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ちびちび りゅうぐう
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ともくんは つくえの ひきだしで ちびりゅうを かっていました。てのひらに のるほどの ちいさな りゅうです。
そして ともくんと ちびりゅうには びゃっこくんという ともだちが いました。
ちいさな しろい キツネの かみさまです。
びゃっこくんは みはらしやまの ちいさな ほこらに すんでいて ともくんと ちびりゅうは まいにちの ように そこへ あそびに いっていました。
ともくんは びゃっこくんのいる ちいさな へいちを「ひみつきち」と よんでいました。
びゃっこくんの ほこらの すぐ わきには カエデの きがあって いちばん したの えだには わりばしと ひもで つくった ブランコが ありました。
べつの えだには わりばしを くみあわせて つくった ちいさな いえも ありました。
すべりだいや シーソーだって ありました。
みんな ともくんが つくったのです。
「ひみつきち」には ともくんと ちびりゅうの ほかには だれも やってきませんでした。
ともくんも ちびりゅうも びゃっこくんも 「ひみつきち」での たのしい まいにちが ずっと つづくと おもって いました。
そのひ までは…。
「こまりましたねえ」
びゃっこくんは ためいきを つきました。
「まさか ここに いえが たつ なんて おもっても みませんでした。だって ぼくの ことも すっかり わすれさられて いたんですから」
はなしは すこし まえに さかのぼります。
いつものように ともくんと ちびりゅうは「ひみつきち」に やってきました。
すると そこに さぎょうふくを きた ふたりの おとこの ひとが いたのです。
「なにを してるんですか?」
ともくんは おとこのひとの ひとりに たずねました。おとこのひとは さんきゃくの ついた ぼうえんきょうのような きかいを のぞきこんで いました。
「そくりょうを してるんだよ」
「そくりょう?」
「ああ。じゅうたくぞうせいを するのさ」
「じゅうたくぞうせいって なんですか?」
ともくんは たずねました。
「やまを きりくずして いえを つくるんだ」
おとこのひとは こたえました。
「ここは へいちだから そのまま いえが たつけど もっと いえを たてるには やっぱり やまを きりくずす ひつようが あるね」
やがて ふたりの おとこのひとは やまを おりていきました。
「きっと この ほこらも こわされてしまうんだろうね」
ともくんは びゃっこくんに いいました。
「どうしましょう…ぼくの いえが なくなっちゃいます」
びゃっこくんは また ふかい ためいきを つきました。
「ひどいなあ」
ともくんも ためいきを つきました。
「なんとか たすけて あげたいけれど…」
「ぼくだけでは ないのです」
びゃっこくんは いいました。
「ほかにも こまっている ひとが いるのです」
「どこに いるの?」
ともくんは たずねました。
「がお?」
ちびりゅうも くびをかしげました。
びゃっこくんは「コン」と せきばらいを しました。
「すぐ ごきんじょ です」
びゃっこくんは そう いうと ぴょんぴょん とびはねながら あかつちの むきだした がけに ちかづいて いきました。
ともくんと ちびりゅうも あわてて あとを おいかけます。
「ここです! ここです!」
びゃっこくんが たちどまったのは がけから わきだしている いずみの まえでした。
いずみからは ぷくり ぷくりと あぶくが たちのぼっています。
ともくんが ながめていると しだいに あぶくの いきおいは つよくなって いきました。
そして ちいさな ちいさな おんなのひとが いずみから かおを だしました。
「はじめまして」
おんなのひとは いいました。ともくんは おどろきで ことばも でませんでした。
「おとひめさまです」
びゃっこくんが いいました。
「ほんとうに おとひめさまなの?」
ともくんは たずねました。
「はい。おとひめです」
おんなのひとは いずみから あがってきて こたえました。
おんなのひとは あかい はごろもを きていました。たしかに すがたかたちは おとひめさまです。
けれども おとひめさまは うみの そこの りゅうぐうじょうに すんでいるのでは なかったのでしょうか。
ともくんが えほんで よんだ「うらしまたろう」では「たいや ヒラメの まいおどり」だった きがするのです。
ともくんは そのことを おとひめさまに たずねてみました。
「うみから おひっこしを しましたの」
おとひめさまは こたえました。
「すこし きぶんを かえるためにも うみの つぎは やまが いいかなって」
たしかに いちおう はなしの すじは とおっています。ともくんは つづけて たずねました。
「おとひめさまって そんなに ちいさかったの?」
「そのあたりの ことは また あとで おはなししますわ。とにかく あまり じかんが ないのです。この いずみも まもなく なくなってしまいますから」
「そうなんです! あまり じかんが ないのです!」
びゃっこくんも いいました。
「また どこかへ おひっこしを しなければ ならないのでしょうが あんぜんな ところで なければ なりません」
おとひめさまは そう いいました。
「あんぜんな ところかあ」
ともくんは かんがえました。やがて…
「あったよ! あんぜんな ところ!」
ともくんは いいました。
「どこですか?」
びゃっこくんと おとひめさまは そろって たずねました。
「ぼくんち!」
ともくんは いいました。
そんなわけで おとひめさまと びゃっこくんは ともくんの いえに やってきました。
「ひふが かんそうすると おはだに わるいのです」
おとひめさまが そう いうので ともくんは シダのはを いずみの みずで しめらせました。そして そのはに くるんで おとひめさまを いえまで はこんだのです。
びゃっこくんは じぶんから ともくんの シャツの ポケットに もぐりこんで きたので ては かかりませんでしたが。
きょうは にちようび なので ともくんの パパも ママも いえに います。
「おとひめと もうします」
おとひめさまは ていねいに あたまを さげました。
「これは これは…よく おこしくださいました…」
パパも ていねいに あたまを さげました。
おとひめさまと びゃっこくん そして ちびりゅうが いる テーブルの まわりには パパと ママ ともくんが すわっています。
「はじめまして。ぼく びゃっこ といいます」
びゃっこくんも べこりと あたまを さげました。
「これは…これは…」
パパは また いいました。
「ともくんから おはなしは うかがって います。キツネの かみさま ですね」
「そうです」
びゃっこくんは いいました。
「しかし おふたりとも…うちは せまいので…なにかと ごふべんを おかけ するんじゃないかと…」
パパは しんぱいそうに チラッと ママの かおを みました。
「この サイズなら もんだいは ないんじゃないかしら」
ママは いいました。
「そうですな…このサイズなら…しかし どうして おとひめさまは そんなに ちいさいのですか?」
パパは ふしぎそうな かおで おとひめさまに たずねました。
「わたし とくに おおきさは きまって いませんの」
おとひめさまは こたえました。
「あの いずみに いたから この おおきさで いましたが わたしは おおきくも ちいさくも なれるのです」
「がお?」
ちびりゅうが くびを かしげました。
「かみさまって そういうものなの?」
ともくんは びゃっこくんを ふりかえりました。
びゃっこくんは「コン」と せきばらいを しました。
「そうなんです。ぼくも ちいさな ほこらに すんでいたから この おおきさで いただけなんです。そのきになれば おおきくも なれます。かみさまに おおきさは かんけいないのです」
「ふ~ん。じゃあ おとひめさまも かみさまなんだ」
パパも ママも ともくんも すっかり かんしんして しまいました。
「しかしですな。とにかく うちは てぜま でして…」
パパは また もうしわけなさそうに いいました。
「それでは この おおきさの ままで いますわ」
おとひめさまは いいました。
「さて おふたりの あたらしい おすまいですが どこに いたしましょうか?」
パパは おとひめさまと びゃっこくんに たずねました。
「できれば おひさまの ひかりが あたる ところが いいんですが…」
おとひめさまは いいました。
「ぼくもです。ぜいたくは いえませんが…」
びゃっこくんも いいました。
「にわに いけを つくろう!」
ともくんは いいました。
「ねえ。いいでしょう? パパ」
パパは おおきく うなずきました。
「つくりましょう! おとひめさまの ためなら ひとはだ ぬぎましょう!」
すると ママは きびしい こえで いいました。
「かかった おかねは パパの おこずかいから ひいておく からね!」
「が、がお?」
ちびりゅうが すこし おびえた かおで ママを みあげました。
「だけど いけが できるまでは どうするの?」
ともくんは いいました。
「そうですなあ。とりあえずは どこかに いて いただかなくては なりません」
パパも うでぐみを して いいました。
「そこ だめですか?」
おとひめさまが ゆびさしたのは たなに おかれた きんぎょが およいでいる すいそう でした。
「きんぎょと いっしょだけど だいじょうぶ なの?」
ともくんは たずねました。おとひめさまが きんぎょに たべられたりは しないかと しんぱい だったのです。
「なんの もんだいも ありません」
おとひめさまは こたえました。
「さかなたちには むかしから なれています。すぐに てなずけて みせますわ」
「わっはっは!」
わきで みていた パパが おおごえで わらいました。
「おとひめさまは じょせいとして みりょくが ありますからなあ」
すると ママが こわい かおで パパを にらみつけました。
パパは それに きが ついて すぐに わらうのを やめました。
ともくんは おとひめさまを てのひらに のせて そっと すいそうに はこびました。
すると おとひめさまは ぽちゃんと すいそうに とびこみました。
そして すぐに ひらひらと およぎはじめました。
さんびきの きんぎょは さいしょの うちこそ なにごとかと すいそうの なかを いったりきたり していましたが すぐに いつものように おとなしく なりました。
おとひめさまも きもちよさそうに みずくさの あいだを およぎまわっています。
これなら だいじょうぶそうです。
そんな わけで おとひめさまは ともくんの うちの すいそうに しばらく すむことになりました。
いけが できるまでの かりずまい です。
いっぽう びゃっこくんは というと しばらく ちびりゅうの ひきだしを まがりする ことになりました。
これも せいしきな いえが できるまでの かりずまい でした。
「それでは しつれい いたします」
びゃっこくんは れいぎただしく あいさつを すると ちびりゅうの ひきだしへ もぐりこんでいきました。
その よるの ことです。
「あの…あの…」
ささやくような こえが します。
おとひめさまの いる すいそう からでした。
ともくんは おそるおそる すいそうに ちかづきました。
ちびりゅうも とんできました。そして すいそうの ふちに とまると なかを のぞきこみ ました。
「がお?」
おとひめさまは ひらひらと うかびあがって くると ともくんに いいました。
「あ、あの。なにか たべるもの ありませんか」
まあ そうです。いくら かみさま とはいえ いきている わけですから なにも たべないで いる わけにも いきません。
ちびりゅうや びゃっこくんは きほんてきに なんでも たべますが おとひめさまに すききらいは あるのでしょうか。
「おとひめさまは なにを たべるの?」
ともくんは たずねました。
「いつもは みずくさや コケを たべているんです。ですから ここにある みずくさを たべても いいんですが…」
おとひめさまは いいました。
「たべてしまうと たぶん ごめいわく でしょう?」
この みずくさは きんぎょたちの ために パパが おみせで かってきた ものです。
たしかに みずくさが なくなれば また かいに いかなければ なりません。
「なにか あったかなあ?」
ともくんが てを さしだすと おとひめさまは トビウオのように はねて てのひらに のりました。
「いっしょに さがして みようよ」
ともくんは キッチンの とだなの ひきだしを あけました。
おとひめさまは きょうみしんしんで ひきだしの なかを ながめています。
「これは なんですの? はじめて みますわ」
おとひめさまは ほそながい あかい はこを ゆびさしました。
「これは クッキーだよ。あまくて おいしいよ」
「クッキー? はじめて きく たべもの ですわ」
「たべてみる?」
ともくんが さしだした クッキーに おとひめさまは おそるおそる くちを つけました。
そして ひとくち かじると いいました。
「あら。おいしい!」
