HOTEL SH

皐月 ゆり

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401号室

第三話

 子どもは自然に任せていたのでまだいない。
 二十代も半ばにさしかかった時に二人で検査をしたが、ともに体には問題がないと診断された。
 結婚して一年してから避妊をしてはいなかったので、なかなかできないことに悩んでいた。
「私のところには誰も来たくないのかな」
 診察後にそんな弱音を吐いてしまった。
「誰が君の元に行くか、取り合いしてるんじゃないのかな」
 夫の優しい言葉に、会計待ち中で人目があるにも関わらず泣いてしまいそうになった思いでは、今でも私の宝物だ。
 話し合って不妊治療はしないことにした。ただ、ストレスの軽減と二人の時間を確保して妊活を始めるために専業主婦になった。
 その甲斐もなくまだ私たちの元には誰も来ていないけれど、この先二人ならそれはそれでと思えている自分もいた。
 あっという間だった。でも思い返せば長い日々だった。
 人に聞かれれば、喧嘩もするけれどずっと仲がいい夫婦だと胸を張って答えることができた。
 でも今は……。
 ぼーっとSHのプロフィール登録画面を見ながら考える。
 夫にとって私は負担になってしまったのかな。
 ただ欲を満たしたいわけじゃないけれど、誰かに話しを聞いて欲しいし、女としてきつく抱きしめられたい。たたないから当たり前かもしれないけれど、求められないことが寂しい。
 そんな気持ちが夫に伝わってしまっているのかもしれない。
 これ以上落ち込みたくなくて、スマートフォンの画面に意識を向けた。
 住所、氏名、年齢、連絡先、身分証の提出と任意で性病検査の結果を提出。
 ただの出会い系サイトだと思っていたら、しっかり個人を確認されるらしい。
 確かにこれなら変な人も少ないのかも。
 そう思いながら登録を終えて、次に出会いたい人の希望条件を登録する。
 ただの話し相手から性行為の相手まで。
 私は相談相手ということで登録したが、好みのプレイや自分の性癖など細かに登録できるところもあって、少し戸惑ってしまった。
 登録している人のプロフィール画面では、呼び名、年齢、住んでいる県、希望のプレイ、性癖、性病検査結果提出済みかどうかなどが確認でき、相手とサイト内で連絡もとれる。
 後はホテルのクーポンや予約もできるみたいで割と便利そうだった。
 ただチェックインの時にこのアプリ使ったら浮気しようとしてるって思われても仕方ないよね。って思うくらいにこのアプリは出会うことに機能が振られている気がする。
 一通り確認してスマートフォンをベッドに置く。
 とりあえずお風呂に入ろうと立ち上がって寝室を後にした。

 出会い目的でもないし、誰かとやり取りすることなんてないんじゃないかと思っていたけど、数日するとただ話すだけの人と何人か出会うことができた。
 男女ともにいて、他愛のない話をすることができるアプリの中だけの友だち。
 正直専業主婦になってから新しい出会いもなかったし、知らない人と話すのはいい刺激で気晴らしになっていた。
 その中で二十七歳の男性と特に頻繁にやり取りをしている。
 彼は聞き上手で褒め上手だった。
 掃除をしたといったら褒めてくれ、料理を作ったといって写真を送ったら褒めてくれ、話しを促すような返信をくれる。
 そんな彼とのやり取りが楽しくなって、私はどこに行くにもスマートフォンを握りしめて、通知がなればすぐに画面を開きチェックしていた。
 次第に夫とのことも話すようになったけど、文章から顔なんてわからないはずなのに、私は彼が嫌な顔せず聞いてくれてると思っている。
 時には愚痴だって話せる相手ができて、夫との問題が解決したわけではないけれど、性的なことに触れなければ夫との仲は問題ないこともあって、私の生活は穏やかに流れていった。
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