そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第3部

急襲

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 城郭の外にある、王都郊外のダンジョンは山腹に入り口のある洞窟だった。入り口は広いが、洞窟内は至るところで枝分かれをしている。

 ある通路は上へ、ある通路は下へ伸びており、途中に巨大な空間の広がる場所もある。

 ある程度調査が進み、どの通路にどの魔獣が出るかもある程度はわかっているが、まだ調査されていない通路も存在する。

 調査済みの通路には一定間隔で灯りが設置されており、暗闇の続く通路があれば、それは未調査の通路だといえた。

 冒険者ギルドで依頼を受けた際に、ダンジョン内の魔獣のいる通路までの地図をもらっており、アグレルはへディーンに地図を持たせて道案内をさせ、時折現れる魔獣を倒しながら進んでいた。



 マロシュとブレンドレルは距離を取りながら冒険者たちのあとを追っていた。

 「普通に依頼を遂行しているようだな」

 身軽だが防御にもなる皮のベストを装着した冒険者スタイルのブレンドレルが辺りを警戒しながら言った。

 「ブレンドレルさん、俺、ダンジョンなんて初めてです」

 初めて見るダンジョンの壁をこわごわと眺めながら、ブレンドレルよりもさらに辺りを警戒しているマロシュ。

 「だから外で待ってるように言っただろう?」

 「ブレンドレルさんが行くなら行きますよ」

 頬を膨らませるマロシュ。

 この3年でいくつかの案件を一緒に調査していくうちにすっかり自分に懐いたマロシュにブレンドレルは苦笑する。

 懐いただけではなく、淡い恋心を抱いているマロシュは、青緑色の髪よりもっと深い緑色の瞳を細めて笑みを浮かべるブレンドレルが嬉しかった。

 ダンジョンを進みながら何体か出てきた魔獣は難なくブレンドレルが倒し、マロシュは危険な思いをせずに済んだが、冒険者もどきの男たちも順調に依頼を達成したようだった。

 成果に喜び、意気揚々とダンジョンを出て王都に戻る馬車を、

 「今日は本当に依頼を達成しましたね」

 「宿に残っていた2人は王都見物をしているようです」

 「本当に冒険者なのでしょうか」

 拍子抜けしたような顔で見ているアーベントロート騎士団の騎士たち。

 「今日一日で結果を出すのは早いですよ。さあ、追いましょう」

 ブレンドレルは気づかれない程度に距離があいたことを確認すると、マロシュを伴って馬を走らせた。



 男たちを乗せた馬車はまっすぐ王都の冒険者ギルドに向かった。

 ギルドに着き、男たちがに冒険者ギルドの中に入ると、マロシュは素早く馬を降りてそれに続く。マロシュの前で男たちは依頼の達成を報告し、報酬を受け取ると、次の依頼を物色していた。

 近くにいた冒険者に二、三質問をしたが、次の依頼を受けることなく冒険者ギルドをあとにした。

 怪しいところのない行動に、冒険者ギルドの建物から出てきたマロシュは待っていたブレンドレルに首を振る。

 それを見てアーベントロート騎士団のエグモントたちは馬車を追い、マロシュとブレンドレルも少し気が緩むのを感じながらそれに続いた。

 そこの角を曲がれば宿に着く。という場所で、馬車はまっすぐに進んだ。

 「寄り道か?」

 エグモントの呟きに反応して、

 『気づかれたのかもしれない。用心して後を追うんだ』

 後方にいるブレンドレルから指示が飛んだ。





 勤め先である魔法省から徒歩で帰宅中の、お揃いの魔法省のローブを着た、顔を見ただけでは見分けがつかない2人の青年。

 「今日は早く帰れたなぁ」

 まだ空に明るさの残っているうちに帰路についたことに上機嫌な、髪の毛があちこち跳ねているルルと、

 「お互い、仕事がひと段落したからな。たまには早く帰って風呂に入りたい」

 綺麗に髪をなでつけたエル。

 「久しぶりに晩飯作ろうぜ。前に買っておいた肉があっただろ?」

 「保存庫に入れてるやつだな。付け合わせは何かあったか?」

 2人は久しぶりに家でのんびり過ごすためのプランを出し合っていた。

 「なぁ、エル。そろそろ引っ越さないか? 魔法省から歩いて30分かかるのって、ちょっと遠いと思う」

 「そうだな。距離はともかく、近くに食事をする店が少ないのがつらいな」

 エルが引っ越しを前向きに検討しようと決めた時、急に近くで馬が石畳を蹴る音が聞こえた。

 後ろを振り向くエルとルル。

 同時に馬車が2人の横で止まり、中から2人の男たちが降りてきた。

 何事かと身構えるエルとルルに剣を持った男たちが襲い掛かる。

 「うわっ」

 「なんなんだっ!」

 王立学園を卒業してからは剣術の稽古をしていないエルとルルは、何より帯剣していない身では、剣を持つ者が身近に迫ってきたところで何もできなかった。

 何もできないなりに手を振り回して抗っていたところに、さらに馬の蹄の音がいくつも聞こえた。

 「何をしている!」

 エドモントの怒声に、馬車から手が伸びて、襲ってきた男たちを馬車の中に引き戻す。同時に馬車は全力で走り出した。

 「追え!」

 後方からブレンドレルが叫ぶ。その声でアーベントロート騎士団の騎士たちは馬車の後を追った。

 「大丈夫ですか?」

 ブレンドレルは馬を降りて、事態が呑み込めずに体を寄せ合う双子に近づいた。

 「大丈夫だけど、何なんだ?」

 「なぜ俺たちが襲われるんだ?」

 エルとルルは助かったことに安堵しながらも、食いつくように尋ねた。

 「それはわかりません。わからない以上は危険です。第二騎士団駐屯地まで来ていただけませんか?」

 「第二騎士団?」

 「申し遅れました。今はこのなりですが、私は第二騎士団所属の騎士、ブレンドレルです」

 「助手のマロシュです」

 馬の扱いにはまだ慣れておらず、遅れて到着したマロシュが自己紹介する。

 「どういうことなんだ?」

 「事情を説明してほしい」

 急襲されたからだろうが、エルとルルの顔色は悪かった。

 「そのためにも第二騎士団までお越しください」

 ブレンドレルの有無を言わさぬ口調に、エルとルルは頷くしかなかった。
 
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