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もふって就職!
◆もふって観察!
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「ふぁ……んんー…」
ゆっくりと体を布団から引きはがして、上体のみを起き上がらせると朝日が差し込む窓を忌々しげににらみつける。なんとも最高の日の出で、目を覚ますのには最高の光だった。
昨日の夜に考えた作戦を頭の隅に置きながらカーテンを開けるために寝起きで重い体を無理やり引き起こし、なんとか布団の魔の手から逃れることに成功した。
カーテンを開けるとサッシを移動する鋭く高い音が部屋の中に響き、その音につられてまだ寝ていた千明と涼華がいつの間にかに目を覚ましていた。
「………んんー…ねむぅ…」
「ふあふ…」
どちらも大きくあくびをして体と意識を覚醒させようとする。
ある程度意識が覚醒した涼華は、瞼を開いたが差し込む朝日に目を焼かれて「まぶっ…」とすぐに目を背けてしまう。
一方の千明はマイペースに目を数回こすり、それからゆっくりと目を開けた。それが功を奏したのか朝日は一片の害意もなく千明を優しく迎え入れた。
しばらく、意識がはっきりするまで三人は各々目をこすったり、目を抑えてじたばたしたり、朝日に目が慣れるまで目を細めたりと個性の溢れる目覚めを過ごした。
──今日は、作戦の決行日だ。
リビングに移動した舞は朝食を咀嚼しながら今日の作戦について二人に話をした。
まったくもってゆったりとした朝食だったが、こう、何かを成し遂げようとしている間はなんともピリピリした空気が張り詰めてしまう。
「はぁ…なんか、やっぱり皆口数が少ないよ? 確かに、この国の何かを変えようとしてるからピリピリするのもわかるけどさ、もう少し明るくしようよ!」
「でも、失敗したらって考えると………ん、いや、やっぱりやめた! 今日の作戦は失敗するかもは無いよ! 絶対に失敗しちゃだめだよ!」
『おー!!』
空気を変えようと言った涼華の目論見は見事に成功し、作戦によって張り詰めていた空気はいつの間にか最早成功したかのような空気に変わっていた。
もちろん、その言葉によって考え方を変える事に成功した舞は今日の作戦が失敗することを一切考えなくなっていた。
「さて、じゃあ改めて美味しい朝ごはんを美味しくいただこうじゃないの!」
「そうだよ! せっかく早起きして作ったんだから、お通夜みたいな雰囲気で食べられても困るよ」
「ごめんごめん、多分もうないから。きっと。」
「うわぁ! 信用できないよ! 多分とかきっととか多用されると信用できないよぅ!」
先程の雰囲気からは想像もできないほどに明るく、楽しそうな朝食の風景が見て取れる。
その明度を損なわないようにと足早に朝食を完食し、食器を軽く片付けてから談笑を始める。
なんてことはない普通の他愛のない話だが、今の三人にはこの会話がなければきっと明度を保っていられないようにも思えた。
「そうそう! あれ知ってる? あの美味しいお店!」
「え? そんなところあったの? 行きたい!」
■
「…よーしっ! そろそろ飛ばそう!」
会話が止まるタイミングを見計らっていたのか舞が突然椅子から立ち上がり手を掲げて言った。
その言葉に二人は反応を示し、席を立つ。
いよいよだ。いや、ついにこの時がやってきてしまったと言うべきだろうか。それとも、待ちに待ったこの時がやっときたとでも言うべきなのだろうか。
その瞬間こそが最も大事であった。
イースガルズ動物公園で飛ばした時は特に気にせず飛ばしていたのだが、その後何度か飛ばしているうちに気づいたのだ。
例えば、飛行機が飛ぶとする。滑走路を走る時の風速を気にしなければ風に煽られて中々飛ぶに飛べないだろう。
それと同じく無機追尾監視魔法は、大気中のマナの流れに乗らないとうまく飛んではくれない。
割と大胆で、尚且つ繊細なマナの操作が必要なのだ。
「……さぁ、飛ばすよ」
「うん…!」
舞の手から放たれた無機追尾監視魔法は、淡い光を放ちながら空中を浮かび始め、次の瞬間には、大気に溶け込み視認はおろか、察知さえもできなくなっていた。
