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番外編 北方騎士団の例のアレ3
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「ソフィア!」
アルフォンスを父の元へ見送ったソフィアの所に、マーガレットが走ってきた。
長い金髪を一つに纏めて治癒師の制服を着ている彼女に会うのは随分と久しぶりだ。
「もう!全然帰って来ないと思ったら随分色んな事があったみたいじゃない!心配したんだからね!」
ギュウギュウとソフィアに抱きつきながらマーガレットは、溜まっていたらしい文句を並べた。
「ゴメンね、マーガレット」
「ソフィアが元気ならいいの。久しぶりの再会が“娘さんを僕にくださいイベント”だとは思わなかったけど」
「それは本当に、そうね…ゼルク様まで乗り気だったのには驚いたけどね」
「ライオネルおじ様がどうしてもやりたかったんですって。それに、その…」
急にモジモジし始めたマーガレットをソフィアは不思議そうに見た。
「ヒューがね、お父様と戦いたいって…それなら結界を張って試しにやってみれば良いんじゃないかって話になってね」
「へ~…」
真っ赤な顔をしながら言うマーガレットをジトッとした目でソフィアは見る。
「父さんとアルが戦って大丈夫ならヒューもいけると?」
「えっと~、うん」
「…ほんと、脳筋しかいないの?北方は…」
ソフィアは頭が痛くなりそうだ。
休日にも関わらずこんなにたくさんの団員が集まってワイワイと騒いでいる。
娯楽が少ない辺境とはいえ、それは昔の話だ。
今では王都からの物流も確立されたし、以前よりもずっと街として整備されている。
「でもね、ライオネルおじ様はとっても楽しみにしていたのよ」
「そうなの?」
「ソフィアはライオネルおじ様にとっては特別なのよ。ほら、バードナー家は色々あったでしょう?あなたが西方に行ってしばらくは元気が無かったってお父様が言っていたわ」
「そう…」
「まぁ娘の彼氏は気に入らないって言うのが一番だと思うけどね。ヒューも稽古に駆り出されていたから、やる気は凄かったわよ」
「やっぱりそれが本音なのね…」
早速戦い始めた二人を見ながらソフィアは思う。
不器用な父の愛はいつだって感じていた。アルフォンスに愛されているのは違う、穏やかな愛情だ。
色んな悪意から必死に守ってくれた。
「アルフォンスさんすごいわね。ライオネルおじ様の魔法をバンバン防いでる」
「結構押されてるわよ。どう見ても父さん本気だもの」
お互いに剣に魔法を纏わせ、属性を変えながら戦う二人を見る。
ソフィア自身は父親が本気で戦っている所を見たことはない。
アルフォンスは必死に防いでいるが、制御出来ない分の水が結界に当たる。
ジョシュアとヒューが二人で張っているはずの結界にヒビを入れて、そしてまた違う魔法を放つ。
父はあんな風に鬼気迫る戦い方をするのかと、アルフォンスが心配になった。
「そういえばリリス様は?」
「お祖母様はお父様と一緒にどこかで見てるわよ。ジュリアさんもね」
「どこかって…」
修練場を見回すが、それらしき人物はいない。
「…ねぇ、もしかしてフォーセライド家の家門魔法?」
戦いを見ながらソフィアは、マーガレットの耳元に口を寄せる。
「ええ、ジョシュアから聞いたんでしょう?」
「…何か色々覗かれてたみたいなんだけど」
ソフィアは西方の砦での事を知られていた事を思い出す。
恥ずかしい。
「プライベートは安全よ。職場でイチャイチャしちゃダメ」
「…いいわね、便利な魔法で」
「あら、バードナー家の家門魔法だって良いじゃない。私は好きよ、可愛いし」
「可愛いって…」
バードナー家に伝わっている家門魔法は猫のような生き物に変身出来るというものだ。
明らかに猫よりは大きいが、ライオンやトラほどではない。
そして変身している間は自我を保つ事ができず、元に戻るのも気分次第。
かつては寄親であるフォーセライド家の密偵能力のように使われていたのかもしれない。
しかし今となってはほぼ猫になるだけのハズレ魔法だと思っている。
「ヒューがね、見せてくれたのよ。もうゴロゴロ言ってて可愛かったの」
試合に夢中で誰も聞いていないだろうが、マーガレットは小声で笑う。