おとひめさまは たちまち クッキーを いちまい たべてしまいました。
「やめられません。もう いちまい いただけますか?」
おとひめさまは いいました。
ともくんと パパの いけづくりが はじまりました。
パパは ホームセンターで いけの かたちをした おおきな プラスチックの いれものを かってきました。
そして スコップで にわに あなを ほりはじめました。ともくんも シャベルで あなほりを てつだいます。
やがて ちょうどいい おおきさの あなが ほれました。
そしと プラスチックの いれものを その あなに はめこみました。
「いい かんじじゃないか?」
パパは いいました。
「これが いけに なるんだね」
ともくんも いいました。
つぎに ともくんと パパは いけの そこに じゃりを しきつめて みずくさを うえました。
みずが よごれないように フィルターも おきました。
みんな ホームセンターで かってきた ものです。
いけの まわりには ともくんが どんどん いわを つみあげて いきます。
パパは いけの まんなかに おおきな ひらたい いわを おきました。ちいさな しま のようにも みえます。
「これは なに?」
ともくんは たずねました。
「ここにね。びゃっこくんの いえを おくんだよ」
しまから きしへは いたの はしを かけました。びゃっこくんが わたれる ように です。
「さてと…」
パパは パンパンと てを たたくと いいました。
「パパが てつだうのは ここまで。おとひめさまと びゃっこくんの いえは ともくんが つくるんだよ」
ともくんは わりばしを くみあわせて おとひめさまの ちいさな いえを つくりはじめ ました。おとひめさまが すむの ですから「ちびちび りゅうぐう」です。
えほんで みた「りゅうぐうじょう」の かたちに なるように ともくんは いっしょうけんめい つくりました。
つぎは やはり わりばしを つかった びゃっこくんの いえです。こちらは「みはらしやま」にあった びゃっこくんの ほこらを まねて つくりました。
びゃっこくんの いえも「ちびちび りゅうぐう」も ともくんが クレヨンで いろを ぬり そのうえから パパが ニスを かけました。
これで みずに ぬれても だいじょうぶです。
それから ともくんは びゃっこくんの いえと「ちびちび りゅうぐう」を はりがねで しっかりと いわに こてい しました。これで どこかへ とんでいって しまうことも ありません。
ともくんは この きかいに すいそうの きんぎょも いけに うつすことに しました。
おとひめさまは すっかり きんぎょたちと なかよしに なっていたのです。
そのひ おとひめさまと びゃっこくん それに にひきの きんぎょは にわの いけに うつりました。
おとひめさまと にひきの きんぎょたちは そらを まうように ひらひらと いけの なかを およぎまわりました。とても きもちが よさそうです。
「やあ。これは いいですねえ」
びゃっこくんも はしを いったり きたりして とても うれしそうでした。
そのよる。ばんごはんを たべたあと ともくんと パパは テレビを ながめて いました。
ママは キッチンで おさらを あらっています。
ちびりゅうは まだ テーブルの うえで デザートの メロンを かじって いました。
「きょうも ぜんこくてきに カラカラてんきが つづいています」
テレビからは こんな ニュースが ながれて います。
「このままだと しんこくな みずぶそくが しんぱいされます」
「あめが ふらないと のみみずに こまるんだよね?」
ともくんは パパに たずねました。
「うん。だけど それだけじゃないんだ」
パパが かおを しかめました。
「イネが かれて しまったり やさいが そだたなくなったり。いろいろと こまることが おこるんだよ」
「まえから ふしぎに おもっている ことが あるんですよ。よかったら おしえて いただけませんか」
あるひ パパが おとひめさまに たずねました。
テーブルの うえには おとひめさまの ほかに ちびりゅうと びゃっこくんがいて ともくんと パパと ママは おとひめさまたちを かこむように すわって いました。
「なんでしょう? わたしに わかることでしたら なんでも おこたえしますわ」
おとひめさまは やさしく ほほえみました。
パパは でれでれした かおに なりかけました。
けれども となりに ママが すわっているので せきばらいをして まじめな かおに もどりました。
「じつは うらしまたろうの おはなしに ついてなのです」
「うらしまたろう ですか…。あれは たんなる おはなしですのよ。わたしは おあいしたことは ありません」
「そうなの?じゃあ たまてばこも?」
ともくんが たずねました。
「はい。ありません」
おとひめさまは きっぱりと こたえました。
「いや、わたしが おたずねしたいのは そこではないのです」
パパは くびを よこに ふりました。
「いくら おはなしとは いっても りゅうぐうじょうに りゅうは とうじょうしません。それは どうして なんですか?」
「そうよね」
ママも うなずきました。
「りゅうが でてこないのに りゅうぐうじょうって やっぱり おかしいもの」
「たしかに そうですねえ」
びゃっこくんも いいました。
「それは いまの わたしの すがたが ほんとうの わたしの すがたでは ないからですわ」
「ほんとうの すがたでは ない!」
パパは いすから たちあがりました。
「みたところ ひとの すがたの ようですが…」
パパは いっぼ さがって おとひめさまを ながめました。
「うん。ぜったい ひとだ」
「ごせつめい するよりも みていただいた ほうが はやいですわね」
「みる?」
ともくんは ききかえしました。
「ええ。わたしは じつは こういう ものなのです!」
おとひめさまが コマのように ゆっくりと まわりはじめました。まるで てんにょの まいの ようです。
おとひめさまは いったい なにを みせる つもりなのでしょうか。
おとひめさまは まわって まわって まわりつづけました。
おとひめさまの すがたは しだいに きんいろの ひかりに つつまれて いきました。
きんいろの ひかりも くるくると うずを まきます。
やがて その きんいろの ひかりの なかから なにかが すがたを あらわしました。
「あっ!」
ともくんと パパと ママは そろって こえを あげました。
びゃっこくんも「コン!」と なきました。
あらわれたのは ちいさな りゅうでした。にほんの つのも りっぱな つばさも あります。
そのすがたは なんと ちびりゅうに そっくりです!