「………ふぁぁぁ……うまくいったぁ…」
舞が安堵のあまりに一気に息を吐きだし、両手両膝を地面についてしまう。
なんにせよ、特に失敗もなく一発で成功した事には変わりなく、これで調査も滞りなく終わることを意味してもいたのだ。
喜びが溢れる舞たち三人はさっきの安堵の表情とは打って変わってこれでもかと思うほどの声量で喜びの声をあげた。
「やったー!! やったよ! これで、どうにかなるはず!」
「うん!!…うん!」
「おめでとー!! って他人事じゃないけどね!」
しばしほんわかムードに包まれた舞宅であった。
■
飛ばされた無機追尾監視魔法の監視状況は、至って良好だった。
と言うのも、能力だけを言えばほぼ最強と言っても過言ではないのだが、どんなものにも欠点はある。
そして、その欠点とは『飛行の失敗』である。
飛ばすときに気付いていた通り、うまく軌道に乗せねばとぶことはない。
しかし、この魔法に「飛ばすとき以外に欠点はないのか?」と聞かれてもはいとは答えられない。何故なら、欠点は一つではないからだ。
ただ、逆に言えば、例え大魔術を使った火魔法でも、一般市民が水をかけてしまえばその勢いが衰えてしまうことや、魔法反射によって反射されてしまうこと、その他多数と、普通の魔法ならばいくつもある欠点が、この魔法には2つしかないのだ。
そして、そのもう一つとは『マナの吸収』だ。
無機追尾監視魔法は大気中のマナに溶け込むことで見えなくなるが、そのマナに溶け込むことで大気中のマナを吸収する魔法に耐性が全く無いのだ。
分かりやすく言えば、水が大気中のマナで、塩が無機追尾監視魔法だ。
水に溶けた塩は、水を飲んでしまうとその人の体内に取り込まれてしまう。まさにそれと同じ原理なのだ。
何度かこそ覚えてはいないのだが、舞もこの魔法を吸収されてしまったことはあったのだ。
それが今回はない。まさに好調な滑り出しだった。
気が付けば既に無機追尾監視魔法は、貴族の屋敷に到着していた。
貴族の屋敷は、厭らしい金で装飾が施され見れば見るほど人を不快にさせる場所だった。
だが、その広さは村1つ分の人間を収容出来るだけあってとてつもない広さで、一日で回り切れるのかわからない程だった。
そんな貴族の屋敷の一室に光が灯っているのが見えた。
部屋へ向かう途中に何人かの使用人とすれ違ったが、どの使用人も変わらず皆同じ首輪らしきものをつけていた。
扉の前で一度止まり、念の為に気付かれていないからチェックをしてから、扉の隙間から入り込む。
どうやらここは貴族の執務室のようだった。
執務室内は屋敷の内部とは別の意味で厭らしさが感じ取れた。なんとも言えぬ不気味な不快感が漂っているのだ。
しかし、その執務室で書類仕事に勤しんでいたのは貴族本人ではなく、先程嫌というほどすれ違ってきた使用人達だった。
忙しなく動く使用人達の首にはやはりというべきか首輪がつけられており、その誰もが笑うこともなく、無駄話をするでもなく無表情で仕事をしていた。
見れば、仕事をしている使用人達は全員が女性だった。
一応、どのような仕事をしているのか、書類などを入念に覗いてから執務室を出た。
壁に飾られた燭台と等間隔に配置されたシャンデリアが照らす廊下を移動していると、いくつかの部屋に錠が施されていることが分かった。
錠の施された部屋に入ると中にはまたもや首輪をつけられた女性がいたのだが、どこかやせ細り元気が無いように見えた。
その女性は目を瞑っていたのだが、目を覚ますと同時に急に暴れだし、ドアを全力で叩き続ける。
その音は廊下の隅から隅まで行き渡り、やがて感染症のように錠が施されたすべての部屋からドアを全力で叩く音が聞こえた。
恐らく、最後まで絶対に屈しようとしない捕虜たちが抵抗を試みているのだろう。
どこか、その扉を叩く音には懇願、悲願、希望、哀愁、諦念、観念、感情が混ざりに混ざっているように聞こえてくる。
全ての希望と全ての絶望を乗せて叩いているような、そんな不思議な感覚にさえ陥ってしまいそうになる。
