そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

文字の大きさ
223 / 497
第3部

あなたのおめめはなぜあおい?

しおりを挟む
 「雪うさぎの歌ですか? えーと、うーん。いいよ?」

 パウラのリクエストに、アシェルナオは貴族の嗜みとして、ちょっと考えてから了承した。

 「じゃあ……」

 アシェルナオはあたりを見回すと大窓の前に行き、ガラス戸を開け、庭に続くテラスに出た。

 「寒くないですか? 母様」

 「ええ、大丈夫よ」

 パウラが優しい笑顔を見せると、アシェルナオも笑顔で頷く。




 わたしはなにをさがして跳ぶの?


 ぴょんぴょん跳ぶの?


 雪の向こうになにがあるの?


 わからないけどぴょんぴょん


 雪をけってぴょんぴょん


 お空は青いねぴょんぴょん


 早くあなたに会いたいぴょんぴょん


 春になったらわたしは消える 



 ぴょんぴょん跳ねながら、くるくる回りながら、アシェルナオが歌うと、精霊たちも周りで跳ねて回った。





 ヴァレリラルドはイクセルだけを護衛として同伴させ、王家の馬車でエルランデル公爵家に向かっていた。

 手には奥城の花園で摘んだサネルマの花束と、シーグフリードから渡された手紙があった。

 『今日はアシェルの13歳の誕生日だ。アシェルにプレゼントしてやろう』

 エルランデル公爵家の封蝋のされた手紙にはシーグフリードからの招待状が入っていた。

 「プレゼントしてやろう、とは、プレゼントを持って来いということだろうが……。あれからシーグフリードがアシェルの話をすることはなかったが、そうか、あれから3年か」

 卒業式で抱き上げ、誕生日に花束をもらった時から3年の月日が経ったのか、とヴァレリラルドは懐かしく思った。

 「ええ、あれから3年です。長かったです」

 イクセルはシーグフリードがヴァレリラルドをエルランデル公爵家に招待した意味を知っていて、感涙にむせんでいる。

 王太子付きの近衛騎士として、王太子に重大な隠し事をしてきたことが終わりを迎える。それは王太子の思いが報われる時が来たことを意味していた。

 「泣くほど長かったか?」

 王立学園高等科を卒業し、自分の執務室を持ってすぐにスタンピードが起きたが、あれから特に大きな事件が起きるわけでもなく、ヴァレリラルドは順調といっていい3年を過ごしていると思っていた。

 「ええ、長かったですよ。この3年でクランツとフォルシウスの間に子供が生まれ、その子が2歳になって、クランツがメロメロの親バカになるくらいに長かったです」

 クランツとフォルシウスの間に誕生した子供はロザーリエと名付けられ、可愛い盛りの女の子なのだが、その子は騎士仲間のあいだではスタンピードベイビーと呼ばれていた。

 「そ、それは長いな……」

 イクセルの感涙に、少し引き気味にヴァレリラルドは同意する。

 「本当に……。私はこの3年、スタンピードのあの光景を忘れることはありませんでした。これからも、一生忘れることはないでしょう」

 一本の木の幹を背に寄り添って眠るヴァレリラルドと雪うさぎマントのアシェルナオの尊い光景を、イクセルはずっと胸に焼き付けていた。

 その光景はあまりに尊すぎて、一生忘れることはないとイクセルは確信していた。

 「殿下、着きました」

 やがて馬車はエルランデル公爵家の門を抜けた。

 公爵家の馬車寄せに馬車が止まり、ヴァレリラルドが花束を手に降り立つ。

 「ようこそいらっしゃいました、ヴァレリラルド王太子殿下。シーグフリード様から承っております。どうぞこちらへ」

 デュルフェルが深いお辞儀をしてヴァレリラルドを迎え入れた。




 「すごく上手だったわ、アシェルナオ。とても可愛かったわ」

 歌い終わったアシェルナオに、パウラが拍手を送る。

 周りの大人たちも、アシェルナオの可愛さに満足した顔をしている。

 「でも、どうして春になると消えるんだい?」

 可愛い歌なのに最後の歌詞が悲しいことにシーグフリードは首を捻る。

 「だって兄様、雪うさぎは雪でできているから、春になって温かくなると溶けてなくなるんですよ?」

 アシェルナオも、なぜそんなことを訊くのかと首を捻る。

 「ん?」

 「ん?」

 エルランデル公爵家の嫡男と次男はお互い首を捻っていたが、

 「ナオ様のいらした世界では、雪で作ったうさぎのことを雪うさぎと呼ぶのですか? 本物のうさぎではないんですか?」

 テュコが顔を見合わせる兄弟の間に割って入る。

 「うん。そうだよ? 雪うさぎは雪で作ったうさぎのことだよ? 雪を集めて楕円形に形作って、南天の赤い実を目にして、葉っぱで耳を作るんだ。うさぎの目は赤いでしょ?」

 「ああ……。アシェルナオ、この世界には雪うさぎといううさぎがいるんだよ。シルヴマルク王国の北方に生息している真っ白いうさぎで、目は青だよ。それに近年の研究で雪うさぎは寒いのが好きではないという説があるんだ」

 「そうなんですか? 雪うさぎ、生きてるんですか? 目は青いんですか? 寒いの嫌いなんですか? 雪うさぎなのに?」

 雪うさぎの定義が崩れて困惑するアシェルナオ。

 「ああ。だから消えなくてもいいんだよ」

 「消えなくてもいい……まだ混乱してますが、じゃあ、お歌を替えます」

 「あら、もう一度可愛いお歌が聴けるのね。母様、嬉しいわ」

 パウラは手を叩いて喜ぶ。

 「はい、歌いなおしです」

 アシェルナオは張り切って元の位置に戻った。

 
 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 今日のツボ:スタンピードベイビー
しおりを挟む
感想 147

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...