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第4部
やっと出番だ
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順調にレンッケリ領の街道を走っていた馬車は、ラウフラージアに入ってすぐでとまった。
付近に建物はなく、街道を行きかう人の姿もない。だが、ここが協力者との接触ポイントだった。
窓から外を眺めて、街道脇の一本の木に凭れている男を見つけると、マロシュは馬車を降りた。
「あなたがフィリベルトさんですか?」
シーグフリードから協力者の提供を求められた領騎士団長のヨリックは、部下のフィリベルトを推薦していた。
ブレンドレルより一回り小柄な体つきだが、しなやかな筋肉をまとった男にマロシュは声をかける。
風になびいて柔らかく揺れるダークブラウンの髪は、笑みを浮かべた表情と共に人懐こい印象を与えるが、その青い瞳だけは冷やかに冴えていた。
「ああ。君がマロシュ? 団長から王太子の執務室の依頼で血バラ……『幽玄の薔薇の館』の内部調査をする者の手助けをしてほしいと聞かされていたんだが……普通の子だな」
フィリベルトは視線を上下に動かしてマロシュを見定める。
「普通ですよ。というか血バラと呼ばれているんですね。確かに『幽玄の薔薇の館』は長ったらしいですが」
ぶしつけな視線に、マロシュは鼻白む。
「あそこの娼婦、男娼にはまっちまったら金は勿論、血も涙も吸いつくされるってとこから血バラって呼ばれてるらしい。普通っていうのは気にしないでくれ。勝手に王太子の婚約者様が頭に浮かんでいたのと、潜入調査をするような猛者だからもっと屈強な者か、感情のないような強心臓の者かと思ったんだ」
「ナオ様と比べたら、ほとんどの者が普通ですよ。それに、外見が目立つ人に潜入調査は向きません。フィリベルトさんこそ大丈夫なんでしょうね? 頼みますよ?」
「マロシュは可愛いよ。目立たないから潜入に向いているというのは納得だ。では、これを渡しておくよ」
フィリベルトはマロシュにシルバーのイヤーカフを手渡す。
「俺との直通。なるべくラウフラージア近辺にいるようにするから、何かあったら連絡するんだぞ。何もなくても定期的に連絡するように。決して無茶はするな。いいな」
フィリベルトはすでにイヤーカフを装着している自分の耳を指さす。
「わかりました」
お揃いのイヤーカフ。
ブレンドレルさんとつけたかったな。
マロシュはフィリベルトを残念そうに見ながら、イヤーカフを装着した。
ラウフラージアの温泉街に入ってすぐの分岐を山側に進んだ先に、花街として栄華を誇っていた当時の名残りの娼館が数軒存在している。
中でも最も豪奢な館を構え、多くの娼婦や男娼を抱えているのが『幽玄の薔薇の館』だった。
4階まである建物は、外観は貴族の屋敷のようだが、窓が小さく、数も少ない。
華やかではあるが、隠せない退廃的な雰囲気に、馬車を降り立ったマロシュは呑み込まれそうになっていた。
「マロシュ、さっさと荷物を運ぶんだ」
馬車が横づけされているのは建物の裏側、使用人や商人が出入りする通用口で、名前を呼ばれてマロシュは馬車に詰め込まれた荷物を引っぱりだした。
同じく荷物を担いだミーゴの後に続いて館の中に入る。
「ミーゴ」
呼び止めたのは紺色の髪を乱れなく撫でつけた黒いスーツの壮年の男だった。
「ヴェサール様、いつもご贔屓いただき、ありがとうございます」
「各部屋の絨毯を取り替えるのだったな。いつものように客のいない時間に頼むぞ」
「承知しております。今回はうちの若い者に勉強させます。数日かかりますから、物置にでも寝泊りさせていただけないでしょうか。マロシュ、ヴェサール様は館主のケルマン様の補佐をしておられる方だ」
ミーゴの言葉に、ヴェサールは商人見習いの小ぎれいな格好をした若いマロシュを値踏みするように眺めた。
「マロシュです。よろしくお願いします」
「ふん。数日もかかるのか?」
「部屋を見て、その部屋にあった絨毯を選ぶ。そのセンスを磨かせたいんです。勉強させてもらう代わりに、手が空いたときは下働きとして使ってもらっても構いません」
「寝食を提供するかわりに、昼は織物商として、夜は飲み物や料理を運ぶ仕事をしてもらうぞ」
「はい、異存はありません」
「5日後に取り替えた絨毯とマロシュを引き取りにきます。それまでよろしくお願いします」
ミーゴともども深く頭を下げながら、血バラに潜り込むことができたことに安堵するマロシュだった。
「スヴェン、久しぶりー」
数日ぶりにスヴェンと顔を合わせたアシェルナオは、ようやく護衛見習いとしての出番が回って来たことで張り切っている様子に笑みを浮かべる。