しかし、何も出来ない今はただそこを通りすぎて映像で記録として残しておくことくらいしかできなかった。
口惜しさを残しながら廊下を突き進んでいく。すると、すぐに直線の廊下は終わりを告げ、直角とまではいかない曲がり角にぶつかった。
左右に分かれている道をどちらにいくか視界を泳がせながら迷い、どちらに行っても全体を見て回ることには変わりないと感で右を選んだ。
またもや続く直線の長い通路。おそらくこの屋敷は上空から見たら凄く角ばった形をしているのだろう。
そんなことは置いておいて部屋を一つ一つ隈なくしっかりと調査していく。やっていることは除きと大差ないがこれも大事な調査の一環である。
そうして除きを続けているとなんだか雰囲気がおかしい部屋がひとつだけ、ぽつん、とあった。
そう、あったのだ。
何気ないただの扉。屋敷内の部屋に続いているただの、なんの変哲もない扉。
しかし、そこだけ、雰囲気が違うのだ。詳しく説明することはできない。だが、違う。
もちろん、そんな場所を見過ごす訳もなく、先ほどのように扉と扉の間をすり抜けて室への侵入を軽く成功させる。
そこに映されていたものは想像を絶するもので、どれだけ優しく言っても見た者を不快にさせる程度には酷いものだった。
それは、まさにーー
ーーーー洗脳。
魔法術式による洗脳。それは蘇生や死体操作などの次に禁忌とされるものだった。
一重に洗脳は禁忌と言っても無数に術式はあるのため軽度のもの、所謂マインドコントロール程ではないがアドレナリンを分泌させる補助魔法としては使っていても問題はない。だがこれはその中でも最高位にして下劣極まりない魔法だ。なぜならば、人の記憶を書き換えるものだからである。
しかし、この館では、この館の主であろう人物はその禁忌を犯し、鎖に繋がれた女性を次から次へと洗脳していく。
恐ろしいほど手際よく、戦慄するほど完璧に。
術式が完成する度に一人、一人と目から光が消えていき、嫌がって流していた涙も枯れ、無表情な人形となっていく。
まともな感情を持っている人からすれば、見るに耐えない光景であるのは一目瞭然、自明の理であった。
だが、今この無機追尾監視魔法を飛ばしている状況では手も足も出せないことや、術式の現場を目撃、撮影できたこともあり、監視は終了となった。
三人は、無機追尾監視魔法の映像を見て、唇を強く噛んだ。
うちの一人、舞は、血が出るほどに。
ゆっくりと体を布団から引きはがして、上体のみを起き上がらせると朝日が差し込む窓を忌々しげににらみつける。なんとも最高の日の出で、目を覚ますのには最高の光だった。
昨日の夜に考えた作戦を頭の隅に置きながらカーテンを開けるために寝起きで重い体を無理やり引き起こし、なんとか布団の魔の手から逃れることに成功した。
カーテンを開けるとサッシを移動する鋭く高い音が部屋の中に響き、その音につられてまだ寝ていた千明と涼華がいつの間にかに目を覚ましていた。
「………んんー…ねむぅ…」
「ふあふ…」
どちらも大きくあくびをして体と意識を覚醒させようとする。
ある程度意識が覚醒した涼華は、瞼を開いたが差し込む朝日に目を焼かれて「まぶっ…」とすぐに目を背けてしまう。
一方の千明はマイペースに目を数回こすり、それからゆっくりと目を開けた。それが功を奏したのか朝日は一片の害意もなく千明を優しく迎え入れた。
しばらく、意識がはっきりするまで三人は各々目をこすったり、目を抑えてじたばたしたり、朝日に目が慣れるまで目を細めたりと個性の溢れる目覚めを過ごした。
──今日は、作戦の決行日だ。
リビングに移動した舞は朝食を咀嚼しながら今日の作戦について二人に話をした。
まったくもってゆったりとした朝食だったが、こう、何かを成し遂げようとしている間はなんともピリピリした空気が張り詰めてしまう。
「はぁ…なんか、やっぱり皆口数が少ないよ? 確かに、この国の何かを変えようとしてるからピリピリするのもわかるけどさ、もう少し明るくしようよ!」
「でも、失敗したらって考えると………ん、いや、やっぱりやめた! 今日の作戦は失敗するかもは無いよ! 絶対に失敗しちゃだめだよ!」
『おー!!』
