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団長室にレオナールとカイル、ソフィアが残った。
外を見るともう暗い。この時間に残っているのは夜勤の者だけだろうがフェイに言われたように防音の魔法をかける。
「ソフィア、本当に良いのか?」
レオナールが心配そうに尋ねる。
「はい。私は師匠に手紙を送って魔力回路の治癒の許可を願い出ます」
「アルフォンスはその、君の恋人だったんだろう。伝えなくて良かったのか?」
「…構いません。対価の内容を知ったら、優しい人だから罪悪感から拒否するでしょう。彼には憂いなく魔力を取り戻してもらいたいのです。ですから、ランセル卿は呪いを掛けられて記憶が曖昧だと言う事にしていただけませんか?団員達は私が恋人だった事を知っている人達も多くいます。彼を混乱させない為にも、騎士団の方には私との事を彼に伝えないようにしていただきたいのです」
「それは構わないが…。人の口に戸は建てられない。いつどこで君の事がアルフォンスの耳に入るか」
それはそうだろう。
元より二人の関係を気に入らない者も少なくなかったから。
「彼が魔力を取り戻すまでで構いません。対価を払えば、私自身に何が起こるか分からない。今まで通り生活出来るかも分からないのです。そんな人間が彼の側にいる事は出来ませんから」
ソフィアは悲しそうに笑う。
「しかし…」
「西方では身分差がはっきりしています。生まれ育った辺境の地は、生きる為に貴族も平民も関係なくいられました。ですがここはそうではない。彼が魔力を取り戻せば、かつての北の英雄のように活躍するでしょう。そうなった時、政略結婚は十分にあり得ます。貴族としての責務を果たすように実家から言われたとして、それを跳ね除けるのは容易ではありません。その時に、私の存在が邪魔になるのは避けたいのです。私はアル…ランセル卿の優しさに甘えていましたが、彼は貴族です。認められるとは思いません。彼とはいずれ離れなければならないとどこかで分かっていました。ですから…それが少し早まるだけです」
父ライオネルが実家と絶縁を宣言して暮らせたのは、北方だったからだ。そして兄であるシモンは次期伯爵、祖母を力技で抑え込める環境が整っていた。
身分が弊害とならない辺境だったからこそ、周囲の理解も得られた。
ソフィアはちゃんと分かっているつもりだ。
ソフィアの意志が固いと分かったのだろう。
レオナールはため息を吐いた。
「そうか…君の気持ちは分かった。騎士団としてはありがたい申し出だ。しかしソフィアも大事な騎士団の仲間だ。犠牲にするような形は本当はとりたくない」
「これは私の希望です。厄災の厳しさはずっと聞いて育ちました。私は西方が好きです。魔獣に蹂躙されるような事になって欲しくない。その為に、私の我儘だと思って聞いていただきたいのです」
黙って聞いていたカイルは眉間に皺を寄せている。
「…もし自分がアルフォンスの立場だったら、たとえ記憶を無くしても、自分を助けてくれた恋人を利用して見捨てるような事は絶対にしない…アルフォンスだって同じだろう。全てを告げずに騙すように治療するのは君の自己満足だ。それであいつが喜ぶと?」
全くその通りだ。
低く唸るように言うカイルに、ソフィアは困ったように眉を下げた。
「…そうですね、自己満足です。ですが嘘は言っていませんよ。治癒には対価が必要だと伝えましたし、それが命に関わるものでないのも本当です。手足の機能とか聴力とか視力とか、そういうものでなければ良いなとは思いますが。望むなら…その対価が、彼の記憶であればと良いと。そうすれば私の心を残す事なく、彼の幸せを願えます」
カイルは納得していないようだった。
腕組みし、眉間の皺が深まった気がする。
「そんな事を考えずとも、あらためて関係を築く事だって出来るだろう?」
「…そうであれば嬉しいですが、こればかりは何とも。対価が何かは治療しないと分からないので。それに、身分差の事はどうにもなりませんから」
カイルは何も言わなかった。
これでいい、話しながらソフィアの心は思いの外晴れやかだった。
