そのステップは必要ですか?  ~精霊の愛し子は歌を歌って溺愛される~

一 ことり

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第4部

助けるべきか?

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 「久しぶりにマフダルのゴンドリエーレが見れて嬉しかった。ありがとう」

 再びゴンドリエーレに戻ったマフダルに船着き場まで送ってもらったアシェルナオは、馬車の前で見送りを受けていた。

 「ナオ様、次はぜひエンロートにお越しください。夕凪亭の者たちも心待ちにしていますよ」

 「夕凪亭! ロザンネとルーロフは元気?」

 「ええ。ナオ様のことを新聞で知って、いつお会いできるかと気を揉んでいます」

 マフダルは女将とその弟の様子を思い出して笑みを浮かべる。

 「行きたい! 行きたい行きたい! ね、テュコ」

 「ええ、17年前にナオ様が託したことがどうなっているか、気になりますね」

 「あぁぁっっ、そうだった! わぁぁ、気になる気になる。僕、兄様や父様にお願いしてみる。マフダルも、またエンロートでね」

 託した、というか、できればいいな程度にしか思っていなかったアシェルナオだが、思い出したとたんに気になって仕方なかった。

 「はい、楽しみにしております」

 「じゃあ帰ろう。デメトリアのみなさん、もう少しお願いね。馬のみんなも頑張ってねー」

 「キュー!」

 アシェルナオとふよりんの出立の挨拶に、騎士たち、馬たちが元気な声をあげた。

 「ねぇ、テュコ」

 馬車に乗り、隣のリングダールをぎゅっ、と抱きしめながら向かいに座るテュコを見る。

 「なんです? ナオ様」

 「今日、兄様のところにお泊りに行きたい。兄様にふよりんが助けてくれたって報告したいんだ」
 



 シーグフリードが国王の間を訪れたのは夜の帳が降りた頃だった。

 扉を護る衛兵によって扉が開かれると、

 「お呼びでしょうか」

 疲労だけではない不機嫌さを隠しもせず、シーグフリードは年代を感じさせる重厚な一人掛けのソファに座るベルンハルドに向けて言葉を発する。

 国王の間にいるのはベルンハルドとローセボーム。それに先客のベルンハルドと同年代の男だった。

 「ああ、遅くに呼び立ててすまないな。掛けてくれ」

 ベルンハルドは空いているソファを目で指し示す。そこは先客の男の正面の席だった。

 シーグフリードがソファに座ると、侍従がそれぞれの前に香りのよいお茶を置いて下がっていく。

 「すまないが席をはずしてくれ」

 ローセボームは室内に控えていた護衛騎士たちに声をかけて人払いをすると、

 「私が同席してもよいのでしょうか」

 臆せずにカップに口をつけながらシーグフリードは目の前の男を観察する。

 年齢はベルンハルドと同年代。中背で細身。栗色の髪にヘイゼルの瞳。彫の深い顔立ち。身なりは若干質素ではあるが、その佇まいは貴族としての気品を保っている。

 ベルンハルドに面会しているせいか緊張した様子もあるが、まっすぐ向いた顔には確固たる強い意志が見え、何かの陳情だろうとシーグフリードは推察する。

 「ああ。私とローセボームが動くと、テイメンとティスがうるさくてな」

 「一国の王と宰相という立場を弁えているのなら、うるさいという問題ではないと思いますが」

 「耳が痛い。だが、前時代の腐敗を残したままで次世代に移行することはできない」

 珍しく固い口調になるベルンハルドに、シーグフリードは小さくため息を吐く。

 「手短にお願いしますよ。今夜はアシェルナオと一緒に寝る約束をしているんです」

 また泊まりにおいで、とアシェルナオに告げたのは今朝のことだったが、デメトリアの浄化から帰ってきたアシェルナオから、『今日兄様のお部屋にお泊りしたいです』という連絡が入ったのだ。

 モンノルドル湿原の瘴気だまりが解消しているという報告があり、各地の状況もようやく落ち着いてきたところで、遅くなるかもしれないが必ず帰るから待っているように返事をしたシーグフリードは、相手が国王でもその約束を違えたくなかった。

 「なんだと。ナオと寝るだと? いくら兄弟といえど、そのシチュエーションは羨ましすぎるぞ」

 ベルンハルドの表情が一気に不機嫌になったのを見て、もう帰ってもいいかな、と思うシーグフリードだった。
 



 ベルンハルドたちとの話が思った以上に長くなり、そのあともいろいろな根回しに奔走したシーグフリードがエルランデル公爵家に帰りついたのは夜が更けてからのことだった。

 「お帰りなさいませ、シーグフリード様」

 玄関の扉が開き、デュルフェルとシーグフリード付のメイドたちが出迎える。

 「遅くなってしまった。アシェルナオは?」

 「シーグフリード様のお部屋でお待ちです。レンカが側についております」

 「わかった」

 言いながらシーグフリードは階段を上がり、自室に向かった。

 自室のドアを開けると室内の証明は薄明るい程度に落とされており、すぐにレンカが静かに歩み寄る。

 「アシェルナオは?」

 「先ほどまでお待ちでしたが、お休みになってしまわれました。シーグフリード様、何か召し上がりますか?」

 「いや、いい。湯の準備は?」

 「いつでもできております」

 レンカと小声で話をしながら、シーグフリードは浴室に向かい、手短に身を清める。

 寝間着に着替えて寝台に行くと、

 「ん?」

 シーグフリードはまだ背後に控えているレンカを振り向く。

 「兄様に報告するんだ、と頑張って起きていらっしゃったのですが」

 レンカもシーグフリード越しにアシェルナオの姿を見て目を細める。

 添い寝の必需品のリングダールの口が大きく開けられ、その中に頭を突っ込んだ姿でアシェルナオは眠っていた。

 横ではふよりんも眠っているが、まるでリングダールに食べられている途中の、凄惨な現場にしか見えなかった。

 「レンカ、これは助けるべきか?」

 「限りなくお可愛らしいのでそのままでよろしいかと」

 「……わかった。レンカはもう下がっていい」

 シーグフリードの言葉に、レンカは一礼して去っていく。

 シーグフリードは掛け布団をめくってアシェルナオの横に身を滑らせると、

 「おやすみ、アシェルナオ」

 規則正しい寝息を立てる愛する弟に小さく声をかける。

 「ん-……リンちゃん……暗くて優しいねぇ……」

 アシェルナオは頭頂部をリングダールの口の奥にぐりぐりと押し付けた。

 「アシェルナオ、そんなに突っ込むと呑み込まれてしまいそうで怖いんだが……」

 シーグフリードの焦った声は誰にも届かなかった。

 
 ※※※※※※※※※※※※※※※※

 エール、いいね、ありがとうございます。
 
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