空気を変えようと言った涼華の目論見は見事に成功し、作戦によって張り詰めていた空気はいつの間にか最早成功したかのような空気に変わっていた。
もちろん、その言葉によって考え方を変える事に成功した舞は今日の作戦が失敗することを一切考えなくなっていた。
「さて、じゃあ改めて美味しい朝ごはんを美味しくいただこうじゃないの!」
「そうだよ! せっかく早起きして作ったんだから、お通夜みたいな雰囲気で食べられても困るよ」
「ごめんごめん、多分もうないから。きっと。」
「うわぁ! 信用できないよ! 多分とかきっととか多用されると信用できないよぅ!」
先程の雰囲気からは想像もできないほどに明るく、楽しそうな朝食の風景が見て取れる。
その明度を損なわないようにと足早に朝食を完食し、食器を軽く片付けてから談笑を始める。
なんてことはない普通の他愛のない話だが、今の三人にはこの会話がなければきっと明度を保っていられないようにも思えた。
「そうそう! あれ知ってる? あの美味しいお店!」
「え? そんなところあったの? 行きたい!」
■
「…よーしっ! そろそろ飛ばそう!」
会話が止まるタイミングを見計らっていたのか舞が突然椅子から立ち上がり手を掲げて言った。
その言葉に二人は反応を示し、席を立つ。
いよいよだ。いや、ついにこの時がやってきてしまったと言うべきだろうか。それとも、待ちに待ったこの時がやっときたとでも言うべきなのだろうか。
その瞬間こそが最も大事であった。
イースガルズ動物公園で飛ばした時は特に気にせず飛ばしていたのだが、その後何度か飛ばしているうちに気づいたのだ。
例えば、飛行機が飛ぶとする。滑走路を走る時の風速を気にしなければ風に煽られて中々飛ぶに飛べないだろう。
それと同じく無機追尾監視魔法は、大気中のマナの流れに乗らないとうまく飛んではくれない。
割と大胆で、尚且つ繊細なマナの操作が必要なのだ。
「……さぁ、飛ばすよ」
「うん…!」
舞の手から放たれた無機追尾監視魔法は、淡い光を放ちながら空中を浮かび始め、次の瞬間には、大気に溶け込み視認はおろか、察知さえもできなくなっていた。
「………ふぁぁぁ……うまくいったぁ…」
舞が安堵のあまりに一気に息を吐きだし、両手両膝を地面についてしまう。
なんにせよ、特に失敗もなく一発で成功した事には変わりなく、これで調査も滞りなく終わることを意味してもいたのだ。
喜びが溢れる舞たち三人はさっきの安堵の表情とは打って変わってこれでもかと思うほどの声量で喜びの声をあげた。
「やったー!! やったよ! これで、どうにかなるはず!」
「うん!!…うん!」
「おめでとー!! って他人事じゃないけどね!」
しばしほんわかムードに包まれた舞宅であった。
■
飛ばされた無機追尾監視魔法の監視状況は、至って良好だった。
と言うのも、能力だけを言えばほぼ最強と言っても過言ではないのだが、どんなものにも欠点はある。
そして、その欠点とは『飛行の失敗』である。
飛ばすときに気付いていた通り、うまく軌道に乗せねばとぶことはない。
しかし、この魔法に「飛ばすとき以外に欠点はないのか?」と聞かれてもはいとは答えられない。何故なら、欠点は一つではないからだ。
ただ、逆に言えば、例え大魔術を使った火魔法でも、一般市民が水をかけてしまえばその勢いが衰えてしまうことや、魔法反射によって反射されてしまうこと、その他多数と、普通の魔法ならばいくつもある欠点が、この魔法には2つしかないのだ。
そして、そのもう一つとは『マナの吸収』だ。
無機追尾監視魔法は大気中のマナに溶け込むことで見えなくなるが、そのマナに溶け込むことで大気中のマナを吸収する魔法に耐性が全く無いのだ。
分かりやすく言えば、水が大気中のマナで、塩が無機追尾監視魔法だ。
水に溶けた塩は、水を飲んでしまうとその人の体内に取り込まれてしまう。まさにそれと同じ原理なのだ。
何度かこそ覚えてはいないのだが、舞もこの魔法を吸収されてしまったことはあったのだ。
それが今回はない。まさに好調な滑り出しだった。
気が付けば既に無機追尾監視魔法は、貴族の屋敷に到着していた。
