192 / 497
第2部
お前は私の命綱
しおりを挟む
ヴァレリラルドは執務室の椅子に座っていたが、その表情は苛立っていた。
エンロート騎士団を束ねるマフダルから統括騎士団への応援要請があり、ケイレブたちは昨夜のうちに各騎士団から招集された一個師団を率いてエンロートに出陣していた。
本来ならケイレブの補佐として隊を率いて討伐に加わっていたはずなのに。
「せめて現地で指揮をとることはかなわないのか」
ヴァレリラルドの横でウルリクが言う。
「……ウル」
心の声を勝手に読み上げられて、ヴァレリラルドは不機嫌を隠さない声をあげる。
「だって、いかにもそう心の中で叫んでいます、って顔してるんだもん。ラルの心の声を俺が言葉にしたんだよ」
へへっ、と笑うウルリク。
さらに苛立ちを覚えるヴァレリラルドに、
「ウルなりに気を遣ってるんだ。俺も、今は考えている暇はないと思う」
ベルトルドが庇う。
「ウルとルドの言葉足らずを補うならば、ケイレブがラルを呼び寄せた場合、現地の事態はひっ迫した最悪な状況になっているということだ。覚悟が決まっているなら、すぐに頭と体が動くように今は休んでおけ。俺たちも覚悟は決まっている。ウルとルドはそう言いたいんだろう。私もそれまでに物資を転移させる手はずを整えて、各騎士団から騎士を30名集めておく」
シーグフリードが今後の動向を予想し、するべきことを淡々と告げると、ヴァレリラルドも冷静さを取り戻す。
「そうだな。呼ばれた時は最悪の状況だろう。そのときに全力を出せるように私も準備しておく。ウルとルドも準備ができ次第休んでおくんだぞ」
「準備は万端。休んでるから何かあったら声をかけてくれ」
ウルはそう言うと割り当てられている部屋に向かった。
「おい、ウル。本当に準備はできてるんだろうな」
その後を追うベルトルド。
「シーグフリードは行かないのだろう?」
ヴァレリラルドはそれを横目で見ながらシーグフリードに言った。
「ああ。必要に応じて転移陣でエンロートの古城と行き来をするつもりだが、基本はここで後方支援に徹するつもりだ」
「シーグフリードは私の命綱だと思っている。頼む。イクセルは残しておく」
ヴァレリラルドの言葉に、イクセルは右胸に拳を当てる。
「その時になれば安心して行ってこい。私はまだ主人と仕事を失くすには早すぎる」
不敵に笑うシーグフリードが、何よりヴァレリラルドには心強かった。
「失礼します」
ヴァレリラルドも退室した執務室にマロシュが行儀よく入室してきた。
「マロシュ、第二騎士団のブレンドレルはどうだ?」
シーグフリードとイクセルが視線でマロシュを椅子に促し、自分たちもそこに座る。
「とても感じのいい方です。頭の回転が速くて感心しました」
「感じのいい者を選んだつもりだったが、ベタ褒めだな」
感じのいい者を選んだつもりのイクセルだったが、それ以上の好感を持ってもらったことに笑顔を見せる。
「それで、収穫はあったのか?」
「エーマン子爵の子供がいなくなった時、子爵家の近くに精霊神殿の荷馬車が止まっていました。孤児院に食料を配布する荷馬車だったそうです」
「精霊神殿の……。エーマン子爵家だけか? ノシュテット伯爵家の周辺での目撃情報は?」
「昨日、夕方まで探したんですが、目撃情報はありませんでした。伯爵家の周囲には大きなお屋敷ばかりで、日中でも人通りが少なくて」
「そうか。わかった。精霊神殿は私の方で調べておく。マロシュは引き続きエーマン子爵家の子息の足取りと両家の聞き込みを頼む」
「はい。今日はブレンドレルさんとノシュテット伯爵の子供が保護されたところまで行ってきます。もしかしてエーマン子爵の子供の手がかりもみつかるかもしれません」
「いい考えだな。気を付けて行ってくるんだぞ」
「はいっ」
マロシュは楽しくて仕方がないと言った顔で返事をすると、立ち上がって一礼してすぐに執務室を出て行った。
「せわしないこと」
イロナとカロナが笑いながら顔を見合わせる。
「イヴァン、イクセルと出かけてくる。なるべく早く戻るが、何かあったら連絡してくれ」
シーグフリードは文官のイヴァンに声をかけるとイクセルとともに中央精霊神殿に向かった。
