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アルフォンスの問いに、ソフィアは答えられない。
逸らす事なく自分を見つめる黒い瞳が、ソフィアを捉える。
「君の話を聞いて、悪意があった訳じゃない事は分かった。誰かに脅されたわけでもない。騎士団の治癒師なのに俺は君を知らない。それでも他の人達は良く知っているようだった。それに君のお母君は恋人のために治療をしたんだろう?もう、考えられるのは、俺が君の恋人で、君の事を忘れているって事だけだ」
話しながらアルフォンスは、これが正解なんだろうと確信した。
指輪の事もある。きっと自分は、彼女に渡そうと思っていた筈だ。あんなに大切にしまってあったのだから、きっとプロポーズしようと思っていたんだろう。
「…昨日、家に帰ってから指輪を見つけたんだ」
「指輪…?」
「そう。家の中に女性の物がいくつかあって気になって。何か手がかりが無いか探したら、引き出しの奥に入ってた」
ソフィアは何も言わず、それでも少し不思議そうな顔をした。
「大事な物を入れてある秘密の引き出しだよ。ベルベットのケースに入っていて、大切に仕舞ってあった。記憶はないし相手も分からなかったけど、俺は恋人にプロポーズしようとしてたんだなって事は分かったよ。その指輪の刻印はね、A to S」
アルフォンスがそう言うと、ソフィアは途端に顔を手で覆った。指の隙間からポロポロと涙が溢れてくる。
「教えて?君は俺の恋人だったんだろう?」
ソフィアはしばらく、声を上げずに泣いていた。
もうダメだ、隠せない。
「…そう…です」
小さな声でようやくそれだけ言うと、ソフィアは唇を噛んだ。
知られたくなかったのに。
対価を払って、彼の元を去ろうとしたのに。
そんな話を今聞くなんて。
自分との未来を、アルフォンスは考えていないんだと思っていた。
だからこそ、自分を忘れた彼から離れる決意が出来たのに。
「どうして恋人だって教えてくれなかったの?」
「…私達の関係は、周りに祝福されるものではなかったから」
「…何故?」
「私は平民だから。西方は身分に厳しいし、周囲の人達、あなたの家族もよく思ってはいなかった…」
そう言えば、と先程ソフィアから聞いた話をアルフォンスは思い出す。
北方は身分差に寛容だと。
「君のお父君は伯爵令息なんだろう?」
「…私と母は違います。でも、その理由は、誓約があるから話すのは難しかった…」
誓約、誓約、誓約。
振り回されてばかりだ。
そんなもののせいで、ソフィアは自分の家族の事すらまともに話せなかったのだから。
「それに…もしあなたの治療をしたら、私は不自由な生活を強いられる可能性が高い。たとえ父の籍に入っても、あなたのご家族は納得しないでしょう」
ソフィアはグッと拳を握る、
食い込む爪の痛みで、少し冷静になった。
「だから、そんな事しなくていいんだよ。誰かを、まして恋人を犠牲にしてまで欲しい力なんて無い」
その言葉を聞いて、ソフィアはキッとアルフォンスを見た。
「あなたがそう言うと思ったから!だから…だから…知られたく無かったのに!」
(こんな風に、アルに言いたかった訳じゃないのに!)
ソフィアはもっと落ち着いて話をしたかった。
それでも溢れた気持ちが止められない。
ワァッと泣き出したソフィアに、アルフォンスは左手でこめかみを掻いた。
「あなたが…どれだけ魔導騎士になりたかったのかを知ってる!お父様に剣を貰って嬉しかった事も、どれほど努力して夢を叶えたのかも!だから…だから…」
泣きながら話すソフィアを見てアルフォンスは、そんな事まで話していたのかと自分に驚く。
父に剣を貰った話は、家族以外は知らない事だ。友人にも言っていない。
今自分は、彼女に対しての愛情は、多分無いだろう。
たとえ結婚を考えた恋人だったとしても、今の自分にとっては数日前が初対面だ。
だからと言って、彼女が犠牲になるような真似はして欲しくない。
「それに魔導騎士が足りないのは知っているんでしょう?厄災はどうするの!?今までとは違う事が起こっているのに!」
そこを突かれるとアルフォンスは痛い。
どちらにしろ戦力は足りていないのだから。魔導騎士の数は前回の厄災よりもずっと少ない。ライオネルは英雄と言われるほどに活躍したが、それでも魔獣達を圧倒できた訳ではない。応援を呼ぶ筈だった戦力を、彼が補えたから何とかなったのだ。
「それは…」
「国王陛下まで参加している会議で許可が下りれば、もう止められない」
「脅迫かよ!」
ソフィアもそう思う。
しかし、現実的に考えて今更止める事は出来ないだろう。
健康体の騎士と治療を望む治癒師。
魔力回路の治癒を行う上で、今の二人ほど好条件はないのだから。
「私はあなたを治療したい。あなたは魔導騎士を続けられる。それに私の事は覚えていないし、愛している訳でもないでしょう?それならせめて、最後の我儘だと思って欲しい!」
もう無茶苦茶だ。
アルフォンスが悪い訳でもないのに。
彼は被害者だ。
自分勝手な事を言っている自覚はある。
「だからって…」
アルフォンスは下を向く。
ソフィアが言っている事は確かだ。
たとえ外堀を埋めるような脅迫紛いの事であっても。
「…分かった」
「え?」
「…治療を、受ける」
「本当!?」
「あぁ…」
「良かったぁ…」
ソフィアは脱力して背もたれに体を預けた。
「ただし、俺は責任を取るから」
