恐愛ナマコにストーカーされて、常識はずれな星に落とされました

未知 道

文字の大きさ
24 / 32

24.マリアside ~最期の幸福~

しおりを挟む
 


「ゴフッ……あ、なた……。何故、仲間を……助けなかっ、たの……?」
「ぁあ? こいつら、俺がまんまとテメェらに逃げられたの、ずっと馬鹿にしてたからな。んな奴ら、助けるわけねぇだろ? ま、お前のような気持ち悪い女を抱いたってのは、哀れだけどな~。いくらお綺麗になってても、俺は無理だわ」

 私のこの傷は、致命傷だ。もう、立っていることも出来ずに、床へと倒れ込んでしまった。
 それを分かっているからか、男はすぐに私を殺さず。恨み辛みをぶつけてくる。


「――お前がしたこと、ぜーんぶ無駄だったな。御愁傷様~。愛し人は、俺がたっぷり可愛がってやるから、悔しがって死ね」

 死んだ男達のような、ねばつくような汚らわしい笑みを浮かべる男。
 それで、私がされた行為を、デールに行おうとしているのだと気付く。

 ――けど、絶対にそんなことにはならない。だから、蔑むように笑った。


「テメェ、なに笑っ――」
「【リミッター解放・マインドコントロール】」

 ――キィン、キィン……。男の頭の上に、くるくると輪っかが浮かび。耳鳴りのような高い音が、空気を震わせる。

 私の能力は、私が“致命傷を負った時”――どんな生物に対しても、私の思いのままになるというものだった。

 それは、『そうなんだ』とただ思い込ませるだけではない。
 例えば。犬であった生物に、私が『お前は、これからは猫だ』と言ったら、本当に姿形も猫そのものになる程であり、あらゆる常識を無視するようなものだ。

 だから、始め。私は、デールをこの世界に連れて来て、致命傷となる傷を負ってから――『自らで、命を絶て』と命令するつもりだった。
 神の化身、愛し人は、(私の血族以外の)他者からの攻撃によって、命を落とさなくとも。自らで、死ぬことは出来る。

 それが分かったのは――過去の神の化身と、愛し人の気持ちが通じ合わず、愛し人が自ら命を絶った。
 それから直ぐに、神の化身も自らの命を絶ち。代替わりしたことがあったからだ。

 私の父のように、攻撃が出来る能力でなくても。私のこの能力であれば、愛し人を殺すことは可能だ。
 だから、私の能力をどこかから知り。目をつけた組織の者が、勧誘しに来た。
 あまりにもしつこいのと、もう色々と世界に失望していたから、私はその組織の一員になることを了承したのだ。

 しかし、私の持つ能力全てを、組織の者達は知らなかった。
 もし、全てを知っていれば、自分達のありとあらゆる欲望を、私に願っていたと思うからだ。せいぜい、『神の化身や愛し人にも、洗脳が出来る能力』程度にしか考えていなかったのだろう。

 初め。神の化身に、直接の洗脳をした方が良いといった意見も挙がったというが。神の化身は、いくら幼くとも普通の人より強い力を持っている。
 だから、神の化身の前で怪しい動きをしたならば。即刻、処刑される可能性が高いからと、却下されたようだ――。


「【そこにある機械を、何かで万が一にも破損しないよう、厳重に包み。窓から見える、あの大きな杉の根元に埋めるのよ。そして、身を隠し。時期を見て、『デールの遠い親戚』だと村の者達に伝え。デールを連れ、安全な場所に届けてから――自ら、命を絶って】」
「はい」

 この能力が発動している間は、この致命傷な身体であっても、死ぬことはない。
 とはいっても、能力の最大発動時間はだいたい10分くらいしかないが……。

 ――男に、デールを連れてくるよう言い。その後は、【次の指示まで、待機しろ】という命令を出した。


 目を瞑っているデールにも、能力を使用する。対象が意識を落としていようが、私が使う能力に支障を来すことはない。

「【この世界にいる、ごく普通の人間になって。そして――今までのこと、全てを忘れるの。身体や記憶が元に戻る時は……あなたが、このことを受け入れられる時。全てを知っても、大丈夫だと思えるようになったなら。……私のことも、思い出して】」

 デールのマインドコントロールを、完了させる。
 デールは、愛し人としての身体が、ただの人間となり。変に目立だってしまう美しい容姿が、その容姿自体は変わらないが。影が薄い、平凡な雰囲気のものとなった。
 これならば、デールを得ようと、争いが起こることはないだろう――。

「デール……。どんなに辛いことがあっても、前を向いて生きていってね――愛してるわ」

 これは、命令ではなく。私の気持ちを伝えたかった。もし、命令になってしまえば……デールの個としての性格を変えてしまう。
 それだけは、したくなかった。


 ――待機させていた男に、視線を向ける。

「【デールを、村の人が気付くような場所に寝かせ。すぐに、この家を燃やして】」

 そして、男のマインドコントロールも完了させた。
 男はすぐにデールを抱えて、外に出て行き。部屋がシンと静まり返る。

 能力を収めた途端。待っていたかのように、じわじわと視界が悪くなっていく――。

 ゴボリと、口から大量な血が吹き出てくる。

(約束……守れなかった)

 桜というものを、見てみたかった。

 川見さんが、あんなにはしゃぐのだから。きっと、凄く素晴らしいものなのだろう。

 川見さんの笑顔を思い出し、胸が高鳴った。
 止まりかけている心臓が、トクトクと熱く鼓動する。

 その理由に、今になって気が付き。クスリと笑ってしまう。

(私、川見さんのこと……好きだったのね)

 だから、あの男達に身体を暴かれたその証を視界に入れて、胸に痛みが走ったのだ。

 ――この身体を捧げたかった人は、川見さんだったからだ。

 ゆるりと、頭を振り。意識をそこから切り替える。

 最期に思うのは、幸せなものがいい。

 デールが「お母さん、この綺麗な石あげる!」と笑う顔。
 川見さんが「マリアさんは、料理上手だな~」と笑う顔。

 雪のような花びらの下で。揚げ物を頬張るデールと、川見さんが、たくさん笑って――――……。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...