「ああ、やっと出番だ。アシェルナオは元気だったか? 無理はしてないか? クラースもハルネスもトシュテンも心配していたぞ」
数日会わなかったアシェルナオの顔色が以前より優れない気がして、スヴェンは顔を覗き込む。
「僕は元気だよ? 無理してないよ? ハルルたちこそ元気? 授業のことはブローム先生が教えてくれるけど、やっぱり学園に行ってみんなに会いたいなぁ」
アシェルナオはどれくらいみんなと会っていないのか頭の中で思いめぐらす。
「ナオ様、転移陣の準備はできていますよ」
スヴェンと話をしているアシェルナオにテュコが声をかける。
ここは王都の商人ギルドの転移陣の間。これから浄化先のデメトリアの領都へ転移するところだった。
すでに転移陣の上には護衛騎士であるフォルシウス、アダルベルト、ハヴェル、キナクが待機している。
「はーい。スヴェン、行こう」
「キュー」
アシェルナオとふよりんに促され、スヴェンも意気揚々と転移陣の上に乗った。
「アシェルナオ」
いざ、転移。のその時、転移陣の間にシーグフリードが護衛騎士を連れて入ってきた。
「兄様、お見送りに来てくれたのですか?」
昨日は帰ってこなかったシーグフリードに、アシェルナオは駆け寄り、抱き着く。
「ああ。昨日は顔を見られなかったからね。アシェルナオのおかげでモンノルドル湿原の瘴気だまりはほとんど解消されたと報告があったよ。ラルたちが戻ってくる日も近いはずだ」
「よかった。他の場所はどうですか?」
シーグフリードはアシェルナオをきつく抱きしめてから、そっと体を離す。
「各地も収束の目途がたってきたよ。アシェルナオは気負うことなく、今日と明日、浄化をしてほしい」
「気負ってないです。兄様がお見送りしてくれたので、嬉しいです。兄様も無理したらだめですよ。ちゃんと寝に帰って来て下さい。ご飯も一緒に食べたいです」
「ああ。お互いあとひと踏ん張り、頑張ろう。そしたらまた兄様の部屋に泊まりにおいで」
シーグフリードは、可愛くてたまらないと言った顔でアシェルナオの頭をぽんぽんと叩く。
「はーい。兄様、行ってきます」
アシェルナオの挨拶を合図に、転移陣が発動した。
※※※※※※※※※※※※※※※※
お声がけ、エール、いいね、ありがとうございます。
お休みさせていただきました。おかげで繁忙期もほぼほぼ終わろうとしています。いくつか重なってしまった心労も、解決の糸口を見つけて、いまどうにか手繰り寄せようとしているところです。
生きるのがちょっと辛いときは、立ち止まって、頑張るのをやめましょうね。心労は仕事のことだけではなかったのですが、仕事を辞めたい・・・。
ということで、更新を再開します。また応援いただけると嬉しいです。お声がけ、エール、いいねをいただけると長持ちします。寿命が延びます。ほんと、ヘタレすぎて申し訳ないです。
付近に建物はなく、街道を行きかう人の姿もない。だが、ここが協力者との接触ポイントだった。
窓から外を眺めて、街道脇の一本の木に凭れている男を見つけると、マロシュは馬車を降りた。
「あなたがフィリベルトさんですか?」
シーグフリードから協力者の提供を求められた領騎士団長のヨリックは、部下のフィリベルトを推薦していた。
ブレンドレルより一回り小柄な体つきだが、しなやかな筋肉をまとった男にマロシュは声をかける。
風になびいて柔らかく揺れるダークブラウンの髪は、笑みを浮かべた表情と共に人懐こい印象を与えるが、その青い瞳だけは冷やかに冴えていた。
「ああ。君がマロシュ? 団長から王太子の執務室の依頼で血バラ……『幽玄の薔薇の館』の内部調査をする者の手助けをしてほしいと聞かされていたんだが……普通の子だな」
フィリベルトは視線を上下に動かしてマロシュを見定める。
「普通ですよ。というか血バラと呼ばれているんですね。確かに『幽玄の薔薇の館』は長ったらしいですが」
ぶしつけな視線に、マロシュは鼻白む。
「あそこの娼婦、男娼にはまっちまったら金は勿論、血も涙も吸いつくされるってとこから血バラって呼ばれてるらしい。普通っていうのは気にしないでくれ。勝手に王太子の婚約者様が頭に浮かんでいたのと、潜入調査をするような猛者だからもっと屈強な者か、感情のないような強心臓の者かと思ったんだ」
「ナオ様と比べたら、ほとんどの者が普通ですよ。それに、外見が目立つ人に潜入調査は向きません。フィリベルトさんこそ大丈夫なんでしょうね? 頼みますよ?」
「マロシュは可愛いよ。目立たないから潜入に向いているというのは納得だ。では、これを渡しておくよ」
フィリベルトはマロシュにシルバーのイヤーカフを手渡す。
