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第24話 愛憎の夏休み子ども自由研究

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「小池ネイチャーミュージアム」。
辺鄙な場所にあるマニアックな博物館にも、夏休みの自然体験学習イベントでは子どもたちがそれぞれの宿題をする為、集まってきていた。

「みんなー!こちらは生き物の博士、小池先生でーす!これから先生の言うことをよく聞いて!行動して下さいねえー!そうじゃないとー…………ガオー!!と熊さんが出てきてしまいますのでーくれぐれも先生たちから離れないように!ルールを守ってくれるっいう良い子はきょしゅーーー!!」

「「「「はーーーーーい!!!」」」」

「ウィリー、ここってこんなテーマパークだったかしら?あのやたらテンションの高い人は誰なの?」
「昨年来たときは、もっと静かだったはずだけど……」

「なぁ豚姉ーアイツ誰なんじゃ?お゛!?」
「初めて見る方です。それに小柚子ちゃん…クラスの子には普通に話せるんですね。びっくりです。」
小柚子・ウィリアム・ラードナーくんは、内弁慶なのだった。

「紹介されるの恥ずかしかったあ。あの人は、僕の教え子のサツキさん。お仕事でイベントのツアーガイドしてたみたいだよ。(彼女の勤務先は秘密らしいけど…)」
「そうなんですね。ご主人さ…小池さんも、レトルトちゃんの養父さんだったんですね。それにもびっくりです。」
「レトルト……(ああ、娘のことか)君も、あの子の学校の用務員さんだったとは、僕もびっくりしたよ。(正直気まずい…)」

「先生……熊が出るとか大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。こんなに騒がしくしていると向こうからは寄ってきませんし。行き先には熊の嫌がる周波数の出る装置も取り付けていますし。」
「先生……私貧血であまり体力が…」
「大丈夫ですよ。休みながら行きましょう。ですが何かありましたら直ぐおっしゃって下さいね。」
先生、先生。とアキヨシは奥様方に取り囲まれていた。

「アキヨシが…モテてる…」娘は驚愕した。
(私の先生なのに!)サツキは嫉妬した。
時として先生という肩書きはモテるのであった。

「それに熊がいたって、私がやっつけてやるよ!その間にちゃんと逃げるんだぞ?」
「ミトちゃん…カッコいい…」
「にゃんこファイター…可愛い…」
「ミトお姉様……」
太陽の光を背に背負って、まさにヒーローの佇まいのミトさんは、近くに居た小柚子ちゃんの頭をワシャワシャと撫でた。
(私のミートちゃんなのに!)サツキは二度嫉妬する。

「お姉さんが、レトルトの生まれ代わりなんじゃないの?」
小柚子くんは、すっかりミトさんを気に入っていた。
「レトルト?何それ?」
「ち、ちがいます!!(コイツは危険な猫です!)レトルトちゃんはこっちです。」
「私…レトルトちゃんだった?初耳…」
主人公は、首を傾げた。

「………なんか違う!!レトルトは、もっと明るい感じだった!それに─何わしの誕生日会ドタキャンしてくれとんのじゃ、お゛?」
「オコメさんが言ってたバーベキューの日?その日は─」
「元ご主人のわしの誕生会優先させんかい!」

「コユズゥー、誕生日だったのにごめんなぁ…私がコイツと約束してたんよ。」
「えっ、そうだったんですね……それじゃあ一緒に来て頂いても良かったの─イタッ」
「ウィリーは私と仲良しじゃなかったの?この泥棒にゃんこの方が好きなの?」
「泥棒はしたことないぞ?」
「ユキちゃん、違うんだ─」
クラスのマドンナにつねられた小柚子くんは、必死に機嫌を取りにいった。
「ウィルー!一緒に宿題するって約束したじゃん!」
「小柚子ちゃん待ってよー私もー」
「ウィリアムってお人形さんみたい…緑色の瞳観察させて…」

(ユキちゃん。……カズキの元カノと同じ名前……フフッ)
主人公は、今居ないミミズクくんの事を考えた。
というのも………スタッフの皆が優秀で特にやることも無くなったで、ただボーっとしているだけだった。

「はーい!ここが休憩場所になりまーす!ここから皆さんのそれぞれの研究をしていってみましょーう!」

「「「「はーーーーーい!!!」」」」

「先生、この子クワガタを観察したいみたいで…」
「昨日の夜に─」
「それなら、幾つか仕掛けした木があるので、集まって居るかどうか見に行きましょう!」

「先生、この子水彩画描くのですが、オススメの場所とかあります?」
「それなら─」
「此方に小川がありますので、緑と水のコントラストが綺麗でオススメですー!」

(僕何かサツキさんに悪い事したっけ?…妨害されてる気が…)
(先生に色目使ってくる奥様方を近寄らせない様にしないとね…)

「きゃっ………!!」
「大丈夫かい?ここ段差あるし、滑りやすいから気をつけるんだよ?(相変わらず柔らかい…可愛い…)」
「ごめんなさい…ご主人様。また支えてくださって…」

(まただと!?以前もこんな雰囲気に?ノーマークだったアイツが本命の敵だったか…抜かった…)サツキの標的がオコメさんになった。

「先生、ちょっと疲れてしまいました。」
「先生、何だか暑くって…」
先生、先生。と、頼られたアキヨシは………
「今年は冷夏ですが、ハイキングなどは慣れてないと危険ですからね。是非此方の木陰で休んで下さい。お子さんは責任を持って見守りますので(ひー人員が足りない!!)」
「先生も大変でしょ?一緒に休まなくって?」
(困るー!!)
単純に、いっぱいいっぱいになっていた。

(フフッ…修羅場…)
主人公は相変わらず陰気な感じで傍観していた。

すると、「ねぇねぇ…」と袖を引っ張られた。

「僕……お姉さんの事、観察したい─」
「えっ………」
そこには、黒髪の長い前髪から覗いている、少年のキラキラとした瞳がこちらを向いていた。
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