闇のなかのジプシー

関谷俊博

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翌日の昼休み、昼食を食べ終わる頃のことだ。 
柊がポーチのなかを探っていることに、僕は気がついた。
ポーチからでてきたのは、白い小さな錠剤だった。柊は錠剤を口に含むと、水筒のお茶でいっきに喉の奥に流しこんだ。

「風邪でもひいたの?」

僕がたずねると、柊は黙ってふりむいた。

「ごめん。よけいなことだったかな」

「別に…」

柊の眼は冷やかだった。

「どうしてそんなことに興味を持つの」

柊は繰り返した。

「どうして椿くんは、私に興味を持つの」 

「なんだか、きみがいつも一人でいるように思えたから…孤独に耐えるのは大変なことだよ」

僕としては苦しまぎれの言い訳だった。
柊にした質問に大した理由はない。けれども、この言い訳には僕の正直な感想も含まれていた。

柊は首を傾げた。

「孤独に耐える?」

柊は冷めた声で呟いた。

「不思議なことを言うのね。孤独は耐えるものなの?」

「そうとも限らないけれど…きみは一人でいて寂しくないのかい?」

「別に…」

これでは取りつく島がない。苦しまぎれの言い訳は失敗だった。柊の声は最後まで冷めていた。

「ごめんなさい。寂しいって気持ちがどんなものだか、私にはわからないの」
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