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第1部
てんちゃん
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あたりが暗くなった頃、梛央とオルドジフはテュコやサリアンを伴って王族の居住区域にある晩餐の間に向かった。
晩餐の間ではすでに席についていたヴァレリラルドが立ち上がって梛央を出迎える。
「ナオ、すごく綺麗だよ」
紺色の服を着た梛央を頬を染めて見つめる。
「ありがとう。ヴァルも素敵だよ」
梛央が返すと、ヴァレリラルドは手をつないで梛央を席までエスコートする。
食卓にはベルンハルドと、栗色の髪を結い上げた品のある女性が座っていた。
「ベルっち、お招きありがとう」
「陛下、お招きいただきありがとうございます」
梛央とオルドジフが頭を下げる。
「応じていただき、ありがとうございます。星の離宮はお気に召しましたか?」
「うん。星見の塔で星を見るのが楽しみ。今夜にでも上ってみようと思うよ」
「ナオ、私も一緒に見たい」
自分の席に着いたヴァレリラルドが梛央の発言に手を挙げる。
「ヴァルはすっかりナオ様に夢中ね」
ベルンハルドの隣の女性が目を細める。
「ナオ、王妃のテレーシアだ。オルドジフは見かけたことがあるだろう」
「王妃テレーシアと申します。シアンハウスや旅のあいだ、ヴァレリラルドがお世話になりました」
そう言って梛央に頭を下げるテレーシア。
「初めまして。秋葉梛央です」
「フリードリーン侯爵家次男のオルドジフ・フリードリーンと申します。精霊神殿の神殿長補佐をしておりますが、縁あってナオ様の近くにおります」
頭を下げる梛央とオルドジフ。
「ナオ様のおかげでヴァレリラルドは楽しい時間を過ごせたようです。帰還してからずっとナオ様のお話ばかり聞かされていました。ナオ様、お礼を申し上げます」
「ううん、ヴァルは僕にずっと優しくしてくれました。1人でここに来た僕を慰めてくれて、いつも一緒にいてくれ、お礼を言うのは僕の方です」
いつになく殊勝な梛央に、
「ナオ、どうしたの? 緊張してる?」
ヴァレリラルドが声をかける。
「ヴァルのお母さん、綺麗だし」
「ありがとうございます」
梛央の言葉に微笑むテレーシア。
「優しそうだし」
「うん、母上は優しい人だよ」
「でもうちの母さんも綺麗だし、優しいんだ」
テレーシアから目をそらして言った。
「ナオは母上のことを思い出したんだね」
オルドジフに言われて、頷く梛央。
アイナとドリーン以外は周囲の人間はほとんど男性で、だから料理で琉歌を思い出しても誰かに面影を重ねることはなかったが、テレーシアの雰囲気がどこか琉歌に似ていて、梛央は胸が締め付けられる思いだった。
「でもドーさんがいるから平気」
健気に微笑んで見せる梛央の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
見かけはヴァレリラルドとあまり変わらない身長の梛央が、違う世界から一人でこの王国に来たこと。家族に別れを告げることもできずに心残りがあることをベルンハルドやヴァレリラルドから聞かされていたテレーシアは憐みの色を浮かべる。
「ナオ様の母君を思う気持ち、私ではわからないかもしれませんが、お察しします。私は、母君の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうです。ヴァレリラルドに危険が迫っていた時、もしこの子がいなくなってしまったらと思うと気が気でなりませんでしたもの。母君を思ってお辛いナオ様よりきっと、ナオ様を思って悲しみに浸っているだろう母君のほうがお辛いはず。ナオ様が悲しまれていると母君様ももっと悲しまれますわ」
梛央は涙を滲ませてはいるが、テレーシアの言葉に涙を堪えて頷く。
「お偉いですわ、ナオ様。私、ナオ様のこの国での母になりたいと思ってしまいました。ナオ様、ヴァレリラルドのことはどう思っておられますか?」
「ヴァレリラルドは好きだよ。強いし、優しい」
テレーシアに訊かれて、梛央はすぐに答えた。
「ナオ様もヴァレリラルドを好いてくれてるんですのね。ナオ様がヴァレリラルドの伴侶になってくださると、私はナオ様の母になれますわ。ヴァレリラルドとの婚約や婚姻はあとになるとしても、今から私を母と呼んでいただいてもよろしいんですよ」
にっこりと笑うテレーシアに、梛央は涙が引っ込むくらいに驚いてヴァレリラルドを見る。
「僕とヴァルが結婚するの?」
「母上、ナオがびっくりしていますよ。ごめんね、ナオ。でも僕のことが嫌いじゃないなら、考えの一つにいれてくれると嬉しい」
いつになく積極的に押してくるヴァレリラルドに、そこはひとまず否定だろう、と壁際で控えるテュコは心の中で毒づいた。
「ごちそうさまでした。ベルっち、ヴァルのお母さん、おやすみなさい」
食事が終わり、お茶を飲みながらの談話も終わると、梛央は星の離宮に戻るべくいとまの挨拶をした。
「ナオ様、陛下と同じく私のことも名前でお呼びください」
テレーシアに乞われて、
「んー、じゃあ、てんちゃんね。てんちゃんも僕のことをナオって呼んで?」
あまり考えずに呼び名を決めた梛央に、壁際で待機していたサリアンは「はぅっ」と胸を押さえた。心が本日二度目の不敬罪での死を迎えていた。
ベルンハルドとテレーシアは声をあげて笑い、
「妃によい呼び名をありがとう」
「可愛くて気に入りました。私、ナオが大好きになりました」
そう言って順に梛央を抱きしめて頬にキスをした。
