そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
172 / 492
第2部

リングダール型ポシェットォ(あのイントネーションで)

しおりを挟む
 
 その夜。

 「ナオ様、シーグフリード様がおいでになりましたよ」

 寝台で本を読んでいたアシェルナオにアイナが声をかける。

 本から顔をあげると、すでにシーグフリードが寝台のそばまで来ていた。

 「おかえりなさい、兄さま」

 アシェルナオは本を閉じると、リングダールを自分の前に持ってきて、その陰に隠れてシーグフリードに挨拶する。

 「うちの天使はいつの間に毛むくじゃらになったんだい?」

 「リンちゃんの体は毛だらけですが、僕の体に毛は生えていません」

 リングダールの前足を握って左右に振るアシェルナオ。

 「じゃあなぜ兄さまに顔を見せてくれないんだい?」

 「……今朝泣いたのが恥ずかしいからです」

 リングダールの両方の前足を握って毛むくじゃらの顔の目の付近にあてるアシェルナオに、シーグフリードは破顔する。

 「たまに泣きたくなることなんて、誰にでもあることだよ。まだ10歳で、悲しい夢を見たのならなおさらだ。せっかくアシェルナオと一緒に夕食が食べられると思った兄さまは、リングダールと一緒に食事をしないといけないのかな?」

 「夕食ですか? ここでご一緒ですか?」

 リングダールの前足をバンザイにするアシェルナオ。

 「下のダイニングに準備させているけど、一緒に食べてくれるかい? リングダールの後ろの天使さん?」

 「ご一緒、したいです」

 返事をするのと同時にリングダールを自分の後ろに追いやる。

 その様子を微笑ましく思いながら、シーグフリードはアシェルナオを抱き上げた。




 メニューは消化によいものばかりだが食欲がないわけではないようで、一生懸命に食べているアシェルナオに、シーグフリードは安心する。

 「兄さま、手が止まっています。しっかり食べてしっかり休んで、お仕事がんばってください」

 逆にアシェルナオに指摘されて、シーグフリードは苦笑した。

 「大丈夫そうで安心したよ」

 「はい。1つ後戻りをしたけど、また1つ元気になって、ムキムキマッチョ計画を再開しています」

 そう言って、お気に入りのパン粥を口にする。

 「ムキムキマッチョはどうかと思うけど、しっかり食べることはいいことだよ。今度お友達を呼んでお茶会をするのだろう? 兄さまが服をプレゼントしよう。アルテアンに発注しておくからね」

 「服なら母さまが用意してくれていると思います」

 「確かに母さまならとっくに手配しているだろうな。でも兄さまもアシェルナオに可愛い服を着せたい。着てくれるかい?」

 「はい。ありがとう、兄さま。僕、お友達と初めて会います。1人はサリーとケイレブの子供らしいです。楽しみです」

 友達と会えることが今から楽しみなアシェルナオはわくわくしながら言った。

 「いい子たちだといいね。兄さまもラルの学友として、学園に行く前からルドやウルと出会っていたよ。入学してからは学園でもずっと一緒に行動していたんだ。みんな気の置けないいい奴だから楽しい学園生活だった。そういえば、アシェルナオ?」

 「はい?」

 シーグフリードに問われて、首を傾げるアシェルナオ。

 「知ってるかい? 今月はラルの誕生月なんだ。私たちの中では誕生日が一番早いから、最初に19歳になるんだ」

 ヴァルが19歳……

 8歳差でも大きいのに、9歳差になる。追い越せないどころか差が開くと知って、アシェルナオはパン粥を掬っていたスプーンをおろした。

 「兄さま、お願いがあります」





 翌朝、アイナとドリーンから着替えを手伝ってもらっていたアシェルナオのもとに、テュコが箱を持ってきた。
 
 「ナオ様、陛下よりお品が届いています」

 「ベルっちから? なんだろ? 僕のお誕生日ではないよね?」

 首を傾げながらもテュコから箱を受け取り、リボンをほどく。

 中に入っていたのは大人の手のひらほどの大きさのリングダールに金色の長いチェーンがついたものだった。

 「ポシェットだ」

 着替え終わった服の上から斜めにポシェットをかけてみる。

 左側の腰の下あたりにリングダールがきて、

 「どう?」

 アシェルナオはテュコたちにそれを見せる。

 「お可愛らしいです」

 「お似合いです」

 アイナとドリーンは満面の笑顔で頷いた。

 「陛下はナオ様のお好きなものがわかっていますね」

 テュコも、似合っていますよ、と太鼓判を押す。

 アシェルナオが倒れたと聞いたベルンハルドが、急遽携行できるものを作らせたのだった。

 「ベルっちも可愛いものが大好きなんだね。サミュエルと仲良しだからね。じゃあ、エルるんとケルるんにも見せてくるね」

 アシェルナオはご機嫌な様子で階下に降りて行き、朝だというのに珍しくダイニングに姿を見せていたエルとルルのところの駆けていく。

 「エルるん、ケルるん、みてみて・・・テッテテー」

 効果音とともにリングダールポシェットを見せて、

 「リングダール型ポシェットォ」

 独特のイントネーションで披露するアシェルナオ。

 「ナオ様、す」

 すみませんでした、と言おうとしたルルだったが、なかったことになっていることを思い出した。

 「す?」

 「すごく可愛い!」

 咄嗟にごまかすルル。

 「でしょ! エルるんも褒めていいよ?」

 「ええ。可愛いですよ」

 苦笑しながらエルも言葉を向ける。

 リングダール型ポシェットが、というより、リングダールポシェットに喜んではしゃいでいるアシェルナオが可愛かった。
 
 

しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

使用人と家族たちが過大評価しすぎて神認定されていた。

ふわりんしず。
BL
ちょっと勘とタイミングがいい主人公と 主人公を崇拝する使用人(人外)達の物語り 狂いに狂ったダンスを踊ろう。 ▲▲▲ なんでも許せる方向けの物語り 人外(悪魔)たちが登場予定。モブ殺害あり、人間を悪魔に変える表現あり。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...