イサード

春きゃべつ

文字の大きさ
上 下
4 / 38
迷いの森 ユーダ

ふたりの旅人

しおりを挟む


寝る子は育つとよく言うが…
出会ってからこちら、飛躍的な成長は見受けられない相棒の容姿に彼は唸り声を漏らした。
当の本人は、馬上で盛大な転た寝っぷりを披露している。
宿屋で布団を没収し、身支度を整えさせ、馬上へと誘導した。
果たして起こさなければいつまで眠っているのか。
興味本意で放置しはじめてからかなりの時が経つが、未だ起きる気配はゼロ。
夜が明ける前に出発したとはいえ、よくあんな態勢で眠れるものだと呆れてしまう。
心地よさげに眠る相棒の淡い茶の髪がふわりと風に靡く。
頭上を見上げれば、悠々と流れる雲に青い空。
島の者から畏れられている謎多き迷いの森。そんなものが目と鼻の先まで差し迫っているというのに、相も変わらず景色は平和そのものだ。
こう天気が良過ぎるのも如何なものか?

「いや、良いに越したことはないんだが。それにしたってなぁ…」

あまりの心地良さに、万年居眠り症候群の彼でなくともついうとうとしそうだ。

「…おっと、危ねぇ。つられちまうとこだった」

慌てて体勢を整え、手綱を握りなおす。
ここにルディウスが居たなら、今頃呆れきった冷ややかな視線が飛んできたに違いない。
丁寧なのにどこかぶっきらぼうな口調と、細長い銀縁眼鏡を押し上げる姿が目に浮かぶ。
 用が済んだら直ぐに追いかけます。
そんな伝言を残して彼が別行動をとってから、七日と半日。

「何やってんだろうな。彼奴あいつは…」

しばらく店を空けるからと届け物をしに向かった。
シグマが多めに調合をした薬草をだ。
だが、それにしたって遅すぎる。

「たしか届け物リストの最後の客は…」

 地図を口にくわえガサゴソとポケットを探り、しわしわの紙切れを取り出す。
リストの最後の名にたどり着き、ゲゲッと顔を顰めた。

「ロイの婆さん家かよ、おい…」

 過去の手痛い記憶に、思わず顔が引き攣る。

「ルディウス。…お前ならきっと平気だよな」

少々投げ遣りな応援を口走り、いそいそとリストが書かれた用紙をしまい込む。
視線を戻すと、数メートル先で道が二手に分かれているのが見えた。
右に大きく曲がった先に、森の入口があるはずだ。
昼には少し早いが、ここらで遅めの朝飯でもと考える。
 だが…

「…おい、あんた。大丈夫かっ」

分かれ道にたどり着いて早々、その考えは吹き飛んでしまった。

続く。
しおりを挟む

処理中です...