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第二章 贖罪
20話
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マークは、セーレとビィシャアのそばまで、バイクを徐行させながら近寄った。
「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」
「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」
――ビィシャアが、ぐっと身を寄せてきた。
「……村か、ありがたいわね。それなら、あなたに案内をお願いしましょうかしら」
「えーと、ビィシャアさん。バイクは二人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」
「遠くはないわ。それに、私にも移動手段ならあるわ」
ビィシャアはポーチから石を取り出した。その手が勢いよく振られ、火柱が立ち上る。
マークは思わず「中二病でも発症したのか」と心配になった。とたんに火は消え、ビィシャアが握っていた手を開く。赤い石が輝いていた。その石を、彼女は上空へ投げた。
「何をしたんだ?」
「今からよ。見てなさい」
砕けた石は地面に落ち、触手のように柔らかくなって周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。
やがて、石だったものは馬の姿へと変化した。赤い鉱石でできたそれは、ガラス細工のような美しい彫刻にも見えた。
「私はこれに乗っていくわ」
「凄いな……これは何なんだ?」
「これはね、このブレスレットのおかげなの」
「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」
――ビィシャアは少し考えてから、返答した。
「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているようです」
ビィシャアとマークがブレスレットの話をしている様子を、セーレは黙って静観していた。
セーレには、そのブレスレットに見覚えがあった。
かつて、召喚術師を輩出し、戦時下に参加した一族があった。その名は『ネイサン』。
彼らは鉱石を自在に操るという。
「さぁ、セーレ。案内するわ。私の後についてきてね」
ビィシャアがやけに懐いているように見えるのは、気のせいだろうか。
セーレを「憎む」と口にしていた気持ちは、すでに消えたのか。
そんな思いとは裏腹に、ビィシャアは足早に村への道を案内していった。
◆◇◆◇
「何か、薄暗い村だな」
村の入り口には、異様な雰囲気が漂っていた。
家の外壁はすべて黒。怪しげな薬を売る老婆も黒ローブを着用している。
子供の姿はあるが、笑い声は聞こえない。
空気が重い。雨上がりのような、じめじめとした湿気を、マークは肌で感じ取っていた。
「私の家はあれよ」
「やっぱり、黒なんだな」
ビィシャアが指さした家は木組みで、外壁はやはり黒だった。もはや、この村のしきたりなのだろう。
「ただいま、ママ」
――ビィシャアが玄関ドアを開ける。
その先には、四十歳そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。
ビィシャアは母親に駆け寄り、セーレとマークを紹介する。
「お母様、初めまして。私はセーレと申します」
家の中は黒で統一されておらず、ごく普通の住居だった。マークは密かに「黒でなくて良かった」と思った。
ビィシャアの母親は、料理をする手を止めた。
二人に近づき、挨拶をする。
セーレは自己紹介の後、膝をつき、深く頭を下げた。
「私は、あなた方ご家族に、許しがたい行いをしてしまいました」
「え……急に、何をなさるんですか」
――その行動に、母親は驚いた。
「エドモンド家のご主人は、私たち『言論の自由』の活動メンバーでした。その方は偵察部隊のリーダーで、情報のためなら命を投げ出すことを厭わない、勇敢な人でした」
「知っています。主人は仕事一筋でしたから」
母親は頷き、ゆっくりと口を開く。
「私は、自分の弱さと未熟さで、守るべき人たちが殺される姿を、ただ傍観することしかできませんでした。すべて、私が不甲斐ないからです。申し訳ございません」
――セーレは、頭を深々と下げた。
歩きながら、ビィシャアの母親はセーレの肩に手を置き、首を左右に振った。
「あなただけが悪いわけではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったのだと思います」
「ですが……」
「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくださる。そのお気持ちだけ、いただいておきます。どうか、ご自分を責めすぎないでください」
セーレの瞳に涙が溢れ、母親の両手を掴んで、再び深々と頭を下げた。
「……ありがとう」
◆◇◆◇
ビィシャアの母親は料理に戻り、娘に「この村の紹介をして」と頼んだ。
セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見て回る。そうしてある場所で足が止まった。
そこでは、一際大きな歓声が上がっていた。
「これは、巨大なモニター?」
「そうよ。凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」
「あぁ、クライか」
どうやら、どこかの内政放送をライブ配信しているようだった。
「この者を処刑する!!」
罪人の顔を見た瞬間、セーレは急に頭を押さえ、苦しみだした。
何か――記憶の重要なピース。
だが、記憶に蓋をされたことによる弊害のような感覚が、彼女を襲う。
その人物を見ると、胸が張り裂けそうに苦しい。
マークとビィシャアが「どうした」と心配そうに近寄る。モニターの音声は続く。
