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第2部
エルとルル
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エルランデル公爵家の執務室にある応接用の椅子に腰かけてお茶を飲んでいたオリヴェルは、ローセボームの言葉に眉があがる。
「エクルンド公国から狙われているんですか?」
そう言ってオリヴェルは、さきほど面会を終えて、今はパウラがアシェルナオの部屋に案内しているはずの者たちの顔を思い浮かべる。
「当人たちにとっても厄介で迷惑な事態でな。我が国としても他国の陰謀を許すわけにはいかないから排除に動いている。ゆくゆくは国として要職を与え、護衛をつけたいと思っているが、当面は厚い保護下に置きたい。そこでナオ様の家庭教師ということにしてエルランデル公爵家に匿ってもらいたいというのが陛下の意向だ」
「そうでしたか」
家庭教師を紹介するだけではないと思っていたオリヴェルだが、思ったより規模の大きい話だった。
「もちろんあの2人はナオ様の家庭教師にふさわしい才能の持ち主だ。それこそ他国に狙われるくらいに、な」
アシェルナオは精霊の愛し子だから、集まってくる者たちも必然的にそれなりの人物になるということなのだろう。
アシェルナオのためにも、自分もそれなりの器の大きな人間にならねば、と、オリヴェルは気を引き締める。
「国同士のことについては陛下と宰相殿にお任せします。確かにアシェルナオの住まいは来客等の目に触れないように独立させた場所にありますが、だからといって他国から狙われる者を匿うに十分な警護をしているかといえば、いささか不安ではありますね。もちろん2人の安全ではなくアシェルナオに危害が及ばないかの不安ですが」
うむ、とローセボームは、オリヴェルの言葉にお茶をのみながら頷く。
「2人を匿うことでナオ様に危害が及べば本末転倒。そこで、だが。今は精霊神殿の神殿騎士をしているフォルシウスと、最初に護衛を任ぜられていたサリアンをナオ様の護衛にしてはどうかと思ってな。2人なら名目上は教養や護身術の家庭教師として雇っても不自然ではないだろう」
「フォルシウスとサリアンでしたらアシェルナオも気心が知れています。ぜひお願いします」
有能な家庭教師と護衛がアシェルナオの周囲に加わることは、オリヴェルにとっても願ってもないことだった。
「まさかなぁ、漁村の村長が陛下とつながってるなんて誰も思わないよなぁ、エル」
銀色の髪のあちこちが跳ねているのはオーケルルンド・アレクサンデション。きちんとした服を着せられているはずなのにすでに着崩れていて、
「ルルの食い意地が張っているおかげだな。……ルル、王太子殿下の学友で側近でもある公爵家嫡男の弟君だ。家庭教師の最初の日くらいちゃんとしろ」
銀髪の髪を綺麗になでつけているオーケリエルム・アレクサンデションは、立ち止まると簡単にルルの髪をなでつけ、衣服を整えた。
2人は銀色とダークブラウンの瞳を持つ同じ顔をした双子で、しっかり者のエルが兄、自由奔放なルルが弟ということになっている。
「第一印象は大事だよな。ここ追い出されたら食べるものにも寝る場所にも困るし、変な奴らに付け回されるからなぁ」
おとなしくされるがままになっているルルに、
「そういうことだ。我儘な子供だろうが、安全を手に入れるためにはおとなしくしていてくれ」
同じく立ち止まり、2人の会話を聞いていたパウラは、にっこりと微笑む。
「我が家の可愛いアシェルナオを、どなたか我儘な子供と申していましたかしら? とても興味がありますわ」
公爵夫人に次男の住居棟に案内してもらっていることを失念していたエルの顔が青ざめる。
「エルはしっかりしているようで抜けているところがあるよなぁ。俺のほうが兄なんじゃないかなぁ」
のんびりと言うルル。
「申し訳ありません。子供はわがままだという固定観念で、つい」
パウラに体を向けて、直角に腰を曲げて平謝りするエル。
「あなたの口から出ただけなら問題なくてよ。アシェルナオを見たらすぐにわかることですもの」
笑顔を崩さずにパウラは言ったが、追従しているメイドたちは公爵家の秘宝を口悪く言ったエルをパウラの後ろから睨みつけていた。
本館の廊下の突き当りを右に曲がったところに扉があり、公爵家を警護する領兵が2人立っていた。
2人はパウラを見ると頭を下げて扉を開ける。
「ここがアシェルナオの部屋です」
パウラが部屋の中を案内する。
部屋といっても入ってすぐのところがホールになっており、その奥のダイニングへと続いていて、独立した家のような印象だった。広い空間だが、子供の住む場所にふさわしくかわいらしさのある居住空間だった。
大きな窓からは公爵家自慢の庭とは隔離された庭の、美しい景観がのぞいている。
「部屋? それにしては広くて、警備も厳重ですね」
エルの問いかけに、
「ダイニングの奥にゲスト用の部屋があります。そこを使っていただきます。アシェルナオの寝室は2階です。アイナ、アシェルナオは?」
パウラは出迎えていたアイナに尋ねる。
「ご気分がすぐれないらしく、お休みになられています」
「そう。今朝も食事に来なかったものね……。様子を見てきます。この者たちはアシェルナオの家庭教師です。部屋にご案内して」
