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第4部
ふよりんー(どやぁ)
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私はジエルヴェ。シアンハウス騎士団の団長だ。先日の聖域の森と精霊の泉の浄化の際は特別隊の隊長を務めた。
私は今、精霊の泉の視察に行かれた王太子殿下と愛し子様のお帰りを、シアンハウスの玄関前で待っている。
私の横にはサミュエル殿がいて、同じく愛し子様を案じておられる。
王太子殿下の婚約者でもある愛し子様は、大変お美しいお方だ。だが、まだ幼さの残るお可愛らしさがあり、とても小柄だった。
国の要所である精霊の泉を浄化するために王太子殿下とともにいらした時は、重責を担っていながら、気負いなく明るく張り切っておられた。
愛し子様の素晴らしい歌の御力で聖域の森の瘴気は浄化された。
あれだけの濃い瘴気を浄化するにはかなりの精神力を消費されるだろうに、愛し子様は疲れた表情を見せずに、早く精霊の泉を浄化しなくては、という健気な使命感に溢れておられた。
一言の不満も漏らさずに小さい体で浄化をされる愛し子様に、我ら騎士たちは感服したのだった。
聖域の森の浄化が終わると、我ら騎士たちは待機となり、精霊の泉へは王太子殿下と愛し子様、侍従と護衛騎士の4人で向かわれた。
愛し子様の浄化の成就を祈りながら待機していた私たちのもとに届いたのは、フォルシウスからの緊急通信。愛し子様が瘴気に触れて倒れたというものだった。
精霊の泉の浄化には成功したらしいが、王太子殿下に抱きかかえられて戻ってこられた愛し子様は、泉に行くまでの生き生きとした輝きが消え失せ、血の気のない顔は絶望の表情がうかがえるものだった。
浄化とはこれほど過酷で身を削るものなのか。
それを明るく気丈に行われていた愛し子様。私も、シアンハウス騎士団も、一生涯愛し子様を敬愛することを誓ったのだった。
倒れられて2日後の今日。愛し子様は王太子殿下と共に精霊の泉の現況を視察されるという。それも、先日と同じく護衛騎士と侍従だけを伴って。
小さい体で苦難を真正面から受け止める愛し子様はますます敬愛の対象になったが、またお倒れになるのではないかと、案じずにいられなかった。
おそらくそれは、シアンハウスの家令であるサミュエル殿も同じだろう。王太子殿下と愛し子様が戻られるのをじっと待っておられる。
サミュエル殿だけでなない。私の後ろに並ぶ部下たちもまた、それぞれの愛し子様への思いを胸に身じろぎもせずにお戻りを待っている。
やがて数頭の蹄の音が聞こえ、私は直立の姿勢を取った。後ろの部下たちもそれに倣う。
王太子殿下の愛馬と、侍従殿、護衛騎士の馬が玄関前に到着する。
先に馬を降りた王太子殿下が愛し子様の腰を掴み、軽々と地面に下ろした。
愛し子様はこちらを見て、それはそれは美しい笑みを浮かべる。その笑みはまさに我が国の誇る精霊の愛し子様という情景だった。
愛し子様は両方の手のひらで何かを持って、こちらに駆けて来られた。
「サミュエルー、みてみてー」
「なんです、ナオ様」
「みてみて、ほら……ふよりんー」
ふよりん-と、普段より高い声で手を差し出す愛し子様の可愛さに、私のみならず、部下たちも、おそらくサミュエル殿も心を打ち抜かれてメロメロになっていた。
先日は意識を失くしての帰還だったが、今日は馬上にいる時から誇らしげな表情をしているアシェルナオに、待ち構えていたサミュエルは心の中で安堵の息をもらしていた。
そのアシェルナオが、馬から降りると同時に自分の名前を呼んで嬉しそうに駆けてきて、サミュエルはそれだけで胸が熱くなった。
「なんです、ナオ様」
「みてみて、ほら……ふよりんー」
そう言って両手で大事に持っていたもの……リングダールの幼体を見せながら、前の世界の国民的大人気の青いにゃんこ型ロボットのイントネーションを真似るアシェルナオ。
