士と梛央の護衛騎士がホールに現れた。その顔は一様に疲労に満ちた顔をしている。
外では雨はやんでいたが、風魔法が使える者がいても捜索しながらでは思うように魔法も行き届かず、騎士たちの服は湿っていて、状況と同じく重たくなっていた。
「ご苦労だった。馬の世話は厩舎の者たちに任せて湯で体を温めて食事を摂ってくれ」
ケイレブが労いの言葉をかける。
「ケイレブ、飛竜を見失った。ナオ様が……」
苦しそうな顔をするサリアンの肩をケイレブが抱きしめる。その体は濡れた服のせいで冷え切っており、雨の中を長時間捜しまわった疲労で体と心が限界まで来ていることが伝わってきた。
それは他の護衛騎士も同じだった。
「サリーもみんなも、諦めずに遅くまで頑張ってくれてありがとう。明日こそ必ずナオ様を捜しだそう。だから頭を切り替えて体を温めてこい。そのあとで食事を摂りながら話を聞かせてくれ」
ケイレブに言われて、梛央を敬愛している護衛騎士たちは重い心で頷いた。
「どういうことです。私はナオ様を伴侶にしたいとは言いましたが、フェルウルフの群れやボスフェルや、ましてや飛竜を2頭も呼び、あまつさえ攫わせるとは想定外過ぎです。ナオ様はどこです?」
エンゲルブレクトはバルコニーに向かって話しかける。
その声は、想定外過ぎたせいで少し苛立っていた。
エンゲルブレクトの苛立ちに応えるようにバルコニーに粒子が集まるように影が濃くなり、やがてそこに人影が現れる。
次第に明瞭になるそれは、黒いフード付きのローブ姿の人物だった。
フードを目深にかぶった人物はエンゲルブレクトより小柄だったが、無言で場を支配するような存在感があった。
「私はあなたの存在を厭わない。あなたの存在意義を肯定する者です。ナオ様の居場所を教えてください。ナオ様を伴侶にほしいと言った私の望みをかなえてくださったのでしょう?」
エンゲルブレクトが優しい声音で乞うと、ローブ姿の人物は右手を上げる。
次の瞬間にはローブ姿の人物とエンゲルブレクトは古城ではない、貴族の館の一室と思われる場所にいたが、明かりがないせいで闇に近かった。
ローブ姿の人物がテーブルに手をかざすと、置かれた燭台にほのかに明るい程度の灯りがともる。
「ここは誰の館です?」
全体としてはまだ薄暗い部屋を見回すエンゲルブレクト。
「ソーメルスの砦」
くぐもった声が簡潔に答える。
「始祖王エンロートが建てたソーメルス山の砦ですか」
始祖王エンロートが守護のために王都を挟んで王城と対をなすように建てた砦の名前に、エンゲルブレクトは納得する。
今は使われていないこと、エンロートのはずれの山すそに建てられていること、などでエンゲルブレクトが訪れたことはなかったが、歴史の授業には必ず出てくる有名な山城だった。
昔は騎士が常駐した山城のような建物はいまだに時折管理の手が入るため、エンゲルブレクトがいる部屋は今でも十分に居室としても使えるようだった。
「ナオ様はどこに?」
急かすエンゲルブレクトに、ローブ姿の人物は続き間になっている部屋のドアを開ける。
そこは寝室になっていた。
気持ちばかりの天蓋。さほど大きくはない寝台で梛央は眠っていた。
寝台の横のサイドテーブルの弱い光の中でも美しい寝顔はエンゲルブレクトの目を惹きつけた。
116
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる