そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第2部

リングダール型ポシェットォ(あのイントネーションで)

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 その夜。

 「ナオ様、シーグフリード様がおいでになりましたよ」

 寝台で本を読んでいたアシェルナオにアイナが声をかける。

 本から顔をあげると、すでにシーグフリードが寝台のそばまで来ていた。

 「おかえりなさい、兄さま」

 アシェルナオは本を閉じると、リングダールを自分の前に持ってきて、その陰に隠れてシーグフリードに挨拶する。

 「うちの天使はいつの間に毛むくじゃらになったんだい?」

 「リンちゃんの体は毛だらけですが、僕の体に毛は生えていません」

 リングダールの前足を握って左右に振るアシェルナオ。

 「じゃあなぜ兄さまに顔を見せてくれないんだい?」

 「……今朝泣いたのが恥ずかしいからです」

 リングダールの両方の前足を握って毛むくじゃらの顔の目の付近にあてるアシェルナオに、シーグフリードは破顔する。

 「たまに泣きたくなることなんて、誰にでもあることだよ。まだ10歳で、悲しい夢を見たのならなおさらだ。せっかくアシェルナオと一緒に夕食が食べられると思った兄さまは、リングダールと一緒に食事をしないといけないのかな?」

 「夕食ですか? ここでご一緒ですか?」

 リングダールの前足をバンザイにするアシェルナオ。

 「下のダイニングに準備させているけど、一緒に食べてくれるかい? リングダールの後ろの天使さん?」

 「ご一緒、したいです」

 返事をするのと同時にリングダールを自分の後ろに追いやる。

 その様子を微笑ましく思いながら、シーグフリードはアシェルナオを抱き上げた。




 メニューは消化によいものばかりだが食欲がないわけではないようで、一生懸命に食べているアシェルナオに、シーグフリードは安心する。

 「兄さま、手が止まっています。しっかり食べてしっかり休んで、お仕事がんばってください」

 逆にアシェルナオに指摘されて、シーグフリードは苦笑した。

 「大丈夫そうで安心したよ」

 「はい。1つ後戻りをしたけど、また1つ元気になって、ムキムキマッチョ計画を再開しています」

 そう言って、お気に入りのパン粥を口にする。

 「ムキムキマッチョはどうかと思うけど、しっかり食べることはいいことだよ。今度お友達を呼んでお茶会をするのだろう? 兄さまが服をプレゼントしよう。アルテアンに発注しておくからね」

 「服なら母さまが用意してくれていると思います」

 「確かに母さまならとっくに手配しているだろうな。でも兄さまもアシェルナオに可愛い服を着せたい。着てくれるかい?」

 「はい。ありがとう、兄さま。僕、お友達と初めて会います。1人はサリーとケイレブの子供らしいです。楽しみです」

 友達と会えることが今から楽しみなアシェルナオはわくわくしながら言った。

 「いい子たちだといいね。兄さまもラルの学友として、学園に行く前からルドやウルと出会っていたよ。入学してからは学園でもずっと一緒に行動していたんだ。みんな気の置けないいい奴だから楽しい学園生活だった。そういえば、アシェルナオ?」

 「はい?」

 シーグフリードに問われて、首を傾げるアシェルナオ。

 「知ってるかい? 今月はラルの誕生月なんだ。私たちの中では誕生日が一番早いから、最初に19歳になるんだ」

 ヴァルが19歳……

 8歳差でも大きいのに、9歳差になる。追い越せないどころか差が開くと知って、アシェルナオはパン粥を掬っていたスプーンをおろした。

 「兄さま、お願いがあります」





 翌朝、アイナとドリーンから着替えを手伝ってもらっていたアシェルナオのもとに、テュコが箱を持ってきた。
 
 「ナオ様、陛下よりお品が届いています」

 「ベルっちから? なんだろ? 僕のお誕生日ではないよね?」

 首を傾げながらもテュコから箱を受け取り、リボンをほどく。

 中に入っていたのは大人の手のひらほどの大きさのリングダールに金色の長いチェーンがついたものだった。

 「ポシェットだ」

 着替え終わった服の上から斜めにポシェットをかけてみる。

 左側の腰の下あたりにリングダールがきて、

 「どう?」

 アシェルナオはテュコたちにそれを見せる。

 「お可愛らしいです」

 「お似合いです」

 アイナとドリーンは満面の笑顔で頷いた。

 「陛下はナオ様のお好きなものがわかっていますね」

 テュコも、似合っていますよ、と太鼓判を押す。

 アシェルナオが倒れたと聞いたベルンハルドが、急遽携行できるものを作らせたのだった。

 「ベルっちも可愛いものが大好きなんだね。サミュエルと仲良しだからね。じゃあ、エルるんとケルるんにも見せてくるね」

 アシェルナオはご機嫌な様子で階下に降りて行き、朝だというのに珍しくダイニングに姿を見せていたエルとルルのところの駆けていく。

 「エルるん、ケルるん、みてみて・・・テッテテー」

 効果音とともにリングダールポシェットを見せて、

 「リングダール型ポシェットォ」

 独特のイントネーションで披露するアシェルナオ。

 「ナオ様、す」

 すみませんでした、と言おうとしたルルだったが、なかったことになっていることを思い出した。

 「す?」

 「すごく可愛い!」

 咄嗟にごまかすルル。

 「でしょ! エルるんも褒めていいよ?」

 「ええ。可愛いですよ」

 苦笑しながらエルも言葉を向ける。

 リングダール型ポシェットが、というより、リングダールポシェットに喜んではしゃいでいるアシェルナオが可愛かった。
 
 

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