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24.マリアside ~最期の幸福~
しおりを挟む「ゴフッ……あ、なた……。何故、仲間を……助けなかっ、たの……?」
「ぁあ? こいつら、俺がまんまとテメェらに逃げられたの、ずっと馬鹿にしてたからな。んな奴ら、助けるわけねぇだろ? ま、お前のような気持ち悪い女を抱いたってのは、哀れだけどな~。いくらお綺麗になってても、俺は無理だわ」
私のこの傷は、致命傷だ。もう、立っていることも出来ずに、床へと倒れ込んでしまった。
それを分かっているからか、男はすぐに私を殺さず。恨み辛みをぶつけてくる。
「――お前がしたこと、ぜーんぶ無駄だったな。御愁傷様~。愛し人は、俺がたっぷり可愛がってやるから、悔しがって死ね」
死んだ男達のような、ねばつくような汚らわしい笑みを浮かべる男。
それで、私がされた行為を、デールに行おうとしているのだと気付く。
――けど、絶対にそんなことにはならない。だから、蔑むように笑った。
「テメェ、なに笑っ――」
「【リミッター解放・マインドコントロール】」
――キィン、キィン……。男の頭の上に、くるくると輪っかが浮かび。耳鳴りのような高い音が、空気を震わせる。
私の能力は、私が“致命傷を負った時”――どんな生物に対しても、私の思いのままになるというものだった。
それは、『そうなんだ』とただ思い込ませるだけではない。
例えば。犬であった生物に、私が『お前は、これからは猫だ』と言ったら、本当に姿形も猫そのものになる程であり、あらゆる常識を無視するようなものだ。
だから、始め。私は、デールをこの世界に連れて来て、致命傷となる傷を負ってから――『自らで、命を絶て』と命令するつもりだった。
神の化身、愛し人は、(私の血族以外の)他者からの攻撃によって、命を落とさなくとも。自らで、死ぬことは出来る。
それが分かったのは――過去の神の化身と、愛し人の気持ちが通じ合わず、愛し人が自ら命を絶った。
それから直ぐに、神の化身も自らの命を絶ち。代替わりしたことがあったからだ。
私の父のように、攻撃が出来る能力でなくても。私のこの能力であれば、愛し人を殺すことは可能だ。
だから、私の能力をどこかから知り。目をつけた組織の者が、勧誘しに来た。
あまりにもしつこいのと、もう色々と世界に失望していたから、私はその組織の一員になることを了承したのだ。
しかし、私の持つ能力全てを、組織の者達は知らなかった。
もし、全てを知っていれば、自分達のありとあらゆる欲望を、私に願っていたと思うからだ。せいぜい、『神の化身や愛し人にも、洗脳が出来る能力』程度にしか考えていなかったのだろう。
初め。神の化身に、直接の洗脳をした方が良いといった意見も挙がったというが。神の化身は、いくら幼くとも普通の人より強い力を持っている。
だから、神の化身の前で怪しい動きをしたならば。即刻、処刑される可能性が高いからと、却下されたようだ――。
「【そこにある機械を、何かで万が一にも破損しないよう、厳重に包み。窓から見える、あの大きな杉の根元に埋めるのよ。そして、身を隠し。時期を見て、『デールの遠い親戚』だと村の者達に伝え。デールを連れ、安全な場所に届けてから――自ら、命を絶って】」
「はい」
この能力が発動している間は、この致命傷な身体であっても、死ぬことはない。
とはいっても、能力の最大発動時間はだいたい10分くらいしかないが……。
――男に、デールを連れてくるよう言い。その後は、【次の指示まで、待機しろ】という命令を出した。
目を瞑っているデールにも、能力を使用する。対象が意識を落としていようが、私が使う能力に支障を来すことはない。
「【この世界にいる、ごく普通の人間になって。そして――今までのこと、全てを忘れるの。身体や記憶が元に戻る時は……あなたが、このことを受け入れられる時。全てを知っても、大丈夫だと思えるようになったなら。……私のことも、思い出して】」
デールのマインドコントロールを、完了させる。
デールは、愛し人としての身体が、ただの人間となり。変に目立だってしまう美しい容姿が、その容姿自体は変わらないが。影が薄い、平凡な雰囲気のものとなった。
これならば、デールを得ようと、争いが起こることはないだろう――。
「デール……。どんなに辛いことがあっても、前を向いて生きていってね――愛してるわ」
これは、命令ではなく。私の気持ちを伝えたかった。もし、命令になってしまえば……デールの個としての性格を変えてしまう。
それだけは、したくなかった。
――待機させていた男に、視線を向ける。
「【デールを、村の人が気付くような場所に寝かせ。すぐに、この家を燃やして】」
そして、男のマインドコントロールも完了させた。
男はすぐにデールを抱えて、外に出て行き。部屋がシンと静まり返る。
能力を収めた途端。待っていたかのように、じわじわと視界が悪くなっていく――。
ゴボリと、口から大量な血が吹き出てくる。
(約束……守れなかった)
桜というものを、見てみたかった。
川見さんが、あんなにはしゃぐのだから。きっと、凄く素晴らしいものなのだろう。
川見さんの笑顔を思い出し、胸が高鳴った。
止まりかけている心臓が、トクトクと熱く鼓動する。
その理由に、今になって気が付き。クスリと笑ってしまう。
(私、川見さんのこと……好きだったのね)
だから、あの男達に身体を暴かれたその証を視界に入れて、胸に痛みが走ったのだ。
――この身体を捧げたかった人は、川見さんだったからだ。
ゆるりと、頭を振り。意識をそこから切り替える。
最期に思うのは、幸せなものがいい。
デールが「お母さん、この綺麗な石あげる!」と笑う顔。
川見さんが「マリアさんは、料理上手だな~」と笑う顔。
雪のような花びらの下で。揚げ物を頬張るデールと、川見さんが、たくさん笑って――――……。
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