私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 私自身の話をする前に、前回の厄災の時北方騎士団で何があったのかお話させてください。
 二十三年前、厄災の直前に北方騎士団の魔導騎士であったライオネル・バードナーは、デモンズハーピーの襲撃を受け呪いをかけられ魔力を奪われました。
 隣国との関係悪化で他の騎士団からの援軍を頼めない状況でしたが、もしかしたらの可能性に掛けて、北方騎士団はすぐ国に相談しました。
 魔導騎士を援軍に出してくれるかもしれないと期待して。

 しかし、そんな北方騎士団に齎されたのは、バードナー卿の呪いを解いて魔力回路の治癒を行うようにという秘密裏の王命だったんです。
 当時の国王は非常に好戦的な人物で、治癒師の誓約を知った上でのことでした。
 もちろん王宮の治癒師達は反対しましたし、王宮魔術師団も同じでした。王宮魔術師には、私の師匠のように治癒師に師事したのちに魔術師の適性を認められた人がたくさんいます。だから過去の歴史から治癒師に対して魔力回路の治癒を強制しないとの約束を知っていたんです。
 しかし国王からの圧力もあり、退ける事ができませんでした。
 人質を取られたり、家に不利益があるようにすると脅されて王命を受け入れざるを得なかったんです。

 当時はデモンズハーピーの呪いと同時に魔力を奪われて魔力回路が壊されるという事は、北方でもほとんど知られていませんでした。
 歴史上、魔力回路は極限状態で壊れる事が多かったからです。ですからデモンズハーピーはそれほど重要視されてはいませんでした。厄災の前触れとして現れ、魔力のある者に呪いをかける魔獣だと考えられていたからです。デモンズハーピー自体が珍しい魔獣ですし、高魔力者保持者が遭遇する事はほとんどなかったのかも知れません。

 しかしバードナー卿の治療に対して王命が出た事で、治癒師や王宮魔術師は密かに過去の文献を調べました。そして僅かではありますが、同じように呪いと共に魔力を奪われたという記述を見つけたそうです。魔力を奪われた者は全て高魔力保持者、そのため高魔力者保持者に対してのみ魔力を奪うのだと分かりました。

 王命を出された北方騎士団の上層部は非常に悩みました。
 当時、魔力回路の治癒が出来る師匠付きの治癒師は四名、この中から魔力回路を治す人間を出さないといけないから。
 もちろん誰もが躊躇しました。誓約の事は絶対に犯してはならない禁忌だったからです。
 そんな中、一人の治癒師が手を上げました。
 ジュリアという一番若手の治癒師で、彼女はバードナー卿の恋人でした。
 他の三人は結婚していて子供もいる、自分は独身だし恋人を救えるのならと。そして、呪いのせいで自分の事を忘れてしまった恋人を見て、心置きなく対価を払えると笑ったそうです。
 もちろん皆賛成したわけではありません。しかし王命に背く事も出来ず、渋々了承しました。


 魔力回路の治癒はすぐに行われる事になりました。
 魔力が戻った場合、バードナー卿の子供は膨大な魔力を持って生まれる事になります。そのため、呪いの解呪も同時に行われました。
 魔力回路の治癒はジュリアが、解呪についてはバードナー卿の兄であるシモンが行いました。

 こうしてバードナー卿は魔力を取り戻しました。
 以前の倍以上の魔力を得て、後に北の英雄と言われる程の活躍で厄災をおさめたのです。

 師長は厄災を体験されているのでご存知の事もあるかも知れません。ですがエリーさんはこの事について知らされていませんでしたよね?
 なぜならこの出来事は師匠付きの治癒師達に共有されなかったんです。
 厄災のゴタゴタもあったのかも知れませんが、大きな理由はデモンズハーピーが記録上、北方にしか姿を見せた事がなかったためです。
 まぁ当時の王宮に関わる治癒師達に罪悪感があったからかも知れませんが。
 結果的にジュリアに全てを押し付け、誓約を守りきれなかったから。
 ライオネル・バードナーは呪いをかけられ恋人を忘れた、一般の騎士団員が知っているのはここまでです。魔力回路を壊され、尚且つ治癒をした事を知っている人間は、全て誓約魔法を掛けられました。
 そうやってこの出来事をおさめたんです。

 これが前回の厄災の時に起こった、北方騎士団の秘密です。
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