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第14話
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―――薫―――
ツバサの気持ちを利用しているようで心が痛んだ。
車はルートを変えてツバサの自宅へと走り出している。
全く気持ちがないわけじゃないというか、自分で自分の気持ちがわからず、この好きがどういう好きなのか区別できない。
それを確かめたい。
昔からツバサに恋愛感情的な好意をもたれているとは思わなかったけれど、自分でも驚くくらいにすんなりと受け入れられてしまった。
ツバサからの好意に気づいていたわけじゃないけれど、そういうのもありなんだろうなって自分が思うようになってたからなのかと思う。
エンジンが止まった。
考えごとをしている間に、ツバサの家に着いてしまった。自分から望んでいったことなのに、これからすることを考えて心臓がうるさくなる。
車から降りて、ツバサの後に続いて家の中に入る。
見慣れた部屋。嗅ぎ慣れた匂い。それなのに酷く緊張して、ぎこちなくリビングの椅子に座った。
「コーヒーでいい? ミルク入れる?」
気のせいかツバサの声も硬い気がする。
「うん、お願い」
キッチンに向かう背中を見守って部屋を見渡すと、段ボール箱が転がっている。
空っぽのもの、ガムテープでしっかり留められているもの、詰めかけのもの。まだ二か月近く日はあるはずなのに、少しずつ用意を始めてるんだな。
遠くに行ってしまう。その実感が、私を心細く、寂しくさせる。
「お待たせ」
そのひとこととともに目の前に置かれたカップからは、ほのかに湯気が上がっていてコーヒーのいい香りが広がった。
向かいの席に座ってカップに口をつけたツバサが飲んでいるのはミルクティーかな。
「もう、随分準備進んでるんだね」
私の言葉にカップを机に置いて部屋を見渡すツバサ。
「ちょっとずつでもやってかないと間に合わなそうでさ。思っていたよりものが多くて」
ふと私に使ったあの大人のおもちゃたちも、もうしまい込まれたんだろうかと気になった。
「でもなんとか終わりそうかな。この際思い切った断捨離しようと思うし」
ツバサの話しを聞きながら、カップに口をつける。
ミルクで少しぬるくなったコーヒーは飲みやすい温度で、ほのかに甘い。私の好みをわかりきっているツバサはその時々に最適なものを用意してくれる。それなりに時間を過ごしてきた夫にも、まだそんなことはできない。
あぁ、そうかと私は納得した。
ツバサは私のことを友人以上に、好きだと大切に思ってくれていたから、こういうちょっとした気配りも、プレゼントも、外さなかったんだろうな。
気づくのが遅かっただろうか。
「ツバサと気軽に会えなくなるの、とっても寂しい」
ぽつりと出てしまった言葉に、もっと寂しくなった。
「寂しいって思ってくれて嬉しいよ」
なんでツバサはこんなに余裕があるんだろう。慣れたこの場所から一人で違う場所に飛び込んで行くことに、不安を感じないのかな。
「当たり前じゃん。なんでも話せる長年の友人が、中々会えないくらい遠くに行っちゃうんだよ。寂しいに決まってるじゃん。ツバサは不安とか寂しいとか思わないの?」
「普通に寂しいし、不安だよ。でも、そう思ったからって行くのを辞めたいわけじゃないし、薫に心配かけたくないしね」
そういってにっこりと笑いかけてくれたツバサに笑い返すこともできずに、私は半分程になったカップの中身を見つめる。
椅子が動く音がして、ツバサの足音が近づく。背中と鎖骨辺りに回った腕から、ツバサの体温を感じた。ふんわりとツバサの香りがして私を落ち着かせる。
「落ち着いたら休みにこっちに遊びに来るよ。だから、そんなに寂しそうな顔しないで」
ずっとこうされたかった。私はそう思いながらツバサの声を聞き、身を任せた。
ツバサの気持ちを利用しているようで心が痛んだ。
車はルートを変えてツバサの自宅へと走り出している。
全く気持ちがないわけじゃないというか、自分で自分の気持ちがわからず、この好きがどういう好きなのか区別できない。
それを確かめたい。
昔からツバサに恋愛感情的な好意をもたれているとは思わなかったけれど、自分でも驚くくらいにすんなりと受け入れられてしまった。
ツバサからの好意に気づいていたわけじゃないけれど、そういうのもありなんだろうなって自分が思うようになってたからなのかと思う。
エンジンが止まった。
考えごとをしている間に、ツバサの家に着いてしまった。自分から望んでいったことなのに、これからすることを考えて心臓がうるさくなる。
車から降りて、ツバサの後に続いて家の中に入る。
見慣れた部屋。嗅ぎ慣れた匂い。それなのに酷く緊張して、ぎこちなくリビングの椅子に座った。
「コーヒーでいい? ミルク入れる?」
気のせいかツバサの声も硬い気がする。
「うん、お願い」
キッチンに向かう背中を見守って部屋を見渡すと、段ボール箱が転がっている。
空っぽのもの、ガムテープでしっかり留められているもの、詰めかけのもの。まだ二か月近く日はあるはずなのに、少しずつ用意を始めてるんだな。
遠くに行ってしまう。その実感が、私を心細く、寂しくさせる。
「お待たせ」
そのひとこととともに目の前に置かれたカップからは、ほのかに湯気が上がっていてコーヒーのいい香りが広がった。
向かいの席に座ってカップに口をつけたツバサが飲んでいるのはミルクティーかな。
「もう、随分準備進んでるんだね」
私の言葉にカップを机に置いて部屋を見渡すツバサ。
「ちょっとずつでもやってかないと間に合わなそうでさ。思っていたよりものが多くて」
ふと私に使ったあの大人のおもちゃたちも、もうしまい込まれたんだろうかと気になった。
「でもなんとか終わりそうかな。この際思い切った断捨離しようと思うし」
ツバサの話しを聞きながら、カップに口をつける。
ミルクで少しぬるくなったコーヒーは飲みやすい温度で、ほのかに甘い。私の好みをわかりきっているツバサはその時々に最適なものを用意してくれる。それなりに時間を過ごしてきた夫にも、まだそんなことはできない。
あぁ、そうかと私は納得した。
ツバサは私のことを友人以上に、好きだと大切に思ってくれていたから、こういうちょっとした気配りも、プレゼントも、外さなかったんだろうな。
気づくのが遅かっただろうか。
「ツバサと気軽に会えなくなるの、とっても寂しい」
ぽつりと出てしまった言葉に、もっと寂しくなった。
「寂しいって思ってくれて嬉しいよ」
なんでツバサはこんなに余裕があるんだろう。慣れたこの場所から一人で違う場所に飛び込んで行くことに、不安を感じないのかな。
「当たり前じゃん。なんでも話せる長年の友人が、中々会えないくらい遠くに行っちゃうんだよ。寂しいに決まってるじゃん。ツバサは不安とか寂しいとか思わないの?」
「普通に寂しいし、不安だよ。でも、そう思ったからって行くのを辞めたいわけじゃないし、薫に心配かけたくないしね」
そういってにっこりと笑いかけてくれたツバサに笑い返すこともできずに、私は半分程になったカップの中身を見つめる。
椅子が動く音がして、ツバサの足音が近づく。背中と鎖骨辺りに回った腕から、ツバサの体温を感じた。ふんわりとツバサの香りがして私を落ち着かせる。
「落ち着いたら休みにこっちに遊びに来るよ。だから、そんなに寂しそうな顔しないで」
ずっとこうされたかった。私はそう思いながらツバサの声を聞き、身を任せた。
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