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第5話

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 広海くんとよくおしゃべりするようになってから、ちょくちょく大石さんのことを思い出している。
 傷はまだえぐれたままなので、毎回痛みをともなう。
 それでも、今まで傷を見向きもせず放置して、ただただ全てを後悔し、次にも踏み出せなかったことを考えれば成長している気がした。
 少なくとも今は傷を見て、適切な治療とまではいかなくても傷に唾を塗るくらいはできているだろう。
 それも広海くんのおかげだ。すごくいい影響を与えてくれている。
 受験生の時間を奪っている罪悪感はあったが、それでもいつしか広海くんとの時間が待ち遠しいものになっていた。
 この時間を失いたくないと思うほどには大事な時間で、多分私は広海くんの言葉をまっすぐに受け止めてくれるところとか、純粋な笑顔に癒されている。
「なんで人間って浮気するんですかね?」
 その広海くんにはあまりにも不似合いで、どきりとする言葉に固まってしまった。
 なんの話しをしていたんだっけ? 私の汚い過去? いや、広海くんの友達の話しだったような……。
「心が変わってしまうのは仕方ないと思うんです。でも、決まった人がいるのに他の人も好きだから付き合うとか、こっち本命、こっち遊びとか酷くないですか? 付き合ってる子にバレたらその子が傷つくのに、なんで別れてから次にいかないかな」
 珍しく熱く語る広海くん。私もそう思うよ。
「俺が怒っても仕方ないんですけど、なんか友達がかわいそうで、やるせなくて」
 昔はそう思ってた。納得がいかないって。だけど、大人の世界って案外そういうことだらけで。
「広海くんは、そのまま変わらないでね」
 思わず呟いてしまった。
 隣を見れば、広海くんが不思議そうな顔を浮かべている。
「大人になるとさ、きっと人をだますとか、自分を演じることが上手くなってると過信するようになるんだと思う。だから、今まで築き上げてきた居心地のいい場所を手放さずにさ、自分の欲望を満たしたいと思うんじゃないかな。人間って、自分が持っている以上のものをよく求めるし。だから、決まった人はキープしつつ、その人では満たせないところを他の人で埋めようって。もちろん、浮気はいけないよ。でも、当たり前のようにそんな話しを聞くようになっちゃうから、そんな考えとかに染まらないよう気をつけなきゃね」
 大石さんと別れてから、私はずっと考えていた。彼が私を選んだ理由を。

 散々体を動かした後にまだ荒い息を整えながら、今日もこれをするだけなのかと思ってしまった。
 スマートフォンを操作している大石さんに私は擦り寄った。最近した後の彼の行動はかなりそっけなくなっている。最初の頃は腕枕くらいしてくれてたのに。
「大石さん。たまにはもっとデートらしいデートがしたいです」
 思い切っていったのに、彼は面倒くさそうに「なんで?」といった。
「だって、最近ホテルばっかり……」
 言葉を続けるのが苦しくなって口を閉じる。
「ホテルで充分だろ。デートなんてめんどくさい」
 冷たい声で、私の顔も見ずにいう彼。
「付き合ってるなら、デートくらいしてくれたっていいじゃないですか」
 やっと大石さんはスマートフォンから目を離して私の顔を見た。
「そう思ってたのか」
 私の気持ちが伝わったのだろうか。大石さんは少しの間何かを考え口を開く。
「俺には妻がいる。だから、君はセフレだ」
 衝撃だった。顔面パンチだ。
「えっ? うん?」
 言葉にならないような声が口から零れる。何をいえばいいのかわからず黙り込むと、彼は私に追い打ちをかけてくる。
「もう俺たちが不倫の関係だってわかったんだし、バレたら互いに困るだろ? だから、これからは連絡を取り合うのも最小限にして、電話とかはなしで」
 彼は隠すことがなくなったからか、すがすがしい顔でベッドから降りてシャワーを浴びに行ってしまった。

「珍しいですね。華帆さんがそういうふうに自分の考えを話すの」
 広海くんの声に我に返る。
「広海くんも熱く語ってたじゃない。お互い様」
 互いのいつもと違う面を見て、照れくさく笑い合う。
 それからもう少しだけおしゃべりをし、あまりにも暑いので、二人で近くのコンビニで冷たいものを買ってそれぞれ帰った。
 あまりにも汗をかいたので、家に帰りつくとすぐにシャワーを浴びる。
 シャワーを浴びてすっきりしたところで、コンビニで購入したチンして溶かして飲むドリンクを電子レンジに放り込む。
 ほどよく溶けたイチゴの果肉たっぷりのカップに、太めのストローを突き刺してグールグールかき混ぜ、強めに吸い込めば甘酸っぱい味が口に広がった。
「んーっま」
 甘くて美味しいものにテンションが上がり、思わず声がもれてしまう。それを持って仕事机に向かい、パソコンを開いた。
 一旦就職活動を忘れて新たにwebの勉強や、資格の勉強などをしてみようと思い始め、少しずつ情報収集をしている。
 終わりは最悪だったが、今までしてきたことが全部無駄になるのは嫌だったから、前職の経験をいかせる道を探していた。
 Webでその人が表現したいことを表したり、宣伝に一役かえるようになりたいな。
 久しぶりにこんなことをしたい、できるようになりたいと、前向きにわくわくできるようになったのに今日は画面の文字が全然頭に入ってこない。
 ずっと大石さんのことが頭をかすめていた。
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