「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって、罪人は死刑との判決を、アーネス様が下された」
モニターには、刑の執行を待つ囚人の前に、王城から一人の男が現れる。
胸には数々の勲章、白マントを携えていた。
「あなたなの……アーネス? どうして……あなたに、何があったの……」
視線は交わらない。
古き面影に、月は困惑した。
優しさの奥に潜む影の情報が伝達される。
理解が及ばないまま、二人の距離は、架空のものとなっていた。
「とりあえず、どこかで体を休めたいわ」
「それなら、セーレ。私の村へ招待するわ」
――ビィシャアが、ぐっと身を寄せてきた。
「……村か、ありがたいわね。それなら、あなたに案内をお願いしましょうかしら」
「えーと、ビィシャアさん。バイクは二人乗りなんだが、君の村はここから遠いのか?」
「遠くはないわ。それに、私にも移動手段ならあるわ」
ビィシャアはポーチから石を取り出した。その手が勢いよく振られ、火柱が立ち上る。
マークは思わず「中二病でも発症したのか」と心配になった。とたんに火は消え、ビィシャアが握っていた手を開く。赤い石が輝いていた。その石を、彼女は上空へ投げた。
「何をしたんだ?」
「今からよ。見てなさい」
砕けた石は地面に落ち、触手のように柔らかくなって周囲のオアシスの水、地面の土、草花を吸収していく。
やがて、石だったものは馬の姿へと変化した。赤い鉱石でできたそれは、ガラス細工のような美しい彫刻にも見えた。
「私はこれに乗っていくわ」
「凄いな……これは何なんだ?」
「これはね、このブレスレットのおかげなの」
「そのブレスレットは宝飾や飾りが施されているな。かなり高価なものなのか」
――ビィシャアは少し考えてから、返答した。
「高価かどうかは知らないわ。けど、このブレスレットには特殊な魔力が込められているようです」
ビィシャアとマークがブレスレットの話をしている様子を、セーレは黙って静観していた。
セーレには、そのブレスレットに見覚えがあった。
かつて、召喚術師を輩出し、戦時下に参加した一族があった。その名は『ネイサン』。
彼らは鉱石を自在に操るという。
「さぁ、セーレ。案内するわ。私の後についてきてね」
ビィシャアがやけに懐いているように見えるのは、気のせいだろうか。
セーレを「憎む」と口にしていた気持ちは、すでに消えたのか。
そんな思いとは裏腹に、ビィシャアは足早に村への道を案内していった。
◆◇◆◇
「何か、薄暗い村だな」
村の入り口には、異様な雰囲気が漂っていた。
家の外壁はすべて黒。怪しげな薬を売る老婆も黒ローブを着用している。
子供の姿はあるが、笑い声は聞こえない。
空気が重い。雨上がりのような、じめじめとした湿気を、マークは肌で感じ取っていた。
「私の家はあれよ」
「やっぱり、黒なんだな」
ビィシャアが指さした家は木組みで、外壁はやはり黒だった。もはや、この村のしきたりなのだろう。
「ただいま、ママ」
――ビィシャアが玄関ドアを開ける。
その先には、四十歳そこらの女性がトマトを包丁で切り、サラダを作っていた。
ビィシャアは母親に駆け寄り、セーレとマークを紹介する。
「お母様、初めまして。私はセーレと申します」
家の中は黒で統一されておらず、ごく普通の住居だった。マークは密かに「黒でなくて良かった」と思った。
ビィシャアの母親は、料理をする手を止めた。
二人に近づき、挨拶をする。
セーレは自己紹介の後、膝をつき、深く頭を下げた。
「私は、あなた方ご家族に、許しがたい行いをしてしまいました」
「え……急に、何をなさるんですか」
――その行動に、母親は驚いた。
「エドモンド家のご主人は、私たち『言論の自由』の活動メンバーでした。その方は偵察部隊のリーダーで、情報のためなら命を投げ出すことを厭わない、勇敢な人でした」
「知っています。主人は仕事一筋でしたから」
母親は頷き、ゆっくりと口を開く。
「私は、自分の弱さと未熟さで、守るべき人たちが殺される姿を、ただ傍観することしかできませんでした。すべて、私が不甲斐ないからです。申し訳ございません」
――セーレは、頭を深々と下げた。
歩きながら、ビィシャアの母親はセーレの肩に手を置き、首を左右に振った。
「あなただけが悪いわけではありません。私も主人が亡くなって驚きはしましたが、彼も本望だったのだと思います」
「ですが……」
「セーレさん、あなたはお優しいのですね。こうして、一兵士の家族にまで律儀に謝罪してくださる。そのお気持ちだけ、いただいておきます。どうか、ご自分を責めすぎないでください」
セーレの瞳に涙が溢れ、母親の両手を掴んで、再び深々と頭を下げた。
「……ありがとう」
◆◇◆◇
ビィシャアの母親は料理に戻り、娘に「この村の紹介をして」と頼んだ。
セーレとマークは、ビィシャアの案内で村を見て回る。そうしてある場所で足が止まった。
そこでは、一際大きな歓声が上がっていた。
「これは、巨大なモニター?」
「そうよ。凄い技術でしょう。なんでも天才発明家が作ったそうよ」
「あぁ、クライか」
どうやら、どこかの内政放送をライブ配信しているようだった。
「この者を処刑する!!」
罪人の顔を見た瞬間、セーレは急に頭を押さえ、苦しみだした。
何か――記憶の重要なピース。
だが、記憶に蓋をされたことによる弊害のような感覚が、彼女を襲う。
その人物を見ると、胸が張り裂けそうに苦しい。
マークとビィシャアが「どうした」と心配そうに近寄る。モニターの音声は続く。
「この者は、不敬にもセーレ様の恋人を名乗った。よって、罪人は死刑との判決を、アーネス様が下された」
モニターには、刑の執行を待つ囚人の前に、王城から一人の男が現れる。
胸には数々の勲章、白マントを携えていた。
「あなたなの……アーネス? どうして……あなたに、何があったの……」
視線は交わらない。
古き面影に、月は困惑した。
優しさの奥に潜む影の情報が伝達される。
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