「は?」
逸らす事なく自分を見つめる黒い瞳が、ソフィアを捉える。
「君の話を聞いて、悪意があった訳じゃない事は分かった。誰かに脅されたわけでもない。騎士団の治癒師なのに俺は君を知らない。それでも他の人達は良く知っているようだった。それに君のお母君は恋人のために治療をしたんだろう?もう、考えられるのは、俺が君の恋人で、君の事を忘れているって事だけだ」
話しながらアルフォンスは、これが正解なんだろうと確信した。
指輪の事もある。きっと自分は、彼女に渡そうと思っていた筈だ。あんなに大切にしまってあったのだから、きっとプロポーズしようと思っていたんだろう。
「…昨日、家に帰ってから指輪を見つけたんだ」
「指輪…?」
「そう。家の中に女性の物がいくつかあって気になって。何か手がかりが無いか探したら、引き出しの奥に入ってた」
ソフィアは何も言わず、それでも少し不思議そうな顔をした。
「大事な物を入れてある秘密の引き出しだよ。ベルベットのケースに入っていて、大切に仕舞ってあった。記憶はないし相手も分からなかったけど、俺は恋人にプロポーズしようとしてたんだなって事は分かったよ。その指輪の刻印はね、A to S」
アルフォンスがそう言うと、ソフィアは途端に顔を手で覆った。指の隙間からポロポロと涙が溢れてくる。
「教えて?君は俺の恋人だったんだろう?」
ソフィアはしばらく、声を上げずに泣いていた。
もうダメだ、隠せない。
「…そう…です」
小さな声でようやくそれだけ言うと、ソフィアは唇を噛んだ。
知られたくなかったのに。
対価を払って、彼の元を去ろうとしたのに。
そんな話を今聞くなんて。
自分との未来を、アルフォンスは考えていないんだと思っていた。
だからこそ、自分を忘れた彼から離れる決意が出来たのに。
「どうして恋人だって教えてくれなかったの?」
「…私達の関係は、周りに祝福されるものではなかったから」
「…何故?」
「私は平民だから。西方は身分に厳しいし、周囲の人達、あなたの家族もよく思ってはいなかった…」
そう言えば、と先程ソフィアから聞いた話をアルフォンスは思い出す。
北方は身分差に寛容だと。
「君のお父君は伯爵令息なんだろう?」
「…私と母は違います。でも、その理由は、誓約があるから話すのは難しかった…」
誓約、誓約、誓約。
振り回されてばかりだ。
そんなもののせいで、ソフィアは自分の家族の事すらまともに話せなかったのだから。
「それに…もしあなたの治療をしたら、私は不自由な生活を強いられる可能性が高い。たとえ父の籍に入っても、あなたのご家族は納得しないでしょう」
ソフィアはグッと拳を握る、
食い込む爪の痛みで、少し冷静になった。
「だから、そんな事しなくていいんだよ。誰かを、まして恋人を犠牲にしてまで欲しい力なんて無い」
その言葉を聞いて、ソフィアはキッとアルフォンスを見た。
「あなたがそう言うと思ったから!だから…だから…知られたく無かったのに!」
(こんな風に、アルに言いたかった訳じゃないのに!)
ソフィアはもっと落ち着いて話をしたかった。
それでも溢れた気持ちが止められない。
ワァッと泣き出したソフィアに、アルフォンスは左手でこめかみを掻いた。
「あなたが…どれだけ魔導騎士になりたかったのかを知ってる!お父様に剣を貰って嬉しかった事も、どれほど努力して夢を叶えたのかも!だから…だから…」
泣きながら話すソフィアを見てアルフォンスは、そんな事まで話していたのかと自分に驚く。
父に剣を貰った話は、家族以外は知らない事だ。友人にも言っていない。
今自分は、彼女に対しての愛情は、多分無いだろう。
たとえ結婚を考えた恋人だったとしても、今の自分にとっては数日前が初対面だ。
だからと言って、彼女が犠牲になるような真似はして欲しくない。
「それに魔導騎士が足りないのは知っているんでしょう?厄災はどうするの!?今までとは違う事が起こっているのに!」
そこを突かれるとアルフォンスは痛い。
どちらにしろ戦力は足りていないのだから。魔導騎士の数は前回の厄災よりもずっと少ない。ライオネルは英雄と言われるほどに活躍したが、それでも魔獣達を圧倒できた訳ではない。応援を呼ぶ筈だった戦力を、彼が補えたから何とかなったのだ。
「それは…」
「国王陛下まで参加している会議で許可が下りれば、もう止められない」
「脅迫かよ!」
ソフィアもそう思う。
しかし、現実的に考えて今更止める事は出来ないだろう。
健康体の騎士と治療を望む治癒師。
魔力回路の治癒を行う上で、今の二人ほど好条件はないのだから。
「私はあなたを治療したい。あなたは魔導騎士を続けられる。それに私の事は覚えていないし、愛している訳でもないでしょう?それならせめて、最後の我儘だと思って欲しい!」
もう無茶苦茶だ。
アルフォンスが悪い訳でもないのに。
彼は被害者だ。
自分勝手な事を言っている自覚はある。
「だからって…」
アルフォンスは下を向く。
ソフィアが言っている事は確かだ。
たとえ外堀を埋めるような脅迫紛いの事であっても。
「…分かった」
「え?」
「…治療を、受ける」
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ソフィアは脱力して背もたれに体を預けた。
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