【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 ソフィアがアルフォンスと付き合ってしばらくした頃、彼が子供の頃によく来ていたという湖に来た事がある。
 湖畔にある森の中程に広場があった。

「ここは?」

「子供の頃、俺がずっと剣の練習をしていたところだよ」

 足元に気をつけて、と言いながら繋いでいた手に力を込める。

「兄が二人居るから俺は子爵家のスペアにもなり得ないし、勉強も苦手だからどうやって生きていこうって悩んでた時期があって」

「うん」

 ソフィアの手を引いて大きな木の根元まで連れてくる。そして二人で腰を下ろした。

「そんな時に団長と副団長が魔法を使って戦うところをたまたま見たんだよ」

「え?そうなの?」

「多分兄と喧嘩して家を飛び出したとかだと思うんだけど、その時に西方騎士団の練習場が見える丘にたまたま辿り着いて。で、剣に魔法を纏わせて戦う二人を見たんだ。本当に衝撃だったよ!団長は火の魔法を剣に纏わせていて、副団長も倒れたと思ったら剣に纏わせた水を大きな波みたいにして放って。その時に『あ、俺がやりたいのはこれだ!』って、練習が終わるまでずっとそこから騎士団を見てた」

「へぇー、そんな事があったのね」

 話しながらアルフォンスは、自分の足の間にソフィアを座らせる。
 甘やかな触れ合いは嬉しいが、それでも少し恥ずかしい。
 アルフォンスは後ろから抱きしめるようにして話を続けた。

「家に帰ってからそりゃあ怒られたんだ。みんなで探して回ってて、もう少ししたら捜索依頼を騎士団に出そうって話にまでなってたらしくて」

「アルは騎士団の所にいたのにね」

 笑いを堪え切れないソフィアの髪をクルクルと指に絡ませて、アルフォンスも笑う。

「そうなんだよ。でね、めちゃくちゃ怒られた後に『魔導騎士になりたいから騎士学校に入ります!』って言ったら、家族全員目が点になってた。もうさ、見た事無いくらいに点なんだよ」

「急にそんな事言われたら確かに驚くわ」

「うん。母は泣き始めるし兄達は『泣き虫なお前に騎士は無理だ』て言うし」

「お母様泣いちゃったの?」

「そう。母の兄が騎士をしてたんだけど、大怪我をして足を悪くして杖がないと歩けないんだ。だから息子を騎士にしたくなかったみたい」

 ソフィアの髪や頬に口付けながらアルフォンスは続ける。

「でもさ、父だけは違ったんだ。怒るわけでもなく『お前本気か?』って聞くんだよ。本気だ!西方騎士団に入りたい!って言うと無言で父の執務室に連れて行かれて」

「うん」

「棚の奥から一本の剣を出したんだ。『私も魔導騎士になりたかったが魔力も足りず長男だからと許してもらえなかった。この剣は私が子供の頃に叔父上から貰った物だ。これをやるから成れるものならなってみろ』って」

 ギュウギュウと力を込めて抱きしめてくるアルフォンスは、その時とても嬉しかったんだろうと思う。
 彼の父親は厳しい人だと聞いたことがあるし、堅実な家だという。彼の兄二人も騎士ではなく、長兄が子爵を継いで次兄はその補佐をしていると聞いた。
 父親の言葉は厳しいが、アルフォンスの選択を否定しなかった。子供ながらに生き方を模索していた彼にとって救いだっただろう。

 そもそも魔導騎士は狭き門だ、魔法の才と剣の才どちらもなければいけない。
 剣はまだしも生まれ持った魔力量はどうにもならない。
 何度も魔力切れを起こして少しずつ魔力量を増やす訓練もあるが、それで増える量は僅かだ。
 彼の父親はアルフォンスの魔力量に気づいていたのだろう、そして自分が諦めた道を進みたいと言った時には嬉しかったのだと思う。

「お父様は嬉しかったんでしょうね。ねぇ、ちょっと痛いって」

 ギュウギュウと抱きしめるのをやめないアルフォンスを引き剥がす。
 不満そうなアルフォンスの頬や頭を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。

「父上はとにかく真面目で厳しくて、子供ながらに怖い人だなって思ってた。だからまさか魔導騎士になりたくて剣を持ってたなんて本当に驚いたんだ」

「うん」

「俺は両親が良しとするような貴族として生活するにはちょっと不真面目過ぎたし、家庭教師からも逃げ回って泣いてばかりだったから兄達にいつも揶揄われてた。でも剣を貰ってからはいつもここで練習してたんだ。最初は剣が重くて長く持つ事も出来なかったけど、辛い時にはこっそりあの丘から練習場の騎士の動きを見てたよ。みんなすぐに俺が諦めるって思ってたみたいで、兄達は俺がいつやめるのか賭けてたらしい。全然やめないから賭けが成立しなかったって文句を言われたけど」

 ざまあみろだ、とアルフォンスは笑う。
 彼がどれほど魔導騎士になりたかったか。
 騎士団員の父からは魔導騎士になるためにどれほど大変かを何度も聞かされていた。辛い訓練に耐えてやっとなれるものだと。
 周りに何を言われても信念を曲げなかったアルフォンス。今では周りの小さな悪意からソフィアを守ろうとしてくれる。

「アルは頑張ったのね、すごい!」

 撫でていた手で頭をワシャワシャすると、黒髪がボサボサになった。

「やめて!犬じゃないから!せっかくのデートだから気合い入れて来たのに!」

「大きな犬みたいで可愛いけど」

「俺の事可愛いなんて言うの、ソフィくらいだよ」

 お返しとばかりにアルフォンスはソフィアの頬をムニュっと挟んだ。

「にゃいふうおー」

 これでは上手く話せないではないか。

 それを見て得意げなアルフォンスはそのままソフィアに口付けた。

 あぁ、好きだな。

 だんだん深くなる口付けにうっとりする。
 世の恋人というのは何て素敵な時間を過ごしているのか、幸せってすごい。
 家族に愛されているのとはまた違う、優しい時間。

 西に来て実感した身分差は、幸せな時ほど心の隅から顔を出す。彼とずっと一緒にいられる未来は来るのだろうか。

 いや、分かっている。それは無理だ。
 嫡子ではないから幼い頃からの婚約者もいないアルフォンスだが、いつか彼も、貴族としての責務を果たすのだろう。
 彼の実家が、平民の恋人がいるのを良しとしていないと、たまにな人が教えてくれる。
 それでも、今は忘れてしまおう。

 こんな日がずっと続けばいいのにと思わずにはいられなかった。





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