「父上、母上、ナオを星の離宮に送っていってもよいですか? 星見の塔で一緒に星を見たらすぐに戻ります」
「ああ。ケイレブ、もう遅いからあまり長居させないように戻してくれ」
ベルンハルドもテレーシアも笑顔で息子を見送った。
晩餐の間ではすでに席についていたヴァレリラルドが立ち上がって梛央を出迎える。
「ナオ、すごく綺麗だよ」
紺色の服を着た梛央を頬を染めて見つめる。
「ありがとう。ヴァルも素敵だよ」
梛央が返すと、ヴァレリラルドは手をつないで梛央を席までエスコートする。
食卓にはベルンハルドと、栗色の髪を結い上げた品のある女性が座っていた。
「ベルっち、お招きありがとう」
「陛下、お招きいただきありがとうございます」
梛央とオルドジフが頭を下げる。
「応じていただき、ありがとうございます。星の離宮はお気に召しましたか?」
「うん。星見の塔で星を見るのが楽しみ。今夜にでも上ってみようと思うよ」
「ナオ、私も一緒に見たい」
自分の席に着いたヴァレリラルドが梛央の発言に手を挙げる。
「ヴァルはすっかりナオ様に夢中ね」
ベルンハルドの隣の女性が目を細める。
「ナオ、王妃のテレーシアだ。オルドジフは見かけたことがあるだろう」
「王妃テレーシアと申します。シアンハウスや旅のあいだ、ヴァレリラルドがお世話になりました」
そう言って梛央に頭を下げるテレーシア。
「初めまして。秋葉梛央です」
「フリードリーン侯爵家次男のオルドジフ・フリードリーンと申します。精霊神殿の神殿長補佐をしておりますが、縁あってナオ様の近くにおります」
頭を下げる梛央とオルドジフ。
「ナオ様のおかげでヴァレリラルドは楽しい時間を過ごせたようです。帰還してからずっとナオ様のお話ばかり聞かされていました。ナオ様、お礼を申し上げます」
「ううん、ヴァルは僕にずっと優しくしてくれました。1人でここに来た僕を慰めてくれて、いつも一緒にいてくれ、お礼を言うのは僕の方です」
いつになく殊勝な梛央に、
「ナオ、どうしたの? 緊張してる?」
ヴァレリラルドが声をかける。
「ヴァルのお母さん、綺麗だし」
「ありがとうございます」
梛央の言葉に微笑むテレーシア。
「優しそうだし」
「うん、母上は優しい人だよ」
「でもうちの母さんも綺麗だし、優しいんだ」
テレーシアから目をそらして言った。
「ナオは母上のことを思い出したんだね」
オルドジフに言われて、頷く梛央。
アイナとドリーン以外は周囲の人間はほとんど男性で、だから料理で琉歌を思い出しても誰かに面影を重ねることはなかったが、テレーシアの雰囲気がどこか琉歌に似ていて、梛央は胸が締め付けられる思いだった。
「でもドーさんがいるから平気」
健気に微笑んで見せる梛央の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
見かけはヴァレリラルドとあまり変わらない身長の梛央が、違う世界から一人でこの王国に来たこと。家族に別れを告げることもできずに心残りがあることをベルンハルドやヴァレリラルドから聞かされていたテレーシアは憐みの色を浮かべる。
「ナオ様の母君を思う気持ち、私ではわからないかもしれませんが、お察しします。私は、母君の気持ちを思うと、胸が張り裂けそうです。ヴァレリラルドに危険が迫っていた時、もしこの子がいなくなってしまったらと思うと気が気でなりませんでしたもの。母君を思ってお辛いナオ様よりきっと、ナオ様を思って悲しみに浸っているだろう母君のほうがお辛いはず。ナオ様が悲しまれていると母君様ももっと悲しまれますわ」
梛央は涙を滲ませてはいるが、テレーシアの言葉に涙を堪えて頷く。
「お偉いですわ、ナオ様。私、ナオ様のこの国での母になりたいと思ってしまいました。ナオ様、ヴァレリラルドのことはどう思っておられますか?」
「ヴァレリラルドは好きだよ。強いし、優しい」
テレーシアに訊かれて、梛央はすぐに答えた。
「ナオ様もヴァレリラルドを好いてくれてるんですのね。ナオ様がヴァレリラルドの伴侶になってくださると、私はナオ様の母になれますわ。ヴァレリラルドとの婚約や婚姻はあとになるとしても、今から私を母と呼んでいただいてもよろしいんですよ」
にっこりと笑うテレーシアに、梛央は涙が引っ込むくらいに驚いてヴァレリラルドを見る。
「僕とヴァルが結婚するの?」
「母上、ナオがびっくりしていますよ。ごめんね、ナオ。でも僕のことが嫌いじゃないなら、考えの一つにいれてくれると嬉しい」
いつになく積極的に押してくるヴァレリラルドに、そこはひとまず否定だろう、と壁際で控えるテュコは心の中で毒づいた。
「ごちそうさまでした。ベルっち、ヴァルのお母さん、おやすみなさい」
食事が終わり、お茶を飲みながらの談話も終わると、梛央は星の離宮に戻るべくいとまの挨拶をした。
「ナオ様、陛下と同じく私のことも名前でお呼びください」
テレーシアに乞われて、
「んー、じゃあ、てんちゃんね。てんちゃんも僕のことをナオって呼んで?」
あまり考えずに呼び名を決めた梛央に、壁際で待機していたサリアンは「はぅっ」と胸を押さえた。心が本日二度目の不敬罪での死を迎えていた。
ベルンハルドとテレーシアは声をあげて笑い、
「妃によい呼び名をありがとう」
「可愛くて気に入りました。私、ナオが大好きになりました」
そう言って順に梛央を抱きしめて頬にキスをした。
「父上、母上、ナオを星の離宮に送っていってもよいですか? 星見の塔で一緒に星を見たらすぐに戻ります」
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