時代

coconuts

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時間の流れは幸せを運び幸せだったと過去形にする。寂しくて切ない。でも確かに幸せな時間は存在した。
桜があと半月も待てば咲く頃、佐藤商店のおっとり静かであった店主のじぃちゃんがこの世を去った。
美夏は東京都多摩市の商店兼自宅になっている二階の仏壇の前に座り、じぃちゃんに手を合わせた。膝には生後7ヶ月の子供を乗せて。一階の商店にはじぃちゃんが去った今1人になったばぁちゃんが店番で座っている。

「じぃちゃん。お線香あげにきたよ。」ぼんやりと遺影をしばらく眺めた。
美夏がまだ幼かった頃、この佐藤商店は賑やかで活気があり、じぃちゃんの子供達2人と孫の美夏、おしゃべりで陽気なばぁちゃんで活き活きとした時間が流れていた。特にばぁちゃんは陽気によくじゃべり、豪快に笑い、その横には必ず静かなじぃちゃんが店番で座っていた。

店は地域に根付き近所の人はよくおしゃべりをしにきたし、ちょっとしたものを買って行った。子供達は駄菓子を買いに来ては騒いでいった。

線香をあげ終えた美夏は一階に降りて明るく振る舞うばぁちゃんとお茶を飲む。
「よく来てくれたね。奈々ちゃん大きくなったねー。」
「もう7ヶ月だから重くなったよ。」
ばぁちゃんは娘の奈々を抱き上げ、シワシワの笑顔を見せる。
「ばぁちゃん。じぃちゃん、長生きできたね。最期、一緒に居られたんでしょ?」
ばぁちゃんは奈々を美夏の腕に戻し、「そう89歳。いいじぃちゃんだったよね。」そう言いながら最期を話してくれた。

じぃちゃんが死んだ日、ばぁちゃんは店の営業を閉めた後しばらく介護用ベッドの横に座り、じぃちゃんの腕をさすっていた。じぃちゃんは気持ち良さそうにうっすら目を開ける。
「ねぇ、おじぃさん。あちらに逝ったら待っていてね。私ももう少ししたら逝きますからね。」
じぃちゃんは静かにかすかに頷いた。その間もばぁちゃんは腕をさすりながらじぃちゃんを労わった。そのたった数分後にじぃちゃんの喉のあたりがスーっと止まった。

「ばぁちゃん、1人で店続けてくの?」
「そうだね。じぃちゃんと長年やってきた店だから。それに、みんな自分達の家庭をもって立派にやってくれてる。心配はない。美夏ちゃんもたまに奈々ちゃん連れて遊びにおいで。もうしばらくは店開けてるから。」
「わかった。手伝える事があれば言ってね」
「ありがとう。奈々ちゃんの顔を見せに来てくれればそれで嬉しいよ。」

じぃちゃんは死んで、次はきっとばぁちゃん。その時はきっとじぃちゃんがばぁちゃんを待っていてくれる。そう遅くない未来、この商店はもしかしたらなくなるかもしれない。今はコンビニだってなんだって便利な世の中だから。1つの時代が終わり、今美夏は奈々を育て始めたばかりで、これから何十年か明るく活き活きとした時が流れるはずだ。そして美夏がばぁちゃんになる頃奈々の時代になっていく。

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