イサード

春きゃべつ

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迷いの森 ユーダ

ガウェイン・トレバース

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一度村に引き返した彼らは、再度支度を済ませ祭壇のある広場を目指していた。
点在する淡い光の中を進む小舟の上で、男の話に耳を傾ける。
元々カルスを目指していたオメガ、シグマ、ルディウス、シンシアに、救援を求めてきた男を加え、結論としてその場所へは5人で臨む事となった。
男の名は、ガウェイン・トレバース。
いかにも探検家が好みそうな服装をしている彼だが、印象としては品の良い老執事と言われた方がしっくりくる風貌をしている。
彼の主人であるアルバという人物の助手として、同僚のセラとともに調査に同行したそうだ。
大陸から島へは、ひと月ほど前にやって来たのだという。
彼らの目的は、ユーダの森の地下に広がる古い遺跡の探索と調査。

「…では拠点に選んだ場所から水路を辿り、お一人でここまでやって来られたというのですか?」

愛用の銀縁を押し上げ問いかけるルディウスに、ガウェインがその通りだと頷く。

「地下遺跡の探索…」

2人の話を聞いてシンシアがぱっと顔を上げる。
彼女の正面に腰掛けたシグマは、逆に「森の中…」と呟いたきり思案顔で黙り込んでしまった。
そんな彼の手元へビィットが鼻先を近づける。
気づいてその毛並みを撫でると、なんでもないよと囁きシグマは再び顔を上げた。

「森の地下にそんなでっかい地下遺跡じんこうぶつが広がってるなんてなぁ…」

船着場まで彼らを送り届ける役目を引き受けたダイナが、彼らの会話を耳にしてそんな感想をもらす。
ガウェインの辿ってきた水路は、村の祭壇の排水路だと思われていた場所に繋がっているようだ。
櫂を引き寄せた拍子に、視界の端を崩落した橋の残骸がゆっくりと流れていく。
舟を漕ぐ手は止めずに視線だけ進行方向に戻すと、ダイナはシグマの隣に腰かけているガウェインの背へ声をかけた。

「ところであんた。戻りの道のりは覚えてるのか?」

ダイナの問いかけを受け、身を捻って顔を向けたガウェインが頷く。

「古い文献を頼りに調査を進めておりましたので、模写したものがここに…」

言い終えると彼は自身の胸ポケットから折り畳まれた羊皮紙を取り出し、対面で腰かけているルディウスへとそれを手渡した。

「とはいえ、元が古いものですから抜けも多く。念の為、通った箇所にも目印を残しておきました。文献や地図と照らし合わせながら拠点を変え、少しづつ調査を進めていたのです。ですが…」

言葉を区切り、広げられた紙面の一部を指差す。

「ここです。この辺りで仕掛けが発動しまして…」

それまで進行してきた道が閉ざされ、救援を得るため別の通路ルートを進まざるを得なかったというわけだ。
その後彼が辿った道筋が、赤い線で記されている。

「おそらく仕掛けの解除とともに、閉ざされた道や閉じ込められた部屋の入り口も開く仕組みではないかと思うのですが…」

紙面の余白部分には簡易的な図や疑問点、仕掛けを解く為の予測と検証が書き加えられている。

「これは…解読した解除方法でしょうか。なるほど、同時に操作をする仕組みだったというわけですね。ちなみに術での操作は?」

記述から顔を上げ尋ねるルディウスに、ガウェインが首を振る。

「あれこれ試してはみたのですが、術の類いはどれも無効化されてしまい…」

物理的な操作を同時にしなければならない。
という事は、単純に解除には人手が複数いるという事だ。

「なあ…」

背後からの呼びかけに、ガウェインが再び身を捻った。

「それだけ大掛かりな調査や探索だったなら、同行者はそれなりにいたんだよな?」

「私も含めた7名ですが…」

「7…」

繰り返し、眉を寄せる。
ダイナの隣でグイッと櫂を引き寄せ、オメガは重ねて問いかけた。

「他の連中はどうしたんだ?まさか、あんた以外の全員が部屋に閉じ込められたってわけじゃないだろ?」

「ええ。閉じ込められたのは、私を含め3名。扉の向こう側にいた4名は、カルスの街へ救援を求める事にしたようです」

「…それじゃあ、向こうが先にたどり着く可能性もあるんですか?」

シグマの問いに、彼は少し迷うようにしていいえと首を振った。

「あちらが救援を引き連れ戻るには最低でも二日以上はかかるかと。それに…」

「どっちにしろ仕掛けを解除しない事には、扉に阻まれて通れないって事か…」

先を引き継いだオメガに、彼はその通りだと頷く。

「そういや。あんたはなんでその閉じ込められた部屋ってのから出られたんだ?」

言われてみればそうだ。
シグマはガウェインを見上げた。
閉じ込められたのは自分を含め3名だと、彼自身が話したばかりである。
注目を集めたガウェインは、新たに投げかけられたその疑問に自身の首元を指差した。

「私は  獣人族 ナヴィルヒュードの血を引いています。入り口は鉄格子で塞がれておりましたので…」

「姿を変えて、格子をすり抜けたってわけか…。閉じ込められた他の2人は無事なのか?」

「ええ、アルバ様もセラも怪我などはなく。その場から出られない事を除けば、ある程度身動きも可能なくらいの空間はありました」

「あの。…閉じ込められたのはいつなのですか?」

シンシアの質問に視線だけ戻し、正確にはわからないがおそらく昨日の夕方頃だとガウェインが答える。

「丸一日…」

呟いて、ルディウスが口元へ手を引き寄せ眉を寄せた。

「…閉じ込められたその場所に、食料などはあるのですか?」

「はい。食料が入った荷ごと閉じ込められたのですよ。ちょうど軽食をとろうかという頃合いだったもので」

「ああ。なら、少しは猶予がありそうだな…」

「ええ、不幸中の幸いです。食料と休める空間があるのはなにより…」

ガウェインを挟んで、わずかに安堵の表情を浮かべたオメガとルディウスが頷きあう。

「あんたら。話してるとこ悪いがそろそろ着くぞ」

ダイナの声に皆が顔を上げ、舟頭へと目を向ける。
そこには襲撃を受けたばかりの祭壇広場の外壁と、そこへ続く船着場の階段が姿を現していた。



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