そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第2部

花の妖精

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 上光月、3の光。

 今日はシーグフリードから聞いたヴァレリラルドの誕生日だった。

 シーグフリードにお願いして、自分で摘んだ花をヴァレリラルドに渡してもらうことにしていたアシェルナオは、朝起きてすぐに庭に出ていた。

 よく晴れた朝の空気は驚くほど冷たくて、アシェルナオはお気に入りの雪ウサギのマントをフードまでかぶる。

 「本物の雪ウサギさんのようですよ」

 アイナに言われてアシェルナオは機嫌良く花切り鋏を受け取る。

 なるべく優しい色合いの花を。ヴァレリラルドからもらった花束がそうだったように、優しい気持ちになれるような花をたくさん。

 ヴァレリラルドがどんな気持ちで花を摘んだのかを考えながら花を切るアシェルナオは、ちょっと嬉しくて、けれど会って渡せるわけではないから少し寂しい心持ちだった。

 『ねぇねぇ』

 呼ばれて、アシェルナオはあたりを見回す。

 いつもの五色の精霊たちも一緒にあたりを見回す。

 『ここここ』

 見ると、アシェルナオの手の中の一本の花に背中に透明な羽のある小さな女の子がいた。

 「にわとり?」

 アシェルナオはふわりと首を傾げる。

 『誰がにわとりよ! あんなうるさい鳥と一緒にしないでほしいわ。私は花の妖精よ』

 ツーンという言葉がぴったりなほど、自称花の妖精は腰を手に当てて顎をあげてポーズを取る。

 『妖精だー』

 『花だねー』

 『花だよねー』

 『ちいさい妖精だねー』

 『元気だねー』

 精霊たちが自分を取り囲むと、花の妖精は顔色を変えて座り込む。

 『ばうわうわうわう』

 震えながら上ずった声をあげる花の精霊に、アシェルナオは首をかしげる。

 「外国の犬?」

 『誰が外国の犬よ! って、元素の精霊様がたが……しがない花の妖精です。ご無礼を失礼します』

 花の妖精は精霊たちに囲まれて緊張をしているようだった。

 「精霊と妖精は違うの?」

 アシェルナオの問いに、

 「精霊は万物の根源となる精気やエネルギー、いわゆる『気』そのものです。木や花などの植物や、石や水などの無機質にも宿ります。エネルギーそのものでもあるために、オルドジフ殿やフォルシウスなどは別として、一般的には見ることも触れることもできないものです。妖精とは自然に宿る精気が実体化したものと言われています」

 側で見守っているテュコが答える。

 『花の精霊さまの一部のようなものですが、一番大きな違いは……』

 「ほら!」

 花の妖精が叫ぶと、

 「あ?」

 「まあ」

 「きゃぁぁっ」

 突然現れた花の妖精に、テュコ、アイナ、ドリーンは目を丸くする。

 精霊の愛し子という、しっかり存在はしているがどこか非現実的なアシェルナオのそばで過ごしているが、真の非現実存在を目にするのは初めてだった。

 「ん? 他の人にも妖精さんが見える?」

 アシェルナオも驚いた顔でテュコたちを見回す。

 コクコクと頷くテュコ、アイナ、ドリーン。

 「精霊さまは世界のあらゆるものに宿る精気だから、元素の精霊さま以外は固定化された姿はないの。でも妖精は精気が実体化したものなの。だから人間の目にも見えるのようにすることもできるの。でもあんまり姿を見せてはいけないっていう決まりがあるから、はいっ」

 花の妖精がそう言った途端、アシェルナオの目には見えるがテュコたちには見えなくなった。

 「そういう違いがあるんだね。それで花の妖精さん、僕に何か用だったの?」

 『この前、歌を歌っていたでしょう? お部屋の中から聞こえてきたの』

 「うん」

 『お歌上手ねぇ。もう一度聴きたいの。歌ってくれる?』

 「うん、いいよ」

 『やったー』

 花の精霊はくるくると回って喜びを表現する。

 「……ナオ様。花の妖精はなんと?」

 「僕の歌を聴きたいって。では歌います」

 精霊たちとも話ができるアシェルナオにとって、妖精と話をして仲良くなることなど当たり前のことなのだろう。

 テュコはアシェルナオに関することはすべて受け入れるべく、アイナ、ドリーンとともに穏やかに微笑みながら頷く。


 
  目覚めた朝の贈り物

  あなたが慣れない手つきで摘んだ

  私を思って選んだ花たち

  色とりどりの思いに包まれて

  あれが私の恋のはじまり



  日差しを浴びて仰ぐ空

  あなたの優しいまなざしに

  静かにほころぶ蕾

  花の美しさに心がふれて

  あれが私の幸せだった



  あの時にこの気持ちを知っていれば

  もっと伝えることがあったのに

  あの時の花を集めれば

  あなたに私の気持ちは伝わりますか?

  花よ私の心を
 
  あの人に今届けてほしい



 歌い終わったアシェルナオの周りを花の妖精が飛び回る。

 『ありがとう。この前のはとても悲しく聞こえたけど、今日のは明るい気持ちも感じたわ』

 「今日はヴァルの誕生日だから、会えないんだけど、花束を持って行ってもらうんだ」

 『ヴァルのことが好きなのね。気持ちが届くといいわね』

 「うん」

 『じゃあ、お歌のお礼にこれをあげる』

 花の精霊はアシェルナオの持っていた花の花弁を一枚取り外して、差し出す。

 「花弁?」

 『これを持ってると、ヴァルに気持ちが伝わるよ』

 「でも、僕のことは内緒なんだ」

 『じゃあ、向こうのことを伝えてあげる。それならいい?』

 「うん」

 『じゃあ、花束にこの花をいれてね。あとはうまいことやっておくわ』

 そう言うと、花の妖精は花の中に溶けるように消えていった。

 アシェルナオは手に残された花と花弁をじっと見つめた。
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