貴族の屋敷は、厭らしい金で装飾が施され見れば見るほど人を不快にさせる場所だった。
だが、その広さは村1つ分の人間を収容出来るだけあってとてつもない広さで、一日で回り切れるのかわからない程だった。
そんな貴族の屋敷の一室に光が灯っているのが見えた。
部屋へ向かう途中に何人かの使用人とすれ違ったが、どの使用人も変わらず皆同じ首輪らしきものをつけていた。
扉の前で一度止まり、念の為に気付かれていないからチェックをしてから、扉の隙間から入り込む。
どうやらここは貴族の執務室のようだった。
執務室内は屋敷の内部とは別の意味で厭らしさが感じ取れた。なんとも言えぬ不気味な不快感が漂っているのだ。
しかし、その執務室で書類仕事に勤しんでいたのは貴族本人ではなく、先程嫌というほどすれ違ってきた使用人達だった。
忙しなく動く使用人達の首にはやはりというべきか首輪がつけられており、その誰もが笑うこともなく、無駄話をするでもなく無表情で仕事をしていた。
見れば、仕事をしている使用人達は全員が女性だった。
一応、どのような仕事をしているのか、書類などを入念に覗いてから執務室を出た。
壁に飾られた燭台と等間隔に配置されたシャンデリアが照らす廊下を移動していると、いくつかの部屋に錠が施されていることが分かった。
錠の施された部屋に入ると中にはまたもや首輪をつけられた女性がいたのだが、どこかやせ細り元気が無いように見えた。
その女性は目を瞑っていたのだが、目を覚ますと同時に急に暴れだし、ドアを全力で叩き続ける。
その音は廊下の隅から隅まで行き渡り、やがて感染症のように錠が施されたすべての部屋からドアを全力で叩く音が聞こえた。
恐らく、最後まで絶対に屈しようとしない捕虜たちが抵抗を試みているのだろう。
どこか、その扉を叩く音には懇願、悲願、希望、哀愁、諦念、観念、感情が混ざりに混ざっているように聞こえてくる。
全ての希望と全ての絶望を乗せて叩いているような、そんな不思議な感覚にさえ陥ってしまいそうになる。
しかし、何も出来ない今はただそこを通りすぎて映像で記録として残しておくことくらいしかできなかった。
口惜しさを残しながら廊下を突き進んでいく。すると、すぐに直線の廊下は終わりを告げ、直角とまではいかない曲がり角にぶつかった。
左右に分かれている道をどちらにいくか視界を泳がせながら迷い、どちらに行っても全体を見て回ることには変わりないと感で右を選んだ。
またもや続く直線の長い通路。おそらくこの屋敷は上空から見たら凄く角ばった形をしているのだろう。
そんなことは置いておいて部屋を一つ一つ隈なくしっかりと調査していく。やっていることは除きと大差ないがこれも大事な調査の一環である。
そうして除きを続けているとなんだか雰囲気がおかしい部屋がひとつだけ、ぽつん、とあった。
そう、あったのだ。
何気ないただの扉。屋敷内の部屋に続いているただの、なんの変哲もない扉。
しかし、そこだけ、雰囲気が違うのだ。詳しく説明することはできない。だが、違う。
もちろん、そんな場所を見過ごす訳もなく、先ほどのように扉と扉の間をすり抜けて室への侵入を軽く成功させる。
そこに映されていたものは想像を絶するもので、どれだけ優しく言っても見た者を不快にさせる程度には酷いものだった。
それは、まさにーー
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しかし、この館では、この館の主であろう人物はその禁忌を犯し、鎖に繋がれた女性を次から次へと洗脳していく。
恐ろしいほど手際よく、戦慄するほど完璧に。
術式が完成する度に一人、一人と目から光が消えていき、嫌がって流していた涙も枯れ、無表情な人形となっていく。
まともな感情を持っている人からすれば、見るに耐えない光景であるのは一目瞭然、自明の理であった。
だが、今この無機追尾監視魔法を飛ばしている状況では手も足も出せないことや、術式の現場を目撃、撮影できたこともあり、監視は終了となった。
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