【R18・番外編】来世でも一緒に

霜月×ティオ

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初恋の君 4/5

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【Side リュカ】


「叔父上!!」

 ミラを膝に抱えたまま慌てて振り向けば、騎士服をキッチリ着こなし、胸に沢山の勲章を煌めかせたその人が、悠々と歩いてくる姿が見えた。

父様とぉさまっっ!!」

「あっ、ミラっ」

 今の今までピッタリと私にくっついていたミラは、ガバリと体を起こし、もの凄い早技でその人に駆け寄って行く。

「ミラ。……いい子にしていたか? 兄様たちは?」

「ミラ、いい子してた! にぃたちは、ラールといっちゃった!」

「そうか」

「ミラ、父様大すきぃっ! ミラね、けっこんは、父様とするのよ!!」

「はははっ。ありがとう。父様もミラが大好きだよ」

 きゃーっと嬉しそうに笑うミラと、軽々と片腕で抱き上げその頭を撫でる、私の叔父上こと、ガルシア大公。

(……全く、……ことごとく敵わないな……)

 きっと今のミラの頭の中は、一瞬で、誰よりも大好きな自分の父親の事で一杯となり、私の存在などポンッと弾き飛ばされているのだろう。

「アレク、お仕事は?」

 いつの間にかマリーも席から離れ、叔父上の側に立っている。

「ああ、今日は早く出たからオスカーと交代だ。……君を迎えに来たよ」

「あら。ふふふっ。嫌だわアレク。私だけでも子どもたちを連れてちゃんと帰れるわよ?」

 そう言いながらもクスクスと嬉しそうに笑うマリーと、「そういう問題じゃない」とすこし呆れた顔で言う叔父上。その、優しく彼女の赤い頬を撫でる姿は、嫉妬心すら湧かない程にマリーとお似合いである。

「母上、お久しぶりです」

「……アレク。貴方が来ると全て持っていってしまうから嫌ね」

「持っていってしまうって……。母上は何を仰るのか。マリもミラも、最初から私のですよ」

 ミラを片腕で抱え、もう片方の腕でマリーの腰を引き寄せて、ジト目の祖母を前にして叔父上は平然とそう言い切る。

「すみませんが、いい時間ですし、そろそろ引き上げさせてもらいますよ。アルマンとテオも回収しますので、フェランはラウルに頼みますが宜しいですか?」

「ええ、ええ。可愛い孫や嫁との触れ合いは、また貴方がいない所でするからいいわよ」

「……まったく。私がいないからと、変な話はしないでくださいよ。あと、きちんと歳を考えた上で酒も飲んでください」

「……わかったわよぅ」

 叔父上の注意に拗ねたように口を尖らせる祖母。
 その様子に叔父上は軽くタメ息を吐くと、諦めたように今度は私へと視線を向けた。

「リュカ、今日はマリとミラが世話になった。ありがとう」

「い、いいえっ」

「今日はもう私たちは帰らせてもらうが、いいか?」

「はいっ、もちろんです」

 慌てて立ち上がって答えれば、フッとその人が笑う。

(……嗚呼、なんて高い壁だろうか……)

 ――立ち上がったところで、目線は相手の方が遥かに高い。

 その風格に気圧されないよう腹に力を入れて、その美しいグレーの瞳を見上げながらそう思う。

 今の私には持てないものを全部、この人は持っているのだ。

 この人がいれば全てが大丈夫だと思わせるような安心感と包容力。
 纏う空気からですらまざまざと感じるその強さ。
 護りたい人を護りきる力も。己が望む人をしかと自分に惹きつける男としての魅力も。人としても、男としても、今の私では、到底この人には敵わない。
 
 そしてそれは、もしかしたら、あと十程早く生まれていたとしても……。

(タメ息が出そうだ……)

 その女性ヒトを引き留めることもできない私が唯一許されるのは、その手の甲に軽く口付ける事だけで。

(……ここまでくると、いっそ清々しいな)

