路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 真理恵は小白が思い当たる場所、公園やフードコートなど行ける場所は全て行ったが、伯父の姿はどこにもなかった。
 仕方なく電車に乗って帰ると途中で小白は眠ってしまい、真理恵はおんぶして家まで帰った。そのせいでいつもの三倍疲れた。
 夜になると真広が急いで帰ってくると真理恵の顔を見て尋ねた。
「どうだった?」
「残念ながらいませんでした。どこにも」
 真理恵は団地にも辺りにも伯父が見当たらなかったことを説明した。
 真広はそれほど残念そうではなかった。
「そうか。まあ、いないなら仕方ない」
「仕方ない? なにが仕方ないんですか? あんな小さい子を残して消えたんですよ?」
 真理恵は眉をひそめて抗議する。
 真広ははっきりとは言わず、「まあ、うん。それはそうだが……」とだけ答えた。
 真理恵は呆れ、真広が小白のために見切りのケーキを買ってきたのを知り、更に呆れた。
 ぐっすり眠った小白はもう目を覚ましていた。真広は笑顔で尋ねる。
「もうしばらくうちに泊まることになりそうだけど、大丈夫かい?」
「ねれたらどこでもいい」
「そう。じゃあうちでぐっすり寝たらいい」
「うん」小白は頷いた。「ねる。ねこだから」
 真広はそれを聞いて楽しそうにして真理恵の方を向いた。
「よく育ちそうだ」
「ええ。本当に」
 真理恵は呆れを通り越して半分怒っていた。
 夕食が終わり、お風呂に入ると小白は宣言通り眠りについた。気持ちよさそうに寝ているのを確認すると真理恵がようやく我慢を解いた。
「どうするつもり?」
「どうって?」
 真広は居間で座ってお茶を飲んでいた。真理恵はついていたテレビを消す。
「あの子のことですよ。兄さんも私もお昼は働いてるんですよ? その間誰があの子の世話をするんです?」
「そうだな……。まあ、あの子はしっかりしてるし、一人でも大丈夫だよ」
「本気で言ってるんですか? 誰が来るか分からないし、なにが起こるか分からないのに?
もしトラブルに巻き込まれてもすぐ助けに行けないんですよ?」
「心配しすぎだよ」
「いいえ。普通ですよ。ちゃんと預かれないなら別の方法も考えないといけません」
「別の方法って? 伯父さんを探すとか?」
「それはかなり大変でしょうね。探偵でも雇わない限りは無理でしょう」
「なら……どうするんだ?」
 真理恵は少し言いづらそうにした。小さく息を吐き、それでも明確な意思を示す。
「然るべき場所に行かせる。それだけです」
 真広は一瞬なにを言っているか分からなかったが、分かると目を見開いた。
「そんなひどいことはできない」
「ひどいって……。うちで放っておくよりマシですよ。それこそ今の時代虐待になるかもしれない」
「でもそうだったって言ってた。伯父さんの家では一人だったって」
「まあ、あそこよりはマシかもしれませんね。あの街よりはこっちの方が安全でしょう。でもだからと言って昼の間ずっと置いておくわけにもいきませんよ」
 真広は真理恵の言っていることを理解はしていたが、それでも小白を施設に行かせるのはかわいそうだと思った。
「なら幼稚園に行かせればいい」
「あの耳で?」
「それは差別だ」
「かもしれません。でも子供はもっと残酷ですよ。それこそ自分と違うと分かったら色々と言うでしょう。差別なんて言葉、概念自体分からないでしょうし。大体、幼稚園なんて入るだけでも大変らしいですから。どこも空きがないんですって」
「少子化なのに?」
「そうですね。私もよくは知りません。でもそう聞きます」
 真広は眉間にしわを寄せて黙り込む。明らかに悩んでいた。だが答えは見つからない。真広には知らないことが多すぎた。
 真理恵はそんな状況でもなんとかしようとする兄の甘さに呆れ、同時にその優しさが羨ましくなる。
「とりあえず……」
 真広はそう言って黙り、真理恵は静かに続きを待っていた。
「……………………考えよう」
 真広から出てきた言葉はあまりにもあっさりしたものだった。真理恵は嘆息した。
「そうですね」
「うん。それで、答えが出るまではしばらくうちで預かればいい」
「問題を先延ばしにするつもり?」
「そうじゃない。そうじゃないけど……、その、すぐに答えを出すものでもない」
「……かもしれませんね。分かりました」真理恵は立ち上がった。「私はお風呂に入ってきます。今日は疲れたんで」
「ああ。うん。大変だったな」
「本当に」
 真理恵は重そうに体を動かし、風呂場に消えていった。
 残った真広は母親の部屋を見つめた。閉じたふすまの奥には小白が寝ている。
 真広はやるせなさそうに息を吐き、そして一人呟いた。
「大変だった」
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