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迷いの森 ユーダ
岩壁
しおりを挟む嘘だろ と思う。
矢印というものは、普通道に迷わないように出入口とか目的地の方を指し示しておくものだと思うのだ。
それなのに…
「くっそぉ、矢印め!」
行手を阻む岩壁を睨みつけ、アックスは唸るように吠えた。
…のだが、うっかり落ちた遺跡の通路に人の気配があるはずもなく。
殺風景な通路にはカラカラに干上がった己の声が響き渡るだけである。
虚しすぎて涙が出そうだ。
ひょっとして、矢印を残した奴もこんな気分でさ迷っているんだろうか?
まさか、すでに何処かで…
「うわ、駄目だ。なしなし、今のなし」
最悪な方向へ沈みかけた思考を慌てて再浮上させる。
地上に出られぬまま、ずっとこんな暗い場所をさ迷い歩いているから、こんな鬱々とした気分になってしまうのだろう。
一応ここに至るまでの間に、人の声を聞いた(ような気もする)し、見知らぬ少年との出会い(実在する人物であって欲しい)もあった。
あれが幻覚や幻聴の類でしたなどとは、出来れば思いたくない。
最初の光る矢印を発見してから、ずいぶん上へ登ってきたはず。
自分で自分を励ますように、これまでの道のりを思い返してみる。
ぐねぐね続く地下通路を突き進み、入り口だらけの謎部屋にたどり着き。
まあ、あの時はどう進むべきか散々悩んだけれど…
最終的にずらりと並んだ入り口を一つ一つ調べあげ、再びあの光る矢印を見つけられたのだから結果オーライだったと思う。
最後に光る矢印を発見してから、ここまでは一本道。
道は間違えていないはずだ。
矢印を残しておくということは、どこかしらに辿り着く為の目印だったはずで…
そもそも行っちゃダメな方向なのだとすれば、それ相応の印を一緒に残すのが親切心というものだろう。
そうだよな?と、持論に拳を握りしめる。
あの地獄のように続く螺旋階段…
思い出すだけでげんなりとする。
それを乗り越えられたのは、脱出できるかもしれないという淡い期待があればこそ。
それなのに登り切った先にあったのが出口じゃなくて、殺風景な行き止まりっていうのは…
「あんまりじゃないか矢印ぃ!正確には矢印描いた奴だけどっ!!」
再び響き渡る己の声に、虚しさとなけなしの体力が削られていく。
「はぁ…引き返すか」
項垂れたまま力なく首を振って、引き返す前に目印の有る無しくらいは確かめておこうと頭を持ち上げる。
手がかりを見落として、またこの場所に戻ってくるなんてことになったらそれこそ目も当てられない。
さすがに行き止まりまでの目印を残すわけないだろうし、目印自体が突然消えるなんてこともないだろう。
ここまで矢印を残してきた人物が忽然と姿を消すなんて事もないだろうし………ない、よな?
半ば祈るような思いになって、仕掛けでもないかと目の前の岩壁に張り付くようにぺたぺた触れていく。
結果、元々崩壊寸前だった心がぽっきり折れてしまった。
空腹と疲労で目の前がくらくらとまわりはじめている。
たまらず通路の石床にドスンと腰を落として足を放り出す。
「矢印ぃ、どこだよぉ……ああ、もうだめだ」
少し休んでから考えようと、ごろんと横になる。
頭を傾けた拍子に小さな光を見つけたアックスは、しばらくぼんやり眺めて、それからゆっくり目を瞬いた。
通路の側壁の床すれすれのところでちまっと光っている。
あれは、おそらく矢印だ。
こんなものやけっぱちで寝っ転がろうとでもしなければ完全に見逃してしまうだろうに…
しかし何でこんな場所にあるんだろうかと首を傾げつつ、矢印の指し示す方向を目で追っていく。
そして歓喜の息を漏らした。
視線の先にあったのは穴だ。
側壁の上部に人が1人通り抜けられそうな穴が空いている。
この高さなら、たぶん凹凸に手足をひっかけながら壁をよじ登っていけそうだ。
疲れ切った身体に鞭打って起き上がる。
なんとか壁を登って穴から這い出ると、下から炎を呼び寄せ辺りを照らした。
どうやら下の通路とさほど変わらない広さの通路のようだ。
片側が壁に阻まれている事まで下の通路と同じで、どういう造りをしているのかと不思議に思ってしまう。
きっと正規のルートではないのだろう。
這い出た穴は歪で、とても最初から人が通る事を想定して造られたものとは思えない。
さて…
どうしたもんかと少しだけ天を仰ぐ。
しばらくして立ち上がると、アックスは重い足を引き摺るようにあらたな通路を進みはじめた。
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