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第3部
あなたのおめめはなぜあおい?
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「雪うさぎの歌ですか? えーと、うーん。いいよ?」
パウラのリクエストに、アシェルナオは貴族の嗜みとして、ちょっと考えてから了承した。
「じゃあ……」
アシェルナオはあたりを見回すと大窓の前に行き、ガラス戸を開け、庭に続くテラスに出た。
「寒くないですか? 母様」
「ええ、大丈夫よ」
パウラが優しい笑顔を見せると、アシェルナオも笑顔で頷く。
わたしはなにをさがして跳ぶの?
ぴょんぴょん跳ぶの?
雪の向こうになにがあるの?
わからないけどぴょんぴょん
雪をけってぴょんぴょん
お空は青いねぴょんぴょん
早くあなたに会いたいぴょんぴょん
春になったらわたしは消える
ぴょんぴょん跳ねながら、くるくる回りながら、アシェルナオが歌うと、精霊たちも周りで跳ねて回った。
ヴァレリラルドはイクセルだけを護衛として同伴させ、王家の馬車でエルランデル公爵家に向かっていた。
手には奥城の花園で摘んだサネルマの花束と、シーグフリードから渡された手紙があった。
『今日はアシェルの13歳の誕生日だ。アシェルにプレゼントしてやろう』
エルランデル公爵家の封蝋のされた手紙にはシーグフリードからの招待状が入っていた。
「プレゼントしてやろう、とは、プレゼントを持って来いということだろうが……。あれからシーグフリードがアシェルの話をすることはなかったが、そうか、あれから3年か」
卒業式で抱き上げ、誕生日に花束をもらった時から3年の月日が経ったのか、とヴァレリラルドは懐かしく思った。
「ええ、あれから3年です。長かったです」
イクセルはシーグフリードがヴァレリラルドをエルランデル公爵家に招待した意味を知っていて、感涙にむせんでいる。
王太子付きの近衛騎士として、王太子に重大な隠し事をしてきたことが終わりを迎える。それは王太子の思いが報われる時が来たことを意味していた。
「泣くほど長かったか?」
王立学園高等科を卒業し、自分の執務室を持ってすぐにスタンピードが起きたが、あれから特に大きな事件が起きるわけでもなく、ヴァレリラルドは順調といっていい3年を過ごしていると思っていた。
「ええ、長かったですよ。この3年でクランツとフォルシウスの間に子供が生まれ、その子が2歳になって、クランツがメロメロの親バカになるくらいに長かったです」
クランツとフォルシウスの間に誕生した子供はロザーリエと名付けられ、可愛い盛りの女の子なのだが、その子は騎士仲間のあいだではスタンピードベイビーと呼ばれていた。
「そ、それは長いな……」
イクセルの感涙に、少し引き気味にヴァレリラルドは同意する。
「本当に……。私はこの3年、スタンピードのあの光景を忘れることはありませんでした。これからも、一生忘れることはないでしょう」
一本の木の幹を背に寄り添って眠るヴァレリラルドと雪うさぎマントのアシェルナオの尊い光景を、イクセルはずっと胸に焼き付けていた。
その光景はあまりに尊すぎて、一生忘れることはないとイクセルは確信していた。
「殿下、着きました」
やがて馬車はエルランデル公爵家の門を抜けた。
公爵家の馬車寄せに馬車が止まり、ヴァレリラルドが花束を手に降り立つ。
「ようこそいらっしゃいました、ヴァレリラルド王太子殿下。シーグフリード様から承っております。どうぞこちらへ」
デュルフェルが深いお辞儀をしてヴァレリラルドを迎え入れた。
「すごく上手だったわ、アシェルナオ。とても可愛かったわ」
歌い終わったアシェルナオに、パウラが拍手を送る。
周りの大人たちも、アシェルナオの可愛さに満足した顔をしている。
「でも、どうして春になると消えるんだい?」
可愛い歌なのに最後の歌詞が悲しいことにシーグフリードは首を捻る。
「だって兄様、雪うさぎは雪でできているから、春になって温かくなると溶けてなくなるんですよ?」
アシェルナオも、なぜそんなことを訊くのかと首を捻る。
「ん?」
「ん?」
エルランデル公爵家の嫡男と次男はお互い首を捻っていたが、
「ナオ様のいらした世界では、雪で作ったうさぎのことを雪うさぎと呼ぶのですか? 本物のうさぎではないんですか?」
テュコが顔を見合わせる兄弟の間に割って入る。
「うん。そうだよ? 雪うさぎは雪で作ったうさぎのことだよ? 雪を集めて楕円形に形作って、南天の赤い実を目にして、葉っぱで耳を作るんだ。うさぎの目は赤いでしょ?」
「ああ……。アシェルナオ、この世界には雪うさぎといううさぎがいるんだよ。シルヴマルク王国の北方に生息している真っ白いうさぎで、目は青だよ。それに近年の研究で雪うさぎは寒いのが好きではないという説があるんだ」
「そうなんですか? 雪うさぎ、生きてるんですか? 目は青いんですか? 寒いの嫌いなんですか? 雪うさぎなのに?」
雪うさぎの定義が崩れて困惑するアシェルナオ。
「ああ。だから消えなくてもいいんだよ」
「消えなくてもいい……まだ混乱してますが、じゃあ、お歌を替えます」
「あら、もう一度可愛いお歌が聴けるのね。母様、嬉しいわ」
パウラは手を叩いて喜ぶ。
「はい、歌いなおしです」
アシェルナオは張り切って元の位置に戻った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今日のツボ:スタンピードベイビー
パウラのリクエストに、アシェルナオは貴族の嗜みとして、ちょっと考えてから了承した。
「じゃあ……」
アシェルナオはあたりを見回すと大窓の前に行き、ガラス戸を開け、庭に続くテラスに出た。
「寒くないですか? 母様」
「ええ、大丈夫よ」
パウラが優しい笑顔を見せると、アシェルナオも笑顔で頷く。
わたしはなにをさがして跳ぶの?
