そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第2部

お前は私の命綱

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 ヴァレリラルドは執務室の椅子に座っていたが、その表情は苛立っていた。

 エンロート騎士団を束ねるマフダルから統括騎士団への応援要請があり、ケイレブたちは昨夜のうちに各騎士団から招集された一個師団を率いてエンロートに出陣していた。

 本来ならケイレブの補佐として隊を率いて討伐に加わっていたはずなのに。

 「せめて現地で指揮をとることはかなわないのか」

 ヴァレリラルドの横でウルリクが言う。

 「……ウル」

 心の声を勝手に読み上げられて、ヴァレリラルドは不機嫌を隠さない声をあげる。

 「だって、いかにもそう心の中で叫んでいます、って顔してるんだもん。ラルの心の声を俺が言葉にしたんだよ」

 へへっ、と笑うウルリク。

 さらに苛立ちを覚えるヴァレリラルドに、

 「ウルなりに気を遣ってるんだ。俺も、今は考えている暇はないと思う」

 ベルトルドが庇う。

 「ウルとルドの言葉足らずを補うならば、ケイレブがラルを呼び寄せた場合、現地の事態はひっ迫した最悪な状況になっているということだ。覚悟が決まっているなら、すぐに頭と体が動くように今は休んでおけ。俺たちも覚悟は決まっている。ウルとルドはそう言いたいんだろう。私もそれまでに物資を転移させる手はずを整えて、各騎士団から騎士を30名集めておく」

 シーグフリードが今後の動向を予想し、するべきことを淡々と告げると、ヴァレリラルドも冷静さを取り戻す。

 「そうだな。呼ばれた時は最悪の状況だろう。そのときに全力を出せるように私も準備しておく。ウルとルドも準備ができ次第休んでおくんだぞ」

 「準備は万端。休んでるから何かあったら声をかけてくれ」

 ウルはそう言うと割り当てられている部屋に向かった。
 
 「おい、ウル。本当に準備はできてるんだろうな」

 その後を追うベルトルド。

 「シーグフリードは行かないのだろう?」

 ヴァレリラルドはそれを横目で見ながらシーグフリードに言った。

 「ああ。必要に応じて転移陣でエンロートの古城と行き来をするつもりだが、基本はここで後方支援に徹するつもりだ」

 「シーグフリードは私の命綱だと思っている。頼む。イクセルは残しておく」

 ヴァレリラルドの言葉に、イクセルは右胸に拳を当てる。

 「その時になれば安心して行ってこい。私はまだ主人と仕事を失くすには早すぎる」

 不敵に笑うシーグフリードが、何よりヴァレリラルドには心強かった。



 
 「失礼します」

 ヴァレリラルドも退室した執務室にマロシュが行儀よく入室してきた。

 「マロシュ、第二騎士団のブレンドレルはどうだ?」

 シーグフリードとイクセルが視線でマロシュを椅子に促し、自分たちもそこに座る。

 「とても感じのいい方です。頭の回転が速くて感心しました」

 「感じのいい者を選んだつもりだったが、ベタ褒めだな」

 感じのいい者を選んだつもりのイクセルだったが、それ以上の好感を持ってもらったことに笑顔を見せる。

 「それで、収穫はあったのか?」

 「エーマン子爵の子供がいなくなった時、子爵家の近くに精霊神殿の荷馬車が止まっていました。孤児院に食料を配布する荷馬車だったそうです」

 「精霊神殿の……。エーマン子爵家だけか? ノシュテット伯爵家の周辺での目撃情報は?」

 「昨日、夕方まで探したんですが、目撃情報はありませんでした。伯爵家の周囲には大きなお屋敷ばかりで、日中でも人通りが少なくて」

 「そうか。わかった。精霊神殿は私の方で調べておく。マロシュは引き続きエーマン子爵家の子息の足取りと両家の聞き込みを頼む」

 「はい。今日はブレンドレルさんとノシュテット伯爵の子供が保護されたところまで行ってきます。もしかしてエーマン子爵の子供の手がかりもみつかるかもしれません」

 「いい考えだな。気を付けて行ってくるんだぞ」

 「はいっ」

 マロシュは楽しくて仕方がないと言った顔で返事をすると、立ち上がって一礼してすぐに執務室を出て行った。

 「せわしないこと」

 イロナとカロナが笑いながら顔を見合わせる。

 「イヴァン、イクセルと出かけてくる。なるべく早く戻るが、何かあったら連絡してくれ」

 シーグフリードは文官のイヴァンに声をかけるとイクセルとともに中央精霊神殿に向かった。
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