「が、がお?」
ちびりゅうが めを まるくしています。
「わたしは りゅうおうの むすめ なのです」
りゅうおう とは りゅうの なかでも いちばん えらい おうさまの ことです。りゅうに なっても おとひめさまの こえは おとひめさまの ままでした。
「りゅうの すむ おみや。それが りゅうぐうの ゆらいですわ。ちびりゅうさんとは ごしんせきに なるのかも しれませんわね」
りゅうに なった おとひめさまは いいました。
あいかわらず あめは ふりませんでした。
「のうぎょうへの しんこくな えいきょうがしんぱいされます」。
テレビの ニュースでは そう いっていました。
「やさいが たかく なるんですって。こまったわ」
ママが まゆを ひそめました。
「あめ ふらないかなあ。どう? ちびりゅう」
ともくんは ちびりゅうに たずねました。
ちびりゅうは すこし くびを かしげた あとで「がお」と なきました。
なきごえは いたって ふつう です。
ちびりゅうが「ぎゃお」となくと あめに なるのですが この ようすでは あまり きたい できそうに ありませんでした。
そのとき ともくんは ちびりゅうと いえで かくれんぼを して あそんで いました。
へやの どこかに かくれた ちびりゅうを ともくんが みつけるのです。
ママは スーパーへ おかいものに でかけて るすでした。
ともくんは へやじゅうを さがしまわりました。
ちびりゅうは カーテンの かげに かくれて いました。
「みいつけた! ちびりゅう!」
ともくんが いった とき ドスンと じひびきが しました。いえが ぐらっと ゆれました。
だけど いえが ゆれたのは その いっかいだけ。どうやら じしんでは なさそうです。
ともくんは ちびりゅうを かたに のせて そとへ とびだしました。
ともくんは いきが とまるほど おどろきました。
にわさきに おおきな おおきな りゅうが いて ともくんを みおろしていたのです。
それは あおくて とにかく おおきな りゅうでした。きっと ちびりゅうの せんばいぐらい あるのでは ないでしょうか。
りゅうは おおきな つばさを ひろげました。
ものすごい かぜが まきおこったので ともくんは ちびりゅうが とんでいって しまわないように しっかりと だきしめて いなければ なりませんでした。
「むすめを むかえに きた」
りゅうが はなすたび くうきが びりびりと ふるえます。
「むすめ?」
ともくんは ゆうきを だして りゅうに たずねました。
「もしかして あなたは りゅうおうですか?」
「いかにも」
りゅうは ふかく うなずきました。
「まず すみかを なくしかけた おとひめを すくってくれた おまえに れいを いいたい」
「はあ」
ともくんが うなずいた ときです。
「おひさしぶりですわね。おとうさま」
いつのまにか いけから あがってきた おとひめさまが とまくんの あしもとに たっていました。
「コン!」
びゃっこくんも やってきました。
りゅうおうは おとひめさまに たずねました。
「ひさしぶりだな。おとひめ。そろそろ わたしと いっしょに てんに のぼるか?」
りゅうおうは あたりに ひびきわたる こえで いいました。
「ひとの せかいは すみにくい。そらを じゆうに かけるのも いいものだぞ!」
「いいえ」
おとひめさまは くびを よこに ふりました。
「わたし。ここが たいへん きにいりましたの」
「ほう」
りゅうおうは いがいそうに おとひめさまを のぞきこみました。
「だって クッキーという とても おいしい たべものが あるのですもの。その あじが わすれられませんの。だから しばらくは ここに すまわせて いただこうと おもって いるんです」
「クッキー?」
りゅうおうは くびを かしげました。
「それは なんだ?」
「ちょっと まってて」
ともくんは いえの なかに もどると クッキーの はこを もって もどって きました。
「これだよ」
りゅうおうは ともくんの さしだした クッキーに おそるおそる くちを つけました。
ひとくち かじると
「ふむ。たしかに うまい」
りゅうおうは かんしんした ようすで いいました。
「さいきんの たべものは ほんとうに よく できている。すまんが もう ひとくち たのむ」
ともくんは りゅうおうに もう いちまい クッキーを さしだしました。
「これは やめられん」
りゅうおうは そう いいながら クッキーを ぜんぶ たべてしまいました。
「ごちそうになった おれいに…いや むすめを たすけてもらった おれいに ねがいごとを ひとつだけ かなえよう。いってみよ」
りゅうおうは ともくんに いいました。
「う~ん。ねがいごとと いっても」
ともくんは なかなか ねがいごとを おもいつきませんでした。
ごはんは おいしいし よるは よく ねむれるし まいにちが とても たのしかったからです。
「う~ん」
りゅうおうは じれて きたようです。こまった かおで いいました。
「なにか ないのか?」
「う~ん」
「あるだろう? ひとつぐらい」
「う~ん。あっ そうだ!」
ともくんは やっと おもいつきました。
「あめを ふらせてください! みずが たりなくて みんな こまってるんです!」
「しょうち!」
りゅうおうは そう さけぶと おおきな つばさを はばたかせ そらへと のぼって いきました。
ちょうど そこへ ママが スーパーから もどってきました。
「えっ! あめが ふるの。はやく せんたくものを とりこまないと」
ともくんから はなしを きいた ママは いいましたが すぐに しんぱいそうな かおに なりました。
「だけど ともくん。そんな ねがいごとをして だいじょうぶ?」
「どうして?」
「いちどに あめが ふったら かわが あふれたり しないかしら」
「それは ごしんぱいには およびません。おとうさまも きちんと こころえて いますわ」
おとひめさまが いいました。
「このあたりも すこしは ふりますが たくさん あめが ふるのは ダムや ちょすいちなど いちぶの ばしょ だけですの。だから みずの ひがいが おこる しんぱいは ありません」
そのとき ちびりゅうが「ぎゃお」となきました。そらから あめが ぽつりぽつりと ふりはじめました。
あめは みっかみばん ふりつづきました。
テレビの ニュースに よれば「きろくてきな ごうう」だった ばしょも ありましたが みずの ひがいは ひとつも ありませんでした。
よっかめの あさ。あめが あがりました。
ともくんは ちびりゅうと そとに でてみました。
「あっ!」
ともくんは そらを みあげて さけびました。