唯一得意な物まねをしてみせて、どやぁ、な顔でサミュエルを見上げている。
「これは……いいものを見せてもらいました」
アシェルナオの手の中にいるのは、めったに姿を見せない伝説の聖獣だということはわかったのだが、それが実在してそこに存在しているよりもアシェルナオのどやぁ、な顔が尊いと思うサミュエルだった。
「精霊の泉のところで見つけたんだよ。そこでお別れしようと思ったんだけど、ふよりんが一緒に帰るって言うから連れて帰るんだ。あのね、あのね?」
「はい?」
サミュエルは目尻を下げてアシェルナオを見下ろす。
「サミュエル、ほしがっちゃだめだよ? サミュエル、ぬいぐるみ大好きだから」
アシェルナオの発言に、サミュエルの横にいるジエルヴェが顔を歪めて、ぶごっ、と変な声を出した。
後ろに並ぶ騎士たちも変なうめき声をあげて直立の姿勢を崩していた。
普段は穏やかだが、訓練時や有事の際は元第一騎士団の鬼団長の片鱗を見せるサミュエルがぬいぐるみ好きだという驚愕の真実に一瞬吹き出したのだが、すぐにそれを取り繕って再び直立の姿勢を取るジエルヴェたち。だがその顔は、むにょむにょしていた。
「でもね、リンちゃんとふよりんが並んだら可愛いと思わない? 今度うちに来たら見せるね?」
そう言うと、アシェルナオは上機嫌でヴァレリラルドのところに戻って行った。
「すみません、またもうちのナオ様が」
能天気な発言で何度もサミュエルに煮え湯を飲ませて来たアシェルナオに代わってテュコが頭を下げる。
「気にしなくていい、テュコ。ナオ様が元気に戻って来られるのであれば、喜んでぬいぐるみ好きを拝命するとも」
サミュエルは朗らかな表情をしていたが、裏の顔が真実ではないことがわかってジエルヴェたちは安心したような残念なような表情をしていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
いいね、エールありがとうございます。泣けてきます。
がんばれ私。今年度いっぱいで辞めるまでの辛抱だ。
私は今、精霊の泉の視察に行かれた王太子殿下と愛し子様のお帰りを、シアンハウスの玄関前で待っている。
私の横にはサミュエル殿がいて、同じく愛し子様を案じておられる。
王太子殿下の婚約者でもある愛し子様は、大変お美しいお方だ。だが、まだ幼さの残るお可愛らしさがあり、とても小柄だった。
国の要所である精霊の泉を浄化するために王太子殿下とともにいらした時は、重責を担っていながら、気負いなく明るく張り切っておられた。
愛し子様の素晴らしい歌の御力で聖域の森の瘴気は浄化された。
あれだけの濃い瘴気を浄化するにはかなりの精神力を消費されるだろうに、愛し子様は疲れた表情を見せずに、早く精霊の泉を浄化しなくては、という健気な使命感に溢れておられた。
一言の不満も漏らさずに小さい体で浄化をされる愛し子様に、我ら騎士たちは感服したのだった。
聖域の森の浄化が終わると、我ら騎士たちは待機となり、精霊の泉へは王太子殿下と愛し子様、侍従と護衛騎士の4人で向かわれた。
愛し子様の浄化の成就を祈りながら待機していた私たちのもとに届いたのは、フォルシウスからの緊急通信。愛し子様が瘴気に触れて倒れたというものだった。
精霊の泉の浄化には成功したらしいが、王太子殿下に抱きかかえられて戻ってこられた愛し子様は、泉に行くまでの生き生きとした輝きが消え失せ、血の気のない顔は絶望の表情がうかがえるものだった。
浄化とはこれほど過酷で身を削るものなのか。
それを明るく気丈に行われていた愛し子様。私も、シアンハウス騎士団も、一生涯愛し子様を敬愛することを誓ったのだった。
倒れられて2日後の今日。愛し子様は王太子殿下と共に精霊の泉の現況を視察されるという。それも、先日と同じく護衛騎士と侍従だけを伴って。