「俺との直通。なるべくラウフラージア近辺にいるようにするから、何かあったら連絡するんだぞ。何もなくても定期的に連絡するように。決して無茶はするな。いいな」
フィリベルトはすでにイヤーカフを装着している自分の耳を指さす。
「わかりました」
お揃いのイヤーカフ。
ブレンドレルさんとつけたかったな。
マロシュはフィリベルトを残念そうに見ながら、イヤーカフを装着した。
ラウフラージアの温泉街に入ってすぐの分岐を山側に進んだ先に、花街として栄華を誇っていた当時の名残りの娼館が数軒存在している。
中でも最も豪奢な館を構え、多くの娼婦や男娼を抱えているのが『幽玄の薔薇の館』だった。
4階まである建物は、外観は貴族の屋敷のようだが、窓が小さく、数も少ない。
華やかではあるが、隠せない退廃的な雰囲気に、馬車を降り立ったマロシュは呑み込まれそうになっていた。
「マロシュ、さっさと荷物を運ぶんだ」
馬車が横づけされているのは建物の裏側、使用人や商人が出入りする通用口で、名前を呼ばれてマロシュは馬車に詰め込まれた荷物を引っぱりだした。
同じく荷物を担いだミーゴの後に続いて館の中に入る。
「ミーゴ」
呼び止めたのは紺色の髪を乱れなく撫でつけた黒いスーツの壮年の男だった。
「ヴェサール様、いつもご贔屓いただき、ありがとうございます」
「各部屋の絨毯を取り替えるのだったな。いつものように客のいない時間に頼むぞ」
「承知しております。今回はうちの若い者に勉強させます。数日かかりますから、物置にでも寝泊りさせていただけないでしょうか。マロシュ、ヴェサール様は館主のケルマン様の補佐をしておられる方だ」
ミーゴの言葉に、ヴェサールは商人見習いの小ぎれいな格好をした若いマロシュを値踏みするように眺めた。
「マロシュです。よろしくお願いします」
「ふん。数日もかかるのか?」
「部屋を見て、その部屋にあった絨毯を選ぶ。そのセンスを磨かせたいんです。勉強させてもらう代わりに、手が空いたときは下働きとして使ってもらっても構いません」
「寝食を提供するかわりに、昼は織物商として、夜は飲み物や料理を運ぶ仕事をしてもらうぞ」
「はい、異存はありません」
「5日後に取り替えた絨毯とマロシュを引き取りにきます。それまでよろしくお願いします」
ミーゴともども深く頭を下げながら、血バラに潜り込むことができたことに安堵するマロシュだった。
「スヴェン、久しぶりー」
数日ぶりにスヴェンと顔を合わせたアシェルナオは、ようやく護衛見習いとしての出番が回って来たことで張り切っている様子に笑みを浮かべる。
「ああ、やっと出番だ。アシェルナオは元気だったか? 無理はしてないか? クラースもハルネスもトシュテンも心配していたぞ」
数日会わなかったアシェルナオの顔色が以前より優れない気がして、スヴェンは顔を覗き込む。
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アシェルナオはどれくらいみんなと会っていないのか頭の中で思いめぐらす。
「ナオ様、転移陣の準備はできていますよ」
スヴェンと話をしているアシェルナオにテュコが声をかける。
ここは王都の商人ギルドの転移陣の間。これから浄化先のデメトリアの領都へ転移するところだった。
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「はーい。スヴェン、行こう」
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「アシェルナオ」
いざ、転移。のその時、転移陣の間にシーグフリードが護衛騎士を連れて入ってきた。
「兄様、お見送りに来てくれたのですか?」
昨日は帰ってこなかったシーグフリードに、アシェルナオは駆け寄り、抱き着く。
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シーグフリードは、可愛くてたまらないと言った顔でアシェルナオの頭をぽんぽんと叩く。
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アシェルナオの挨拶を合図に、転移陣が発動した。
※※※※※※※※※※※※※※※※
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お休みさせていただきました。おかげで繁忙期もほぼほぼ終わろうとしています。いくつか重なってしまった心労も、解決の糸口を見つけて、いまどうにか手繰り寄せようとしているところです。
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