ちびりゅうも「がお!」と なきました。
そらに にじが でていました。まるで そらに かかった なないろの はしのようです。
そして にじの うえには…りゅうの かたちを した くもが ぽっかりと うかんでいました。
そして ともくんと ちびりゅうには びゃっこくんという ともだちが いました。
ちいさな しろい キツネの かみさまです。
びゃっこくんは みはらしやまの ちいさな ほこらに すんでいて ともくんと ちびりゅうは まいにちの ように そこへ あそびに いっていました。
ともくんは びゃっこくんのいる ちいさな へいちを「ひみつきち」と よんでいました。
びゃっこくんの ほこらの すぐ わきには カエデの きがあって いちばん したの えだには わりばしと ひもで つくった ブランコが ありました。
べつの えだには わりばしを くみあわせて つくった ちいさな いえも ありました。
すべりだいや シーソーだって ありました。
みんな ともくんが つくったのです。
「ひみつきち」には ともくんと ちびりゅうの ほかには だれも やってきませんでした。
ともくんも ちびりゅうも びゃっこくんも 「ひみつきち」での たのしい まいにちが ずっと つづくと おもって いました。
そのひ までは…。
「こまりましたねえ」
びゃっこくんは ためいきを つきました。
「まさか ここに いえが たつ なんて おもっても みませんでした。だって ぼくの ことも すっかり わすれさられて いたんですから」
はなしは すこし まえに さかのぼります。
いつものように ともくんと ちびりゅうは「ひみつきち」に やってきました。
すると そこに さぎょうふくを きた ふたりの おとこの ひとが いたのです。
「なにを してるんですか?」
ともくんは おとこのひとの ひとりに たずねました。おとこのひとは さんきゃくの ついた ぼうえんきょうのような きかいを のぞきこんで いました。
「そくりょうを してるんだよ」
「そくりょう?」
「ああ。じゅうたくぞうせいを するのさ」
「じゅうたくぞうせいって なんですか?」
ともくんは たずねました。
「やまを きりくずして いえを つくるんだ」
おとこのひとは こたえました。
「ここは へいちだから そのまま いえが たつけど もっと いえを たてるには やっぱり やまを きりくずす ひつようが あるね」
やがて ふたりの おとこのひとは やまを おりていきました。
「きっと この ほこらも こわされてしまうんだろうね」
ともくんは びゃっこくんに いいました。
「どうしましょう…ぼくの いえが なくなっちゃいます」
びゃっこくんは また ふかい ためいきを つきました。
「ひどいなあ」
ともくんも ためいきを つきました。
「なんとか たすけて あげたいけれど…」
「ぼくだけでは ないのです」
びゃっこくんは いいました。
「ほかにも こまっている ひとが いるのです」
「どこに いるの?」
ともくんは たずねました。
「がお?」
ちびりゅうも くびをかしげました。
びゃっこくんは「コン」と せきばらいを しました。
「すぐ ごきんじょ です」
びゃっこくんは そう いうと ぴょんぴょん とびはねながら あかつちの むきだした がけに ちかづいて いきました。
ともくんと ちびりゅうも あわてて あとを おいかけます。
「ここです! ここです!」
びゃっこくんが たちどまったのは がけから わきだしている いずみの まえでした。
いずみからは ぷくり ぷくりと あぶくが たちのぼっています。
ともくんが ながめていると しだいに あぶくの いきおいは つよくなって いきました。
そして ちいさな ちいさな おんなのひとが いずみから かおを だしました。
「はじめまして」
おんなのひとは いいました。ともくんは おどろきで ことばも でませんでした。
「おとひめさまです」
びゃっこくんが いいました。
「ほんとうに おとひめさまなの?」
ともくんは たずねました。
「はい。おとひめです」
おんなのひとは いずみから あがってきて こたえました。
おんなのひとは あかい はごろもを きていました。たしかに すがたかたちは おとひめさまです。
けれども おとひめさまは うみの そこの りゅうぐうじょうに すんでいるのでは なかったのでしょうか。
ともくんが えほんで よんだ「うらしまたろう」では「たいや ヒラメの まいおどり」だった きがするのです。
ともくんは そのことを おとひめさまに たずねてみました。
「うみから おひっこしを しましたの」
おとひめさまは こたえました。
「すこし きぶんを かえるためにも うみの つぎは やまが いいかなって」
たしかに いちおう はなしの すじは とおっています。ともくんは つづけて たずねました。
「おとひめさまって そんなに ちいさかったの?」
「そのあたりの ことは また あとで おはなししますわ。とにかく あまり じかんが ないのです。この いずみも まもなく なくなってしまいますから」
「そうなんです! あまり じかんが ないのです!」
びゃっこくんも いいました。
「また どこかへ おひっこしを しなければ ならないのでしょうが あんぜんな ところで なければ なりません」
おとひめさまは そう いいました。
「あんぜんな ところかあ」
ともくんは かんがえました。やがて…
「あったよ! あんぜんな ところ!」
ともくんは いいました。
「どこですか?」
びゃっこくんと おとひめさまは そろって たずねました。
「ぼくんち!」
ともくんは いいました。
そんなわけで おとひめさまと びゃっこくんは ともくんの いえに やってきました。
「ひふが かんそうすると おはだに わるいのです」
おとひめさまが そう いうので ともくんは シダのはを いずみの みずで しめらせました。そして そのはに くるんで おとひめさまを いえまで はこんだのです。
びゃっこくんは じぶんから ともくんの シャツの ポケットに もぐりこんで きたので ては かかりませんでしたが。
きょうは にちようび なので ともくんの パパも ママも いえに います。
「おとひめと もうします」
おとひめさまは ていねいに あたまを さげました。
「これは これは…よく おこしくださいました…」
パパも ていねいに あたまを さげました。
おとひめさまと びゃっこくん そして ちびりゅうが いる テーブルの まわりには パパと ママ ともくんが すわっています。
「はじめまして。ぼく びゃっこ といいます」
びゃっこくんも べこりと あたまを さげました。