 バイバイと手を振るミラに手を振り返しながらそう思う。


「……我が息子ながら、憎らしい程にいい男ね」

 笑い合いながら帰ってゆく三人の後ろ姿を見ていれば、またもやお婆様がボソリと呟いた。

「……お爺様もあんな感じでしたか?」

「ほほっ。……まぁ、ね」

 祖母の声が少し寂しげなのは、叔父上たちが帰ってしまったからだけではないだろう。彼らの背中を見送る目に、どこか遠くを見ている雰囲気が感じられた。
 
(酔いも醒められてしまったようだな……)

 冷たさを孕み始めた秋の風が吹けば、漂う哀愁に拍車がかかる。
 
 祖母の横顔を見ながら、これ以上なんと声をかければ良いだろうかと思案していれば、不意に祖母が私に顔を向け、視線をピタリと合わされた。

「それにしても。……リュカ」

「はい」

「私ね、さっき言ったことは本気のつもりよ」

「え?」

「ミラの事。家柄と容姿は文句なし、マリアンヌの娘となれば教養もバッチリな娘に育つでしょうね。子息を持つ他国の貴族の中にはね、既に動き出しているところもあるの。……貴方かフェランが本気を出すなら、私が後押しをするから。早めに考えておきなさい」

「……はい」

「あと、ちなみにだけどね。明日のダンス、恐らくマリアンヌは来ないわよ」

「は? え? 何故ですか?」

「ふふふっ。……大人の勘ってところかしら」

「はぁ」

「……あのね、リュカ。貴方もそろそろ諦めなさいな。見ていれば分かるでしょう? あのコは絶対に手には入らない」

「……っ」

「初恋なんてものはね、叶うほうが珍しいの。やはり何かしらの縁がないと、普通は叶わないわよ」

「縁、ですか……」

「そうよ。運命の糸、とでも言えばいいかしら」

「……運命の、糸……」

 確かに叔父上とマリーは、ただの夫婦以上の、そう、まさに運命的なもので結ばれているかのような雰囲気がある。

(私とは決して繋がることはない、糸……)

「……リュカ、初恋でなくても素敵な恋はできるものよ。だから、そんなに落ち込まないの。……ほほっ。それとも、昔のようにお婆ちゃまの胸で泣くかい?」

「えっ、いや、さすがにそれは……」

「なんだい。すっかりツレなくなってしまったわね。……ラウルだって寂しがっているんだよ? あんなに肩車をせがんでいたのにって」

「ふっ、はははっ」

 それはもう昔の事だ。恋という言葉すら知らない頃の。
 背の高いラウルに肩車されると世界が広く見渡せて、私の知らないもので溢れた世界に、ただただ瞳を輝かせていれば良かった頃の話。

(今はもう、肩車をされなくとも見られるようになった)

 夢のように美しい世界も。
 いくら望んでも、どうしても諦めなければならないものがあるという現実も。

 今度は私が、あの日のあの二人のように、あの中心で、あのシャンデリアの下で誰かと踊る番であるという事も。

(私も、あんな風に踊れる相手を早く見つけねばな……)

 あんな風に見つめ合い、愛を確かめるように踊れる相手を。
 そう、次こそは私だけの相手を見つけねばなるまい。

(でも、それはきっと……)

「……お婆様には申し訳ないですが、やはりミラは妹以上には見れないですね」

「おや、そうかい? とびっきりの美人になるだろうに。……後悔しても知らないよ?」

「ははっ、それはそうなんですが、……正直なところ、重ねて見てしまいそうな気がするんです。そしてそれは、あまりにもミラに失礼だ。……まぁ、後悔して泣きたくなったら、すみませんが、その時はお婆様の胸を貸してください」

 何度もその胸に抱かれて泣いた、懐かしい、幼き日の思い出。
 それを思い出しながらそう言えば、「長生きしてあげるから、いつでも言いなさい」と、笑いながら言われてしまった。


「お。帰ってきましたね」

 二人で顔を見合わせ笑っていれば、遠くから、フェランが叫ぶ声がした。

「あれはまた大きいなぁ」

「ほほほ。本当ね」

 両手に沢山のお菓子を持ったフェランと、その後ろを歩くラウル。ラウルのその手には、鮮やかなオレンジ色をした立派なカボチャが持たれている。

「明日はカボチャのパイですね」

「ええ。……ふふ。それも毎年恒例だわね」

 そういえばそうですねと、私たちは顔を見合わせると、再び笑い合ったのだった。
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