外を見るともう暗い。この時間に残っているのは夜勤の者だけだろうがフェイに言われたように防音の魔法をかける。
「ソフィア、本当に良いのか?」
レオナールが心配そうに尋ねる。
「はい。私は師匠に手紙を送って魔力回路の治癒の許可を願い出ます」
「アルフォンスはその、君の恋人だったんだろう。伝えなくて良かったのか?」
「…構いません。対価の内容を知ったら、優しい人だから罪悪感から拒否するでしょう。彼には憂いなく魔力を取り戻してもらいたいのです。ですから、ランセル卿は呪いを掛けられて記憶が曖昧だと言う事にしていただけませんか?団員達は私が恋人だった事を知っている人達も多くいます。彼を混乱させない為にも、騎士団の方には私との事を彼に伝えないようにしていただきたいのです」
「それは構わないが…。人の口に戸は建てられない。いつどこで君の事がアルフォンスの耳に入るか」
それはそうだろう。
元より二人の関係を気に入らない者も少なくなかったから。
「彼が魔力を取り戻すまでで構いません。対価を払えば、私自身に何が起こるか分からない。今まで通り生活出来るかも分からないのです。そんな人間が彼の側にいる事は出来ませんから」
ソフィアは悲しそうに笑う。
「しかし…」
「西方では身分差がはっきりしています。生まれ育った辺境の地は、生きる為に貴族も平民も関係なくいられました。ですがここはそうではない。彼が魔力を取り戻せば、かつての北の英雄のように活躍するでしょう。そうなった時、政略結婚は十分にあり得ます。貴族としての責務を果たすように実家から言われたとして、それを跳ね除けるのは容易ではありません。その時に、私の存在が邪魔になるのは避けたいのです。私はアル…ランセル卿の優しさに甘えていましたが、彼は貴族です。認められるとは思いません。彼とはいずれ離れなければならないとどこかで分かっていました。ですから…それが少し早まるだけです」
父ライオネルが実家と絶縁を宣言して暮らせたのは、北方だったからだ。そして兄であるシモンは次期伯爵、祖母を力技で抑え込める環境が整っていた。
身分が弊害とならない辺境だったからこそ、周囲の理解も得られた。
ソフィアはちゃんと分かっているつもりだ。
ソフィアの意志が固いと分かったのだろう。
レオナールはため息を吐いた。
「そうか…君の気持ちは分かった。騎士団としてはありがたい申し出だ。しかしソフィアも大事な騎士団の仲間だ。犠牲にするような形は本当はとりたくない」
「これは私の希望です。厄災の厳しさはずっと聞いて育ちました。私は西方が好きです。魔獣に蹂躙されるような事になって欲しくない。その為に、私の我儘だと思って聞いていただきたいのです」
黙って聞いていたカイルは眉間に皺を寄せている。
「…もし自分がアルフォンスの立場だったら、たとえ記憶を無くしても、自分を助けてくれた恋人を利用して見捨てるような事は絶対にしない…アルフォンスだって同じだろう。全てを告げずに騙すように治療するのは君の自己満足だ。それであいつが喜ぶと?」
全くその通りだ。
低く唸るように言うカイルに、ソフィアは困ったように眉を下げた。
「…そうですね、自己満足です。ですが嘘は言っていませんよ。治癒には対価が必要だと伝えましたし、それが命に関わるものでないのも本当です。手足の機能とか聴力とか視力とか、そういうものでなければ良いなとは思いますが。望むなら…その対価が、彼の記憶であればと良いと。そうすれば私の心を残す事なく、彼の幸せを願えます」
カイルは納得していないようだった。
腕組みし、眉間の皺が深まった気がする。
「そんな事を考えずとも、あらためて関係を築く事だって出来るだろう?」
「…そうであれば嬉しいですが、こればかりは何とも。対価が何かは治療しないと分からないので。それに、身分差の事はどうにもなりませんから」
カイルは何も言わなかった。
これでいい、話しながらソフィアの心は思いの外晴れやかだった。
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