夏の破片

関谷俊博

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勿論それは口実だった。「黙示録の子羊」への入信を僕は強く勧められた。男の名前は神崎といった。
「解脱への近道なんですよ」
神崎はそう強く主張した。神崎は悟りではなく解脱という言葉を使った。
解脱…それはインドに古くからある六道輪廻の世界観に基づいている。この世に生きる全ての者は、六道(地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天界)に何度も生まれ変わり死に変わり、彷徨い続けるという世界観である。解脱とはこの六道の世界を抜け出すことを意味していた。
「そうですか…解脱への近道…私はもう二度とこの苦の娑婆に戻ってきたくはありません」
僕は言った。勿論「黙示録の子羊」に潜入する為の口実である。
「それなら話は早い」
神崎は深く頷いて、僕に小さな紙きれを渡した。
「一週間後、その紙に書かれている場所で入信の儀式を執り行います。儀式には教祖であるマリィ様も参加されます。それが終われば、あなたは私たちの新しい仲間です」

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