ウットリと両手を頬につけ、嬉しそうだ。
「はぁ!?」
「うちはバードナー家の家門魔法を知ってるから。それにジョシュアだって恋人に見せたらしいわよ」
「はぁぁ!?ていうかジョシュアって彼女出来たの!?」
シーッとマーガレットは人差し指を口元に当てた。
離れた所で結界を張っている上の弟にも、ついに春が来たということか。
「そうみたいよ。ジョシュアがデレデレしてるってお兄様が言ってたわ」
「…セルブス様、家門魔法で覗いてるの?プライベートは安全って言ってたじゃない!」
「ジョシュアの彼女は王宮勤めだから」
「こっわ!というか職場でいちゃついてるのね、ジョシュア…」
腹黒策士と言われている弟のそんな姿、出来れば見たくない。
「ほんと、うちの弟達は何してるのよ…公表されてない家門魔法まで披露して…」
目の前で戦う恋人の心配をしたいのに、知りたくなかった事を聞いた気分だ。
あの猫のような姿になって恋人に甘えているジョシュアの姿など、とても想像できない。
「まぁジョシュアは策士だから、家門魔法を見せて結婚を迫るっていう事ぐらいはするかもね」
ふふ、とマーガレットは笑う。
「…確かに。それは想像が出来るわ」
そう言いながらソフィアは、戦っている二人を見つめる。
アルフォンスは相変わらず父に押されているように見える。
それでもライオネルに斬りかかり、必死に喰らい付いている。
「父さんは…思った以上に強かったのね…」
北の英雄と呼ばれるようになってからも、それに驕る事なく魔導騎士として北方を守ってきたのだ。
きっと今回の厄災だってヒューと二人で瘴気の裂け目を塞ぐつもりだったんだろう。
だからこそ、魔力回路の治癒をしようとしたソフィアを止めようとしたのだ。
愛する娘が対価を払わずとも済むように。
「…どちらの応援も出来ないっていうのは辛いわ」
愛する父と愛する恋人。
どちらもソフィアにとっては大切な人だ。
どちらか一方だけを応援なんて出来ない。
「とにかく二人が怪我無く終わって欲しい…」
正直勝ち負けなんてどうでもいい。
ソフィアがそう考えた時、カンッと甲高い音を立ててアルフォンスの剣が吹き飛んだ。
弟ジョシュアのお話を始めました。
タイトルは『策士な王宮魔術師は撫でられたい』です。
そちらも読んでいただけると嬉しいです!
アルフォンスを父の元へ見送ったソフィアの所に、マーガレットが走ってきた。
長い金髪を一つに纏めて治癒師の制服を着ている彼女に会うのは随分と久しぶりだ。
「もう!全然帰って来ないと思ったら随分色んな事があったみたいじゃない!心配したんだからね!」
ギュウギュウとソフィアに抱きつきながらマーガレットは、溜まっていたらしい文句を並べた。
「ゴメンね、マーガレット」
「ソフィアが元気ならいいの。久しぶりの再会が“娘さんを僕にくださいイベント”だとは思わなかったけど」
「それは本当に、そうね…ゼルク様まで乗り気だったのには驚いたけどね」
「ライオネルおじ様がどうしてもやりたかったんですって。それに、その…」
急にモジモジし始めたマーガレットをソフィアは不思議そうに見た。
「ヒューがね、お父様と戦いたいって…それなら結界を張って試しにやってみれば良いんじゃないかって話になってね」
「へ~…」
真っ赤な顔をしながら言うマーガレットをジトッとした目でソフィアは見る。
「父さんとアルが戦って大丈夫ならヒューもいけると?」
「えっと~、うん」
「…ほんと、脳筋しかいないの?北方は…」
ソフィアは頭が痛くなりそうだ。
休日にも関わらずこんなにたくさんの団員が集まってワイワイと騒いでいる。
娯楽が少ない辺境とはいえ、それは昔の話だ。
今では王都からの物流も確立されたし、以前よりもずっと街として整備されている。
「でもね、ライオネルおじ様はとっても楽しみにしていたのよ」
「そうなの?」
「ソフィアはライオネルおじ様にとっては特別なのよ。ほら、バードナー家は色々あったでしょう?あなたが西方に行ってしばらくは元気が無かったってお父様が言っていたわ」
「そう…」
「まぁ娘の彼氏は気に入らないって言うのが一番だと思うけどね。ヒューも稽古に駆り出されていたから、やる気は凄かったわよ」
「やっぱりそれが本音なのね…」
早速戦い始めた二人を見ながらソフィアは思う。
