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第19話 パジャマパーティー夜明け前

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3人が余裕で寝られる大きなベッドの真ん中で私たちは横になった。

「もしかして私のところだけ床がパカッて開いて落ちるとか……無いよね?」
ミトさんが林さんにレトロ且つネガティブなイメージを突きつけた。

「………よく解りましたね?床下収納あるって。」
と、林さんは指先に収まる程のパワーポインターでスイッチに光を当てると、本当にパカッとベッドが開いたのだった…

「てめぇ─」
そして落ちる時にミトさんの指が私のTシャツの袖に引っ掛かった─
あっと言う間に2人とも収納されてしまったのだった。

「妖精さんも連れてかないでくださいー!!」と、小さくなる林さんの声と同時に扉は閉まってしまった。

(下にクッション引いてある…さてはアイツ初めからここに落とすイタズラ考えてたな…)と、ミトさんはため息をついた。

そして薄暗い収納庫の中、ミトさんが私の下敷きになって抱きしめていてくれた。そして、私の首元に顔を近づけた─
「……お前って、本当何の匂いもしないな…」

「ミトさんがっちりしてて安心…暗いしこのまま寝て良い?」
「お前…よくこの状況で焦ったりしないよな…怖いとか死にそうとか襲われるとか思わないの!?」
「思わなくもない…けど…そうなったらそうなったで…仕方ない?」
「………もっと、自分を大事にしろ!(諦め早すぎ!…ほんとコイツ…)」
ミトさんの抱きしめている手に力が入った。

そして、流石に慌てた林さんによって扉は開かれた。
「ごめんなさい…ネコの人だけ脅かそうとして…」
「てめえ…首根っこ噛みちぎんぞ…」
「………いいじゃないですかぁ、結果的に妖精さんとイチャイチャ出来て!」林さんは2人のその光景をみて、唇をつんと尖らせて複雑そうな表情をした。

「兎に角、場所替われ。下が空洞だと落ち着かん…」

私を真ん中にして、ミトさんと林さんが横になっている。2人とも私の腕や肩に寄りかかった。

「これ知ってる…両手に花っていうやつだ。アキヨシに自慢しよ…」
「館長ってさぁ…片手づつに美女とミミズクの奴、侍らしてそう…」
本人の知らない処で何だか凄いイメージを打ち出してきたミトさんだった。
「独身こじらせてるイメージはありますが…それも…有りですね…。」
林さんも本人の知らない処で散々な言い様だった。

「いいな…私もミミズク先輩、侍らしたい。」
「ひどいです…私たちじゃもの足りず…妖精さんって、意外と強欲なんですね…」
「アイツの中身は、外見ほど可愛くないから騙されるな…」
「だけど髪の触り心地、高級羽毛…」
そうして、深夜によくある冗談混じりのガールズトークが繰り広げられた─

2人が静かになった後、先ほど少し寝てしまったためか覚醒した私はテラスに再び赴いた。

「眠れないのですか?」
暫くして、林さんが白湯を入れて来てくれたのだった。
「…林さんも?」
「はい…(さっきミトの言ったことが頭から離れないのです…)」

《加護が届かなかった処とは?》
《寿命だよ………。》
《人程生きられる動物も居るけど…大抵人間より短命なのが多くて。擬人化してからは少し寿命が延びるっていう加護があるんだけど…其でも人間にとっては短命って事になるんじゃない?》
《アイツがもし─なら、あんまり寿命はないかもしれない…私だって後10年位しか生きれないかもしれない…だから自分自身に課した使命を果たさないと─》

(擬人化の方たちの寿命には個体差があるんですね…)

「私…妖精さんと離れるの嫌です。やっとここまで親しくなったのに…」
「私は…ミトさんに声掛けられてから、林さんに見つかって、色んな人に出会う様になってここのところ目まぐるしい…」
「…………私に構われるの嫌だったですか?」
「初めは不思議な気持ちだったけど、2人が側にいないと物足りない……」
「私が特別になることは…無いんでしょうか…」
「…とく、べつ?」
「私…今が一番楽しいんです。」

(一人で財を成した私は、今までの養育費用をいっぺんに親に返してしまったら、急に目の色が変わった両親…。
その計算ミスを後悔しても既に遅かった。勝手に家に上がられて、怪しい事業に荷担させられそうになった為、セキュリティを強化した。ベッドの床下収納も実は隠れる為のシェルターだ。私と両親との楽しい日々は、私の成長と共に消え去った─。)

「私…新しい家族との楽しい思い出を作りたいんです。そこに…妖精さんも居て欲しいのですが…。」
「林さんと…家族…。」
「ええ、それが特別です!」
「……アキヨシと林さん似てるから…有り寄りの…有り?」
「似てません!!というか…茶化さないで下さいよー。」

もうすっかり朝焼け空になっていた。其でもまだ、流星が見えていた─

「2人とも酷いー、置いてくなんて。」とまだ目がトロンとしているミトさんがやって来た。

「では、一緒に朝風呂しませんか?ぬるま湯入れて置きました。」
「…………ひっ。林…遂にうちらで実験するのか?」
ミトさんはまだ寝起きの思考状態だった。

そんな隙のあるミトさんにジリジリと、「それでは、じっくり観察しましょーか?」と林さんは近づいて…ピタリと止めた。
「………嘘ですよ。水着の用意ありますから!目の前の温水プールで水浴びだけでもどうです?」
(本当は純粋に、2人との思い出を作りたかっただけです─)


だけど結局…林さんに凄い体を触られた─
「林…卑猥…」
「…ヒワイ?」
「妖精さんは知らなくて良い言葉です─」
「いや、知らないとコイツ首傾げたまま触られっぱなしじゃないか!何でも受け入れ過ぎてて不気味だし、スゲー怖いから!!」
ミトさんは、ある意味私にも恐怖を感じたのだった。

そして、そんな和気あいあいとしたイチャイチャタイムに終止符を打つかの様にチャイムが鳴った─
玄関モニターを見た林さんは、珍しく動揺と怯えた様子を見せた。(何でこのタイミングで…)

私は林さん出たくないんだなって分かった。だから─
「…誰、ですか?」とガチャっと玄関を開けた。
「あれ?娘の友だちかい?」
「私最近ここに引っ越ししてきました…ので、よく分かりません…」
そして彼は中を伺う様に覗こうとしてきたので、「両親が…帰ってきたら、何か伝えておきましょうか?」と言うと。「あ、いや……」と諦めて帰ってくれた。

「妖精さん!……ありがとうございます!」と、水滴したたるままの林さんに抱きしめられた。
「アキヨシよく居留守使うから……居留守スキル役にたった?」
「妖精さん凄く格好良くてびっくりしました!…今回ばかりはだらしのない館長さんにも感謝ですね…」
「林、親と上手いこといってないのか?………顔色悪いぞ、大丈夫か!?」
「今日はいないと言ってあったのに…最近、一人で対応するの疲れていたんです…だから─」

『今日は妖精さんに救われ記念日ですね!』
と笑った後、林さんは私に沿う様にしゃがみこんでしまったのだった─
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