ランナウェイ

宇田いちご

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run away!

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 私たちは普段、多くの人に囲まれて生きている。
それはもはや周知のことであり、改めて確認するまでもないことであろう。
 しかし、人々の喧騒が聞こえないような場所に生きるものがあることもまた事実。
 そして私たちはそこで——。



「走れ!後ろを気にしてる余裕はないぞっ!!俺についてこい!!」

かっちりとしたスーツに身を包んだ男が、まるで映画のワンシーンのように声をあげる。

「よくそんなクサいセリフが吐けますよネぇ。ワタクシだったら恥ずかしくて言えないデスよ。」

スーツの男とは対照的な、上下ジャージ姿の男がそう答えた。この二人は服装だけでなく、あらゆる面で対照的と言えよう。スーツの男は長身で整った顔立ちをした爽やかな青年であるのに対し、ジャージの男は身長は低く、常に口角が吊り上がっており、まるで死神のような不気味な印象を受ける。

「おしゃべりは後にして、今は走ることに集中した方が良さそうだな。」
「そうですネぇ。そこにはワタクシも同感デス。」

 男たちは追われていた。
彼らがなぜ追われているかは今となってはもう大したことではない。問題はただ、男たちが追いかけられているということで、今は逃げるほか優先すべきことがないというだけだ。
 繁華街のネオンの放つ輝きから逃れるように、二人の男は狭い裏路地を駆けていく。

「くそっ!なんで俺らがこんな目に...!」
「おやぁ?恨み言デスか?らしくない」
「ばかを言うな。俺が本気になれば逃げる必要などないさ。」
「それなら、今すぐワタクシたちを苦しめている元凶を退治してきてくれませんかネぇ?」

暗く狭い裏路地では、自分が通ってきた道はおろか少し先すらはっきりとは見えない。彼らを追っているのは人の影か、あるいはクマのような猛獣の影か。いずれにしても、ぼんやりと男たちを襲う脅威であることには変わりなかった。

「...それは......。」
「はぁ...アナタはいつも格好はいいんですけどネぇ。」
「...本当は無理だって言いたいのか?」
「いえ、ワタクシはアナタならできると思っていますよ、えぇ。ただ、そのうちケリをつけて欲しいっていうだけデス。そうすれば、ワタクシたちがこうして走っている時間も、労力も、報われるというものデス。」

二人は肩を並べて走る。身長差があるために、頭の高さや、歩幅は違えども、同じ速さで進んでいく。終わりの見えない暗闇の中でも、不思議と二人の足取りはしっかりとしている。

「今のところは」
「走ればいいのデス。」
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