不器用な父の愛はいつだって感じていた。アルフォンスに愛されているのは違う、穏やかな愛情だ。
色んな悪意から必死に守ってくれた。
「アルフォンスさんすごいわね。ライオネルおじ様の魔法をバンバン防いでる」
「結構押されてるわよ。どう見ても父さん本気だもの」
お互いに剣に魔法を纏わせ、属性を変えながら戦う二人を見る。
ソフィア自身は父親が本気で戦っている所を見たことはない。
アルフォンスは必死に防いでいるが、制御出来ない分の水が結界に当たる。
ジョシュアとヒューが二人で張っているはずの結界にヒビを入れて、そしてまた違う魔法を放つ。
父はあんな風に鬼気迫る戦い方をするのかと、アルフォンスが心配になった。
「そういえばリリス様は?」
「お祖母様はお父様と一緒にどこかで見てるわよ。ジュリアさんもね」
「どこかって…」
修練場を見回すが、それらしき人物はいない。
「…ねぇ、もしかしてフォーセライド家の家門魔法?」
戦いを見ながらソフィアは、マーガレットの耳元に口を寄せる。
「ええ、ジョシュアから聞いたんでしょう?」
「…何か色々覗かれてたみたいなんだけど」
ソフィアは西方の砦での事を知られていた事を思い出す。
恥ずかしい。
「プライベートは安全よ。職場でイチャイチャしちゃダメ」
「…いいわね、便利な魔法で」
「あら、バードナー家の家門魔法だって良いじゃない。私は好きよ、可愛いし」
「可愛いって…」
バードナー家に伝わっている家門魔法は猫のような生き物に変身出来るというものだ。
明らかに猫よりは大きいが、ライオンやトラほどではない。
そして変身している間は自我を保つ事ができず、元に戻るのも気分次第。
かつては寄親であるフォーセライド家の密偵能力のように使われていたのかもしれない。
しかし今となってはほぼ猫になるだけのハズレ魔法だと思っている。
「ヒューがね、見せてくれたのよ。もうゴロゴロ言ってて可愛かったの」
試合に夢中で誰も聞いていないだろうが、マーガレットは小声で笑う。
ウットリと両手を頬につけ、嬉しそうだ。
「はぁ!?」
「うちはバードナー家の家門魔法を知ってるから。それにジョシュアだって恋人に見せたらしいわよ」
「はぁぁ!?ていうかジョシュアって彼女出来たの!?」
シーッとマーガレットは人差し指を口元に当てた。
離れた所で結界を張っている上の弟にも、ついに春が来たということか。
「そうみたいよ。ジョシュアがデレデレしてるってお兄様が言ってたわ」
「…セルブス様、家門魔法で覗いてるの?プライベートは安全って言ってたじゃない!」
「ジョシュアの彼女は王宮勤めだから」
「こっわ!というか職場でいちゃついてるのね、ジョシュア…」
腹黒策士と言われている弟のそんな姿、出来れば見たくない。
「ほんと、うちの弟達は何してるのよ…公表されてない家門魔法まで披露して…」
目の前で戦う恋人の心配をしたいのに、知りたくなかった事を聞いた気分だ。
あの猫のような姿になって恋人に甘えているジョシュアの姿など、とても想像できない。
「まぁジョシュアは策士だから、家門魔法を見せて結婚を迫るっていう事ぐらいはするかもね」
ふふ、とマーガレットは笑う。
「…確かに。それは想像が出来るわ」
そう言いながらソフィアは、戦っている二人を見つめる。
アルフォンスは相変わらず父に押されているように見える。
それでもライオネルに斬りかかり、必死に喰らい付いている。
「父さんは…思った以上に強かったのね…」
北の英雄と呼ばれるようになってからも、それに驕る事なく魔導騎士として北方を守ってきたのだ。
きっと今回の厄災だってヒューと二人で瘴気の裂け目を塞ぐつもりだったんだろう。
だからこそ、魔力回路の治癒をしようとしたソフィアを止めようとしたのだ。
愛する娘が対価を払わずとも済むように。
「…どちらの応援も出来ないっていうのは辛いわ」
愛する父と愛する恋人。
どちらもソフィアにとっては大切な人だ。
どちらか一方だけを応援なんて出来ない。
「とにかく二人が怪我無く終わって欲しい…」
正直勝ち負けなんてどうでもいい。
ソフィアがそう考えた時、カンッと甲高い音を立ててアルフォンスの剣が吹き飛んだ。
弟ジョシュアのお話を始めました。
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