小さい体で苦難を真正面から受け止める愛し子様はますます敬愛の対象になったが、またお倒れになるのではないかと、案じずにいられなかった。
おそらくそれは、シアンハウスの家令であるサミュエル殿も同じだろう。王太子殿下と愛し子様が戻られるのをじっと待っておられる。
サミュエル殿だけでなない。私の後ろに並ぶ部下たちもまた、それぞれの愛し子様への思いを胸に身じろぎもせずにお戻りを待っている。
やがて数頭の蹄の音が聞こえ、私は直立の姿勢を取った。後ろの部下たちもそれに倣う。
王太子殿下の愛馬と、侍従殿、護衛騎士の馬が玄関前に到着する。
先に馬を降りた王太子殿下が愛し子様の腰を掴み、軽々と地面に下ろした。
愛し子様はこちらを見て、それはそれは美しい笑みを浮かべる。その笑みはまさに我が国の誇る精霊の愛し子様という情景だった。
愛し子様は両方の手のひらで何かを持って、こちらに駆けて来られた。
「サミュエルー、みてみてー」
「なんです、ナオ様」
「みてみて、ほら……ふよりんー」
ふよりん-と、普段より高い声で手を差し出す愛し子様の可愛さに、私のみならず、部下たちも、おそらくサミュエル殿も心を打ち抜かれてメロメロになっていた。
先日は意識を失くしての帰還だったが、今日は馬上にいる時から誇らしげな表情をしているアシェルナオに、待ち構えていたサミュエルは心の中で安堵の息をもらしていた。
そのアシェルナオが、馬から降りると同時に自分の名前を呼んで嬉しそうに駆けてきて、サミュエルはそれだけで胸が熱くなった。
「なんです、ナオ様」
「みてみて、ほら……ふよりんー」
そう言って両手で大事に持っていたもの……リングダールの幼体を見せながら、前の世界の国民的大人気の青いにゃんこ型ロボットのイントネーションを真似るアシェルナオ。
唯一得意な物まねをしてみせて、どやぁ、な顔でサミュエルを見上げている。
「これは……いいものを見せてもらいました」
アシェルナオの手の中にいるのは、めったに姿を見せない伝説の聖獣だということはわかったのだが、それが実在してそこに存在しているよりもアシェルナオのどやぁ、な顔が尊いと思うサミュエルだった。
「精霊の泉のところで見つけたんだよ。そこでお別れしようと思ったんだけど、ふよりんが一緒に帰るって言うから連れて帰るんだ。あのね、あのね?」
「はい?」
サミュエルは目尻を下げてアシェルナオを見下ろす。
「サミュエル、ほしがっちゃだめだよ? サミュエル、ぬいぐるみ大好きだから」
アシェルナオの発言に、サミュエルの横にいるジエルヴェが顔を歪めて、ぶごっ、と変な声を出した。
後ろに並ぶ騎士たちも変なうめき声をあげて直立の姿勢を崩していた。
普段は穏やかだが、訓練時や有事の際は元第一騎士団の鬼団長の片鱗を見せるサミュエルがぬいぐるみ好きだという驚愕の真実に一瞬吹き出したのだが、すぐにそれを取り繕って再び直立の姿勢を取るジエルヴェたち。だがその顔は、むにょむにょしていた。
「でもね、リンちゃんとふよりんが並んだら可愛いと思わない? 今度うちに来たら見せるね?」
そう言うと、アシェルナオは上機嫌でヴァレリラルドのところに戻って行った。
「すみません、またもうちのナオ様が」
能天気な発言で何度もサミュエルに煮え湯を飲ませて来たアシェルナオに代わってテュコが頭を下げる。
「気にしなくていい、テュコ。ナオ様が元気に戻って来られるのであれば、喜んでぬいぐるみ好きを拝命するとも」
サミュエルは朗らかな表情をしていたが、裏の顔が真実ではないことがわかってジエルヴェたちは安心したような残念なような表情をしていた。
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がんばれ私。今年度いっぱいで辞めるまでの辛抱だ。
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