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17.マリアside ~羞恥~

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「あれ、恥ずかしくないのかしら?」
「匂い消しの能力者がいるから良いけれど、いなかったら悲惨よね~」
「その能力者、あの人の為だけに呼ばれたんですって? 嫌だわ、人件費の無駄遣いよ」

 私を見ながら、コソコソと話しているが……。わざと聞かせようとしているのだろう。全部、聞こえてくる。

「もう、爵位を剥奪されたのでしょう? 何故、ここに来れるのかしら」
「ああ、お父様の功績が良かったからと。その子供までは、それと同等の場に顔を出せるらしいわ」
「あら? 仮面をなさっていますから、顔は出していませんわよ?」

 クスクスと、馬鹿にしたように笑われる。

「お父様のような、人のためになる能力が無いから、やっぱり……――」

 もう、耐えきれなくて。私は、バルコニーへと向かう。


 ――私の代から、爵位が剥奪された。以前は『マリア・ラリアッター』という名であったが。今は貴族名のつかない、ただの『マリア』となっていた。

 それは、良い。私が嫌なのは……。事故によって、亡くなった――父と母が侮辱されることだ。
『お母様が、他の種を腹に宿したのでは?』『お父様の種がおかしかったのではないか?』そう何度も聞いた。
 けど、そんなわけない。だって、お父様も、お母様も……。ずっと、私に謝っていた。そして、愛してくれていた。
 お父様を深く愛していたお母様が、そんな裏切りをするはずがない。そもそもが、この血筋に異常があるから……お父様だけがおかしいわけでもない。

 だから、唯一。私を愛してくれていた人達を侮辱する、こんな人たち全て――早く滅ぼしてしまいたい。

 けど、一つだけ。共感できる言葉もある。
 それは、私に『人のためになる能力が無い』ということだった。

 お父様は風を起こし、それを巧みに操ることが出来た。
 その能力で、いくつもの秀逸な建物を作り上げていて。人の手で運ぶのは難しい高所へと、建築材を浮かせて運び、建築していた。
 それで、いつも有り難いとお礼を言われていたのだ。

 両親が死んだのは、事故と言われているが……。私は、殺されたと思っている。
 父は、何度か勧誘のようなことをされていて、チラリと聞こえたのが「強い能力なのに、勿体ない。世界だって、掌握できる可能性がある」という興奮したような男の声だった。

 確かに、父が本気を出せば、街にハリケーンを出すことも容易いことだったはず。
 けど、父は優しく温厚な性格をしていて……。それは、私が知っている祖母や曾祖父も、同じように穏やかな人達だった。
 それが、この血脈による性質かは分からないけれど……。
 もし、そうだとしたら。きっと、私は『人のためになる能力が無い』のと『醜悪な見た目と性格』で、突然変異として生まれてきたのだろう――。


 顔が痛痒くて、仮面を取る。

 少し、涼んだら。ここのパーティーにいるらしい、愛し人を――。

「お姉さん、大丈夫? 具合、悪いの?」
「――……ッ!?」

 誰かが、私の顔を覗き込んでいた。

 慌てて、その人物を視界に入れると――深緑色の瞳に、左目に泣き黒子がある……エキゾチックな雰囲気のある少年が、私をじっと見ていた。

「……ぁっ!」

 直ぐに、仮面で顔を隠した。

(見られた! 醜い、この顔を……!)

「お姉さん……――」
「ああっ! こちらに、いらしゃ――ぅぐっ……! なんだ、この臭いは……!?」

 少年へと、護衛の装いをした男性が駆け寄ってきて。直ぐに、顔を歪めた。

「――ッ!」

 そうだった。匂い消しの効果は、パーティーの室内限定だ。ここでは、私の悪臭が消えていない。

「あんたは……! 愛し人様っ!! ここにいては、病気になります! さぁ、早くこちらへ!!」

 私を見たその護衛は、顔を嫌悪感に歪めるをのを隠さずに、少し離れた所で少年を呼んでいる。

(愛し人……? この少年が?)

 少年の下腹部を見る。ズボンの開かれた穴から、小さなナマコがちょこんと生えていた。

(ああ、見つけた……。この子を、違う次元へと運び。殺せば、私の望みが叶う――)

「さぁ! 愛し――……ぐべっ!?」
「うるさい! 僕、いまお姉さんと話してる! 引っ込んでて!」

 少年は、手に持っていたコップを護衛に投げつけ。見事、脳天に直撃していた。

「ぐぐっ……。い、愛し人様! しかし、その女は……醜い化け物で」
「は? なに言ってるの……? お姉さん、綺麗だよ?」

 私は、護衛にギロリと睨み付けられた。

 汚いものを見るような目。
 それは、人に向けるようなものではなく。道端にある、動物の排泄物を踏んでしまったようなものだった。

 けど、少年の目は。私を、真っ直ぐと見て――。

「――……ッ、あ……」
「あっ! お姉さん!?」

 ――気がついたら。私は逃げるように、その場から走り去っていた。

 あんなこと。何度も、何度も経験した……。私が逃げてしまったのは、あの護衛が原因じゃない。

 私が殺そうとしている少年の目が――今は亡き、両親と同じ【真っ直ぐで、温かな目】だったからだ。
 それで、自分が見た目だけでなく、本当に中身までも穢らわしい存在であるのだと突きつけられたような、そんな気になり……。恥ずかしくなったのだ。


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