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第16話

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 華帆さんが遠くにいってしまうかもしれない。
 華帆さんの家から出て自宅に向かう途中で、どうしようもない焦りにとらわれていた。
 チラッと見た旅館の住所は県外で気軽に通える距離ではなかった。
 ただの大人の女性への憧れ、恋愛対象として見ている気はない、そう思っていたはずなのに、俺は更に強く華帆さんに惹かれていっている。
 それに、気づいてしまった。
 でもまだ高校生。俺は華帆さんからしたら子ども過ぎる。だから、どれだけ自分の恋心を自覚しても、大学生なるまでは何も行動を起こすまいと決めていた。
 華帆さんを傷つけたくない。その気持ちが強かった。だから、俺が大学生になって環境が変わっても、心変わりなんてしないと自分の感情に自信を持てるまではと思っていた。
 しかし、そんな悠長なことをいっていたら、華帆さんは遠く離れていってしまうかもしれない。
 それが、彼女が決めた道ならば、無様に足枷になるようなことはせず、気持ちを伝えずに見送るのがいいとかわる。
 でも、こんなに苦しい想いを伝えずにもう会えなくなるとか辛くないか。
 思わず立ち止まって、息を吐き心を落ち着けようとする。
 華帆さんじゃないとだめってことは多分ない。
 ここで諦めて離れれば、またそれなりに誰かを好きになって、付き合うこともあるかもしれないし、それなりに幸せにやっていく。そんな未来を想像するのは簡単だった。
 それでも、今好きで近づきたいのは華帆さんで、だからずっと我慢だってしているのに。
 もう一歩華帆さんとの関係を進めたい。
 堂々と付き合えるまでは今まで通りにする。華帆さんもあの日何もなかったかのように振舞ってるし、そうするしかないと押し込めてたけど、華帆さんがどこか遠くへ行くなら、その努力も虚しく全部夢のまま終わるかもしれない。
 俺は家に向かってまた歩き出した。
 そもそも、華帆さんにとって俺は付き合いたいと思える程、魅力ある男なのか。十も下のガキをパートナーに選ぶのだろうか。
 そんな人ではないと思っているが、一時の火遊びの相手に過ぎないのではないか。それなら、そういう相手として振舞った方がいいか。そんなことをしたら、関係が壊れるのは確かだろう。
 感情がグルグルと回る。
 自分から今どうすることもできないとわかっているから、何を考えても華帆さんが帰るにしろ、帰らないにしろ俺にどういうこともできることもないから、考えるだけ無駄だと、成り行きに任せ今できることをするしかないと、無理矢理巡る思考に決着をつけた。
 とりあえずわかっていることは、華帆さんを前にまだまだ理性を保とうと苦しむ日々が続くということだ。
 俺のことを信用してくれているのは嬉しいが、無防備にソファーでうたた寝されると、本能に負けそうになる。
 体の距離が近いし、漂う甘い匂いに誘われそうになるし。だから余計に勉強に集中しようとするからか、捗り具合に貢献してもらってはいるのだが。
 そんな日も試験前までだ。
 その先の華帆さんとの未来はまだ想像もつかないけれど。

 外出する度にぐっと寒くなったなと毎回思う。
 在宅ワークの募集などを扱うサイトや、個人のスキルを売買するアプリをこつこつやってきて、少しずつ収入が入るようになってきた。
 まだまだ不慣れで、一日中パソコンに張りつき座りっぱなしなんて日もあるが、今まで培ってきたものが認められるようで嬉しい。
 買い物に出るのが週一回。足らずは土曜日に広海くんがついでに買ってきてくれたりするので、後はずっと家でぬくぬくと暮らしている。
 そんな生活だからか、寒さに弱くなってしまった。マフラーをグルグル巻いて、カイロを貼って、気合いを入れないと家から出られない。
 しかし、寒い辛いと思っているのは最初だけで、頬を掠めていく風や、家にこもっていても進んでいく季節を肌で感じて、座ってばかりの縮こまった体をほぐして伸ばすように歩いていけば、気分がよくなって気持ちよくなっていく。
 買い物はいつも時間がかかる。ついでにといって外を色々見て回ってしまう。
そんなだから、買い物に行く日は帰りつけばいつもヘトヘトで、温かいお風呂に浸かり、簡単に夕食を済まして、後は何もしない日にしている。
 今日はその日で、私はゆっくりお風呂に浸かって、お腹を満たしたところだ。
 ロイヤルミルクティーを片手に、実家の旅館のパンフレットを眺める。
 年末も近づいてきている。新しい年が始まる。ここに居座る理由はない。
 私は実家に帰ることを考えていた。
 ブー……。
 スマートフォンが震え、画面を見ると広海くんからのメッセージの通知だった。
『華帆さん、お疲れ様。何してるの?』
「買い物行って、クタクタになったから、今はゆっくりしてるよ!」
 そう返信して自然に笑みが零れる。
 ほぼ毎日広海くんは、メッセージをくれていた。おはよう、おやすみと、時間がある時は今何してるのとか聞かれて、一日にするやりとりの数は多くないけれど、たまに電話をしながら互いに勉強したりもしていて、広海くんの方から弟くんたちの騒ぐ声が聞こえてきたりする。
 まるで付き合っているみたいだなと、メッセージが届くごとに少し甘酸っぱいような、こそばゆい嬉しさが胸に広がって、気持ちが高ぶる。
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