エンロート騎士団を束ねるマフダルから統括騎士団への応援要請があり、ケイレブたちは昨夜のうちに各騎士団から招集された一個師団を率いてエンロートに出陣していた。
本来ならケイレブの補佐として隊を率いて討伐に加わっていたはずなのに。
「せめて現地で指揮をとることはかなわないのか」
ヴァレリラルドの横でウルリクが言う。
「……ウル」
心の声を勝手に読み上げられて、ヴァレリラルドは不機嫌を隠さない声をあげる。
「だって、いかにもそう心の中で叫んでいます、って顔してるんだもん。ラルの心の声を俺が言葉にしたんだよ」
へへっ、と笑うウルリク。
さらに苛立ちを覚えるヴァレリラルドに、
「ウルなりに気を遣ってるんだ。俺も、今は考えている暇はないと思う」
ベルトルドが庇う。
「ウルとルドの言葉足らずを補うならば、ケイレブがラルを呼び寄せた場合、現地の事態はひっ迫した最悪な状況になっているということだ。覚悟が決まっているなら、すぐに頭と体が動くように今は休んでおけ。俺たちも覚悟は決まっている。ウルとルドはそう言いたいんだろう。私もそれまでに物資を転移させる手はずを整えて、各騎士団から騎士を30名集めておく」
シーグフリードが今後の動向を予想し、するべきことを淡々と告げると、ヴァレリラルドも冷静さを取り戻す。
「そうだな。呼ばれた時は最悪の状況だろう。そのときに全力を出せるように私も準備しておく。ウルとルドも準備ができ次第休んでおくんだぞ」
「準備は万端。休んでるから何かあったら声をかけてくれ」
ウルはそう言うと割り当てられている部屋に向かった。
「おい、ウル。本当に準備はできてるんだろうな」
その後を追うベルトルド。
「シーグフリードは行かないのだろう?」
ヴァレリラルドはそれを横目で見ながらシーグフリードに言った。
「ああ。必要に応じて転移陣でエンロートの古城と行き来をするつもりだが、基本はここで後方支援に徹するつもりだ」
「シーグフリードは私の命綱だと思っている。頼む。イクセルは残しておく」
ヴァレリラルドの言葉に、イクセルは右胸に拳を当てる。
「その時になれば安心して行ってこい。私はまだ主人と仕事を失くすには早すぎる」
不敵に笑うシーグフリードが、何よりヴァレリラルドには心強かった。
「失礼します」
ヴァレリラルドも退室した執務室にマロシュが行儀よく入室してきた。
「マロシュ、第二騎士団のブレンドレルはどうだ?」
シーグフリードとイクセルが視線でマロシュを椅子に促し、自分たちもそこに座る。
「とても感じのいい方です。頭の回転が速くて感心しました」
「感じのいい者を選んだつもりだったが、ベタ褒めだな」
感じのいい者を選んだつもりのイクセルだったが、それ以上の好感を持ってもらったことに笑顔を見せる。
「それで、収穫はあったのか?」
「エーマン子爵の子供がいなくなった時、子爵家の近くに精霊神殿の荷馬車が止まっていました。孤児院に食料を配布する荷馬車だったそうです」
「精霊神殿の……。エーマン子爵家だけか? ノシュテット伯爵家の周辺での目撃情報は?」
「昨日、夕方まで探したんですが、目撃情報はありませんでした。伯爵家の周囲には大きなお屋敷ばかりで、日中でも人通りが少なくて」
「そうか。わかった。精霊神殿は私の方で調べておく。マロシュは引き続きエーマン子爵家の子息の足取りと両家の聞き込みを頼む」
「はい。今日はブレンドレルさんとノシュテット伯爵の子供が保護されたところまで行ってきます。もしかしてエーマン子爵の子供の手がかりもみつかるかもしれません」
「いい考えだな。気を付けて行ってくるんだぞ」
「はいっ」
マロシュは楽しくて仕方がないと言った顔で返事をすると、立ち上がって一礼してすぐに執務室を出て行った。
「せわしないこと」
イロナとカロナが笑いながら顔を見合わせる。
「イヴァン、イクセルと出かけてくる。なるべく早く戻るが、何かあったら連絡してくれ」
シーグフリードは文官のイヴァンに声をかけるとイクセルとともに中央精霊神殿に向かった。
80
あなたにおすすめの小説
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる