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幕間

すずのおと

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寂しげに佇む祠の前には、こうべを垂れた少女が一人。

辺りは既に薄暗く、人の気配すら感じられない。



コロン、コロン…

静けさの中に鈴の音が響く。

【  総ての者が等しく愛されるなど嘘  貴女そなたもそう思うであろう  】

闇に紛れて声がする。

幼いようで大人びて

鳴り響く鈴の音に重なるように何処からともなく語りかけてくる。

【  意にそぐわぬ処遇ならば 覆せばよいだけのこと  己の力でな  】

まただ。

そう思いながら

少女はのろりと面をあげた。

古い木枠の格子戸に向けた瞳には、感情という物が抜け落ちていた。

何故こんな所に居るのだろうか。

辺りは暗く、シンと静まり返っている。

家に帰らなくては

立ち上がり、敷き詰められた玉砂利を踏み鳴らしていく。

ジャリ、ジャリっという足音だけが静寂の中に響いている。

何処に向かっているのだろう。

意に反して身体は祠の方へと向かっていく。

どこか現実味に欠ける。

ああ、そうか。

これはきっと夢なのだ。

格子戸の段の前で立ち止まる。

夢ならばこの戸を開ければ覚めるだろうか。




コロン…

再び聴こえた鈴の音が少女の思考を妨げる。

【  貴女そなたには チカラがある  】

声の主は言った。

わたしにはチカラがある

でも  そのせいで…

【  すべては貴女そなた次第 籠の鳥は辛かろう 】

突如として

わけのわからない感情が

湧き上がる

なんだろう

何か忘れている

体中を駆け巡る

不快感

ここは嫌だ

早く出して

と、少女は叫んだ

よいぞと頷く気配がする。



【   協力してやろう  】



言われるままに手を翳す。

腹に響くような轟音と共に目の前の扉がゆるやかに開く。

古い鏡の中心に

ちりり

火花が生じ

それは青白い炎となって

ひろがり

刹那に駆け抜ける

そこまでだった。

身体がフッと崩れ落ちる。

やがて 青白い炎は

ちいさな光輝く珠となり

少女の元へと舞い降りた。



【  協力してやろう  】



静かに開いた瞳に光が宿る。

ほうと息をついて少女は立ち上がった。

祠の奥の銅鏡に目を留める。

「かわりに貴女そなた身体ちからを貸りるぞ。」

胸に手をあてそう言うと、嬉しげに笑みを零す。

振り返ると彼女はキッとまなじりを上げた。

「我の受けた屈辱を少しは思い知るが良い。」

憎らしげに唇をかむ。

「あのお方も気づく筈。采配を違えたとな…」

静けさの中に鈴の音が鳴り響く。

コロン、コロンと鳴り響いていた。

続く







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