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それぞれの想い

サポナ村への想い

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 ロイドへの挨拶を終え、翌日はルーイとステフの両親の墓参りだ。

 次はいつ来ることがてきるかわからない墓を、三人で磨き上げ、改めて二人の両親に向かって頭を下げた。

 サポナ村のルーイとステフの家もまた、念入りに掃除をする。再びこの地に戻ってくることができるよう、この村に戦禍が及ぶことがないよう、願いを込めた。

 すぐに街へ戻るのが惜しく感じられ、以前の様に取り止めのない話を三人で交わし始める。

「二人は、私と共に都に行く必要はないのではないか?」

 ロイドと挨拶をしたときに、私の頭に浮かんでいたのはこの疑問であった。ルーイが都に行くと言い出しはしたが、そもそも都に用があるのは私だけではないのか?

「アイシュタルト、一人で行く気?」

「都に行かなければならないのは、私だけであろう?」

 戦の状況を知りたいのも、コーゼの情報が必要なのも、兵士となってコーゼに入り込まねばならぬのも、私だけである。

 二人はここで、もしくは街で暮らした方が幸せなのではないだろうか。そんな思いが湧き上がっていた。

「都までの道、わかるの?」

「そ、それは……」

「都で何すれば良いかは?」

「それも……」

「それでよく一人で行こうとしたな。」

 ルーイが呆れた顔で私を見た。

「地図、持ってねぇって言ってただろ?案内してやるから。アイシュタルトが大口開けて笑うまで、一緒に旅をするって、そう言っただろ?2周でも3周でも、ずっと付き合うよ。」

「ぼ、僕も一緒に行きますよ!都に行く必要はないかもしれませんが、ここに残る必要もありません。僕は、行きたいところへ行きます!旅商人ですから。」

 ステフもこれまでの何倍も自信をつけた顔を私に向けた。

 私はまだ、二人の思いがわかっていなかったのだな。

「二人は、ここにいた方がいいのではないかと、そう思ったのだ。」

「ここ?!」

「あぁ。」

「家以外何もねぇじゃん。周りは人の住めるような状態じゃないし、ここに残って何するの?」

「だが!生まれ育った家だろう?大切な村だろう?」

 私にはない、故郷ではないか。

「僕は、この家を直しましたがここに住もうとは思ってもいませんでした。ここは、兄さんとの繋がりだけで、生活する場ではないんです。」

「ステフの言う通りだ。人が暮らすから村なんだ。ここはもう、サポナ村じゃない。」

 人が暮らすから……二人の言うことは理解はできる。だが、故郷を失う喪失感は私には想像もできない。どんな形であれ、残っていれば良いというものではないのだな。

「サポナ村は、もう戻りません。」

「そうだろうなぁ。こんな状態じゃ、誰も住めねぇよな。」

「国境が近すぎるし、またいつ狙われるかわからないから。誰も住もうなんて思わないよ。」

「別の村が、もうできたからな。仕方ない。」

「国境……か。」

「そう。この位置じゃ、すぐに攻められるからな。サポナ村は戻らないよ。」

「戻したいとは、思わぬのか?」

「そりゃ、思うよ!だけど、俺一人で何ができる?地図からも消された村。国から諦められた村。見捨てられた村なんだよ!」

 ルーイの怒りを含んだような声が、静かな家の中に響き渡る。

「すまぬ。余計なことを言った。」

「いや、こっちこそ。悪りぃ。」

 ルーイと私の間に気まずい沈黙が流れる。

「国境があの位置ではどうしようもないんです。シャーノのように攻めてくる相手ではないとわかっていれば良いんですが、今のコーゼにはそれは望めません。こうして、たまに訪れるだけなら問題ないですし、数日なら泊まることもできます。今の形で良いんです。」

 ステフが自分に、私たちに、言い聞かせるように話した。

 国境さえあの位置ではなければ、隣がコーゼではなければ。だが好戦的な王子へと代替わりが見通されている今後、サポナ村が戻ることはないということか。
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