ぴょんぴょん跳ぶの?
雪の向こうになにがあるの?
わからないけどぴょんぴょん
雪をけってぴょんぴょん
お空は青いねぴょんぴょん
早くあなたに会いたいぴょんぴょん
春になったらわたしは消える
ぴょんぴょん跳ねながら、くるくる回りながら、アシェルナオが歌うと、精霊たちも周りで跳ねて回った。
ヴァレリラルドはイクセルだけを護衛として同伴させ、王家の馬車でエルランデル公爵家に向かっていた。
手には奥城の花園で摘んだサネルマの花束と、シーグフリードから渡された手紙があった。
『今日はアシェルの13歳の誕生日だ。アシェルにプレゼントしてやろう』
エルランデル公爵家の封蝋のされた手紙にはシーグフリードからの招待状が入っていた。
「プレゼントしてやろう、とは、プレゼントを持って来いということだろうが……。あれからシーグフリードがアシェルの話をすることはなかったが、そうか、あれから3年か」
卒業式で抱き上げ、誕生日に花束をもらった時から3年の月日が経ったのか、とヴァレリラルドは懐かしく思った。
「ええ、あれから3年です。長かったです」
イクセルはシーグフリードがヴァレリラルドをエルランデル公爵家に招待した意味を知っていて、感涙にむせんでいる。
王太子付きの近衛騎士として、王太子に重大な隠し事をしてきたことが終わりを迎える。それは王太子の思いが報われる時が来たことを意味していた。
「泣くほど長かったか?」
王立学園高等科を卒業し、自分の執務室を持ってすぐにスタンピードが起きたが、あれから特に大きな事件が起きるわけでもなく、ヴァレリラルドは順調といっていい3年を過ごしていると思っていた。
「ええ、長かったですよ。この3年でクランツとフォルシウスの間に子供が生まれ、その子が2歳になって、クランツがメロメロの親バカになるくらいに長かったです」
クランツとフォルシウスの間に誕生した子供はロザーリエと名付けられ、可愛い盛りの女の子なのだが、その子は騎士仲間のあいだではスタンピードベイビーと呼ばれていた。
「そ、それは長いな……」
イクセルの感涙に、少し引き気味にヴァレリラルドは同意する。
「本当に……。私はこの3年、スタンピードのあの光景を忘れることはありませんでした。これからも、一生忘れることはないでしょう」
一本の木の幹を背に寄り添って眠るヴァレリラルドと雪うさぎマントのアシェルナオの尊い光景を、イクセルはずっと胸に焼き付けていた。
その光景はあまりに尊すぎて、一生忘れることはないとイクセルは確信していた。
「殿下、着きました」
やがて馬車はエルランデル公爵家の門を抜けた。
公爵家の馬車寄せに馬車が止まり、ヴァレリラルドが花束を手に降り立つ。
「ようこそいらっしゃいました、ヴァレリラルド王太子殿下。シーグフリード様から承っております。どうぞこちらへ」
デュルフェルが深いお辞儀をしてヴァレリラルドを迎え入れた。
「すごく上手だったわ、アシェルナオ。とても可愛かったわ」
歌い終わったアシェルナオに、パウラが拍手を送る。
周りの大人たちも、アシェルナオの可愛さに満足した顔をしている。
「でも、どうして春になると消えるんだい?」
可愛い歌なのに最後の歌詞が悲しいことにシーグフリードは首を捻る。
「だって兄様、雪うさぎは雪でできているから、春になって温かくなると溶けてなくなるんですよ?」
アシェルナオも、なぜそんなことを訊くのかと首を捻る。
「ん?」
「ん?」
エルランデル公爵家の嫡男と次男はお互い首を捻っていたが、
「ナオ様のいらした世界では、雪で作ったうさぎのことを雪うさぎと呼ぶのですか? 本物のうさぎではないんですか?」
テュコが顔を見合わせる兄弟の間に割って入る。
「うん。そうだよ? 雪うさぎは雪で作ったうさぎのことだよ? 雪を集めて楕円形に形作って、南天の赤い実を目にして、葉っぱで耳を作るんだ。うさぎの目は赤いでしょ?」
「ああ……。アシェルナオ、この世界には雪うさぎといううさぎがいるんだよ。シルヴマルク王国の北方に生息している真っ白いうさぎで、目は青だよ。それに近年の研究で雪うさぎは寒いのが好きではないという説があるんだ」
「そうなんですか? 雪うさぎ、生きてるんですか? 目は青いんですか? 寒いの嫌いなんですか? 雪うさぎなのに?」
雪うさぎの定義が崩れて困惑するアシェルナオ。
「ああ。だから消えなくてもいいんだよ」
「消えなくてもいい……まだ混乱してますが、じゃあ、お歌を替えます」
「あら、もう一度可愛いお歌が聴けるのね。母様、嬉しいわ」
パウラは手を叩いて喜ぶ。
「はい、歌いなおしです」
アシェルナオは張り切って元の位置に戻った。
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今日のツボ:スタンピードベイビー
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