「はい。こちらです」
アイナはエルとルルを奥にあるゲストルームに案内し、それを見ながらパウラは階段をあがってアシェルナオの寝室に向かった。
「エクルンド公国から狙われているんですか?」
そう言ってオリヴェルは、さきほど面会を終えて、今はパウラがアシェルナオの部屋に案内しているはずの者たちの顔を思い浮かべる。
「当人たちにとっても厄介で迷惑な事態でな。我が国としても他国の陰謀を許すわけにはいかないから排除に動いている。ゆくゆくは国として要職を与え、護衛をつけたいと思っているが、当面は厚い保護下に置きたい。そこでナオ様の家庭教師ということにしてエルランデル公爵家に匿ってもらいたいというのが陛下の意向だ」
「そうでしたか」
家庭教師を紹介するだけではないと思っていたオリヴェルだが、思ったより規模の大きい話だった。
「もちろんあの2人はナオ様の家庭教師にふさわしい才能の持ち主だ。それこそ他国に狙われるくらいに、な」
アシェルナオは精霊の愛し子だから、集まってくる者たちも必然的にそれなりの人物になるということなのだろう。
アシェルナオのためにも、自分もそれなりの器の大きな人間にならねば、と、オリヴェルは気を引き締める。
「国同士のことについては陛下と宰相殿にお任せします。確かにアシェルナオの住まいは来客等の目に触れないように独立させた場所にありますが、だからといって他国から狙われる者を匿うに十分な警護をしているかといえば、いささか不安ではありますね。もちろん2人の安全ではなくアシェルナオに危害が及ばないかの不安ですが」
うむ、とローセボームは、オリヴェルの言葉にお茶をのみながら頷く。
「2人を匿うことでナオ様に危害が及べば本末転倒。そこで、だが。今は精霊神殿の神殿騎士をしているフォルシウスと、最初に護衛を任ぜられていたサリアンをナオ様の護衛にしてはどうかと思ってな。2人なら名目上は教養や護身術の家庭教師として雇っても不自然ではないだろう」
「フォルシウスとサリアンでしたらアシェルナオも気心が知れています。ぜひお願いします」
有能な家庭教師と護衛がアシェルナオの周囲に加わることは、オリヴェルにとっても願ってもないことだった。
「まさかなぁ、漁村の村長が陛下とつながってるなんて誰も思わないよなぁ、エル」
銀色の髪のあちこちが跳ねているのはオーケルルンド・アレクサンデション。きちんとした服を着せられているはずなのにすでに着崩れていて、
「ルルの食い意地が張っているおかげだな。……ルル、王太子殿下の学友で側近でもある公爵家嫡男の弟君だ。家庭教師の最初の日くらいちゃんとしろ」
銀髪の髪を綺麗になでつけているオーケリエルム・アレクサンデションは、立ち止まると簡単にルルの髪をなでつけ、衣服を整えた。
2人は銀色とダークブラウンの瞳を持つ同じ顔をした双子で、しっかり者のエルが兄、自由奔放なルルが弟ということになっている。
「第一印象は大事だよな。ここ追い出されたら食べるものにも寝る場所にも困るし、変な奴らに付け回されるからなぁ」
おとなしくされるがままになっているルルに、
「そういうことだ。我儘な子供だろうが、安全を手に入れるためにはおとなしくしていてくれ」
同じく立ち止まり、2人の会話を聞いていたパウラは、にっこりと微笑む。
「我が家の可愛いアシェルナオを、どなたか我儘な子供と申していましたかしら? とても興味がありますわ」
公爵夫人に次男の住居棟に案内してもらっていることを失念していたエルの顔が青ざめる。
「エルはしっかりしているようで抜けているところがあるよなぁ。俺のほうが兄なんじゃないかなぁ」
のんびりと言うルル。
「申し訳ありません。子供はわがままだという固定観念で、つい」
パウラに体を向けて、直角に腰を曲げて平謝りするエル。
「あなたの口から出ただけなら問題なくてよ。アシェルナオを見たらすぐにわかることですもの」
笑顔を崩さずにパウラは言ったが、追従しているメイドたちは公爵家の秘宝を口悪く言ったエルをパウラの後ろから睨みつけていた。
本館の廊下の突き当りを右に曲がったところに扉があり、公爵家を警護する領兵が2人立っていた。
2人はパウラを見ると頭を下げて扉を開ける。
「ここがアシェルナオの部屋です」
パウラが部屋の中を案内する。
部屋といっても入ってすぐのところがホールになっており、その奥のダイニングへと続いていて、独立した家のような印象だった。広い空間だが、子供の住む場所にふさわしくかわいらしさのある居住空間だった。
大きな窓からは公爵家自慢の庭とは隔離された庭の、美しい景観がのぞいている。
「部屋? それにしては広くて、警備も厳重ですね」
エルの問いかけに、
「ダイニングの奥にゲスト用の部屋があります。そこを使っていただきます。アシェルナオの寝室は2階です。アイナ、アシェルナオは?」
パウラは出迎えていたアイナに尋ねる。
「ご気分がすぐれないらしく、お休みになられています」
「そう。今朝も食事に来なかったものね……。様子を見てきます。この者たちはアシェルナオの家庭教師です。部屋にご案内して」
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