「これは…これは…」
パパは また いいました。
「ともくんから おはなしは うかがって います。キツネの かみさま ですね」
「そうです」
びゃっこくんは いいました。
「しかし おふたりとも…うちは せまいので…なにかと ごふべんを おかけ するんじゃないかと…」
パパは しんぱいそうに チラッと ママの かおを みました。
「この サイズなら もんだいは ないんじゃないかしら」
ママは いいました。
「そうですな…このサイズなら…しかし どうして おとひめさまは そんなに ちいさいのですか?」
パパは ふしぎそうな かおで おとひめさまに たずねました。
「わたし とくに おおきさは きまって いませんの」
おとひめさまは こたえました。
「あの いずみに いたから この おおきさで いましたが わたしは おおきくも ちいさくも なれるのです」
「がお?」
ちびりゅうが くびを かしげました。
「かみさまって そういうものなの?」
ともくんは びゃっこくんを ふりかえりました。
びゃっこくんは「コン」と せきばらいを しました。
「そうなんです。ぼくも ちいさな ほこらに すんでいたから この おおきさで いただけなんです。そのきになれば おおきくも なれます。かみさまに おおきさは かんけいないのです」
「ふ~ん。じゃあ おとひめさまも かみさまなんだ」
パパも ママも ともくんも すっかり かんしんして しまいました。
「しかしですな。とにかく うちは てぜま でして…」
パパは また もうしわけなさそうに いいました。
「それでは この おおきさの ままで いますわ」
おとひめさまは いいました。
「さて おふたりの あたらしい おすまいですが どこに いたしましょうか?」
パパは おとひめさまと びゃっこくんに たずねました。
「できれば おひさまの ひかりが あたる ところが いいんですが…」
おとひめさまは いいました。
「ぼくもです。ぜいたくは いえませんが…」
びゃっこくんも いいました。
「にわに いけを つくろう!」
ともくんは いいました。
「ねえ。いいでしょう? パパ」
パパは おおきく うなずきました。
「つくりましょう! おとひめさまの ためなら ひとはだ ぬぎましょう!」
すると ママは きびしい こえで いいました。
「かかった おかねは パパの おこずかいから ひいておく からね!」
「が、がお?」
ちびりゅうが すこし おびえた かおで ママを みあげました。
「だけど いけが できるまでは どうするの?」
ともくんは いいました。
「そうですなあ。とりあえずは どこかに いて いただかなくては なりません」
パパも うでぐみを して いいました。
「そこ だめですか?」
おとひめさまが ゆびさしたのは たなに おかれた きんぎょが およいでいる すいそう でした。
「きんぎょと いっしょだけど だいじょうぶ なの?」
ともくんは たずねました。おとひめさまが きんぎょに たべられたりは しないかと しんぱい だったのです。
「なんの もんだいも ありません」
おとひめさまは こたえました。
「さかなたちには むかしから なれています。すぐに てなずけて みせますわ」
「わっはっは!」
わきで みていた パパが おおごえで わらいました。
「おとひめさまは じょせいとして みりょくが ありますからなあ」
すると ママが こわい かおで パパを にらみつけました。
パパは それに きが ついて すぐに わらうのを やめました。
ともくんは おとひめさまを てのひらに のせて そっと すいそうに はこびました。
すると おとひめさまは ぽちゃんと すいそうに とびこみました。
そして すぐに ひらひらと およぎはじめました。
さんびきの きんぎょは さいしょの うちこそ なにごとかと すいそうの なかを いったりきたり していましたが すぐに いつものように おとなしく なりました。
おとひめさまも きもちよさそうに みずくさの あいだを およぎまわっています。
これなら だいじょうぶそうです。
そんな わけで おとひめさまは ともくんの うちの すいそうに しばらく すむことになりました。
いけが できるまでの かりずまい です。
いっぽう びゃっこくんは というと しばらく ちびりゅうの ひきだしを まがりする ことになりました。
これも せいしきな いえが できるまでの かりずまい でした。
「それでは しつれい いたします」
びゃっこくんは れいぎただしく あいさつを すると ちびりゅうの ひきだしへ もぐりこんでいきました。
その よるの ことです。
「あの…あの…」
ささやくような こえが します。
おとひめさまの いる すいそう からでした。
ともくんは おそるおそる すいそうに ちかづきました。
ちびりゅうも とんできました。そして すいそうの ふちに とまると なかを のぞきこみ ました。
「がお?」
おとひめさまは ひらひらと うかびあがって くると ともくんに いいました。
「あ、あの。なにか たべるもの ありませんか」
まあ そうです。いくら かみさま とはいえ いきている わけですから なにも たべないで いる わけにも いきません。
ちびりゅうや びゃっこくんは きほんてきに なんでも たべますが おとひめさまに すききらいは あるのでしょうか。
「おとひめさまは なにを たべるの?」
ともくんは たずねました。
「いつもは みずくさや コケを たべているんです。ですから ここにある みずくさを たべても いいんですが…」
おとひめさまは いいました。
「たべてしまうと たぶん ごめいわく でしょう?」
この みずくさは きんぎょたちの ために パパが おみせで かってきた ものです。
たしかに みずくさが なくなれば また かいに いかなければ なりません。
「なにか あったかなあ?」
ともくんが てを さしだすと おとひめさまは トビウオのように はねて てのひらに のりました。
「いっしょに さがして みようよ」
ともくんは キッチンの とだなの ひきだしを あけました。
おとひめさまは きょうみしんしんで ひきだしの なかを ながめています。
「これは なんですの? はじめて みますわ」
おとひめさまは ほそながい あかい はこを ゆびさしました。
「これは クッキーだよ。あまくて おいしいよ」
「クッキー? はじめて きく たべもの ですわ」
「たべてみる?」
ともくんが さしだした クッキーに おとひめさまは おそるおそる くちを つけました。
そして ひとくち かじると いいました。
「あら。おいしい!」
おとひめさまは たちまち クッキーを いちまい たべてしまいました。
「やめられません。もう いちまい いただけますか?」
おとひめさまは いいました。
ともくんと パパの いけづくりが はじまりました。
パパは ホームセンターで いけの かたちをした おおきな プラスチックの いれものを かってきました。
そして スコップで にわに あなを ほりはじめました。ともくんも シャベルで あなほりを てつだいます。
やがて ちょうどいい おおきさの あなが ほれました。
そしと プラスチックの いれものを その あなに はめこみました。
「いい かんじじゃないか?」
パパは いいました。
「これが いけに なるんだね」
ともくんも いいました。
つぎに ともくんと パパは いけの そこに じゃりを しきつめて みずくさを うえました。
みずが よごれないように フィルターも おきました。
みんな ホームセンターで かってきた ものです。
いけの まわりには ともくんが どんどん いわを つみあげて いきます。
パパは いけの まんなかに おおきな ひらたい いわを おきました。ちいさな しま のようにも みえます。
「これは なに?」
ともくんは たずねました。
「ここにね。びゃっこくんの いえを おくんだよ」
しまから きしへは いたの はしを かけました。びゃっこくんが わたれる ように です。
「さてと…」
パパは パンパンと てを たたくと いいました。
「パパが てつだうのは ここまで。おとひめさまと びゃっこくんの いえは ともくんが つくるんだよ」
ともくんは わりばしを くみあわせて おとひめさまの ちいさな いえを つくりはじめ ました。おとひめさまが すむの ですから「ちびちび りゅうぐう」です。
えほんで みた「りゅうぐうじょう」の かたちに なるように ともくんは いっしょうけんめい つくりました。
つぎは やはり わりばしを つかった びゃっこくんの いえです。こちらは「みはらしやま」にあった びゃっこくんの ほこらを まねて つくりました。
びゃっこくんの いえも「ちびちび りゅうぐう」も ともくんが クレヨンで いろを ぬり そのうえから パパが ニスを かけました。
これで みずに ぬれても だいじょうぶです。
それから ともくんは びゃっこくんの いえと「ちびちび りゅうぐう」を はりがねで しっかりと いわに こてい しました。これで どこかへ とんでいって しまうことも ありません。
ともくんは この きかいに すいそうの きんぎょも いけに うつすことに しました。
おとひめさまは すっかり きんぎょたちと なかよしに なっていたのです。
そのひ おとひめさまと びゃっこくん それに にひきの きんぎょは にわの いけに うつりました。
おとひめさまと にひきの きんぎょたちは そらを まうように ひらひらと いけの なかを およぎまわりました。とても きもちが よさそうです。
「やあ。これは いいですねえ」
びゃっこくんも はしを いったり きたりして とても うれしそうでした。
そのよる。ばんごはんを たべたあと ともくんと パパは テレビを ながめて いました。
ママは キッチンで おさらを あらっています。
ちびりゅうは まだ テーブルの うえで デザートの メロンを かじって いました。
「きょうも ぜんこくてきに カラカラてんきが つづいています」
テレビからは こんな ニュースが ながれて います。
「このままだと しんこくな みずぶそくが しんぱいされます」
「あめが ふらないと のみみずに こまるんだよね?」
ともくんは パパに たずねました。
「うん。だけど それだけじゃないんだ」
パパが かおを しかめました。
「イネが かれて しまったり やさいが そだたなくなったり。いろいろと こまることが おこるんだよ」
「まえから ふしぎに おもっている ことが あるんですよ。よかったら おしえて いただけませんか」
あるひ パパが おとひめさまに たずねました。
テーブルの うえには おとひめさまの ほかに ちびりゅうと びゃっこくんがいて ともくんと パパと ママは おとひめさまたちを かこむように すわって いました。
「なんでしょう? わたしに わかることでしたら なんでも おこたえしますわ」
おとひめさまは やさしく ほほえみました。
パパは でれでれした かおに なりかけました。
けれども となりに ママが すわっているので せきばらいをして まじめな かおに もどりました。
「じつは うらしまたろうの おはなしに ついてなのです」
「うらしまたろう ですか…。あれは たんなる おはなしですのよ。わたしは おあいしたことは ありません」
「そうなの?じゃあ たまてばこも?」
ともくんが たずねました。
「はい。ありません」
おとひめさまは きっぱりと こたえました。
「いや、わたしが おたずねしたいのは そこではないのです」
パパは くびを よこに ふりました。
「いくら おはなしとは いっても りゅうぐうじょうに りゅうは とうじょうしません。それは どうして なんですか?」
「そうよね」
ママも うなずきました。
「りゅうが でてこないのに りゅうぐうじょうって やっぱり おかしいもの」
「たしかに そうですねえ」
びゃっこくんも いいました。
「それは いまの わたしの すがたが ほんとうの わたしの すがたでは ないからですわ」
「ほんとうの すがたでは ない!」
パパは いすから たちあがりました。
「みたところ ひとの すがたの ようですが…」
パパは いっぼ さがって おとひめさまを ながめました。
「うん。ぜったい ひとだ」
「ごせつめい するよりも みていただいた ほうが はやいですわね」
「みる?」
ともくんは ききかえしました。
「ええ。わたしは じつは こういう ものなのです!」
おとひめさまが コマのように ゆっくりと まわりはじめました。まるで てんにょの まいの ようです。
おとひめさまは いったい なにを みせる つもりなのでしょうか。
おとひめさまは まわって まわって まわりつづけました。
おとひめさまの すがたは しだいに きんいろの ひかりに つつまれて いきました。
きんいろの ひかりも くるくると うずを まきます。
やがて その きんいろの ひかりの なかから なにかが すがたを あらわしました。
「あっ!」
ともくんと パパと ママは そろって こえを あげました。
びゃっこくんも「コン!」と なきました。
あらわれたのは ちいさな りゅうでした。にほんの つのも りっぱな つばさも あります。
そのすがたは なんと ちびりゅうに そっくりです!
「が、がお?」
ちびりゅうが めを まるくしています。
「わたしは りゅうおうの むすめ なのです」
りゅうおう とは りゅうの なかでも いちばん えらい おうさまの ことです。りゅうに なっても おとひめさまの こえは おとひめさまの ままでした。
「りゅうの すむ おみや。それが りゅうぐうの ゆらいですわ。ちびりゅうさんとは ごしんせきに なるのかも しれませんわね」
りゅうに なった おとひめさまは いいました。
あいかわらず あめは ふりませんでした。
「のうぎょうへの しんこくな えいきょうがしんぱいされます」。
テレビの ニュースでは そう いっていました。
「やさいが たかく なるんですって。こまったわ」
ママが まゆを ひそめました。
「あめ ふらないかなあ。どう? ちびりゅう」
ともくんは ちびりゅうに たずねました。
ちびりゅうは すこし くびを かしげた あとで「がお」と なきました。
なきごえは いたって ふつう です。
ちびりゅうが「ぎゃお」となくと あめに なるのですが この ようすでは あまり きたい できそうに ありませんでした。
そのとき ともくんは ちびりゅうと いえで かくれんぼを して あそんで いました。
へやの どこかに かくれた ちびりゅうを ともくんが みつけるのです。
ママは スーパーへ おかいものに でかけて るすでした。
ともくんは へやじゅうを さがしまわりました。
ちびりゅうは カーテンの かげに かくれて いました。
「みいつけた! ちびりゅう!」
ともくんが いった とき ドスンと じひびきが しました。いえが ぐらっと ゆれました。
だけど いえが ゆれたのは その いっかいだけ。どうやら じしんでは なさそうです。
ともくんは ちびりゅうを かたに のせて そとへ とびだしました。
ともくんは いきが とまるほど おどろきました。
にわさきに おおきな おおきな りゅうが いて ともくんを みおろしていたのです。
それは あおくて とにかく おおきな りゅうでした。きっと ちびりゅうの せんばいぐらい あるのでは ないでしょうか。
りゅうは おおきな つばさを ひろげました。
ものすごい かぜが まきおこったので ともくんは ちびりゅうが とんでいって しまわないように しっかりと だきしめて いなければ なりませんでした。
「むすめを むかえに きた」
りゅうが はなすたび くうきが びりびりと ふるえます。
「むすめ?」
ともくんは ゆうきを だして りゅうに たずねました。
「もしかして あなたは りゅうおうですか?」
「いかにも」
りゅうは ふかく うなずきました。
「まず すみかを なくしかけた おとひめを すくってくれた おまえに れいを いいたい」
「はあ」
ともくんが うなずいた ときです。
「おひさしぶりですわね。おとうさま」
いつのまにか いけから あがってきた おとひめさまが とまくんの あしもとに たっていました。
「コン!」
びゃっこくんも やってきました。
りゅうおうは おとひめさまに たずねました。
「ひさしぶりだな。おとひめ。そろそろ わたしと いっしょに てんに のぼるか?」
りゅうおうは あたりに ひびきわたる こえで いいました。
「ひとの せかいは すみにくい。そらを じゆうに かけるのも いいものだぞ!」
「いいえ」
おとひめさまは くびを よこに ふりました。
「わたし。ここが たいへん きにいりましたの」
「ほう」
りゅうおうは いがいそうに おとひめさまを のぞきこみました。
「だって クッキーという とても おいしい たべものが あるのですもの。その あじが わすれられませんの。だから しばらくは ここに すまわせて いただこうと おもって いるんです」
「クッキー?」
りゅうおうは くびを かしげました。
「それは なんだ?」
「ちょっと まってて」
ともくんは いえの なかに もどると クッキーの はこを もって もどって きました。
「これだよ」
りゅうおうは ともくんの さしだした クッキーに おそるおそる くちを つけました。
ひとくち かじると
「ふむ。たしかに うまい」
りゅうおうは かんしんした ようすで いいました。
「さいきんの たべものは ほんとうに よく できている。すまんが もう ひとくち たのむ」
ともくんは りゅうおうに もう いちまい クッキーを さしだしました。
「これは やめられん」
りゅうおうは そう いいながら クッキーを ぜんぶ たべてしまいました。
「ごちそうになった おれいに…いや むすめを たすけてもらった おれいに ねがいごとを ひとつだけ かなえよう。いってみよ」
りゅうおうは ともくんに いいました。
「う~ん。ねがいごとと いっても」
ともくんは なかなか ねがいごとを おもいつきませんでした。
ごはんは おいしいし よるは よく ねむれるし まいにちが とても たのしかったからです。
「う~ん」
りゅうおうは じれて きたようです。こまった かおで いいました。
「なにか ないのか?」
「う~ん」
「あるだろう? ひとつぐらい」
「う~ん。あっ そうだ!」
ともくんは やっと おもいつきました。
「あめを ふらせてください! みずが たりなくて みんな こまってるんです!」
「しょうち!」
りゅうおうは そう さけぶと おおきな つばさを はばたかせ そらへと のぼって いきました。
ちょうど そこへ ママが スーパーから もどってきました。
「えっ! あめが ふるの。はやく せんたくものを とりこまないと」
ともくんから はなしを きいた ママは いいましたが すぐに しんぱいそうな かおに なりました。
「だけど ともくん。そんな ねがいごとをして だいじょうぶ?」
「どうして?」
「いちどに あめが ふったら かわが あふれたり しないかしら」
「それは ごしんぱいには およびません。おとうさまも きちんと こころえて いますわ」
おとひめさまが いいました。
「このあたりも すこしは ふりますが たくさん あめが ふるのは ダムや ちょすいちなど いちぶの ばしょ だけですの。だから みずの ひがいが おこる しんぱいは ありません」
そのとき ちびりゅうが「ぎゃお」となきました。そらから あめが ぽつりぽつりと ふりはじめました。
あめは みっかみばん ふりつづきました。
テレビの ニュースに よれば「きろくてきな ごうう」だった ばしょも ありましたが みずの ひがいは ひとつも ありませんでした。
よっかめの あさ。あめが あがりました。
ともくんは ちびりゅうと そとに でてみました。
「あっ!」
ともくんは そらを みあげて さけびました。
ちびりゅうも「がお!」と なきました。
そらに にじが でていました。まるで そらに かかった なないろの はしのようです。
そして にじの うえには…りゅうの かたちを した くもが ぽっかりと うかんでいました。
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